木の話と、花の話。 

2013年03月17日(日) 10時15分
木と花といっても植物の話ではない。

しばらく「交流」の2文字に頭を悩ませていたが、
ようやく納得のいく答えが出た。
自戒を込めて纏めておく。

3月中のどちらの日にも間に合わないので、
これからの事はおそらく事後報告になる。

後日談 -Side ?- 

2012年12月15日(土) 23時38分



暗闇に、ポツリと巨大な椅子が設けられただけの質素な区域。
危険区域対象外となる地域の中央に位置するこの場所は、
短い間だけこの空間の主とも言える者が立ち寄る休憩所のような扱いになっていた。
そもそも発生しないため、だいぶ空席だったはずのその椅子には塵一つついていない。
その椅子に、少し体勢を崩してマッドが座っている。
普段、何か支障が出ていない限り正しい姿勢で座っているのが普通であったので、
そんなマッドの姿を見て、チェリーが思わず駆け寄った。


『………。今は、異常はない』

「…!」


走っていたチェリーが声をかけられた途端に急停止する。
マッドの言葉には『だから走ってくる必要がない』という言葉が抜けていたが、
しばらくして察したのか、複雑な表情で普通にマッドの目の前まで歩み寄る。


「……おかえりなさい」

『……』

「どう……か、なさいましたか?」

『………それがお前の答えか』


たどたどしい様子をしばらく眺めて、やっとマッドが放った言葉が理解できずにチェリーが肩を震わせる。
おずおずと上を見上げるように顔をうかがうチェリーの視界に、少し引っ掛かるものが見える。
くっきりと形の見える緋色の目。前よりも表情が分かりやすくなっており、
眉間にしわがよっているのが見えている。
あれ?と口に出さんばかりの表情でひたすらハテナを飛ばすチェリーに、
ふいに巨大な手が伸びる。

金属に覆われた指が2,3本、チェリーの左肩の横を通過する。
左腕に刻まれていた緑色の刺青が、それに合わせて宙へと色を飛ばしていった。
輝きながら宙へと舞う淡い光球はまさに幻想的な代物だが、
状況が状況であるのでチェリーも流石に綺麗、と口には出せなかった。
するべきことが終わったのか右手を元の位置に戻し、
それまでほとんど黙っていたマッドが静かに話し始める。


『……今の姿は、精神が元となり形をなしているにすぎない。
 望みが変われば姿も変わる。どちらにしろ、精神が不安定になればお前ではなくなる。
 …過去にそう告げたのは覚えているか』

「はい…。その話を聞いたのは、私の姿が急に変わってしまった時だったと思…います」

『いずれ破綻は目に見えていた。行くのを許したのは、それが理由だ。
 元々判断には関与しないつもりでいたが、お前の中で答えが決まったのなら、それでいい。
 そう望んだように、お前が平安を感じる場所にいろ』

「……」


聞かずとも、私が何を思っているのか知っているのだろう、とチェリーは思う。
また他の人のように、「それでいいのか」と聞かれないことに同時に内心安堵していた。
単に関わらないから何も言わないだけであるとは分かっていても、
チェリーの唇が音なくありがとうございます、と形を描いた。


「あのっ…、お願いが、あります」


暫くの間の後、話を聞きおわったチェリーがぽつりとつぶやく。
それまでの受け答えの様子と照らし合わせて、別な内容か、と解釈して
肯定する意味でマッドは言葉を無言で待つ。
それでもしばらく言葉を待っていたチェリーだが、
そういえば返ってこないんだった、とふと気が付いて用件を述べる。


「その……。あなただけは……昔の名前で、呼んではもらえないでしょうか」


昔の名前、と聞いてマッドの左手が僅かに反応する。
否定をされたらどうしよう、としばらくチェリーも無言になるも、再び何もかえってこない。
結局いいのか悪いのか、どちらかわからないままチェリーは下を向いてしまう。
あまりに何もかえってこないので、控え目に、
小声でチェリーは残りの言葉を絞り出そうとする。


「…そ、それと、私も………」


その願いは、途中で頭への感触でチェリーの中から吹っ飛んでしまった。
下を向いている間に手がこちらに伸びていることに、
チェリーは全く気が付かなかった。
いつのまにか鉤爪が消えている左手…基、
左手の指が軽く乗せられ、少し内側に動いていた。

見かけ的に即答こそできないが、親が子供をあやすような光景。
これまでになかった状況に、完全に手の中でチェリーは固まってしまっている。
それは、急に頭をなでられる状態になっていることもそうだが、
何よりマッドの方から自発的に触れられている事の方が、信じられないようだった。




―――おとうさんは、きずつけたり、ときにはころしてしまうから、
   だれかにさわったりはしないんだって。

―――だから、どんなにだいすきでも、ぜったいにだきしめてもらえなかった。

―――ても、いつかぎゅってしてくれたらうれしかったけど、だめだって、おこられた。

―――わたしのためであること。おかあさんにたいしてもおなじであること。

―――あとからおしえてもらって、ごめんなさいってないたことがあった。



―――それでも、なんかいも、かなわなくてもおんなじことをおねがいしたのをおぼえてる。





…同じ空間に属する存在、という扱いで、やっと直接触れても問題なくなったのだろう。
何度も何度も望んだ出来事が、今やっと叶っている。
さらにかけられた言葉は、チェリーにとって願ってもないものだった。





『長くなったが…、やっと戻ったか、ソーク』





マッドの表情・声色こそ対して変わらないが、その内容はチェリー…
否、ソークの心にさまざまな意味で深く衝撃を与えた。
今まで我慢していたものが、あくまで見かけ相応に振る舞おうとしていたものが、
一斉にごちゃごちゃになって雪崩のように流れていく。
悲しくないのに涙が止まらず、手の中でソークが泣いたまま立ち尽くす。
震えて声にならない音がソークの口から漏れる。
落ちる涙を拭けばいいのか、顔を隠せばいいのか、
やり場のない手だけが宙を浮き、その間にもずっと涙は零れ続けていた。

いけなかったのかと手を離そうとしたのか、マッドの指が軽くソークの頭を前へと押す。
その動きにつられるようによろよろと前へと歩み寄り、
そのままマッドが座っている椅子に、チェリーは先客をそのままにして倒れ込んだ。
最終的に体格差的に膝のあたりに突っ伏すことになり、声をあげて泣き始める。
それまでは怯えることやぽたりと数滴涙をこぼすことはあっても、
声をあげて泣くことは、今までソークはしてこなかった。
それとは一転、今は「本来の」年相応…せいぜい5,6才程度の子供のように、
(そもそも近くに一人しかいないとはいえ)人目をはばからずソークは泣き続けている。
その様子を、特にやめさせもせずにマッドは
ソークが自分から泣きやむのを静かに待っていた。

以前であれば、理解できずにそのまま邪魔になれば振り払っていたのだろう。
それに対して何を思うのかまでは目から見てとれないが、
今のマッドには振り払う意思は対して感じられない。
先の言葉以外に、マッドがソークに声をかけることはなかったが、
いまなぜソークが泣いているのかについては理解しているのだろう。


「……お父さん…」


泣きながらそう呟くソークの声は早くもかすれかけている。
涙も止められないのだが、自然と、
目元は緩やかなカーブを描き僅かに笑みを作っている。
同じように小さな声で、「よかった」「ただいま」と繰り返すソークからは
見かけこそ20代の女性であっても「チェリー」としての面影を感じない。



今度は近くにいても向こうの世界にいても怒られない。一緒にいても平気になった。
今のソークが幸せを感じる要素は、それだけで、十分だった。







(今日は「わたし」が死んだ日。)

(「わたし」が死んで、「私」になった日。)

後日談 Side-C- 

2012年12月13日(木) 4時00分



―――誰かの傍にいるということは、
その人の近くにはいられない人からは離れるということ。
これから、私はどうすればいいのだろう―――




まず視界に映ったのは、ベッドに備えられた青い天蓋。
そういえば寝ていたんだった、と思いだしながら、
まどろみからチェリーがゆっくりと体を起こす。
チェリーが普段身を置くこの場所は、
危険区域が大半を占めその位置も頻繁に変わるため
自発的に壊されることが多く建物という概念がほとんどない。
唯一危険区域から外れる確率が非常に高い地域に、
ほとんどの者がそれとなく居住スペースを確保しているだけの状態だ。
そのため、「元々」習慣があったチェリーや
それに感化された者はこうして部屋らしく家具を置いているが、
こちらに居る者の中でも特に危険区域での戦闘が多い場合、
体を休める程度の台座がぽつぽつ置いてある程度といった具合である。


「……」


本当に長い夢を見ていた。いまだにそんなようにチェリーは思う。
今となってはそれは闘技大会の思い出に限ったことではないのだが、
最近、本当に思い出になぞらえた夢ばかりを見るようになった。

それで決意は揺らいだか、と問われれば違うと答えることはできるが、
幸せだったのは、事実だった。





「おーいチェリー?もう寝てんのか?
 呼ばれても返事がないからみんな置いてったみたいだけど
 長が話があるのってお前じゃあ…」

「す、すみません今行きます!」


声に反応して、急にシェリーがしゃんとする。
体に掛っていた(基、睡眠中に誰かが掛けていった)布団をそのままに、
チェリーが声のする方へと向かっていった。
闘技場で合わせてきた時計は、深夜を指している。
青年の声色のいう通り、チェリーは本来この時間はぐっすりと眠りについている。
まあそりゃ久しぶりだもんな起きてるよな、と
声の主が納得して居る間に、遅れてすいません、とチェリーが彼に駆け寄ってきた。

その彼というのは、人間のシルエットから逸脱するほどの
細身の体にところどころえぐれるように穴があり、
今にも折れそうなその白い体を不釣り合いに太い2対の腕で支えている姿だった。
具体的には、闘技大会中には“青い”化粧の時の
人格として動いていた男の、本来の姿に当たる。


「戻っ……、お戻りになられたのは、先ほどでしょうか?」

「あー…無理に敬語使わなくていいからな?聞こえちゃいねえのに…」

「わざわざ迎えに来てもらってしまったみたいで、
ジンさん本当にすみません……」


ジン、と呼ばれた相手は、またすぐ掃けちゃうかもしれないから
俺に謝るより早めに行こうな、と思わず足が止まりかけるチェリーを急かしていた。
言葉の内容だけを拾えば至ってどこにでもあるような会話だが、
姿が先に見えていた場合は、人の姿に近いチェリーはともかく
ジンは真っ先に偏見を持たれることだろう。ジン自身が、
「まあこうやってフランクに話しかけられるよりも
唸り声上げて襲われるーの方が周りは分かりやすいもんなー」と
ネタにしているぐらいであるので、意識はするべき事項だが
コンプレックスやら何やらというわけではないらしい。



チェリーが居住区域にしている場所は目的地からそんなに遠くはないのだが、
眠っていて時間感覚がないせいなのか、単にニアミスして会えないことを心配しているのか、
ものすごく遅れてしまっていたらどうしよう……と明らかにチェリーの表情が曇る。
それを見てこれから会うってのにそりゃ駄目だろ、と妙に必死になって、
ジンが周りを指差しながら必死のフォローをし始めた。


「…あ、あー……いやほらまだ報告してる頃だし、
 お前のことも重要事項だから流石に時間は割いてるだろ。
 その時はなんだかんだで全員関係あるからその場にはいた方がいいと思うし…
 関係ないからってその辺にカルーアとか
 アマレットとかいるだろ。まだ終わってないんだろ。
 あーほらあの辺もキュラソーとペルノが殴り合い基漫才してるぐらいだし……」

「えっ………?」

「………ん?あれなんでペルノいるの?
 は、早く、ないか……?」


丸々長期間いなかったんだから報告することいっぱいあるだろ、と
ぶつぶつ呟くジンの横で、一体化でもしているのか、
チェリーの薄紫の仮面が心なしか青さを増している。
危険区域での空間の暴走を駆除する役目の
ほとんどを代役としてこなしていた責任者が、
ああして普通に何時終わるかわからない言い争いをしているということは、
どうやらまだ報告をしていない、というよりも先に終わったという可能性が高い。

また会えなかったんでしょうか…と
少し泣きかけるチェリーのフォローまで手が回らず、
あたふたしている(ように見える)ジンの近くに、別の影が近づいてくる。
左右非対称の、道化の服のような拘束具を着込んだ少年のように見える彼は、
ジンが青だったのに対して、水色の化粧の時の人格の正体である。


「あ、よかったちゃんと起きてたんだ…
 来ないかもしれない、とか聞いてたから安心したよ」

「おいウォッカ、何があったのか1つ残らず
 全部詳細まで報告、って話じゃなかったっけ?」

「うん、したよ?ラムとかキルシュとかが片っぱしから全部言って、
 あとウィスキーがちょっと補足したの聞いて分かったって言われちゃって。
 後は本人…というか、チェリー、君から聞くから別にいいって、
 なんか追い出された格好になってるかな」

「……なんというか、よく分かったよありがとな」


酒の名前を冠したニックネームが飛び交う中、
急に自分の名前が呼ばれてチェリーが体を震わせる。
だってさ、と見やる数名の視線に雰囲気を察したのか、
チェリーは頷いて一人で周りの視線とは逆方向へと走って行った。
闘技大会中に何があったかはある程度知り合いの中で共有しているため、
3日目に突発的に行った練習試合で起きた出来事を思い出して、
数名が苦い顔(に相当する表情らしきもの)をしている。
一人で行かせてよかったんだろうか、と
思わずチェリーの向かう先を見やる者もいれば、逆に目をそらす者もいる。
周りの心配に反して、表情が一転して明るくなったのを見た者は、
どうやらいないようだった。




周りと同様に、大丈夫かなあ、とウォッカがつぶやくのを聞いて、
ジンがふと疑問を口にする。


「ところで、追い出されたって珍しいな。
 長の事だから、もういい、って言ったきり他には何も言われなかったんだろ?
 自分から行動を指示するのって
 よっぽどの気まぐれが起きた時とかそういうんじゃ…」

「いーや、そもそも俺らを自主的に追い出したのは
 パルフェとアマレットだぞ、もやし君」


ベシィ、と乱暴に頭部へ置かれた手に、思わずジンが声をあげる。
遠くでの漫才が終わったのか、ペルノがジンの真後ろに来ていたらしい。
ジンとは対照的にがっしりとしたシルエット、
周りと比較をしても高い身長という身体的な特徴のおかげで、
押さえつけられる格好になっているジンが本当にもやしのように見えている。


「確かにもういい、で大将の話は終わりだ。それはあってる。
 で、いるメンバーでチェリーを
 誰か呼びに行った方がいいかを近くで話してた時に、
 とりあえずこのあたりからは出ろ、ってアイツらがほぼ無理やりな…。
 顔しかめてたから大将も把握はしてなかったんだろ。
 それで、余計に俺たちは早く外に出てたってわけだ」

「ぎ、疑問は、解決、したけど、体重かけるの、ホント、やめろっ…」


相当な力で下に押されていたらしく、
ようやっとペルノに解放されたジンが少し後ろによろける。
近くにいたウォッカには大丈夫?と言われたものの、
再びペルノが話し始めたため
ジンのほうに顔を向ける者は少々少なかったようだ。


「ともかく、それで俺らはこうして暇つぶししてたってわけだ。
 なんだかパルフェもアマレットもどうやら意図的にやったらしいけどな。
 ……特にアマレットなら、あっちで満足げにしているぐらいだし、な?」

「…あら、今あたしが笑っていたのには気が付いても
 あの人の変化には気が付かなかったのね?ここを離れていた間に、
 正確には何が起きていたか知る由こそなくても…色々あったみたいよ?
 それもかなり根本的な、大事のようだったけれど」


ペルノが少し遠くに顔を向けた先には、
本の意匠を体に持つ、ローブをまとった女性のような姿があった。
くすくすと笑いながら話す女性…アマレットの言葉に、
各々がしっくりきていないようなリアクションを取る。
そんなに心当たりはなかったかしら?とローブの下で腕を組み、
すう、と浮きながらアマレットも集まっている輪の中に入る。
入るや否や、再びチェリーの向かっていった方向を見やり、
思い出したようにアマレットが続ける。


「そうねえ…周りに慈悲を与えたかどうかはさておいて、
 神様は確かにチェリーにほほ笑んだみたいよ?」

「含みがある程度にはあんまりいい事じゃないんだ…?」

「ええ、今回のしあわせには、犠牲が付きものだったようだから」


ますます分からずざわつく周りを見やって、見た方が分かりやすいわね、と
アマレットもチェリーと同じ方向へとふわふわ漂い始める。
周りも聞き耳を立てていたらしく、気にはなっていたのかつられて後を追い始めた。
納得しないながらも、後を追いかける者が増えるのを確認して、
アマレットがふう、と掌に息を吹きかける動作をする。
情報や知識を引っ張り出す際に行う、彼女の癖のようなものだった。


「…じゃあ、着くまでの間にあたしからは状況から推測できる仮説を話しましょうか。
 もっとも仮説なのは至った経緯だけであって、そのほかは全て事実だけれど」






To be continued...

後日談 Side-J- 

2012年12月12日(水) 3時20分



『…お前でも功績にしがみつくことがあるのか』

「人を殺さずに貰う功績って初めてでね……
久しぶりだから浮かれているのもあるかしら」


無国籍居住区、Utopiaのセントラルタワー25階。
自室で特別賞の冠を飾っていたジェントに、
後ろから皮肉めいた声が降る。
ジェントの背丈以上の場所にある顔は、
相手の反応に少し納得が行ってないように目を細めた。
声の正体は、唯一闘技大会の表舞台には
最後まで姿を現さなかったリベルの物だ。


「それと、貰ったのが酷評の後だったって事もあるかしらね。
 3位決定戦の後は何かと思ったわよ」

『倒れ方はその前の方が無様だったがな』

「……あのねえ」

『気を抜き過ぎだ。全ての可能性を想定して動けなかったお前が悪いだろう。
 俺には能力の過信のようにも取れたが、違うか?
 大会前のお前の言葉を借りれば、「人を殺すのと本気で戦うのとは違う」。
 今の状況に合わせて解釈すれば手加減と怠惰は違う、といったところか。
 …俺も2度は言いたくない。聞き流しているようだしもういいようだな』


返事の代わりに、肩をすくめてジェントがため息をつく。
聞き流しているというのは当たっていて、どんなにいい結果を出そうとも
口を開けば酷評が続く義理の兄兼上司の言葉には、
ついさっきまで内心楽しく思い出に浸っていたジェントには
水を差す結果になっていた。

一方そのままベッドに体を投げ出す問題のある部下を見下ろして、
リベルもまた別の意味でため息をつく。
判断能力が(あくまで自分から見れば)鈍っているのは、
左肩の筋がほとんど切れる寸前という爆弾を抱えたジェントが戦力外にしか思えず、
ある程度の回復が見込まれるまで模擬訓練も
控えさせていたからだろう、とリベルは解釈している。
短期間のリバウンドつきではあるがその件は蹴りが付いたと思ったものの、
肝心のジェントが目の前の通り。
現役として復帰の前に感覚を取り戻させるしかないのだろう。
そして、おそらくそれは簡単には行かない。
入賞したら訓練場の制約を解く、と確かに出発前に言ったのは自分だが、
どうも望んだ結果にならない気がして、リベルは頭を押さえかけていた。


『……他に』

「なによ」

『他に、特に変わったことはなかったか。
 俺は基本的に戦闘光景しか確認していない』

「本当にそれしか見てなかったの……」


そりゃこんなに温度差があるはずよ、と呆れた声を出しながらも、
ジェントは腹筋だけで素早く起き上がって見せる。


「変わったことというか、実質報告みたいなものだけれど…
 あたしと一緒に出てた青い髪の女性いたでしょ?」

『知っているも何も、出発前の模擬戦闘で
チェリーと手合わせをしたのは俺なんだが』

「…そういえばそうだったわね。彼女の事なんだけど、
 直接は言わなかったけど……もう表だって会うことはないんじゃないかしら」

『………あの時何か聞いていたのか?』


リベルのいう“あの時”とは、歓声にかき消された閉会式中の
ジェントとチェリーのやり取りの事になる。
それまで俯き続けていたチェリーの視線の先が変わったのは、
その隣にいたジェントの唇が動いてからだった。
観客席及びモニターからは遠いため、ほとんどの者が、
その唇がどの言葉を描いたのかを知ることはできなかった。
そのころには闘技大会の一連の行事からは目を離していたリベルは、
人伝にその話を聞いただけだった。


「…さあね。彼女、大事なことは何一つ教えてくれなかったし。
それこそ、最初から最後までね。
ただあたしが聞いたあの口ぶりだと、決意は固いようだった。
理由は言いたくないと言われてしまったし、これ以上首を突っ込む理由もないのよ」

『そうか…。表だって、ということは、俺たちは会うことがある可能性はあるだろうな』


それもそうね、とジェントが軽く笑ってみせる。
どうやら“こちら側”と“あちら側”の垣根は自分が思っているほど厚くない。
他の世界とは全く関係のないことだが、
それを学んだのもジェントにとっては一つの収穫だった。
表だって…つまり、人が大勢公の場で集まる場所には姿を現すことはないだろうが、
ふとした瞬間に会えたら、頭をなでてやることはできる。
そう考える程度には、報告こそすれどジェントにはそんなに重い事態ではないらしい。


『…閉会式についてはそれで納得したが、他の時間はどうしていた?』

「あー…他にも、ある事は…あるのだけれど……」


くだらない事は聞きたくないでしょう?と聞くジェントに、
間髪いれずリベルの肯定の返事が入る。
しかしそんな話を抜いてしまうと案外簡単に思いだせることはなく、
質素なベッドの上に座り込んでジェントはそのまま考え込む。
少々の間の後、そんなにくだらないことしか
起こらなかったのかと問おうとするリベルの声を遮って、
あ、とジェントが声をあげる。


「……こっち側の、えーと名前何て言ったか…」

『こちら側?お前が名前が思い出せなさそうな参加者というと……レメの事か?』

「あっそうそう。なんか2人いるってことは知ってるんだけど、
会わないから名前出てこないのよね…」


名前が出てこない、の言葉にリベルが少し顔をしかめる。
こうして表だって出るためのエントランス的な役割を果たしている空間の、
要とも言える存在をジェントは忘れていた、ということになる。
以前はそんなことはなかったはずだが…と無言でリベルが思考を巡らせる。
そんな己の異常には対して気を止めないのか、ジェントの言葉が続く。


「それでそいつのことなんだけど、
……あたしがよく見てなかったかもしれないし、
即答はできないけど…なんだか、おかしかった。
行動がっていうよりかは…全体的に」

『いまいち状況がつかめないが…具体的な情報はないのか?』

「そういわれても、あまり大会中通して会わなかったからね……
 ニアミスした時に、妙に思っただけよ」

『だから、具体的に、お前は何を見てそう思った』

「……あまり、あたしもこういうことを言いたくないんだけれど」


呼吸を整えて、間をおくジェント。
次に発せられた言葉は、リベルの予想をはるかに凌駕していた。
ジェントの様子と言葉に関する感想を、一言でまとめるとするならば……


「……目に、光がなかった。通り過ぎたときも、あまり生気を感じなかったのよ」


―――手遅れ。
そんな最悪の言葉がリベルの脳裏をよぎっていった。

To be continued?

望みなど、持たなければよかったのでしょうか? 

2012年09月09日(日) 19時32分
とても長くなった戦闘本番。前の続き。
それとなく書かれている事についてはノーコメント。


以下追記。

結局分割 

2012年08月31日(金) 11時30分
戦闘部分が非常に長かったため、戦闘の前段階だけ先にあげる。
1つ目のネタバレ、素顔あり。



時間軸は第3回戦1回戦目佳境頃。前の続き。

ネタばらし準備 

2012年08月27日(月) 1時55分
いい加減家でもプログラムを打てる環境を作らなければ。
というのが近況。夏休みはそろそろない事を覚悟した方がいいかもしれない。
そんな本日は筋肉痛で倒れていた。腕と脇と大胸筋限定で。何だこれは。

チェリーの大会参加理由や、没ネタ素顔に関するあれこれ。の導入。
結末は正直自業自得。当たり前だが、チェリー自身の。

大体変わらない 

2012年08月18日(土) 2時48分
レメの若干の変更。個人的な覚書。
タイトルを繰り返す事になるが大体変わらない。

結末。 

2012年08月09日(木) 2時08分
盆地と樹海から帰還。
そして某所曰くロビンフッド……スパコンとの格闘も終了(アカウント消滅)。
D社のロビンフッドはイケメンのキツネ→スーパーキツネ→スパコン。
……個人的にも謎な伏字を使ったと思う。
本物のアカウントが取れるのは、何年後なのやら。
……むしろ何年で済むのか、という問題もある。

地味にゲームラッシュが来てその間中もずっとゲームしてた気がするな…
脳トレ系はやはり楽しい。鬼トレはやっとグレードA。
ただこの期間中、当たり前だがほとんどすれ違えなかったので、
これがいい結果なのか普通なのかまだわからない。
レポート提出の用事もあるので明日には分かるか。



追記にて、下の件を試行して考えた事。
そして、自分としてのひとまず最後の文章。


しばらくの書き置き 

2012年08月09日(木) 1時30分
もうこちらには出まいと思っていたが…そうも言っていられなくなった。
久しぶりに蒼天としてこちらの文章を書く。

追記にて、本来ツイッターで何を流したかったのかの補足…
基、一部分の話に関する俺の意見を。
最後にそれとは別に、割と広く関連する話を置いてあるので、
そこまでスクロールして飛ばしてもかまわない。

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