身勝手な約束 

February 19 [Sun], 2017, 21:15
雪の降る街。
ここ数年はあまり降らなかったのに、
今週に入ってからずっと降り続いている。
今日も止みそうもなく、除雪車が行きつ戻りつ
道路の雪を端に追いやっている。
その雪をかり出された役人や市民が
不平不満を言いながら側溝に落としていく。

その様子を見つつ、駅前に立っているバイト帰りの私。
今日はバレンタインデー。
左手に傘、右手にはチョコの入ったピンクの紙袋を持っている。
女でよかったと思った。
男だったら絶対他人にジロジロ見られるし、
恥ずかしいくらいショッキングピンクな袋なのだ。

しかし、このチョコの持ち主は私ではない。

時は昨夜に戻る。
コンビニのバイトを終えてアパートに帰ると、
幼馴染みの書いたメモが郵便受けに入っていた。
“直接カレシに会えないから、代わりに渡してきて〜”と書いてある。
ドアノブにはこのピンクの紙袋がぶら下がっていた。

彼はいつもそうだ。
普段から調子のいい事ばっかり言って、人を巻き込む。
幼馴染みじゃなかったらぶっとばしている。
勘違いしないでほしい。
あいつに対しての恋愛感情は皆無。
私には高校からの彼氏がいるし、彼はゲイだ。

確かに男に渡すが、それは彼のカレシに渡すもの。
何でおまえのカレシに渡さなきゃいけないんだっつーの!
と思ったが、今の彼氏と付き合えるようになったのは彼のおかげ。
手元に届ける物もあるし、行くしかないのだ。
ああ、どう言って渡そうか...

バレンタインデーといっても、
彼氏と記念日的な何かをする約束もなかった。
高校生の時はチョコを渡していたが、
彼氏が就職して遠距離の勤務地になってからは。
時々メールや電話で“会話”するけど、最近はネタ切れになり
特別な用事がなければ連絡する事もない。いわゆる倦怠期。
好きな気持ちは今も変わってない。でも...

“私は本当に彼女なのか?”と思う時がある。
彼は社会人で、バリバリ働く会社員だ。
私は大学生で、まだ親の世話になってる身。
高校生の頃は共通の話題があって、お互いをわかっていた。
でも。今はわからなくなっている。
本当にこれでいいのか?
私が彼女でいいのか?
釣り合いのとれる女性が他にいるのではないか?
それならそれでいい。でも自分からは聞けなかった。
終わりになるのが怖いから。

そんな事をぼんやり考えていると、あいつのカレシがやってきた。
“目印は赤いバラの花束だから”とメモに書いてあったのを思い出す。
確かに顔が隠れるくらいのバラの花束だ。
その派手な物体が徐々に近づいてくる。
やっと同じような派手チョコをやっと渡せる。

でも来たのは、私の彼氏だった。
何で?今日は仕事じゃないの?どうして?
口を開けて驚いた私を見て彼氏が言った。
「僕と結婚してください」
感激より、何で急に!?という疑念の方が先に立ってた。
「君の友人って女の子から手紙をもらってさ。早く結婚しないと誰かに持ってかれるって」
「え?」
「でもそれだからプロポーズしたんじゃないよ。いつ言おうか迷ってて…」
プロポーズは嬉しかったが、それよりも早く確かめたかった。
手紙を書いたのは何者かという事を。

「...その手紙、今持ってる?」「あ、これだけど…」
私は彼氏がコートのポケットから出したものをひったくった。
その手紙の筆跡。間違いなくあいつのものだ!

これを書いた幼馴染みは1年前から行方不明。

彼が突然いなくなって、しばらくは信じられずにいた。
アパートに遊びにきては、カレシの話で勝手に盛り上がって勝手に帰るあいつ。
時々私が彼氏の話をすると、「いーわねー」と弱音を吐く。
喧嘩しても、言うだけ言ったらあとはケロッとしている。
彼がゲイだと知っても、私達は何も変わらずにいた。
昔から何でも相談して、お互いに勇気づけられた。

そんなあいつが誰にも知られずいなくなるなんてありえない。
だが警察に失踪届けを出して、
あらゆる手段を使って探したが見つからなかった。
彼の両親は諦め切れずに、未だに捜索を続けている。
彼のカレシはさんざん泣いた後、今でもあいつを待ち続けてる。

失踪して1ヶ月位経った頃、部屋の勉強机にメモが置いてあった。
女子が書くような丸くてクセのある、それでいて読みやすい文字。
それは彼の筆跡そのものだった。
“アタシがいなくなったからって泣くんじゃない!バカ!元気出せ!”と書いてある。
泣いてなんかないもん!今日も大学に行ったしバイトもしたし…
メモを読みながら、目から涙が溢れてきた。全然止まんない。
バカはおまえだ!早く顔を見せろ!
しかし彼は出てこない。

何かしらの事情があって出てこれないのかもしれないと思い、
この事は誰にも話さなかった。
あいつの両親にもカレシにも。話したらかえって心配するだろう。
どこから知るのか、落ち込んだりすると決まってメモが届く。
自分の事は書かないし、試しにメモを書いて机に置いてみたが返事はない。
しかしこのメモの存在だけが、
いつかあいつが戻ってくると信じられる唯一の物だった。
私だけに届くのは、やっぱり幼馴染みだから。
他人だけど何でも話せて、互いを肉親よりも知ってるただ一人。

あれから1年経っていたんだ...

私は彼氏の前で大声で泣いた。
彼氏は訳がわからず、
プロポーズの返事がOKなのかそうでないのかうろたえていた。
やっぱりあいつはお節介焼きで心配性で。
それでいてどうしようもない時に力を貸してくれる大事な他人だ。
早く姿を見せろ!どこかで見ているんだろ?
だがこの後、彼は“現れ”なくなった。

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この後結婚して、私は一児の母となった。
それなりに大変であいつのメモが欲しくなる時もあるが、
来ないのは“アンタ!頑張んなさいよ!”って事なのだろう。
そんな時は「この薄情者!」と呟く。

未だ行方知れずなあいつだが、絶対どこかで生きていると信じてる。

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僕には『あしながおじさん』がいる。
いつも困った時助けてくれる。
といっても、直接何かをしてくれるわけじゃなく
メモや手紙が届くのだ。
最初は誰かのイタズラかと思った。
ストーカーか何かとも思ってたけど、それならもう姿を現してもいいはず。
初めてのメモをもらったのが小学生3年。
僕はこの春中学生になる。
その間脅迫めいたものはないし、お礼を強要する事もない。
本当に困った時だけメモで現われる。

そのアドバイス通りにすると問題が解決して、
まるで魔法のようなメモなのだ。

おじさんと書いてるけど、本当はおばさんなのかもしれない。
時々女の人みたいだなって感じるし。
昔のママをよく知ってる人のような気もする。
性別はわからないけど、そういう題名の物語があって
ピッタリだと思ったからそう呼んでいる。

『おじさん』にはこの事は内緒にと言われてる。
両親にヘンな心配かけたくないし、
友達に言っても『怪しい人』で片づけられるだろう。
それで『おじさん』との縁が切れてしまう事の方が怖い。

僕が大人になって『おじさんメモ』が必要でなくなった時。
その時初めて『おじさん』に会えるのかもしれない。

絶対会えると僕は信じてる。

節分の朝、突然に 

February 05 [Sun], 2017, 15:40
「今年の鬼はあなたに決まりました」

喫茶店でぼんやりとコーヒーを飲んでた昼下がり。
店に入ってきた男にこう言われた。

「今年の鬼はあなたです。明日一日頑張ってください」

歳は20代後半か、短髪で茶色く染めていて
白のダッフルコートにデニムのスリムジーンズ。赤のスニーカー。
見知らぬ年下の男に言われて呆然とした。

「…な、何?鬼?何の事だ?」

男は店のマガジンラックに差してあった今日の新聞を取り上げて
ある箇所の記事を指差した。

『節分条例。議員の多数承認を受けて可決』

『節分条例』とは一年間で役所が受けた苦情件数の多かった人を鬼にして、
節分の日に豆を投げつけてもいいという内容だ。
何でこんな条例をつくるんだ?と思っていたが、それが本当になるとは…

「で、さっそくテストケースとしてあなたが選ばれたんです。鬼に」
「どうして?ワシは犯罪なんぞ起こしてない!」
「犯罪は警察や司法の方の管轄です。言ったでしょ?苦情の多い人だって」

男はコートのポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
そこにはワシに対する苦情の数々が書かれていた。
それは本当に些細な事だった。
行列に割り込んだ。電車の席を譲った人に暴言を吐いた。
幼稚園の子供がうるさいと怒鳴る等々…

「それとあなた、SNSで近所の人の悪口書いたでしょ?」
「それがどうした!愚痴くらい書いたっていいじゃねぇか!」
「近所の方はもう知ってますよ。あなたが自分達の事を書いてるって」
「それと事実に悪意を盛って書いてる。これが致命傷でしたねぇ」
と他人事のように言った。

「ま、決まった事なんで頑張って逃げてください。じゃ」
その紙を渡して、男は店から出ていった。

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家に帰ると誰もいない。
明日の巻き添えをくいたくないのか、
それとも鬼のワシを嫌って出ていったのか。
ここにきて、条例に対してせいいっぱいの抵抗。
ブログやSNS、あらゆるサイトに文句を書き続けた。
そしてベランダから、近所のやつらに大声で罵声を浴びせつづけた。

どうせ明日は皆から豆をぶつけられる身の上だ。

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2月3日、午前0時。
それはいきなり始まる。

寝ていたら布団を剥ぎ取られ、豆をぶつけられた。
誰かと思ったら、娘婿だった。
「いつもいつもつまらん事でぶちきれやがって!」
鬼のような形相で豆を投げつける。
どっちが鬼なのかわからんではないか!
ああ、痛い痛い!

パジャマのまま、財布だけ持って家から逃げた。
すると夜遊びから帰ってきた近所の大学生が、
手に持っていた豆を投げつけてきた。
「顔を見たら、セクハラ話ばかり!気持ち悪いんだよ!」
何だ?あんなのちょっとした冗談じゃねぇか!
反論したかったが豆の痛さに勝てず、タクシーに乗ってその場を去った。

そうだ。このまま他の町へ行こう。
明日になったら戻ってくればいいのだ。
そう思った瞬間、タクシーが止まった。
運転手がいきなり豆をワシに投げつけてきた。
顔を見ると中学時代の同級生だった。
「よくもあの時はいじめてくれたな!その恨み思いしれ!」
何の事だ?全く覚えてないぞ!
宿題を見せてくれたり、昼食を買ってきてくれただろ?
「バカか!あれはお前が俺にむりやりさせてた事じゃないか!」
タクシーから降りて、一心不乱に逃げ続けた。

他にもワシと同じような“鬼”がいた。
子供もいたし、二十歳そこそこの女性も。
何でかはわからないが、同じような理由なんだろうと想像はついた。

豆をぶつけられながらも、何とか町境にきた。
しかし警察官がびっしり町境を封鎖。
他に仕事があるだろう?とも思ったが今日だけの事だし、
よく見るととても楽しそうな雰囲気だった。
いつものストレス発散ができる好都合な任務。
町から出ようとする者がいたら“阻止”すればいいのだ。
どんな手を使っても。

「おい!おまえ、町から出ようとしてるな?」
一人の警官がワシを指差して怒鳴った。
その他の警官もこっちを見てじりじりと近づいてきた。
ヤバい!ワシは逃げ出した。
すると大勢の警官が追いかけてきた。豆をぶつけようとする者もいた。
文字通りの一生懸命でワシは走った。
でももう若くはない。自分の思ってる以上のスピードは出なかった。
うっかり袋小路に入ってしまい、警官と豆を持つ人々がこちらに迫りつつある。

もうダメだ!

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目が覚めた。
ああ、あれは夢だったのか…
冷や汗びっしょりで、心臓が早鐘を打っている。
布団から体を起こし、ふぅとため息をつく。
夢で良かった。現実だったら死んでしまっていたかも。
死因が豆とかくだらなすぎる!

台所で妻と嫁に行った娘が朝食をつくっている。
ああ、節分で一緒に豆まきしましょうと
孫と遊びにきてたんだっけ。
「おじいちゃーん!」
ワシを起こしにきたのか。かわいい孫だ…

ギャーッ!

ワシの心臓は止まってしまった。

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「急に亡くなったんですって、あそこのおじいさん」
「今まで大病した事なかったと自慢されてたのにねぇ」
「ここ数日寒い日が続いてたから。心臓発作ですって」

「そういえば亡くなった時、顔がすごかったんですって?」
「奥さんに聞いたら何かに驚いたような形相で倒れていたって」
「あらやだ。幽霊でも見たのかしら?」

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「では、旦那さんが起きるまで何もなかったんですね?」
「はい刑事さん」
「何か薬を飲んでいたとか、持病があったとかは?」
「いいえ。健康が取り柄の人でしたから」
「他に何か変わった事はありませんでしたか?」
「娘が孫をつれて遊びに来た事くらいです」
「そうですか…さぞ嬉しかったでしょうな」
「ええ、昨夜は孫の相手をして喜んでいました」
「それなのに…御愁傷様でございます」

妻は涙をぬぐいながらこう言った。
「本当に…孫が朝から鬼の面をかぶって楽しみにしていましたのに」

The beginning 

January 09 [Mon], 2017, 15:21
それは毎年の恒例行事でした。

1年が始まる日。
人々はソワソワします。
私のところに来ないかなぁ〜どうかなぁ〜?って。

“それ”はいろんなところから出てきます。
枕元だったり、カバンの中だったり。
変わったところだと自分の髪の毛に絡んでいたり、
飲んでるスープの中から突然出てきたりします。

“それ”は小さくてキレイに光る宝石。
受け取った人はその1年、とても幸せになれるそうです。
誰かが仕掛けたのでもありません。
どこからともなく、突然出てくるのです。

全員がもらえるわけではありませんが、
もらえた人の幸せを願えば自分も幸せになれる気がしました。
だから“それ”をもらえてももらえなくても
皆が1年中幸せだったのです。

しかしだんだん人々の様子がおかしくなってきました。
「何で私がもらえないのだ!」
「卑怯な手を使ってるのではないか?」
誰もズルい事はしていないし、例えるならこれは『神のなせる技』
人が介在してどうにかなるものではありません。

でも考えてしまうんです。
“あいつは何かうまい事やっているのだ”と。
何ももらえなくても幸せに感じられた人々はいなくなり、
“それ”を奪い取ろうとしたりイヤなウワサを流すようになりました。
“それ”を受け取った人も喜びを分かち合えなくなって、
もらった事を内緒にしたり“それ”を捨ててしまうようになりました。

するとある年から“それ”が届かなくなりました。
誰の家にも、どこにも。
最初はわかりませんでした。
“言わないだけで受け取ってる奴がいるに違いない”と疑ってました。
でもそれが本当だとわかった時はもう手遅れ。

次の年の最初の日。
空に大きな“それ”が浮かんでました。
光り輝く宝石ではなく、自分達の住んでる星より大きく
グロテスクで黒くゴツゴツした球体です。
見つけた時は豆粒ほどの大きさだったのに、
半日も経つと視界に入り切らないくらいこちらに迫ってきました。

あわてても騒いでもどうにもなりませんでした。

“ぐしゃっ!ぱりっ!”

あっという間に星は潰されて壊れてしまいました。

星は無くなってしまったけれど、何とか脱出して生き残ったものがいました。
そしてある星にたどり着きました。
外見は自分達とほぼ同じでしたが、知能はまだ未熟。
彼らは一緒に生活し、その星の住民にあらゆる事を教えました。
一生懸命働いて、その分休んでの繰り返しでしたが
違う星の住人同士が仲良く暮らせる事にお互いが幸せを感じてました。

そこで思いました。
一年の区切りで、お互いに贈り物をしようと。
それはねぎらいの意味もあるし、一年頑張れた感謝の気持ちを込めて。
最初はその年収穫したものからつくった団子でした。
それが年を重ねるごとに変化していって…

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「…それが『お年玉』の起源なのさ。わかったか?」
おじいさんは目の前の孫に向かってこう話した。
「うるせぇよ。さっさとお年玉出せ」
孫は退屈そうに言い放つ。

「何じゃと!?」
「正月につまんねー話聞かせんじゃねぇよ。お年玉出せ」
「可愛げのないお前にはやらん!」
「何だよー!ケチくせージジイ!」

…まぁ、そんなもんです。現実は。
きちんと伝えられた話であっても、
時間が経てばホコリをかぶり信じる人は少なくなります。
話している人でさえ本気で信じていません。
それが2000年以上経ってれば当たり前。

でもね、気がつくと青空にぽっかり浮かぶ黒い球体が…

「…何じゃありゃ?」
「隕石?」

“ぐしゃっ!ぱりっ!”

想像の範囲外の時の長さで歴史は繰り返される。

ぺちゃんこ 

December 31 [Sat], 2016, 23:54
「ぺちゃんこ」
この言葉がしっくりくる。

とあるアパートの一室の事件。
一人の青年が死んでいた。
それ自体は不思議でも何でもない。
ただその遺体が、ぺちゃんこ。
大阪で食べたいか焼きを思い出した。
それくらい平べったく伸されている。

「何なんでしょうね?これ」「死体」
「いや、そういうんじゃねぇですよ」
「わかる。俺も初めてだから、こんなの」
発見者は母親。食事を届けに来たらこうなってたらしい。
「第一発見者=怪しい」という可能性は、真っ先に外された。
動機は持ってるかもしれないが、60近い年齢でか細い身体。
腕なんてゴボウのようだ。
どんな道具を使っても彼女には無理だ。
というより、どんな人間でも無理。
もし、ドでかいいか焼き器があったとしても
その重さにアパートの床は耐えられない。まず部屋に入らない。
死体が動かされた形跡もないが、ここで殺された証拠もないのだ。

「全く何なんだ?これ…」

---------------------------------------------

近所の寺の除夜の鐘が、この年末から取り止めになった。
日本で最後の除夜の鐘をオレが止めてやった!
オレ自身は鐘の音が騒音とは思ってないし、どうでもいい。
しかし!日本中で次々と除夜の鐘が廃止され、
近所の寺だけになった時思いついた。

オレがこの除夜の鐘を止めたら英雄!ネットで目立つ!
40近くの独身ニートのオレがヒーロー!

パソコンを使って、近所の鐘がいかにうるさいかを述べ
SNS等を使って『除夜の鐘の無駄と、心神喪失の関係性』という
無理矢理なこじつけをばらまいた。
ヒマをもて余している一般人が食いつき、
自称ネットの知識人達が尾ひれをつけてくれた。
ネットニュースでは『日本最後の除夜の鐘がどうなるか』
騒ぎまくってくれたおかげで、いつもオレをバカにしている
近所のやつらが『除夜の鐘廃止運動』なんぞやってくれた。
ざまあみろだ。まさかオレが始めたのだとは思ってないだろう。

今年は静かな夜。
オレは幸福感に満たされていた。久しぶりにイイ気分だ。

テレビの年越し番組を見ながら、祝杯がわりのビールを飲む。
何かつまみになるものはないかとキッチンへ行くと…何かいる。
オレの背丈ほどの白い円柱形のものが立っていた。
さわってみると、つきたてのお餅のようにスベスベしている。

「除夜の鐘を終わらせたのはお前か?」
いきなり“もち”がしゃべり出したのでビックリした。
ああそうだと返事をすると、“もち”が襲ってきた。
咄嗟にかわすと、“もち”が話し始めた。
「お前は除夜の鐘にどんな意味があるのか知ってるか?」
「108の煩悩をなくすためだろ?昔の迷信だ」
“もち”は“お前はわかってない”風に頭を振った。
円柱形だから頭と胴の区別はつかないのだけど。
「現代人の欲深さは108個なんて生易しいもんじゃない」
「正直、鐘をついただけじゃ間に合わんのだ」
「その上“鐘がうるさい”と中止するから、いまや煩悩は世界に満ち満ちている」

「...今夜から除夜の鐘が全て鳴らなくなった。おまえはどうなると思う?」
そんなの知らないと言ったが、イヤな予感しかしなかった。

「大晦日に我々が襲いに来る。私はお前の煩悩だ」
この“もち”がオレの煩悩?
「お前は何もしないくせに強欲だ。それは即ち…死に値する!」
何でだ!?そしてなぜセリフをためて言う!

「母親に依存して働きもせずに、つまらんプライドしか持ち合わせておらん」
「そのくだらない欲で除夜の鐘を終わらせた!これが1番の大罪!」
そんな...そんな、鐘をつかないだけで死ぬなんて!
「迷信だと最近はバカにする風潮だが、それには意味があって続いておるのだ」
それっ!と“もち”はオレに再び襲いかかってきた。
いつの間にかオレの足を餅でしっかり止めやがった。
ああ。見かけどおり、あいつは“もち”だったか!
背中に体当りし、倒れ込んだオレを上から押しつぶそうとしている。
“もち”の仕返しなのか、餅つきの杵みたいに
飛び上がっては潰すを繰り返す。
身体がどんどんひらべったくなってきているのがわかる。
オレの意識もだんだん遠のいていった...

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元旦の朝、彼と同じようにぺちゃんこの死体が次々と出てきた。
ある会社社長の別荘だったり、某大学の教授の寝室だったり。
彼らを繋ぐ共通点は全くなかった。同じなのは死因だけ。
警察も大がかりな捜査本部を立ち上げ
マスコミも大々的に取り上げたが、半年も経つと誰も見向きもしなくなった。
犯人さえ見当もつかない、殺害方法さえわからない迷宮入り確実な事件を
長々と扱うほど現代人は気持ちの余裕がないのだ。
まさか『除夜の鐘が鳴らなくなったから』だなんておとぎ話みたいな理由。
真実だとしても、誰も信じやしない。

また来年の元旦の朝に、同じような死体が出てくるまでに
人は真実を知る事ができるだろうか?

クリスマスの落とし物 

December 26 [Mon], 2016, 16:20
公園にトートバッグが落ちていた。

大学生の頃、クリスマスイブの夜に彼女に振られ、
公園のブランコに乗ってヤケ酒をあおっていた。
100均で売っているような、ペラペラの布でつくられた袋。
オレは持っていたビールの空き缶を入れようと、
そのトートバッグを拾った。

すると予想外の重みで、前によろけて転びそうになった。
30cm×30cmのトートバッグにしては重すぎる。
袋の中をのぞいてみた。何もない。
それなのに鉄のおもりが入っているかのような手応えだ。

「それは私のだよ」
目の前にサンタが立っていた。
「うっかり落としてしまってね。プレゼントを配れなくなるところだった」
するとこれはサンタの持ってるプレゼント袋...?
なぜトートバッグなんだ?
「いつも使ってる袋が破けてしまって、この機会に新調したんだ」
「これなら取っ手も付いてるし持ちやすいしね」
オレの思ってる疑問にサラリと答えやがる!喋ってないのに!
そうか...これは夢、夢なんだ。

「で、何かお礼がしたいのだけどね」
何!?サンタの世界にも、落とし物の何割返しってのがあるのか?
じゃあそのトートバッグをくれ!
「君じゃこの袋は扱えない。サンタじゃないから」
いや、もしかしてと思って言ってみただけなんだ。
それじゃあ...

「わかった、あとで配達するから待ってておくれ」
そう言い残して、サンタクロースは去っていった…

瞬間ブランコから落ちそうになった。
なんだ、やっぱり夢だったか…
左手にブランコの鎖を持ち、右手にはビールの空き缶。
いつの間にかウトウトしていたようだ。
外で寝てしまわないよう、家に帰らないと。
彼女に振られたのはショックだったが、
さっき見た夢で救われたような気がした…

-------------------------------------------

そんなオレが、今サンタになっている。

翌日配達されてきたのは、あるプレゼント。
新しい彼女?いいや、そうじゃない。
あのトートバッグでもない。

トナカイだ。動物のトナカイ。
何かの間違いだと思った。
アパート一階の、オレの部屋のドアノブにつながれていた。
まだ子供で、角で誰かを突いてしまうような迷惑な事にはならな…

いやっ!オレが迷惑!
誰がこんなイタズラを…と、ふと思い出した。
昨夜のサンタの夢で話した事を。
「彼女がほしい!元カノよりイイ女!」
「それはできない。自分が頑張らなきゃ。それ以前に人はダメ」
「金!それならいいだろう?」
「確かにそれは物ではあるが、今の君にあげてもしょうがない」
「案外ダメなものが多いんだな」
「基本子供にプレゼントを贈るからね、ワシは」
「欲を満たすようなものはダメって事か…」

夢の中で一生懸命考えた。ようやく答えたその品物が…
「トナカイ!トナカイがほしい!」「なぜ?」
「サンタからトナカイをもらう。なんか面白くね?」
その時は酔いも手伝って、うまい冗談を思い付いたと思った。
今考えたら…ぜんっぜん面白くねぇ!
どうしてサンタはそれを間に受けた!?

動物園かどこかの施設に引き取ってもらおうとも思った。
犬や猫じゃない、トナカイだ。飼育方法もわからない。
でもどこからそれを連れてきたのか、必ず聞かれるだろう。
“サンタクロースからの贈り物でーす”なんて言ったら、病院か警察送りだ。
仕方がないので育てる事にした。
幸いにも実家は酪農家。
それが彼女にフラれる原因だったが。
「牛まみれの生活って、ダセぇ!」…オレは何であんな女が好きだった?

目がさめたオレは都会生活から足を洗い実家に帰った。
彼女でなくトナカイを連れてきたオレを、何も言わず受け入れてくれた両親。
聞きたい事はたくさんあっただろうに…ビバ両親!

オレは牛と一緒にトナカイを育て始めた。
「それ、食うんでしょ?」と言われても、
「いくらで売ってくれる?それ」と買われそうになっても頑張って育てた。
売り物ではないのだ、このトナカイは!

一年後、このトナカイなしに家の安泰はありえなかった。
両親は“うちのトナちゃん”と可愛がってくれたし、
トナカイ見たさに遠方からも客が来るようになった。
物は試しにといろんなグッズや乳製品をつくったら、それが大当り!
彼女もできて、その彼女が生涯の連れ合いになり子供も3人。
洒落のわからないサンタのおかげで、とても幸せな日々を送れた。

あのトナカイに立派な角が生え、大きなソリもひけるようになった頃。
「長生きで元気なのは、サンタクロースからもらったトナカイだからさ」と
孫に説明していた時だった。
「おじいちゃん、サンタになったら?」
仕事を引退して、髭をたくわえ太った私を見て思ったのだろう。
何気ない子供の思い付きだったが、それに乗っかってみようと思った。
どうせヒマなのだ。
不思議な事に家族は誰も反対しなかった。
妻は「それ、いいかも」と大喜びだし、
3人の子供は「老後の楽しみだね」と言ってくれた。

今、オレはトナカイと一緒にプレゼントを配りに行くサンタになった。
近隣の子供達にささやかなプレゼントを、ソリに乗って行く。
クリスマスくらいは、みんな幸せになっていい。

Merry X'mas !!

ブラックなお仕事 

December 02 [Fri], 2016, 14:51
いつも居間のソファで老眼鏡をかけ、
編み物をしていた姿を思い出した。
今日は母の誕生日。

すっかり忘れていた。
高校を卒業してから独り暮らし。
一度も家に帰っていない。
毎日仕事に追われ、実家を思う余裕もなかった。
両親の様子は妹から聞いていた。

母が亡くなったのは昨日。
突然倒れ、そのまま逝ってしまった。
布団に横たわる彼女の顔はとてもやさしい表情をしていた。

「お兄ちゃん…」葬儀は妹が一切を取りしきっていた。
「いつもすまない。おまえばかりに…」
「ううん、大事なお仕事なんだもの。しょうがないわ」
最後に母の顔だけでも見ておきたかった。

偉い、立派だと世間から言われているが、
兄のくせに身内に苦労かけっぱなしのダメな男。
それが本当の僕なのだ。

腕時計型通信機のアラームが鳴った。
「超人スカイハイヤー!街に怪人が現れた!すぐ来てくれ!」
「今日は後輩のトリプルファイター達に頼んでおいたんだけど…」
「あいつらはまだ力不足だ。あっという間に倒された」
「他のスーパーヒーローはどうしたんだ?」
「…君だけなんだ。地球を守れるのは」

「お兄ちゃん、行って。街のみんなを守って」
妹はいつもそう言って、僕を送り出してくれた。

全ての人が世界平和を願っている。
でもそれを一番欲しているのは、僕たちスーパーヒーローだ。
家族のためだけに働きたい。
休日には子供と遊びたい。
奥さんと喧嘩しながらずっと仲良くしていたい。
思ってる事は同じなんだ。

これからまた、戦いの場に赴く。
今日で任務が最後になるようにと願って。

あなたの好きな色は? 

October 17 [Mon], 2016, 12:13
「一番好きな色は何ですか?」

はぁ?何だよ、その質問。
外見もバカっぽいけど、中身もそれだな。

「はぁ...しいて言うなら青...かな?」
「そうなんですか?私も好きなんですよぉ、青」
「海とか、眺めるの好きなんで」
「あー、アタシイルカ好きなんですよねー」

大金出して婚活パーティーに来たけど、来てる女はカスばかり。
まぁ、女はチケット代タダだしな。
知り合いの会社に頼まれて来てやったが、何の得にもならなかったな…



金だけは持ってるスネかじりニートが偉そうに思った。
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うっとおしげにトイレに入る女性3名。

「やっと化粧直しできるゥ」
「マジやる気なしなんだけど!今日もハズレの回ー!」
「ホント!1人イケメンいたけどさ、あれってサクラっぽいよね?」
「あとはお金払わないと入れてもらえなさげなー」

「さっきもさ、しょうがないから話してあげたわけよ、仕事だし」
「“あなたの好きな色は〜”って言うやつっしょ?マジウケ!」
「そしたらさ、ウンザリした顔するのよ。フツメンレベルで」
「おまえに興味無いっつーの!話してあげただけ喜べよって」

「もう少しガマンすっか」
「バイト代出ないもんねー」
「いい物件に出会えると思って入ったけどさ。もう辞めるわ」

化粧直しと愚痴りを済ませ、
バイト代欲しさにトイレから出ていく3人であった...



いや、どの顔で言ってんだ!てめぇらも十分フツーじゃねーか!
小説でわかんないからって好き勝手言いやがって !
一度眼科で検査してもらってこい!

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「あのー、お話してもイイですかぁ?」
この婚活パーティーの中で一番のイケメン。
2人はサクラとか言ってたけど、物件としては文句ナシだもん。
マジモでゲットする!

「ああ、さっきはごめんね。友人と話してて」
どんくさい女。
わざとガン無視したの、わかんねぇのかよ?
顔目当ての女しか寄ってこないし、パーティ嫌いなんだよ。
こんなとこより、今日のライブに行きたかったわー!
めんどくせぇからとっとと切り上げるか…

「そう言えばさ...聞きたかった事があったんだよね」

「ええ〜!何ですかぁ〜?」
え?え?もしかしてシンデレラ的な、もしくは少女マンガな展開〜!?

「君の一番好きな色って何?」

「え?」

「一番好きな色。
オレ、アイドルのウィング・フェアリーズのあやかのピンクがスキなんだよね〜」

「...」



さて?この後、彼女はどうしたと思う...?

Cold play 

June 10 [Wed], 2015, 14:40
「寒いの…」
彼女は僕の腕の中で小声でそう言った。
「俺が君を温めてやる、ずっと」
ふるえる彼女の身体を強く抱きしめた…

「はい!OKでーす!」
監督の声でハッと我にかえる。そうだ、これは映画の撮影だった。
主演女優の身体は僕から離れ、
「監督!イイ画撮れてますー?」とモニターの方へ向かっていった。

映画といっても、大学の映画研究会の短編作品。
僕はその映画のスポンサーであり、主演男優でもある。
そう!これは僕と彼女のためのラブストーリー!
はっきり言う!下心に満ちみちた計画だ!

父親は有名なアパレル関連の会社を経営していて裕福。
母親は元モデルで、今は親父の会社でファッションブランドを立ち上げている。
僕は街でモデルにスカウトされたくらい顔もスタイルもセンスもイイ。
小学生の頃から女の子に不自由した事は一度もない。
だって向こうの方から寄ってくるのだ。
振った事はあっても、振られた事は一度もない!

そんな僕が初めて好きになったのが、主演女優の彼女。
派手ではないが人目をひく雰囲気を持った女性。
演劇に打ち込んでいて、舞台女優を目指している彼女に一目惚れをした。
何とか近づこうとデートや合コンに誘ったりしたが、
「忙しい」の一点張りでなかなか仲良くなれない。

それで今回の作戦を思い付いた。
脚本は僕主導で書き、僕と彼女を主役にする事を条件に
映画撮影に関する費用を全部出すと研究会の奴らに提案した。
脚本は監督からの手直しはあったものの、
僕と彼女が“密着する”シーンが多かったので気に入った。
そして今日のクランクアップまでこぎついたのだ。
あとはこの流れで、本当の“彼女”にするまでだ!

「はい」
目の前に彼女の開いた手が見えた。
「今回のギャラは?クランクアップにもらえるって話だったけど?」
「ああ、それはこれから打ち上げがあるからその時に渡す…」
僕の言葉を最後まで聞かずに、彼女は言った。
「ごめん。打ち上げには行けないからここで渡して」
さっきまでの愛情のこもった声と違う、ビジネス的な口調。
「打ち上げに行けなきゃギャラが出ないわけじゃないわよね?」
映画に出る条件でお金を出すとしか言ってなかった。これは失策だ!
開いたその手にギャラの入った封筒を渡すと、それじゃ…と彼女は帰ろうとした。
ヤバい!

「あ、あのさ。これからも時々映画に出てくれないかなぁ…」
「それは無理。劇団に入って本格的なレッスンに入るから」
「じゃあ、あのっ!あのっ!…」次の言葉が出てこない。
「わたし急いでるの。彼が待ってるのよ」…へ?
「このお金でこれからデート。早く撮影終わらしたかったー」
え?え?…えーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
そう言って彼女は風のように去っていった。僕のアホ面を見る事もなく。

「知らなかったのか?将来を約束した男がいるって」と肩を叩かれた。
結構学内で有名な話だぜ、と監督である男が言った。
知らなかった。誰も教えてくれなかった。
「高校からの付き合いで、彼女の方がベタぼれなんだと」
何でそんなに彼が好きなの?と友人に聞かれた時に
「わたしを一番に想ってくれてる気持ちがわかるから、
わたしも彼に何かしてあげたいの。これって愛よね」
空いてる時間を全て彼に捧げるほどの惚れっぷりなんだそうだ。

「顔が良いとかお金持ちとかなんて興味ない。
言っておくけど今回の相手役には何の魅力も感じないわ」と撮影前に監督に言ったそうだ。
「おまえの下心は見透かされてたみたいだな。
ま、おかげで映画を撮れたんで俺らはありがたかったけど」
もう一度肩を叩いて、監督はスタッフの方へ歩いていった。

僕はこの時、初めて人の怖さを知った。同時に自分の幼さも。

「寒い…」季節は春だが、背中にかすかな寒気。
それは全身に広がり、しばらくの間動けずにいた。

プレゼントを配るのがイヤになったサンタ(前編) 

January 16 [Fri], 2015, 17:47
「もうサンタやめます。探さないでください」

クリスマスまであと一ヶ月。
サンタランドに衝撃が走った。
サンタクロースが失踪してしまったのだ。

一番仲の良かったドワーフが言った。
サンタが「最近の子供はわしらを信じなくなった。それが悲しい」と言ってたと。
二番目に仲の良かったドワーフが言った。
「そんなものよりゲーム機か金をくれという子供が増えた」と。
三番目に仲の良かったドワーフが言った。
「プレゼントなんて配る意味なんてない」と辛そうだったと。

サンタが配るプレゼントの、本来の意味を知る者がそれだけ少なくなった。
確かにサンタからのプレゼントは木のおもちゃで一見子供だましのようだが、
それは“才能”や“幸運”を物質化して人にわかりやすくするため。
だから頑張った者や良い子にしかプレゼントは配られないのだ。

サンタがプレゼントを配らなくなるとどうなるか?
君たちは考えた事があるか?
いくら良い子でも頑張っても“プレゼント”が配られないのだから、
その行為は報われないし才能は伸びない。
そうすると「良い子しても頑張っても無駄無駄!」と、誰もが怠け者になってしまう。
夢も希望もなくなった世界を、君たちは想像できるかい…?

サンタランドの住民にとっても死活問題である。
プレゼントを配るサンタがいるからこそ、サンタランドの存在に意味がある。
サンタがプレゼントを配らなければ、全てが無と同じなのだ。
最初彼らがやった事は、もちろんサンタの捜索。
しかし見つかったとしてもサンタがプレゼントを配る意思がなければ
どうしようもない。

さて、どうしたものだろう?

どうやって“サンタにプレゼントをもう一度配らせる気にさせるか?”
世界中の妖精に捜索を続けさせながら、サンタランドの首脳陣は頭をかかえていた。
サンタの代役を立ててプレゼントを配る事も考えた。
しかしサンタクロースは今や世界共通のアイコンとなっている。
サンタらしくない者が家に行ったら、それこそ大事件になる。
いなくなったサンタは初代からすでに100年以上のベテランで、
彼=サンタのイメージがこのサンタランドを支えているくらい重要人物。
代役や跡継ぎになれるほどの逸材は今もいないのだ。

どうしたらサンタにやる気を起こさせる事ができるんだろう?

クリスマスまであとわずか。
どうしようもなく、時間だけが過ぎていく…

プレゼントを配るのがイヤになったサンタ(後編) 

January 16 [Fri], 2015, 17:41
クリスマス当日。

時間ギリギリにサンタクロースはサンタランドに戻ってきた。
そして無事にプレゼントを配り終えたのだ。
サンタランドのみんなはホッと胸をなでおろした。

ようやく落ち着いた頃、一番仲のいいドワーフがサンタに聞いた。
「戻って来てくれてうれしいけど、どうして気が変わったの?」と。
ホットワインを飲みながら暖かい暖炉の前で、
木製のリクライニングチェアに座るサンタは話を始めた…

サンタランドから逃走した私は徐々に痩せていった。
だんだんサンタらしくなくなっていき、
ある国にたどり着いた時にはもうガリガリ。
ただの痩せこけたおじいさんにしか見えなかった。
その国はサンタランドとは違い、暖かくて食べ物も豊富。
貧富の差はあってもそんな事は関係なくて、みんな幸せそうだった。
何にも持ってない私に着る物や食物を与え、
しばらくここにいると答えると空いてる部屋をタダで貸してくれた。
何てここはいいところなのだろう!と感激した。

話を聞いていたドワーフは、
「そんな素敵なところにいてなぜ帰ってきたの?
僕だったらずっといるのに?」と聞いた。
「私もそう思ったさ」サンタは先を続ける。

ある日町を歩いていると、
肌の浅黒い銀髪の男の子が目に飛び込んできた。
明らかに周りの人々とは違う雰囲気を持ち、
着ているものは同じランニングシャツに短パンだが
どこかしら自分に似ている気がした。
声をかけて聞いてみると、お父さんが北欧の人で
お母さんと結婚してこっちに来たのだと教えてくれた。
北欧と聞いて、ふと懐かしさにかられ聞いてみた。

君はサンタクロースを知っているかい?

すると子供の顔がぱあっと満面の笑顔に変わった。
おじさん、サンタクロースを知っているの!?と逆に質問された。
ここでは困っている人に手助けするのは当たり前だったので、
プレゼントを配るサンタの存在は誰も知らないのだ。
彼が知っていたのは、父親に話を聞いていたからだった。
「ああ、ちょっとした知り合いでね」と言葉を濁した。

今までは「サンタにプレゼントがもらえるよう伝えて」とか、
「何でプレゼントくれないんだよー!」という子供ばかりだった。
その度うんざりしてきたが、彼の答えは違った。

「いいなぁ、僕もサンタになってみんなにプレゼントを配りたいよ」
どうして?と、今度は私が聞いてみた。
「だって、みんなが喜んでくれるでしょ?そういうサンタが羨ましいんだ」

彼は現実を知らない。そういう子供は少ないのだと教えてあげたかった。
と同時に「サンタを信じている子供」の存在を忘れている事に気づいた。
その子達を無視して、ただ逃げてるだけの自分に。

「君はそんなにサンタになりたいのかい?」と聞いてみた。
「うん!もちろんさ!」と、彼は元気に答えた。
それを聞いた私は、これからやるべき事を知った。
いや、前々からそうするしかないとわかっていたのだ。
それでも彼の言葉で、目の前に道ができたような気がしたのさ…

「それで戻ってきたの?」ドワーフは言った。
サンタの私が次にやれるのは“彼のためにサンタを続ける事”だ。
もしかしたら途中でサンタになりたくなくなるかもしれないが、
それでも今はそれくらいしか私にはできないのだよ。
もし彼がサンタになりたいのに、席がなかったら悲しむだろう?と。
そう答えるサンタの顔は、ランドを逃げ出す前の顔とは違い
満面の笑みをたたえていた。
ドワーフはその子供を知らないけれど、
今の彼みたいな笑顔をしていたんだろうと思った。

その後サンタは毎年笑顔を浮かべてプレゼントを配るようになった。
サンタを信じている、また信じない子供や大人にも区別なく。
実は時々、彼に会いに行ってる。
その後決まってキラキラした笑顔で戻ってくるのだ。
まるでサンタがサンタに会いに行ってるみたいに。

その子供がサンタクロースになって、そりに乗ってトナカイと空を駆け抜ける。
そして誇らしげにプレゼントを配る姿。
想像するだけでサンタも、ランドのみんなも幸せな気持ちになった。

もしサンタにならなかったとしても、それはそれでいいのだ。
“サンタになりたい”という彼の気持ちが、今のサンタの原動力になっている。
いつか誰もが“サンタになりたい”と願うようになればいいなぁと
サンタと一番仲の良いドワーフは思うのだった。
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