渡り鳥 

February 25 [Mon], 2008, 23:36
渡り鳥 僕に背中を くれますか
 僕がそうノートに書くと、終業のベルが鳴った。それは青空がよく澄んだ晴れた日で、強い風に校庭の木々が揺れていた。窓際の席に座った僕は、いつものように窓の外をながめていたんだ。
 たった中学三年生の僕に、遠くへなど行けるはずがなかった。僕を取り巻くどうしようもないしがらみを振り払うことなんてできやしなかった。そして何より、ぼくが、そこを欲していたんだ。
 
 国語科の先生は若かったけれど、ふくよかで、母性を思わせるような体型をした、優しい先生だった。そんな先生はある日僕たちに、俳句を書くように言った。
 一学年2クラスしかないような小さな学校だった。小さな田舎町で、高台にある学校の周りにはビルはもちろん、家すらもほとんどなく、山や川、自然であふれていた。
 僕は、今の気持ちが書きたかった。けれど、書くにはいろいろなことが絡みすぎていた。何を書いてもそれが薄っぺらに聞こえて、本当ではない気がした。周りの同級生たちが次々と句を仕上げて行く中、僕はちっとも筆が進まなかった。
 いつものように僕は窓の外へ視線を移した。そこには、県の中学の中でも5本の指には入るだろうと言われている、だだっ広い校庭が広がっている。誰もいない校庭は、強い風に吹かれて砂埃が舞い上がっているけれど、ここから見れば静かだった。たくさんの葉をつけた木の枝が、風に合わせて折れんばかりに左右にしなっている。しかし、その音は僕には届かず、なんだか、どこか遠くの世界を見ているような感覚で、そちらを眺めていたんだ。
 その頃の僕は、普通に学校に通い、普通に授業を受け、友達とも普通に話していたけれど、なにか、ふわふわと浮いて、現実味のない生活を送っていた。
 ふと、視線を上げると、空を鳥が飛んでいた。小さかったから、多分結構高いところを飛んでいたのだろう。風にのっているのか、ほとんど羽ばたかず、すべるように飛んでいた。
 それは僕の目を一瞬にして奪ってしまった。すごく綺麗な姿だった。そして、それは憧れだった。鳥の種類なんて僕は詳しくない。あの鳥が何かなんてわからない。もしかしたら、とんびかも、カラスかもしれない。しかし、思い立ったら、すぐにどこにでもいけそうな、その颯爽とした、軽快な飛行は、僕の瞳をひきつけ、しばし僕を虜にした。
 子どもの頃読んだ漫画に、飛んでいる鳥の首に手綱を投げつけると、その背中に乗せてもらうことができるという、便利な道具が出てきていた。僕はそれを思いだした。
 あの背中にのって、どこか遠くへ行くことができたら・・・

 そして、この句が浮かんだ。
渡り鳥 僕に背中を くれますか

 これが今の僕の気持ちなんだ。
 
 この句を書いたノートを先生に提出すると、僕はもう一度空を眺めた。そこには、もう鳥はいなかった。そして、ぼくはいつもの教室の、自分の席に、座った。
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