夢魔 -1- 

2004年09月18日(土) 11時42分
・・・・・・・・・・・・・また人を殺してしまった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今月で何人目だろうか。
覚えている限りだとこの1週間で5人は殺しているはずだ。
5人。
1回に殺す人数は1人。
なぜかそう決まっているのだ。
5人というと1週間で5日も私はそんな夢をみたのか・・。
八神硝子はベッドから半分体を起こしながらまだ完全に働いていない脳で考えた。
思わず言いようのない吐き気に襲われた。
腹の奥から邪悪なものが表面に出てくるような・・・
思わず目を瞑った。
思い出そうとすればするほど、この感覚に襲われるのだ。

私は夢で人を殺している。
それは事実だ。
しかも夢を見る度に毎回、だ。
もちろん他の夢も見ているかもしれない。
しかし覚えている夢がその夢だけなのだ。
「人を殺す夢」。

いつの頃からだろう・・・
思えば1年前・・・海人が私の目の前から消えてからのような気がする。
久保寺海人は硝子の恋人だった。
だが、突然硝子の目の前から消えたのだ。
ある日突然、だ。
前触れなんてなかった。
前日硝子と海人はいつものように学校から一緒に帰り、
硝子の家の前で「じゃあまた明日ね」といって笑顔でお互い手をふり、
いつものように別れたのだ。
その時の海人の様子もいつもと変わりはなかった。
少なくとも硝子にはそう見えた。
なのに。
次の日に硝子の目の前から消えたのだ。

気づいたのは朝学校へついてからだった。
教室に入るなり親友の奈央がすごい勢いでこっちへ走ってきたのだ。
「おはよう。どうしたの?すごい顔して・・」
「硝子はもちろん知ってたんだよね!?久保寺くんのこと!」
朝から海人の名前を呼ばれ不覚にもドキっとしてしまった。
海人は硝子と同じF組だ。
海人は朝学校にくるのが早く、硝子が教室につくと
海人が席に座っている光景が見えるというのが当たり前だった。
だが今日は一番左の列の前から3番目の席に海人の姿はなかった。
さっきまでのドキドキは次第に違うドキドキへと変わっていった。

夢魔 -2- 

2004年09月19日(日) 11時54分
「海人がどうしたの?」

段々と心臓の鼓動が早くなっていく。
普段はいつも穏やかな奈央がこんなに驚きにみちた表情をしているのだ。
それだけでただことではないという予感がした。
「硝子も知らなかったの?久保寺くん学校やめたんだよ!」


「え・・・・?」

硝子は思わず持っていたカバンを落とした。
奈央の言っている言葉がエコーする。
学校をやめた?

「冗談いわないでよぉ」
そういおうと思ったが奈央の顔があまりにも真剣なので言えなかった。
・・・・本当なの?

硝子は落ちたバックを急いで拾い上げ、中から携帯を出した。
海人にかけるのだ。
心臓の鼓動が止まらない。むしろどんどん早くなっている。
とりあえず本人の口から聞きたかった。
ところが電話の向こうから聴こえてきた予想だにしない声に硝子は唖然とした。

---この電話はただ今使われておりません----

番号を間違えたんだ。そうだ。
硝子は震える手でもう一度番号を押した。
しかし結果などわかっていた。
海人の電話番号はちゃんと登録してある。間違えるはずがない。
それでも頭のどこかで信じたくない気持ちがあった。
硝子は携帯をゆっくりと耳から外した。
そして画面の上に貼ってある2人で撮ったプリクラを見つめた。
そこにいる海人はいつものあの優しい笑顔で笑っていた。海人は笑うと目がなくなるほど細くなる。
子犬みたいに優しい瞳。硝子はそんな海人の笑顔が大好きだった。

・・・ 海人 海人・・・どうして?
硝子はこの現実をまだ受け止められないでいた。
どうか夢であってほしい----
そればかり考えていた。
何がどうなっているのか理解できなかった。
否、理解したくもなかった。


夢魔 -3- 

2004年09月20日(月) 11時56分
「今日の朝一で担任に親から連絡があったんだって。
突然ですが一身上の都合でやめますみたいな内容みたい」
奈央が硝子の様子を見ながらゆっくりと話した。

「一身上の都合・・・」
そんなことは昨日海人は一切話さなかった。
昨日の帰りはいつものように2人で学校での出来事を話した。
隣のクラスの川崎さんと山本くんはつきあってるらしいよ。とかそういうたわいもない話。
ただそれだけだ。
硝子は昨日の海人の言葉の中に何か今日に関することを言っていないかと思い出そうとした。

「私さ生物の松永先生の授業理解できないんだよね。まわりくどいっていうか・・」
「そうかな?俺は一つ一つ詳しく丁寧に説明してくれるからわかりやすいと思うけどなぁ」
「海人は頭いいからだよ。頭いいからすぐ理解しちゃうんだよ。」
「そんなことないよ。硝子だって頭いいじゃないか。」
「どこがよー!この前なんて数学赤点とったし・・。」
「勉強できることが頭いいってことじゃないんだよ。硝子。」
「なんにしても私は頭よくないよ。」
「俺は硝子のこと認めてるよ。すごいと思ってる。」
「全然すごくないよ。バカなだけだよ。」
「でも俺は認めてる。硝子の力を。」
「海人に認めてもらえるのはうれしいけどね。」

どこをどう考えてもいつもと同じ会話なのだ。

夢魔 -4- 

2004年09月21日(火) 11時59分
海人の言葉にかわった所はひとつもない。
ただ、関係ないとは思うが不思議なことがあった。
海人は度々私のことを すごい、すごいと褒めるのだ。
謙遜でもなんでもなく本当にすごいという言い方をする。
それが不思議ではあった。
どう見ても私は頭が良くはないのだ。
成績もよくて中の上というところ。
頭が悪いわけではないが、いいわけでもない真ん中のラインだ。
一方、海人は誰もが認める秀才だった。
学年ランキングは常にベスト3。
とくに生物・物理・数学を得意としているらしい。
私の苦手な科目ばかりだ。
そのあたりはやはり男だなーと思う。
そしてこの3つの科目に限り海人はいつも100点満点をとるのだ。
どんな勉強すればとれるんだろう・・・
彼は塾に行っているわけでもないし家庭教師がついているわけでもない。
こういうのを天才というんだろうなぁ・・硝子はしみじみと思った。

そんな彼が私のことをやたら頭がいいなどと言うのだ。
最初はからかわれているのかと思った。
いや、今でもそう思っている。
でも・・彼は真面目にいうのだ。
「硝子は俺なんかより全然頭がいいからな」と。
海人が真剣に話す時は目線を相手に合わせて話す。
彼は毎回そのことを言う度に腰をかがめ、
私の目線に合わせ、目を見つめながら話す。
その度に私は冗談でしょと笑い飛ばすことができなくなってしまうのだ。

私の何がすごい?
彼は勉強ができることが頭がいいことではないと言った。
では、私の何が・・・どこをどう見て、頭がいいと言うのだろう。
どう考えてもわからなかった。
いくら考えたところで答えが出るわけでもない。今はそう思った。
まぁ深く考える必要もないか。今考えることでもないし。
硝子は頭の中を現実に引き戻した。

とりあえず学校が終わったら海人の家に行ってみよう。
海人はいるのだろうか。
しかしなんとなくどうなっているか予想ができた。
きっともう誰もいないのだろう。
部屋の中は空っぽなのだろう。
最悪な展開なのになぜか私の頭の中は冷静だった。
それがなぜかとてつもなく怖かった。

夢魔 -5- 

2004年09月29日(水) 21時52分
朝のHRが始まる。
担任の丘先生がいそいそと入ってきた。
それでもみんなのざわめきは止まらなかった。
もちろん話題は海人のことだ。
硝子は海人とクラス公認の仲だっただけに色んな人から話しかけられ大変だった。
「大丈夫?」「元気だしてね」などの心配するような声は女子から多く、
「きっと突然帰ってくるよ。あいつのことだし」「深く考えない方がいいぜー」などの
そこまで深刻にとらえてないような声は男子から多かった。
硝子はみんなへそれなりに応答し、一息ついたところで席についた。

なぜ私はこんなに冷静なのだるうか。
きっと私は周りからは可哀相な女の子みたいなかんじで思われているのだろう。
それは合ってるかもしれないけど間違っているんじゃないか。
硝子は自分のことを分析していた。
なぜ今そんな風に思ったのか自分でも理解できなかったが。

ただ、悲しいという感情がまだ現れないことに驚きを感じていたのだ。
私はまだどこかで海人が突然現れるんじゃないかとか
期待しているんじゃないか?
いや違う・・ きっと私は悲しくないのだ。
私は・・いつかこんな日が来ることに気づいていたのだ。
頭の・・脳のどこかで。

また意味不明なことを考えてしまっていた。
硝子は今の考えを頭の中から消そうとした。
これは私の思考じゃない----

「えーーー静かに。席につきなさい。」
怒っているわけでもなく、いつもより真剣な表情の丘先生の声が響く。
いつもの先生の様子と違うと感づいたのか、皆席に着き始めた。
「えー、みんなもう既に知ってるとは思うが・・久保寺が今日付で退学した。」
わかっていることとはいえ、皆がまたざわめく。
「先生!理由はなんですか?」
これもわかっていることなのだが、先生の口から確かめたかったのだろう。
誰かが言った。
「朝に久保寺のお母さんから電話があった。一身上の都合という事だ。
それ以上は先生にもわからん。」
先生も腑に落ちないような納得していないような顔をしていた。
皆も同じような表情をしていた。

その間硝子は外を見ていた。
校庭と正門が見える。
遅刻してこちらへ走ってくる生徒が数人見える。
硝子はそれをただ眺めていた。
何も考えずに。

丘先生はそれ以上何も言わず、そして皆もそれ以上質問することはなく、
いつもと同じ流れで1日は過ぎて行った。

夢魔 -6- 

2004年09月29日(水) 21時56分
あの後、昼休みに硝子は学校を抜け出し、海人の家へ行った。
海人のうちは学校から走って7.8分。
古いアパートの2階。
ここのアパートの階段の所でよく海人とキスをしたなぁ・・
やっぱり海人がいないからなのか、色々思い出してしまう。
硝子は甘い記憶を無理やり消し、階段を登った。
海人の部屋は階段を登ってすぐ右の部屋だ。
硝子はドアのノブを回しかけて思わず手を離した。

海人がいる!!!!!!!!

ドアの向こう側に海人がいる。
もちろん見えないが、硝子には確実に感じる。
海人がいる。
しかもこちらを向いて立っている。
硝子にはなぜいると感じたのかわからない。
でも、いるのだ。

硝子は急に高鳴る心臓が邪魔だった。
えぐりとってやりたい衝動にかられた。
ドアを開けられなかった。
なぜかとても怖いのだ。
開けてはいけないような気がした。

もう何分このままでいるのだろうか・・
硝子は5分も動けないままその場に立ち尽くしていた。

ドアを開けなければ・・と思うほど手が動かない。
声をかけることもできない。口も動かないのだ。
変な汗が出てくるのがわかった。
硝子は後ろを向いて逃げたくなった。
走り去りたい-------------------


そう思った時だ。



「硝子」


ドアの向こう側から聞こえた、重く沈んだ声。
それは間違いなく海人の声だった。
硝子は声が出なかった。
それは海人の声がいつもと違ったこともあった。
でも、それだけではなく---------
それは、恐怖だった。
向こう側にいるのは海人だ。それは間違いはない。
だが、硝子には違う人物に思えたのだ。
海人であって海人でない----------
常識で考えると意味不明なのだが、硝子は真面目にそう思っていた。
硝子は恐怖で声が出なかった。
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