【心の器】
「ボスは、心が何処にあるのか知っている?」
いつの間にか綱吉の部屋に入っていたクロームが尋ねた。どうやって入ったか、などというのは聞くまでもなく、綱吉の後ろで銃の手入れをしているリボーンが彼女を招き入れたに違いない。
クロームの手には、綱吉の机から取ったのだろう道徳の教科書(滅多に使用することがなく、綱吉はすっかりそれの存在を忘れていた)があった。心、なんて抽象的な言葉のばらまかれた、綱吉が最も苦手とする分類の本だ。苦手というよりも、考えること自体が面倒なのだ。
「人体の、っていう意味?」
「そうよ」
「…脳、とかかな」
「脳髄は唯の蛋白質の塊よ、心なんて入る隙間はないでしょう」
そう言われると綱吉は言い返せない。家庭教師に助けを求めようと、後ろを振り向くと手入れしたばかりの黒光りする銃口を向けられた。
綱吉はこういう、曖昧なものを理解するのが苦手なのだ。明確な答えを持たないものについて思考するのが嫌いだ(答えのある、数学の問題すら、考えたって分からないのだから!)。
「ううん…じ、じゃあ、ハートっていうくらいだから、ここ、かな」
綱吉は苦しまぎれに、自分の左胸の辺りを指して言った。
「そこ、かしら」
意外なことに、クロームは少し考え込んだ。ささやかな胸にその手の平を当てている。
それから暫くして、彼女が口を開いた。
「確かにそうかもしれないわ、だって私のここは空洞になりえるんだもの」
綱吉は、クロームの体内を何かもやもやとして曖昧なものが渦巻くのを想像した。
そしてその後に、自分の発言を後悔した。
クロームちゃんの内臓、ってどの程度が幻覚なんですかね。
あと、クロームちゃんの一人称が「あたし」だったんじゃないかと今更気付きました。遅(しかも直さないし)。