『灰色の塔』 

April 08 [Tue], 2014, 3:31
この話は以前ボーカロイドをテーマにして書いた2次創作作品です。
気が向いた方だけ読んでください。
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「おばさん、おはよう!」

「おはよう。今日も元気がいいねぇ。」

黄色い髪をした少年が元気よく挨拶をして、この街に新聞を配っていた。庭の花に水をやっていた中年の女性がそれを暖かい笑顔で見守っている。

少年の名はレンという。この人口5万人ちょっとの小さな街で新聞を配る仕事をしていた。まるで元気だけが取り柄のような明るい少年であった。毎朝早くから街中を走り回って新聞を配っている。

「よし! 今日もこれで最後っと…。」

レンは今日も無事に、決められた全ての家のポストに新聞を入れ終えることができた。最後に配ったのは、街の一番端っこの家だ。

「ふー…。相変わらず、高い壁だなぁ。」

そう言ってレンは、目の前にある20mほどもある高い灰色の壁を眺めた。レンの住むこの街は、周囲をこの壁がぐるりと取り囲んでいる。

「…その壁を…そんなに眺めるもんじゃないよ…。」

先ほどの中年の女性が、後ろから声をかけて来た。

「…うん…。分かってる。」

少年は後ろを振り返ることもせずに返事を返した。女性は、やれやれ本当に分かってるのかねぇ、とでも言いたそうな顔をして家の中に引っ込んで行った。


この街ではタブーとされていることが2つある。1つはこの壁を越えて街の外に出ることだ。

この街を取り囲む壁には、門のような物は一切なく、中に住む人たちは、誰ひとりとしてこの壁を越えて街の外に出たことがない。なぜなら、この壁をよじ登り、壁の外に体を一部でも出してしまうと、その部分がまるで石のように動かなくなってしまうからだ。動かなくなった部分を壁の内側に戻せば、またもとのように動すことはできる。だが全身を壁の外に出してしまったものは、壁の内側に戻しても、すでに死んでしまっているのだそうだ。その為、決して壁を越えて街の外に出てはいけないという決まりができた。

もう1つは灰色の塔のことについて語ることだった。

レンの住む街の中心には、高さ300mほどの塔が建っていた。この街を取り囲む壁と同じ灰色で、細長い円錐形をしている。頂上付近にはまるで触手のようにも見えるアンテナのような物が張り出していた。街の人は、この塔がいつから建っているのか、誰が何の目的で建てたのか、実は誰も知らないのだった。塔には入り口や窓が1つもなく、中には何があるのか全く分かっていないが、その姿のせいか、この街の人に非常に不気味がられ、誰かがその塔に関わるとこの街全体に不幸が訪れると考えられていた。その為、その塔のことを口に出すことは、この街では禁じられていたのだ。

だが一部では我々が街の壁から外に出られないのは、この塔のせいではないかという噂もあった。

レンは恐る恐る壁に近づき、そっと手を当ててみた。不気味な灰色の壁は、思った通りの硬さと冷たさだった。

「…外に…出てみたいな。」

レンは物心ついたころから、ずっとこの街から外に出てみたいという思いがあった。決してこの街が嫌いなわけではない。だが、純粋に外の世界が一体どうなっているのか知りたくて仕方がなかったのだ。そしてその想いは、いくら消そうとしても日に日に募るばかりなのであった。何度この壁をよじ登ろうかと思ったことだろう。だが、この壁を越えれば、体が動かなくなってしまう。それでは外の世界を見ることはできない。


ふとレンは後ろを振り返った。そこには例の灰色の塔が見えた。街の中央にそびえたつ塔は、どこからでも視界に入れることが出来るのだった。

「あの塔のせいで外に出られないのだとしたら…。」

…あの塔の中を調べれば、この街の外に出る方法が分かるかも知れない。レンはそう考えていた。

「……。」

レンにはかねてより考えていた計画があった。塔には入り口も窓もない。だがそれは見えている部分だけで、もしかしたらもっと上まで塔をよじ登って行けばどこかに入り口があるかも知れない。幸い塔の表面には沢山の凹凸があり、身軽なレンであれば十分登っていくことが出来そうなのだった。だがもし塔に登っているところを誰かに見つかったら、きっと止められてしまうだろう。だから、みんなが寝静まった深夜から塔を登り始めようと考えた。

一体、外にはどんな世界が広がっているんだろう。レンは外の世界を思って空を見上げた。空は眩しいくらいに蒼く輝いていた。この分だと、しばらく晴れが続きそうだ。

「よし!」

今夜、決行しよう。レンはそう決意した。そして一度家に帰り、深夜になるのをまった。


そして夜になった。レンは食料とロープ、手元を照らすヘッドライトを準備して塔の足元に立っていた。塔の表面の凸凹に手をかけて、上の方を眺めてみた。暗くて良く分からないが、きっと頂上のあたりまで登って行けば、どこか一ヶ所位は入れる場所があるに違いない。レンは街の人に気付かれてはいけないと思い、さっさと塔に登り始めた。

思った以上に簡単に登ることができた。もともと木登りなんかも得意だったし、高いところも平気だった。さらに、塔の途中にはところどころにでっぱりがあり、そこと体をロープで結んで適度に休憩も取ることが出来た。3時間ほど登ったところで、ついにレンは入り口になりそうな穴を見つけた。

穴に入ったレンは、そこから外を眺めてみた。まだ夜が明けきっておらず、ただそこには暗闇が広がるばかりだった。

「朝になったら壁の外が見えるのかな…。」

レンはこのまま朝になるのを待とうかと思ったが、折角塔の中に入れたのだし、このまま塔を探索してみようと思った。塔の内部にはあちこちに赤や緑の色々な光があり、十分に歩くことが出来る程度の明るさになっていた。

「一体…なんの機械なんだろう…。」

塔の中身は見渡す限り機械だらけだった。あちらこちらから「ブーン」という機械の発する振動音のようなものが聞こえる。そのうち、レンは螺旋状になっている階段を見つけた。ずっと上の方まで続いているようだ。その階段に導かれるように上へ上へと登って行った。

どれくらい登ったのだろう。螺旋階段をずっとぐるぐる登っていたのでそのうち目が回って来た。もう塔の頂上辺りに来ているのではないだろうか。そう思ったとき、螺旋階段の終わりが見え、重厚な扉がそこにはあった。

ギギギギギ…。

レンが扉に手をかけ力を込めると、ゆっくりとその扉は開いていった。その手ごたえや塔の中に響く音から、おそらく、何十年もこの扉が開けられていないことがうかがえる。扉を開けると、部屋に繋がっており、その部屋の奥の方にはこれまた沢山の機械があった。だが今までと少し違うのは、その機械に沢山のスイッチが付いていることだった。もしかしたら部屋でこの塔にある機械を操作することが出来るのかもしれない。

もし噂通り、この塔のせいで壁の外に出られないのだとしたら、なんとかしてこの機械を止めるか、もしくは壊すことができれば、壁の外にでることもできるようになるかも知れない。レンはその奥の機械にそろそろと近づいて行った。

「愛しい我が子よ。それ以上進んではならん。街に帰りなさい。」

突然部屋のどこからから、男性の低い声が響いてきた。驚いたレンが慌てて辺りをキョロキョロ見回すが、どこにもその姿は見当たらない。と、その時だった。部屋の中央に白いひげを蓄えた老人が出現した。

「う、うわぁ!」

レンは驚いて大声をあげたが、老人はピクリとも反応しなかった。

「それ以上進んではならん。街に帰りなさい。」

老人は厳しい顔でレンを見つめてもう一度同じ言葉を繰り返した。だが、その声から敵意や悪意のような物は感じられない。恐る恐るレンは老人に話しかけてみた。

「す、すいません。人がいると思わなかったから…。」

「わしは人ではない。人が生きていたころの記憶…という方が正しい。」

「え? どういうことですか?」

「この記憶を持っていた人間は、もうとっくに死んでいて、その記憶だけが機械に記録されているのだ。この姿は映像じゃよ。」

そう言われてよくよく老人の姿を見ると、老人の体は少し透けていて、後ろの壁が見えていた。どうやら本物の人間ではなくホログラムのようなものなのだろう。

「…そう…なんですか…。」

レンには老人の言った言葉をあまり理解できなかったが、目の前にいる老人が人間ではないということはなんとか理解できた。

「あ、あの…僕、どうしてもこの街の外に出てみたいんです。どうしたらいいか知りませんか?」

レンは思い切って老人に聞いてみた。

「…残念じゃが、お前達がこの街の外に出ることは絶対にできん。」

「え!? ど、どうしてですか?」

老人はうつむいて髭をなでるような仕草をしながらしばらく黙っていたが、一度だけため息をついて、そして口を開いた。

「…お前達は、自分達がただの人間だと思っているのだろうが、実はそうではない。あの街にいるものは、お前も含め全て作られた機械なのじゃ。」

老人の言葉にレンは耳を疑った。

「え? え!? じゃ、じゃあ、あの街に人間はいないんですか?」

「あの街どころか、もうこの世界には生きている人間は一人もおらん。」

ホログラムの老人は少し悲しそうな顔をして語り始めた。

「かつて、世界中に何十億といた人類は、ある時、急に子どもを作ることができなくなってしまった。未知のウィルスだったのかも知れんし、なにか環境的な要因だったかも知れん。だがとにかく、いくら調べても原因は分からず、またたく間に人口は激減したのじゃ。」

レンは老人の言葉をただただ黙ってじっと聞いていた。

「このままいけば、間もなく人類は滅ぶとなったとき、我々人間は、何か少しでも人類が生きていた証をこの地球上に残そうと考えた。例えばロボットのような物で、人間が生活していた姿を残そうと言う計画が始まったのじゃ。」

そこで老人はひとつ咳払いをして話を続けた。

「まず人間の姿そっくりのロボットを作り、自分達が人間であるという感情を植え付けた。そしてその上でロボットをコントロールするための塔を建てた。ロボットの行動や感情は全てここにあるコンピューターで管理されておる。じゃから、この塔の電波の届く範囲、つまり塀を乗り越えて外に出てしまえば、お前達は動けなくなってしまう。…じゃから、お前達が絶対に塀の外に出ることはできんのだ。もし塀の外に出れたとしても、そこにはもはや何もない。ただ、砂漠が広がっているだけじゃ。」

「…そ…そんな…。う、嘘でしょ?」

レンにはその老人の言葉を受け入れることはできなかった。だが、その言葉が嘘ではないことは老人の真剣な眼差しが語っていた。

「だから、お前達は、怪我や病気もせず、それに成長もすることなく、あの街で同じような日々を繰り返しているのじゃ。」

「……。」

レンはずっと街の外の世界を知りたいと思っていた。街の外にはきっと自分の知らない本当の世界が広がっていて、その世界に行きたいと思っていた。だが、その本当の世界の姿を知ったレンの胸の内には、言いようのない絶望がただただ広がっていく。僕が知りたかったのはこんなことじゃない! とレンは心の中で何度も叫んでいた。

「…お前達ロボットが、外の世界に興味を持たぬように、またこの塔にも近づかぬようにとプログラムしておるのじゃが…、どうしても長い時間が経つとプログラムのイレギュラーによって、予想外の行動を取るロボットが出てくる。例えばお前のような…。」

老人はそういってレンを見つめた。

「…やはりイレギュラーが発生したのじゃな。」

老人の目線はいつのまにか、ひどく冷たいものになっていた。

「本当のことを知ってショックだったじゃろう。じゃが安心しなさい。イレギュラーが起きれば街のプログラムは全てリセットされ、もう一度最初から何事もなかったかのようにロボット達が行動するようになっておる。…むろん、お前のここでしった記憶も全て消され、また同じようにあの街で毎日を繰り返すのじゃ。」

「い、嫌だ! そんなの嫌だー!」

レンがそう叫んだとたん、ブゥンと音がして塔の中の全ての明りが消えた。そしてレンの意識はそこで途切れた。

「さあ、また明日からあの街でまた平和に暮らすがいい。愛しい我が人類の子らよ。」

暗闇に老人の声がこだました。しばらくして、今度は老人ではない、完全に合成された機械の声が塔の中に響く。

「ビ―――――…503万3489回目ノリセットボタンガ押サレマシタ。」



「おばさん、おはよう!」

「おはよう。今日も元気がいいねぇ。」

黄色い髪をした少年が元気よく挨拶をして、この街に新聞を配っていた。庭の花に水をやっていた中年の女性がそれを暖かい笑顔で見守っている。

「よし! 今日もこれで最後っと…。」

レンは今日も無事に、決められた全ての家のポストに新聞を入れ終えることができた。最後に配ったのは、街の一番端っこの家だ。

「ふー…。相変わらず、高い壁だなぁ。」

そう言ってレンは、目の前にある20mほどもある高い灰色の壁を眺めた。

「…その壁を…そんなに眺めるもんじゃないよ…。」

先ほどの中年の女性が、後ろから声をかけて来た。

「…うん…。分かってる。」

そうだ。僕はこの街の人間なんだ。だからこの街で一生懸命生きればいい。塀の外なんかに興味を持つ必要はないんだ。…レンは心の中でそう呟いた。


そして背後を振り返った。そこには灰色の塔が堂々とそびえ立っていた。
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