ボールペン紛失事件 情報収集編

October 15 [Sun], 2017, 23:40
 案の定、ピアノの先生に怒られ、注意された。
しかし気分は高揚するばかりでおさまらない。
レッスン中も上の空だった。
先生はおでこに手を当て、呆れたようにため息を深くついた。
「今日はやめにしましょう」
とまで言わせてしまったのは申し訳なく思う。
しかしまあ、近いうちに発表会もないし、
コンクールがあるわけでもない。
たまにはこんなこともいいと思う。


 家への帰り道、また大きくスキップをして鼻歌を歌って帰った。
考えるだけでも胸が躍る。
吉野はどんな依頼を持ってきたのだろうか。
もしかして、もしかすると、
私たちがヒーローになれるような大きな事件だったりして。


 「ボールペン紛失事件」
「え」
思わず目を見開いた。
昨日の放課後からレッスンも集中できず、
夜も眠れないほど楽しみにしていた事件が
……ボールペン……。
「そ、そんなぁ」


 私の馬鹿みたいに大きな声が、昼休みの図書室に響いた。


 レッスンから帰り、ごはんも喉を通らず、
いつもやる宿題もやらず、なかなか寝付けなかったのに。
朝、すごく早起きして学校へ行ったのに、
靴箱にあったのは二人からの
「昼休み図書室集合」という手紙だった。
そのせいで、午前の授業は集中できなかった。
それなのに……!


 頭の中で目まぐるしく昨日から今日までの自分が駆け抜ける。
まるで走馬灯のように。
「でもなかなか不思議な事件だ」
「これくらい解けないと探偵なんてできないからね」
気を落としている私を責めるように、
二人はプレッシャーをかけた。


 「で、どういう事件」
「それが、依頼主は私と同じ吹奏楽部の鷹橋瑠香。
A組のね。知っているでしょう?」
美羅はうんうんとうなずいた。
「あのおとなしいサイドテールの子でしょ?」
「そうそう」


 吉野が言うには事件の内容はこうだ。


 瑠香のなくしたボールペンは、
アイドルグループのライブに行くともらえる
レアアイテムである。
しかし、そのアイドルはマイナーで知っている人は限られている。


 その大切なボールペンを肌身離さず持っていたのだが、
三日前忽然と姿を消した。
落とした気もするが、落とし物箱にはない。
探しても見つからない。


 しかし、マイナーアイドルのグッズを
誰かが盗むとも考えられない。
では、誰かファンがいるのではないかと考えたが、
そんな話は聞いたことがないという。


 「なるほど、確かに不思議といえば不思議だね」
「本人は、後輩にも先輩にも聞いて回っているけど、誰も知らないみたい」
これは「家にありましたー」というパターンではないか?
「家にも、通学路にもなかったらしいよ」
そうか。


 「こういう場合ってどうするんだろうね」
大体考えられることは違うとわかり、
これからどうしたらいいのか三人で頭をひねった。
まさか、「やっぱできませーン」なんて依頼を諦めるわけにはいかないし。


 図書室の片隅、もう少しで予鈴が鳴るというのに、
私たちは固まって動かない。


 廊下の煩さが私たちの頭をぐるぐる回す。


 やっぱり探偵なんてできないよ。
という気持ちが口から出そうになる。
それを抑えて、中学生の頭で目いっぱい考える。


 「やっぱりさ」
それは予鈴と同時だった。
もしかしたら私と同じく「無理」という結論なのか、
と心臓がバクバクしている。


 「もう一度、瑠香に話を聞くというのはどうだろうか」
人差し指をピンと立てて、首をかしげながらそう提案した。
「さすがレストレード吉野。ナイスなアイディアじゃないか」
「じゃあ、放課後話があるって、伝えておいて。同じクラスでしょ」
「はーい」
「さぁ、戻るよ。休み時間終わっちゃう」
小走りで図書室を後にし、すぐ目の前の教室へ入った。
……間に合った。


 ふと皇室を見渡すと、
もうすでに美羅が瑠香に話をしている様子が見えた。
いつになく張り切る美羅に思わず笑みがこぼれる。
今回も美羅が飽きるまで付き合ってあげよう。
「由乃、放課後よろしく」
「ふえぁ?」


 突然現実に戻され、変な声が出た。
「だ・か・ら。瑠香の話を聞くのお願いって。
私はサッカー部があるし、吉野は吹奏楽部で呼び出しだって。
パートリーダーだし」
え、じゃ、じゃあ。
「私一人でってこと?」
「そう、とりあえず話すこと、聞きたいことはまとめるから」
「そんなぁ……」
弱気な声を出しても美羅は揺らがないようだ。
おとなしく、言うことを聞くしかないのか。


 瑠香とは話せるけど。こう……仕事っぽいのは苦手だな……。
うまく聞けるかな。
ここでしっかり聞けないと、今後の進み方にも影響が……。
私の頭は勝手にネガティブな方向に行く。
 そうやって、机の上で頭を抱えて五時間目は過ごした。
先生の話す英語など全く耳に入らない。
幸い、当てられることがなく、十分に頭を抱えることができた。


 六時間目の前。休み時間に美羅はリストを渡してきた。
えっと、なになに?
「えっと、・いつどこで無くしたことに気が付いたか
。・どんなペンなのか。・そのアイドルの特徴は。
・なくした日に言った場所。
・そのボールペンを知っている人は誰か。
うん。これくらいなら私でも聞いてこれそう」
「ワトスン君。この事件の行方は君の情報が命となる。
気を抜かずに頑張ってくれたまえ」
ひひ、と笑い私にまたプレッシャーを与える。
「はあ」
ちらりと教団の近くを見ると、瑠香と目が合った。
そして彼女はにこりと笑う。私は引きつった顔で会釈した。
今の私は相当気持ち悪かったと思う。
瑠香のキラキラした笑顔と
急な恥ずかしさで、いったん教室から出た。
尿意はないがトイレに向かう。
階段横を通り突き当りを左、ここがトイレ。
女子トイレは色々な噂の渦巻く場所である。


 各界のトイレの中でも二階は特に広い。
その中の二・三個は埋まっている。そういえば。
この二階のトイレ、どこかの個室に幽霊が出るらしい。
確か、午後六時くらいに首吊りの女が……。
体の奥底から冷たいものがぐぐぐと上がってくる。
想像しただけでも鳥肌が立つ。うう、寒い。
「どうした由乃。そんなところで突っ立って」
扉の近くで呆然と立っていると、二番目の扉から吉野が出てきた。
変な妄想でトイレに入れないでいた私は吉野に飛びついた。
「え、何。嫌なことでもあった?」
頭をぽんぽんとなでながら吉野は不安げな顔をする。
「お化けのこと考えていたら、トイレに入れなくなった」
「はぁ?」
馬鹿じゃないの?と言いたそうな子で私を引っぺがした。
吉野の眼は恐ろしいほど冷たい。
幽霊なんていないから早くトイレに行け、
と怒られてしまった。
こんなに怖がっているのに。
吉野の人でなし!


 トイレを出ると吉野が待っていてくれた。
「それにしても、由乃はオカルトが苦手だね」
「この学校の七不思議とか絶対に聞きたくない」
「オカルトと言えば、瑠香はオカルト好きだよ。
情報を聞く前に話してみるといい」
「もう、意地悪」
そのまま吉野と話しながら教室へ戻り、
六時間目を受けたが、やはり全く話が入らない。


 どうやって話を聞こう。
急に「あの事件についてだけど…」って、どうだろう。
「はじめましてー」って、初めてではないし。
……ええい、考えたって仕方がない。
その場の雰囲気に任せるぞ。


 「由乃、掃除。もう六時間目終わっているよ」
え?気が付くと、私の前の席の人はすでに、
机を後ろに下げようとしている。
私でつっかえていた。
「あー!ごめん、ぼーっとしちゃって」
急いで机の中に教科書やノートをしまい、
椅子を机に上げ、机を下げた。
「由乃、今日は黒板お願いね」
「はいはい」
黒板消しで、念入りに黒板を消し、チョークの粉を捨てる。
……背が高いからいいけど、背が低い人は大変だろう。
と思いながら、黒板消しクリーナーがある廊下へ出た。
もうすでに沢山の人が廊下で待っている。
他の所は掃除が終わるのが早いな。


 ふと、B組を見ると、吉野と美羅が話している。
何やら真剣な顔だ。何を話しているのだろう。
気になる。少し聞きに行こうかな。


 B組へ行こうとすると、班長に止められた。
「由乃、早く終わらせよう」
「あ、はい」
残念。邪魔が入った。私はA組に連れていかれた。
刻一刻と、放課後が迫る。まだ心の準備ができていないのに。


 残念だが放課後が来てしまった。
日の傾いた二年A組の教室。
自分の席で変に緊張して座っていた。
机に置いたメモを見ながら、ガタガタと心が震える。
「おまたせ由乃ちゃん。吹奏楽部の人に送れることを伝えてきたよ」
「いや、待ってないよ」
緊張でまた変な顔になる。
「ごめんね、ボールペンくらいで大事にしちゃって」
「いやいやいいんだよ。何しろ私たちは昨日結成したばかりの探偵団だから」
瑠香はフフっと笑った。
「いいね、楽しそう。私は一番最初の依頼主なんだね」
「そう、記念すべき1人目。
そういえば、瑠香ってオカルト好きらしいね」
「よく知ってるね。
私の好きなアイドルがオカルト話をよくするから、はまっちゃって。
あ、そのアイドルのボールペンをなくしたんだよね。
リンゴ飴っていうグループなんだよ。
ろごも『りんごあめ』って書かれているよ」
「へぇ、りんごあめか」
「そう、ひらがなで赤い字。
でもね、実はりんごあめって書いて
アップルキャンディって読むんだよ。
これはファンだけの極秘情報。探偵さんには教えてあげる」
瑠香は少し小声で言った。いつになく饒舌な瑠香に圧倒される。
「なくしたのはいつだっけ?」
「えっと、三日前。家で気が付いたよ。
いつもカバンに入れていたんだけど、
その日はジャンパーのポケットに入れていて……。
どこかで落としたのかもしれない」
「ジャンパーのポケット……最後に見たのは?」
「その三日前の帰り、教室で見たよ。教室でポケットに入れたからね」


 三日前教室で見た。
そして、その日家に帰ってボールペンがないことに気が付いた。
帰りから家までの間でなくしたことになる。
「その帰り、寄った所はある?」
「教室から出て……その日は部活がなかったから。
そうだ、職員室に言ったよ。それからすぐに帰ったよ」


 職員室に行ったのか。
職員室に行ったということは、ジャンパーとかカバンを
一度おいてから入らなくてはいけないから……。
その時に落としたのかもしれない。
「でも、ジャンパーから落ちたらわかると思うけど」
「今はまだ雪があるから落としても音がしないのかも」
「そうかもね、白いボールペンだし」
「ボールペンは白いの?」
「そう、白いボールペン。
ノック式で、赤いラインが入っているよ。
りんごあめっていうロゴが入っているの。
一見すると普通のボールペンだよ」
「普通なんだ」
「そうそう、どこにでもあるボールペンにプリントしただけって感じ」
「アイドルのボールペンを知っている人は?」
「仲のいい友達とパートの後輩かな」
「知っている人は少ない感じなのかな」
「マイナーだからね、あんまり言っていないんだよ」


 「ありがとう、今日はこれで終わりかな。
たくさん情報が得られたよ。瑠香のためにボールペン見つけるね」
「もういいの?」
「うん、今のところはね。また質問するかも」
「うん、大丈夫だよ。今度はアイドルについて教えてあげる」
「手短にお願いするよ」
「じゃあ私部活だから行くね。頑張って探偵団!」
「うん、瑠香も部活頑張ってね」
教室から出ていく瑠香を見送り、私はカバンを背負った。
我ながらいい情報がもらえた気がする。


 明日、図書室に集合させるため、手紙を靴箱に入れた。


 さっそく明日から本格的な推理の始まりだ。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:白銀文京
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 誕生日:3月8日
  • アイコン画像 現住所:北海道
  • アイコン画像 職業:大学生・大学院生
  • アイコン画像 趣味:
    ・小説を書く-知ってのとおりですね。
    ・絵を描く-詳しくはツイッターにて。
    ・楽器-ホルン、ペットやってます。
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空想。

君が死んで
私が悲しみに暮れぬよう
私は世界を作るよ

誰かを迷わせて。

たくさん作り上げて

そうしてできた私の
空想

誰でも来れる。
空想の世界を

君の名前にちなんで

ソラの庭と名付けるよ

 『ソラの庭』

*************

退屈そうだねそこの娘さん。
暇そうだねそこの君。

楽しい物語を見に行かないか?

君の望んだ世界。
私の望んだ世界を
一緒に見に行こう?

ほらおいで。

見破ってみて。
分るかな?

「ここは現実だって断言できますか?」
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