さよなら、またどこかで 

2010年02月26日(金) 12時50分



(あ、まただ)


窓から差込む光が柔らかくなり、
空が紅く染まる時分に、
ソイツは必ずと言って良いほどそこに居た。


一目見ただけで脳裏に焼き付く、
優雅で、シャンとした佇まい。


そしてその手にあるのは、
俺が探している幕末の本。
どうやらまた先を越されてしまったらしい。


先だった理由は無いのだが、
自分の名前のせいなのか
最近妙に歴史、特に新選組への興味が出てきて、図書室へ足を頻繁に運ぶようになった。



しかし、俺が見たいと思った本を
まるで意図したかのようにソイツが先に手に取っていて、俺が見るのは大抵その後だ。
面白くない。


俺はどうしたものかと
一度ため息をついてから
前回読めなかった書物を手に
ソイツの目の前の席にわざとドカリと腰を下ろした。


ソイツは少し顔をあげて俺を見たが、少し会釈のような動作をして、そのまま視線を本に戻してしまった。


「山南…さん?」


俺もそのまま本を開こうとしたが
ソイツの名札が目の端に止まり
思わず声をあげてしまった。


するとソイツ、山南さんは一瞬キョトンとした表情をしたが、
「はい、そうです」とすぐに目尻を下げた優しい笑顔を見せる。


その笑顔を見た瞬間、俺は心の中で何かが弾けたような感覚を覚え、泣き出しそうになった。


膝をつき、
頭を下げ、
すまなかったと、言い出しそうになる。


俺じゃない、心の隅の何かが
山南さんを前に、後悔を吐き出しているような、そんな気がした。


「新選組の総長と同じ名ですね」


俺はそれら全てを振り払うように
無理に笑顔を作り言う。
手の震えなど気にしない。
胸の煩い鼓動など聞こえない。


「ええ、おかげで人よりは新選組に興味がありまして」


言いながら、今読んでいた本を俺に見せてきた。
見開きには、でかでかと明朝体で新選組と書かれている。


「なら山南さん、アンタは切腹して死ぬ運命って事だな」

「それを命じるとのは、貴方と言うことになりますね、土方君」


皮肉った笑顔で、初対面にも関わらずズケズケと言ったが、
物ともしない笑顔で山南さんにそう返され、俺は思わず舌打ちをして、名札を隠した。


「勝手に見てんじゃねーよ」

「貴方に言われたくはないな」


相変わらずな笑顔が、
とても憎らしいのだが、
こんな皮肉ったやり取りにさえ
懐かしさを感じている自分が居る。

むず痒くて、どこか心地良い。


「何処かで会ったことあるか?」

「そこいらのホストが使うよな口説き文句を、私に使ってどうするんですか」

「くど…?!そんなんじゃない!妙な勘ぐりは…!」

「分かりました!…分かりましたから、少し静かにして下さい」



宥められて俺はここが、『静かにしましょう』で知られる図書室だと言うことを思い出した。


そして静かになった俺を見て
山南さんは一つため息をつくと
また手に持っていた本へと戻っていった。


夕暮れの赤い日差しが、
山南さんの片頬に差している。

夕暮れがよく似合う人だと思っていたが、こうして見てると、更に雰囲気が、ピッタリだと思える。


俺は暫く手元にある書物を立てながら、その奥の山南さんを見ていた。


すると唐突に山南さんが本を閉じ、俺の目を見た。
突き刺さる視線に、少し心臓が疼く。



「口説きにのるわけじゃありませんが、団子でも食べに行きませんか」

「そりゃまた渋好みだな。女はそれじゃ、着いて行かねーよ?」

「何故か君と対峙していると、団子が食べたくなったのです」

「まあ悪かねえ。俺もちょうど思ってた所だ」



パタンと俺も本を閉じると立ち上がった。


「さ、行くぞ」

「今からですか?」

「何の為に立ち上がったと思ってる」

「君は言い出したら聞きませんからね」


苦笑しながらも楽しそうに言うと
山南さんはゆっくりとした動作で腰を上げた。


そして俺達はまるで知己の友のように連れ立って、図書室を後にした。






夕暮れの図書室。
僕等の絆をそっと見つめた。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:春千嘉-Haruchika-
読者になる
新選組をこよなく愛する大学生。
って言ってみる←
土方さんの生き方がすごく好きです^^
2010年02月
« 前の月  |  次の月 »
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28
最新コメント
Yapme!一覧
読者になる