草笛 

2005年12月24日(土) 7時44分
お前は何を思っていたのだ?
如何すれば、この争いが無くなると言うのだ?
人が人である限りそれは、無意味で無駄なことだ。
他人より優越を競いそれで満足している人には、所詮、戦争を止めることなど出来ない。
そう、無駄な話だ。

「許してくれ・・・」

何度そう思い人殺しを敢行したと言うのだろうか・・・
正義と言う甘い幻想の名の元に犠牲になる人々。
未来ある青年の命を容易く奪い殺人を容認する国。
全てを奪い尽くした時敗者に残る者は祖国の崩壊、そして、新たに建国される国を援助するのが俺たち『陸上自衛隊』。
俺の部隊は、国からの指令を受けて敗戦間もないある国に援助物資を送り、民人に与えることを任務としていた。
砂漠にも似た荒廃した風景が広がるその国は、何年か前にも一度大規模な戦争を起していた。

「部隊長、少しは手伝ってください。」

俺は、部下がテントを張り上げているのを横目に軍服を脱いでラフな姿で居た。

「不器用な俺に、テントを任せたら何年かかるかわからんぞ。」

俺が、部下に向かってそう言うと部下は呆れたようなため息を吐き言った。

「だから未だに、お嫁さんが居ないんですよ。部隊長には・・・」

少しの沈黙の後、一言多い在平二等兵に近づき頭を一発殴る。

「うるせぇ!!大きなお世話だ。」

二等兵と部隊長、地位は違えど在平は俺の同期で一番の親友だった。

「痛てぇ・・・」

在平は、頭を抱えると蹲った。

草笛 

2005年12月23日(金) 7時50分
『そう・・・日本人が何のよう?観光では無いわよね。見たところ軍人のようだし・・・』

確かに、自衛隊と軍人の区別はつかないかもしれない。
俺は、相手に最敬礼をしていった。

『自分は、日本国陸上自衛隊第一師団第一部隊部隊長上坂託眞であります。』

どうやら、俺の言った事は相手に通じたらしい。
相手も名を乗ってくれた。

『クーリト=バランサーよ。』
『よろしく。』

それだけを言って、握手を求めると彼女は簡単に応じてくれた。

『こちらこそ・・・人が来た見たいね、また来るわ。タクマ。』

彼女は、そう言って元来た方に戻っていった。
俺は、その場で阿呆みたいに佇んでいるだけだった。
在平が来るまでは・・・

「おい!!」

在平の大声で俺は、我に返った。

「何だよ、耳元で叫ぶな。」

正気に戻ったのは、良いが・・・
拡声器を使って耳元で叫ぶバカがどこに居る。

「呆けているなんて上坂らしくも無い。」

在平は、拡声器をなおすと開口一番こう言った。

「で?何か用だったのか?」

俺の言い草にあんまりだと在平は嘆くような素振りを見せた。

「どうでも良いけど・・・もう、点呼時刻過ぎてる。」

在平が冷静に言った言葉に、俺は、自分の時計を見て慌てた。

草笛 

2005年12月22日(木) 7時54分
いくら、望んでも彼女と共に生きる時間など何処にも無いと言う事を知っているからだ。

(神は、本当に自愛の精神を向けてくれるのか?)

今まで、特別外人部隊という役職に居た自分への罪だと思った。
愛する人もこの腕に抱けない。
人の死を見送るしかない自分。
夢にすら、出て来ない彼女に少しだけ恨み言を言いたい気分になりながら眠りについた。
その夜、久振りに夢を見た。
懐かしい場所の懐かしい人の夢を見た。

「託眞、こちらに来なさい。」

母さんだ、最後会ったのは祖父さんが死んだ時だったか・・・

「何?母さん。」

意識のある夢を見る事は少なくない。
この夢もそうだと思った。
俺は、小学校就学前までを内戦の激しい地域で過ごした。
父は、軍事写真家。
母は、戦争ジャーナリスト。
戦争があれば何処にでも出かける人たちだった。
両親は、同じように内戦の激しかったカンボジアで出会い結ばれた。
で、俺が産まれたんだけど・・・
ちなみに俺の国籍は、ベトナムだ。
こんな、両親の元に生まれた俺は平和な国で過ごしたことのほうが少ない。
いつでも内戦で苦しんでいる国の中で居たから、事在るごとに母さんは俺を呼んで言った。

「貴方は、強くなりなさい。戦争ですらも貴方を殺すことが出来ないように・・・強くなりなさい。わかったわね?」

念を押すようにそう言うのは、自分の息子には戦争の修羅など知らなくてもいいと思っていたのか・・・

草笛 

2005年12月21日(水) 7時58分
俺は、その言葉に無愛想に応えた。

「アフリカ系に見えるか?」

俺がそう言うと女は、首を振って謝った。

「ごめんなさい。此処に来るのは、反乱軍の人だけだもの・・・」

そう、此処は敵地だ。
この女だって反乱軍の仲間かも知れない。

「奴等の仲間なのか?」

俺は、女に聞いた方が早いと思っていた。
如何しても女に応えてもらう必要性があったとは思わないが、俺はあえて女に聞いた。

「違うわ・・・早く終わらせて欲しいの・・・だって、嫌だから・・・」
「争うのがか?」

そう問うと女は、頷き言った。
瞳に涙を浮かべながら・・・

「家族は、反乱軍の人に殺されてしまった。だから、血を見るのが恐いの。」
「そうか・・・」

その感情は、俺にはわからない物だった。
俺は、叛乱が起きる場所でしか生活をしていない。
だから、人の死が当たり前なのだ。
誰かが死んで悲しむ事も無かった。

「なぁ、名前は?俺は、上坂託眞って言うんだけど・・・」

名前を尋ねたことに訳なんて無かった。
ただ、呼び名が無いと不便だと思ったからだ。
女は、俺の顔を驚いたように見ていたが応えてくれた。

「ヴァーメル=リン=コヴァーサ。それが、私の名前だけど・・・」

俺が、人に名前を聞くのは本当に珍しいことだ。
人の名前と顔が一致しないことのほうが多い。

草笛 

2005年12月20日(火) 8時03分
哀しそうなヴァーメルの言葉に、明るく振舞ってみる。

(ずっと、一緒に居たいんだよ。)

今まで誰にも抱いた事の無い思いが俺の中に溢れていた。
ずっとその柔らかい微笑を・・・
ずっとその暖かい手を握っていられると思っていた。
そんな、幼かった頃の幻想。
夢はいつか終る。
そう・・・俺とヴァーメルの生活も終わりを告げた。
それは、仕組まれた出来事で防げるはずの事象だった。
家は、廃墟と化し彼女は俺から届かない所に逝ってしまった。
手を伸ばしてももう彼女に触れる事は叶わない。

「下がっていてください!相坂隊長。此処は、我々の管轄です」

兵士が、4人必至になって俺を留める。
俺の管轄は、「平和維持」に移行していて「事故処理」ではなかった。

「離せ!!頼むから・・・離してくれよ」

兵士達の上司は、目で離してやれと言って居るようだった。
開放された俺は、彼女の側で跪いていた。
・・・彼女は、ヴァーメルは、反乱軍の残党によって殺された。

「タクマ、お前にして欲しい事がある。」

俺の直属の上司・陸軍外人部隊総統の言った言葉を俺は承諾した。

「反乱軍の残党を・・・お前の想い人を殺した奴らを・・・一掃して欲しい」

迷っていた。
どうすれば良い?
確かに奴等は、殺したほど憎い。
だけど・・・

「貴方は、人を殺さないんだね。タクマ・・・」

ヴァーメルの言葉が俺を留めている。
そう・・・彼女の存在だけが俺をこの世界に留めている理由だったのに。
俺は、その理由を奪われた。
もう、生きていてもしょうがない。

草笛 

2005年12月19日(月) 8時07分
歳も近かった、趣味もよく似ていた。
何より、同じだった。
友人が親友と呼べるようになった頃、俺は「ヴァーメル」の事を言えないで居る自分に気が付いた。
上官たちは、何故ここに来たかと言う理由を知らない。
それは、彼らにとっても俺自身に取っても同でもいいことだった。
彼女が隣にいない。
彼女の笑顔が近くにない。
彼女の存在が・・・
彼女を形作る全ての物がもうこの世には存在しない。
俺は、まだ、夢を見ている気がする。
永遠に醒めない悪夢なのは、現実の世界だったのだと思い知らされた。
そして、彼女の居ない気の狂いそうなほどの退屈な時間だけが俺に圧し掛かってきた。
悪夢だと言うのならば、この現実が俺にとって悪夢だ。

「なぁ、不安は無いのかい?」

在平が、突然可笑しな事を聞いてきた。
それはあの国に行く数日前だったと思っている。

「何の不安だ?」
「死ぬ恐怖ってのは、ないのか?今まで、いろんな国を旅してきたんだろ?」
「いつも死と隣り合わせ・・・だからこそ生きているって感じがするんだよ」
「今のこの国には、無い感情だな」
「だろうな・・・余りにも平和ボケしているよ。この国は・・・」

在平は、俺が行った言葉に面白そうだった。
在平は、俺の事を聞いては来たが都合の悪い事は話さなくても良いと言った。
だから・・・俺は今も自分を偽ったままだ。
在平の言う死の恐怖は、「自分が死ぬ」ことだったのだろう。
だったら、俺の応えはアレで合っている。
「人が死ぬ」ってことに関しては、こう答えるだろう。

「罪悪感で一杯だ。今も・・・夢にすらでてきてもくれねぇ・・・いくらこの手が血に染まっても・・・その中にあいつの血があると思うなら恐い現実だ」

草笛 

2005年12月18日(日) 8時12分
俺は、きっとおかしくなっている。
叶わぬ恋にばかり身を窶すのはバカの証拠だ。
それでも、バカで上等だと俺は思っていた。
月が輝く、砂漠の金色と空の球体の金色。
綺麗だと思う、だけど・・・
この月を見るのも今日で最期だ。

(やっぱり、ヴァーメル以外と住む気に離れない。でも・・・何でこう中東系を好きになるのか)
「・・・タクマ?」

クーリトは、考え事をしている俺に近づいた。
わかっているんだろうな。
ヴァーメルの事を知っているのは、彼女だけだし他に話す気も無かった。

「如何した?何か問題でもあるのか?」
「何故前向きに生きないの?逝き急いで・・・」
「早く死にたいと思った」
「過去形?」
「あぁ、死んでも仕方ねぇって・・・死んでも誰もかなしまねぇって思ってた。早く死ねれば、ヴァーメルのところでもう一回彼女を抱きしめれると思っていた」

俺がそう言うと、彼女はとても悲しそうに笑っていた。
クーリトは知っている。
日本に居た頃、寂しさのあまり自ら死のうとした俺の行動を・・・
俺は弱い。
支えが無ければ脆く崩れる壊れかけの玩具みたいだった。
今もそうだ。
俺はきっとクーリトが居なくなってしまえばこの世界に生きる意味を喪うだろう。

「古いしきたりに囚われている人みたいよ」
「一夫一妻制の事か?そうだな・・・でも、この血は間違いなくあの国の物だ」

草笛 

2005年12月17日(土) 8時17分
「そうして、彼はこの国の軍隊を強くしたわ。 でも、彼は人殺しを一切しなかった。わかる?彼は、報復で人を殺すことを固く禁じたわ。彼は、軍人でありながら心の優しい男だった」

女が、子ども達を集めてこの国を変えた男の話をしている。
子ども達は、女の話を目を輝かせて聞いている。

「誰だったの?」
「名前があったのでしょう?」

子ども達は、無邪気な質問をする。
女は、とても優しい声音でいった。

「タクマ。貴方達のお父さんよ、笛を良く吹いていたわ。私たちの国の笛ではなく、草の笛よ」
「草で笛って吹けるんだ」

一人の少年が、驚いたように言った。
彼は、タクマに一番似ているようでもあった。
そう、タクマは死んだ。
平和維持の為に尽力し、そして凶弾に倒れた。
次の日、彼の死はこの国の有力紙の一面に載った。
それは異国人としては異例のものだった。

「平和維持の軍隊、隊長であったタクマが、先日凶弾に倒れた惜しくもそのまま命を落とす。なお、これに関しての報復を軍は行わない模様」
「タクマ、私は貴方を忘れない。ずっと、忘れないわ。貴方の笛の音は、いつでも私を驚かせてくれた。
ねぇ、そこに貴方の愛した人がいるのでしょう?幸せになって、タクマ。こんどこそ、本当に貴方の愛する人と・・・でも、覚えていて。私も貴方を愛したわ。何時かそこにいく時は、貴方が最も愛した人と友人に慣れれば良いと思うわ」

女の呟きに答えるように、かすかに笛の音がする。
タクマの精神は、確実に自らの息子に受け継がれているようだ。

体育大会。 

2005年12月16日(金) 0時05分
「母さん、髪切ってよ」
「如何したの?」
「そろそろ時期が時期だからさ。頼むよ」
「ご免ね、今忙しいのよ。雪ちゃんに頼んどくわ」
「いや、もうこの際誰でも良いんだけど・・・」

あれ?嵐君、髪切るなんて言い出して如何したんですか?
いつもなら、もう少しほって置くはずでしょ?

「嵐君、覚悟は良い?」
「そんなものは、当の昔に出来てますよ」

バリカン抱えて、雪さんは微笑みながら嵐君の後ろについています。
でも、何時もの怖い笑みじゃなく心底楽しそう。

「嵐、お前今年も騎馬に出るのか?」
「未だ決まった訳じゃないんだ」
「じゃぁ、何で?」
「どうせ、何時もの様に強引に決められるからな」
「そうか、まぁ精々がんばれよ」

騎馬?・・・馬術でも始めようって言うんでしょうか。
でも、髪を切る事とはあんまり関係ないような。

「出来たわよ」
「有難う、雪さん」

体育大会 

2005年12月15日(木) 0時08分
何やってるのだろうか、吾の人は。
そんな風に言いたそうな雪さんの顔。
・・・確か、混合リレーのアンカーって順番から行くと男ですよね。

「大変だったのよ。あの後、クラスメイトに囲まれちゃってちょっとした有名人になったんだから」
「・・・母さん」

そんな情けない声で呟かないで下さい。
と言うか、そんな姿が容易に想像できそうですもんね。
冬弥さんの場合。
あ〜ぁ、一人黄昏ちゃったよ雪さん。
そんなに、冬弥さんの破天荒振りがショックだったんだろうか。

「其れは良いのよ。母さんだったし、何となく予想はついていたから」
「じゃぁ、如何したんだよ」
「私、アンカーになるかもしれない」
「ハァ!?」

寝耳に水の大河君。
明日から学校が始まるのもそっちのけで深夜に雪さんの悩みを聞いてあげる所は流石・・・かな?

「さっき、悠から電話があってね」

事の詳細はこうらしい。
元々、縦割り状態で決まる混合リレー。