The beginning 

January 09 [Mon], 2017, 15:21
それは毎年の恒例行事でした。

1年が始まる日。
人々はソワソワします。
私のところに来ないかなぁ〜どうかなぁ〜?って。

“それ”はいろんなところから出てきます。
枕元だったり、カバンの中だったり。
変わったところだと自分の髪の毛に絡んでいたり、
飲んでるスープの中から突然出てきたりします。

“それ”は小さくてキレイに光る宝石。
受け取った人はその1年、とても幸せになれるそうです。
誰かが仕掛けたのでもありません。
どこからともなく、突然出てくるのです。

全員がもらえるわけではありませんが、
もらえた人の幸せを願えば自分も幸せになれる気がしました。
だから“それ”をもらえてももらえなくても
皆が1年中幸せだったのです。

しかしだんだん人々の様子がおかしくなってきました。
「何で私がもらえないのだ!」
「卑怯な手を使ってるのではないか?」
誰もズルい事はしていないし、例えるならこれは『神のなせる技』
人が介在してどうにかなるものではありません。

でも考えてしまうんです。
“あいつは何かうまい事やっているのだ”と。
何ももらえなくても幸せに感じられた人々はいなくなり、
“それ”を奪い取ろうとしたりイヤなウワサを流すようになりました。
“それ”を受け取った人も喜びを分かち合えなくなって、
もらった事を内緒にしたり“それ”を捨ててしまうようになりました。

するとある年から“それ”が届かなくなりました。
誰の家にも、どこにも。
最初はわかりませんでした。
“言わないだけで受け取ってる奴がいるに違いない”と疑ってました。
でもそれが本当だとわかった時はもう手遅れ。

次の年の最初の日。
空に大きな“それ”が浮かんでました。
光り輝く宝石ではなく、自分達の住んでる星より大きく
グロテスクで黒くゴツゴツした球体です。
見つけた時は豆粒ほどの大きさだったのに、
半日も経つと視界に入り切らないくらいこちらに迫ってきました。

あわてても騒いでもどうにもなりませんでした。

“ぐしゃっ!ぱりっ!”

あっという間に星は潰されて壊れてしまいました。

星は無くなってしまったけれど、何とか脱出して生き残ったものがいました。
そしてある星にたどり着きました。
外見は自分達とほぼ同じでしたが、知能はまだ未熟。
彼らは一緒に生活し、その星の住民にあらゆる事を教えました。
一生懸命働いて、その分休んでの繰り返しでしたが
違う星の住人同士が仲良く暮らせる事にお互いが幸せを感じてました。

そこで思いました。
一年の区切りで、お互いに贈り物をしようと。
それはねぎらいの意味もあるし、一年頑張れた感謝の気持ちを込めて。
最初はその年収穫したものからつくった団子でした。
それが年を重ねるごとに変化していって…

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「…それが『お年玉』の起源なのさ。わかったか?」
おじいさんは目の前の孫に向かってこう話した。
「うるせぇよ。さっさとお年玉出せ」
孫は退屈そうに言い放つ。

「何じゃと!?」
「正月につまんねー話聞かせんじゃねぇよ。お年玉出せ」
「可愛げのないお前にはやらん!」
「何だよー!ケチくせージジイ!」

…まぁ、そんなもんです。現実は。
きちんと伝えられた話であっても、
時間が経てばホコリをかぶり信じる人は少なくなります。
話している人でさえ本気で信じていません。
それが2000年以上経ってれば当たり前。

でもね、気がつくと青空にぽっかり浮かぶ黒い球体が…

「…何じゃありゃ?」
「隕石?」

“ぐしゃっ!ぱりっ!”

想像の範囲外の時の長さで歴史は繰り返される。

ぺちゃんこ 

December 31 [Sat], 2016, 23:54
「ぺちゃんこ」
この言葉がしっくりくる。

とあるアパートの一室の事件。
一人の青年が死んでいた。
それ自体は不思議でも何でもない。
ただその遺体が、ぺちゃんこ。
大阪で食べたいか焼きを思い出した。
それくらい平べったく伸されている。

「何なんでしょうね?これ」「死体」
「いや、そういうんじゃねぇですよ」
「わかる。俺も初めてだから、こんなの」
発見者は母親。食事を届けに来たらこうなってたらしい。
「第一発見者=怪しい」という可能性は、真っ先に外された。
動機は持ってるかもしれないが、60近い年齢でか細い身体。
腕なんてゴボウのようだ。
どんな道具を使っても彼女には無理だ。
というより、どんな人間でも無理。
もし、ドでかいいか焼き器があったとしても
その重さにアパートの床は耐えられない。まず部屋に入らない。
死体が動かされた形跡もないが、ここで殺された証拠もないのだ。

「全く何なんだ?これ…」

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近所の寺の除夜の鐘が、この年末から取り止めになった。
日本で最後の除夜の鐘をオレが止めてやった!
オレ自身は鐘の音が騒音とは思ってないし、どうでもいい。
しかし!日本中で次々と除夜の鐘が廃止され、
近所の寺だけになった時思いついた。

オレがこの除夜の鐘を止めたら英雄!ネットで目立つ!
40近くの独身ニートのオレがヒーロー!

パソコンを使って、近所の鐘がいかにうるさいかを述べ
SNS等を使って『除夜の鐘の無駄と、心神喪失の関係性』という
無理矢理なこじつけをばらまいた。
ヒマをもて余している一般人が食いつき、
自称ネットの知識人達が尾ひれをつけてくれた。
ネットニュースでは『日本最後の除夜の鐘がどうなるか』
騒ぎまくってくれたおかげで、いつもオレをバカにしている
近所のやつらが『除夜の鐘廃止運動』なんぞやってくれた。
ざまあみろだ。まさかオレが始めたのだとは思ってないだろう。

今年は静かな夜。
オレは幸福感に満たされていた。久しぶりにイイ気分だ。

テレビの年越し番組を見ながら、祝杯がわりのビールを飲む。
何かつまみになるものはないかとキッチンへ行くと…何かいる。
オレの背丈ほどの白い円柱形のものが立っていた。
さわってみると、つきたてのお餅のようにスベスベしている。

「除夜の鐘を終わらせたのはお前か?」
いきなり“もち”がしゃべり出したのでビックリした。
ああそうだと返事をすると、“もち”が襲ってきた。
咄嗟にかわすと、“もち”が話し始めた。
「お前は除夜の鐘にどんな意味があるのか知ってるか?」
「108の煩悩をなくすためだろ?昔の迷信だ」
“もち”は“お前はわかってない”風に頭を振った。
円柱形だから頭と胴の区別はつかないのだけど。
「現代人の欲深さは108個なんて生易しいもんじゃない」
「正直、鐘をついただけじゃ間に合わんのだ」
「その上“鐘がうるさい”と中止するから、いまや煩悩は世界に満ち満ちている」

「...今夜から除夜の鐘が全て鳴らなくなった。おまえはどうなると思う?」
そんなの知らないと言ったが、イヤな予感しかしなかった。

「大晦日に我々が襲いに来る。私はお前の煩悩だ」
この“もち”がオレの煩悩?
「お前は何もしないくせに強欲だ。それは即ち…死に値する!」
何でだ!?そしてなぜセリフをためて言う!

「母親に依存して働きもせずに、つまらんプライドしか持ち合わせておらん」
「そのくだらない欲で除夜の鐘を終わらせた!これが1番の大罪!」
そんな...そんな、鐘をつかないだけで死ぬなんて!
「迷信だと最近はバカにする風潮だが、それには意味があって続いておるのだ」
それっ!と“もち”はオレに再び襲いかかってきた。
いつの間にかオレの足を餅でしっかり止めやがった。
ああ。見かけどおり、あいつは“もち”だったか!
背中に体当りし、倒れ込んだオレを上から押しつぶそうとしている。
“もち”の仕返しなのか、餅つきの杵みたいに
飛び上がっては潰すを繰り返す。
身体がどんどんひらべったくなってきているのがわかる。
オレの意識もだんだん遠のいていった...

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元旦の朝、彼と同じようにぺちゃんこの死体が次々と出てきた。
ある会社社長の別荘だったり、某大学の教授の寝室だったり。
彼らを繋ぐ共通点は全くなかった。同じなのは死因だけ。
警察も大がかりな捜査本部を立ち上げ
マスコミも大々的に取り上げたが、半年も経つと誰も見向きもしなくなった。
犯人さえ見当もつかない、殺害方法さえわからない迷宮入り確実な事件を
長々と扱うほど現代人は気持ちの余裕がないのだ。
まさか『除夜の鐘が鳴らなくなったから』だなんておとぎ話みたいな理由。
真実だとしても、誰も信じやしない。

また来年の元旦の朝に、同じような死体が出てくるまでに
人は真実を知る事ができるだろうか?

クリスマスの落とし物 

December 26 [Mon], 2016, 16:20
公園にトートバッグが落ちていた。

大学生の頃、クリスマスイブの夜に彼女に振られ、
公園のブランコに乗ってヤケ酒をあおっていた。
100均で売っているような、ペラペラの布でつくられた袋。
オレは持っていたビールの空き缶を入れようと、
そのトートバッグを拾った。

すると予想外の重みで、前によろけて転びそうになった。
30cm×30cmのトートバッグにしては重すぎる。
袋の中をのぞいてみた。何もない。
それなのに鉄のおもりが入っているかのような手応えだ。

「それは私のだよ」
目の前にサンタが立っていた。
「うっかり落としてしまってね。プレゼントを配れなくなるところだった」
するとこれはサンタの持ってるプレゼント袋...?
なぜトートバッグなんだ?
「いつも使ってる袋が破けてしまって、この機会に新調したんだ」
「これなら取っ手も付いてるし持ちやすいしね」
オレの思ってる疑問にサラリと答えやがる!喋ってないのに!
そうか...これは夢、夢なんだ。

「で、何かお礼がしたいのだけどね」
何!?サンタの世界にも、落とし物の何割返しってのがあるのか?
じゃあそのトートバッグをくれ!
「君じゃこの袋は扱えない。サンタじゃないから」
いや、もしかしてと思って言ってみただけなんだ。
それじゃあ...

「わかった、あとで配達するから待ってておくれ」
そう言い残して、サンタクロースは去っていった…

瞬間ブランコから落ちそうになった。
なんだ、やっぱり夢だったか…
左手にブランコの鎖を持ち、右手にはビールの空き缶。
いつの間にかウトウトしていたようだ。
外で寝てしまわないよう、家に帰らないと。
彼女に振られたのはショックだったが、
さっき見た夢で救われたような気がした…

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そんなオレが、今サンタになっている。

翌日配達されてきたのは、あるプレゼント。
新しい彼女?いいや、そうじゃない。
あのトートバッグでもない。

トナカイだ。動物のトナカイ。
何かの間違いだと思った。
アパート一階の、オレの部屋のドアノブにつながれていた。
まだ子供で、角で誰かを突いてしまうような迷惑な事にはならな…

いやっ!オレが迷惑!
誰がこんなイタズラを…と、ふと思い出した。
昨夜のサンタの夢で話した事を。
「彼女がほしい!元カノよりイイ女!」
「それはできない。自分が頑張らなきゃ。それ以前に人はダメ」
「金!それならいいだろう?」
「確かにそれは物ではあるが、今の君にあげてもしょうがない」
「案外ダメなものが多いんだな」
「基本子供にプレゼントを贈るからね、ワシは」
「欲を満たすようなものはダメって事か…」

夢の中で一生懸命考えた。ようやく答えたその品物が…
「トナカイ!トナカイがほしい!」「なぜ?」
「サンタからトナカイをもらう。なんか面白くね?」
その時は酔いも手伝って、うまい冗談を思い付いたと思った。
今考えたら…ぜんっぜん面白くねぇ!
どうしてサンタはそれを間に受けた!?

動物園かどこかの施設に引き取ってもらおうとも思った。
犬や猫じゃない、トナカイだ。飼育方法もわからない。
でもどこからそれを連れてきたのか、必ず聞かれるだろう。
“サンタクロースからの贈り物でーす”なんて言ったら、病院か警察送りだ。
仕方がないので育てる事にした。
幸いにも実家は酪農家。
それが彼女にフラれる原因だったが。
「牛まみれの生活って、ダセぇ!」…オレは何であんな女が好きだった?

目がさめたオレは都会生活から足を洗い実家に帰った。
彼女でなくトナカイを連れてきたオレを、何も言わず受け入れてくれた両親。
聞きたい事はたくさんあっただろうに…ビバ両親!

オレは牛と一緒にトナカイを育て始めた。
「それ、食うんでしょ?」と言われても、
「いくらで売ってくれる?それ」と買われそうになっても頑張って育てた。
売り物ではないのだ、このトナカイは!

一年後、このトナカイなしに家の安泰はありえなかった。
両親は“うちのトナちゃん”と可愛がってくれたし、
トナカイ見たさに遠方からも客が来るようになった。
物は試しにといろんなグッズや乳製品をつくったら、それが大当り!
彼女もできて、その彼女が生涯の連れ合いになり子供も3人。
洒落のわからないサンタのおかげで、とても幸せな日々を送れた。

あのトナカイに立派な角が生え、大きなソリもひけるようになった頃。
「長生きで元気なのは、サンタクロースからもらったトナカイだからさ」と
孫に説明していた時だった。
「おじいちゃん、サンタになったら?」
仕事を引退して、髭をたくわえ太った私を見て思ったのだろう。
何気ない子供の思い付きだったが、それに乗っかってみようと思った。
どうせヒマなのだ。
不思議な事に家族は誰も反対しなかった。
妻は「それ、いいかも」と大喜びだし、
3人の子供は「老後の楽しみだね」と言ってくれた。

今、オレはトナカイと一緒にプレゼントを配りに行くサンタになった。
近隣の子供達にささやかなプレゼントを、ソリに乗って行く。
クリスマスくらいは、みんな幸せになっていい。

Merry X'mas !!

ブラックなお仕事 

December 02 [Fri], 2016, 14:51
いつも居間のソファで老眼鏡をかけ、
編み物をしていた姿を思い出した。
今日は母の誕生日。

すっかり忘れていた。
高校を卒業してから独り暮らし。
一度も家に帰っていない。
毎日仕事に追われ、実家を思う余裕もなかった。
両親の様子は妹から聞いていた。

母が亡くなったのは昨日。
突然倒れ、そのまま逝ってしまった。
布団に横たわる彼女の顔はとてもやさしい表情をしていた。

「お兄ちゃん…」葬儀は妹が一切を取りしきっていた。
「いつもすまない。おまえばかりに…」
「ううん、大事なお仕事なんだもの。しょうがないわ」
最後に母の顔だけでも見ておきたかった。

偉い、立派だと世間から言われているが、
兄のくせに身内に苦労かけっぱなしのダメな男。
それが本当の僕なのだ。

腕時計型通信機のアラームが鳴った。
「超人スカイハイヤー!街に怪人が現れた!すぐ来てくれ!」
「今日は後輩のトリプルファイター達に頼んでおいたんだけど…」
「あいつらはまだ力不足だ。あっという間に倒された」
「他のスーパーヒーローはどうしたんだ?」
「…君だけなんだ。地球を守れるのは」

「お兄ちゃん、行って。街のみんなを守って」
妹はいつもそう言って、僕を送り出してくれた。

全ての人が世界平和を願っている。
でもそれを一番欲しているのは、僕たちスーパーヒーローだ。
家族のためだけに働きたい。
休日には子供と遊びたい。
奥さんと喧嘩しながらずっと仲良くしていたい。
思ってる事は同じなんだ。

これからまた、戦いの場に赴く。
今日で任務が最後になるようにと願って。

あなたの好きな色は? 

October 17 [Mon], 2016, 12:13
「一番好きな色は何ですか?」

はぁ?何だよ、その質問。
外見もバカっぽいけど、中身もそれだな。

「はぁ...しいて言うなら青...かな?」
「そうなんですか?私も好きなんですよぉ、青」
「海とか、眺めるの好きなんで」
「あー、アタシイルカ好きなんですよねー」

大金出して婚活パーティーに来たけど、来てる女はカスばかり。
まぁ、女はチケット代タダだしな。
知り合いの会社に頼まれて来てやったが、何の得にもならなかったな…



金だけは持ってるスネかじりニートが偉そうに思った。
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うっとおしげにトイレに入る女性3名。

「やっと化粧直しできるゥ」
「マジやる気なしなんだけど!今日もハズレの回ー!」
「ホント!1人イケメンいたけどさ、あれってサクラっぽいよね?」
「あとはお金払わないと入れてもらえなさげなー」

「さっきもさ、しょうがないから話してあげたわけよ、仕事だし」
「“あなたの好きな色は〜”って言うやつっしょ?マジウケ!」
「そしたらさ、ウンザリした顔するのよ。フツメンレベルで」
「おまえに興味無いっつーの!話してあげただけ喜べよって」

「もう少しガマンすっか」
「バイト代出ないもんねー」
「いい物件に出会えると思って入ったけどさ。もう辞めるわ」

化粧直しと愚痴りを済ませ、
バイト代欲しさにトイレから出ていく3人であった...



いや、どの顔で言ってんだ!てめぇらも十分フツーじゃねーか!
小説でわかんないからって好き勝手言いやがって !
一度眼科で検査してもらってこい!

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「あのー、お話してもイイですかぁ?」
この婚活パーティーの中で一番のイケメン。
2人はサクラとか言ってたけど、物件としては文句ナシだもん。
マジモでゲットする!

「ああ、さっきはごめんね。友人と話してて」
どんくさい女。
わざとガン無視したの、わかんねぇのかよ?
顔目当ての女しか寄ってこないし、パーティ嫌いなんだよ。
こんなとこより、今日のライブに行きたかったわー!
めんどくせぇからとっとと切り上げるか…

「そう言えばさ...聞きたかった事があったんだよね」

「ええ〜!何ですかぁ〜?」
え?え?もしかしてシンデレラ的な、もしくは少女マンガな展開〜!?

「君の一番好きな色って何?」

「え?」

「一番好きな色。
オレ、アイドルのウィング・フェアリーズのあやかのピンクがスキなんだよね〜」

「...」



さて?この後、彼女はどうしたと思う...?

Cold play 

June 10 [Wed], 2015, 14:40
「寒いの…」
彼女は僕の腕の中で小声でそう言った。
「俺が君を温めてやる、ずっと」
ふるえる彼女の身体を強く抱きしめた…

「はい!OKでーす!」
監督の声でハッと我にかえる。そうだ、これは映画の撮影だった。
主演女優の身体は僕から離れ、
「監督!イイ画撮れてますー?」とモニターの方へ向かっていった。

映画といっても、大学の映画研究会の短編作品。
僕はその映画のスポンサーであり、主演男優でもある。
そう!これは僕と彼女のためのラブストーリー!
はっきり言う!下心に満ちみちた計画だ!

父親は有名なアパレル関連の会社を経営していて裕福。
母親は元モデルで、今は親父の会社でファッションブランドを立ち上げている。
僕は街でモデルにスカウトされたくらい顔もスタイルもセンスもイイ。
小学生の頃から女の子に不自由した事は一度もない。
だって向こうの方から寄ってくるのだ。
振った事はあっても、振られた事は一度もない!

そんな僕が初めて好きになったのが、主演女優の彼女。
派手ではないが人目をひく雰囲気を持った女性。
演劇に打ち込んでいて、舞台女優を目指している彼女に一目惚れをした。
何とか近づこうとデートや合コンに誘ったりしたが、
「忙しい」の一点張りでなかなか仲良くなれない。

それで今回の作戦を思い付いた。
脚本は僕主導で書き、僕と彼女を主役にする事を条件に
映画撮影に関する費用を全部出すと研究会の奴らに提案した。
脚本は監督からの手直しはあったものの、
僕と彼女が“密着する”シーンが多かったので気に入った。
そして今日のクランクアップまでこぎついたのだ。
あとはこの流れで、本当の“彼女”にするまでだ!

「はい」
目の前に彼女の開いた手が見えた。
「今回のギャラは?クランクアップにもらえるって話だったけど?」
「ああ、それはこれから打ち上げがあるからその時に渡す…」
僕の言葉を最後まで聞かずに、彼女は言った。
「ごめん。打ち上げには行けないからここで渡して」
さっきまでの愛情のこもった声と違う、ビジネス的な口調。
「打ち上げに行けなきゃギャラが出ないわけじゃないわよね?」
映画に出る条件でお金を出すとしか言ってなかった。これは失策だ!
開いたその手にギャラの入った封筒を渡すと、それじゃ…と彼女は帰ろうとした。
ヤバい!

「あ、あのさ。これからも時々映画に出てくれないかなぁ…」
「それは無理。劇団に入って本格的なレッスンに入るから」
「じゃあ、あのっ!あのっ!…」次の言葉が出てこない。
「わたし急いでるの。彼が待ってるのよ」…へ?
「このお金でこれからデート。早く撮影終わらしたかったー」
え?え?…えーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
そう言って彼女は風のように去っていった。僕のアホ面を見る事もなく。

「知らなかったのか?将来を約束した男がいるって」と肩を叩かれた。
結構学内で有名な話だぜ、と監督である男が言った。
知らなかった。誰も教えてくれなかった。
「高校からの付き合いで、彼女の方がベタぼれなんだと」
何でそんなに彼が好きなの?と友人に聞かれた時に
「わたしを一番に想ってくれてる気持ちがわかるから、
わたしも彼に何かしてあげたいの。これって愛よね」
空いてる時間を全て彼に捧げるほどの惚れっぷりなんだそうだ。

「顔が良いとかお金持ちとかなんて興味ない。
言っておくけど今回の相手役には何の魅力も感じないわ」と撮影前に監督に言ったそうだ。
「おまえの下心は見透かされてたみたいだな。
ま、おかげで映画を撮れたんで俺らはありがたかったけど」
もう一度肩を叩いて、監督はスタッフの方へ歩いていった。

僕はこの時、初めて人の怖さを知った。同時に自分の幼さも。

「寒い…」季節は春だが、背中にかすかな寒気。
それは全身に広がり、しばらくの間動けずにいた。

プレゼントを配るのがイヤになったサンタ(前編) 

January 16 [Fri], 2015, 17:47
「もうサンタやめます。探さないでください」

クリスマスまであと一ヶ月。
サンタランドに衝撃が走った。
サンタクロースが失踪してしまったのだ。

一番仲の良かったドワーフが言った。
サンタが「最近の子供はわしらを信じなくなった。それが悲しい」と言ってたと。
二番目に仲の良かったドワーフが言った。
「そんなものよりゲーム機か金をくれという子供が増えた」と。
三番目に仲の良かったドワーフが言った。
「プレゼントなんて配る意味なんてない」と辛そうだったと。

サンタが配るプレゼントの、本来の意味を知る者がそれだけ少なくなった。
確かにサンタからのプレゼントは木のおもちゃで一見子供だましのようだが、
それは“才能”や“幸運”を物質化して人にわかりやすくするため。
だから頑張った者や良い子にしかプレゼントは配られないのだ。

サンタがプレゼントを配らなくなるとどうなるか?
君たちは考えた事があるか?
いくら良い子でも頑張っても“プレゼント”が配られないのだから、
その行為は報われないし才能は伸びない。
そうすると「良い子しても頑張っても無駄無駄!」と、誰もが怠け者になってしまう。
夢も希望もなくなった世界を、君たちは想像できるかい…?

サンタランドの住民にとっても死活問題である。
プレゼントを配るサンタがいるからこそ、サンタランドの存在に意味がある。
サンタがプレゼントを配らなければ、全てが無と同じなのだ。
最初彼らがやった事は、もちろんサンタの捜索。
しかし見つかったとしてもサンタがプレゼントを配る意思がなければ
どうしようもない。

さて、どうしたものだろう?

どうやって“サンタにプレゼントをもう一度配らせる気にさせるか?”
世界中の妖精に捜索を続けさせながら、サンタランドの首脳陣は頭をかかえていた。
サンタの代役を立ててプレゼントを配る事も考えた。
しかしサンタクロースは今や世界共通のアイコンとなっている。
サンタらしくない者が家に行ったら、それこそ大事件になる。
いなくなったサンタは初代からすでに100年以上のベテランで、
彼=サンタのイメージがこのサンタランドを支えているくらい重要人物。
代役や跡継ぎになれるほどの逸材は今もいないのだ。

どうしたらサンタにやる気を起こさせる事ができるんだろう?

クリスマスまであとわずか。
どうしようもなく、時間だけが過ぎていく…

プレゼントを配るのがイヤになったサンタ(後編) 

January 16 [Fri], 2015, 17:41
クリスマス当日。

時間ギリギリにサンタクロースはサンタランドに戻ってきた。
そして無事にプレゼントを配り終えたのだ。
サンタランドのみんなはホッと胸をなでおろした。

ようやく落ち着いた頃、一番仲のいいドワーフがサンタに聞いた。
「戻って来てくれてうれしいけど、どうして気が変わったの?」と。
ホットワインを飲みながら暖かい暖炉の前で、
木製のリクライニングチェアに座るサンタは話を始めた…

サンタランドから逃走した私は徐々に痩せていった。
だんだんサンタらしくなくなっていき、
ある国にたどり着いた時にはもうガリガリ。
ただの痩せこけたおじいさんにしか見えなかった。
その国はサンタランドとは違い、暖かくて食べ物も豊富。
貧富の差はあってもそんな事は関係なくて、みんな幸せそうだった。
何にも持ってない私に着る物や食物を与え、
しばらくここにいると答えると空いてる部屋をタダで貸してくれた。
何てここはいいところなのだろう!と感激した。

話を聞いていたドワーフは、
「そんな素敵なところにいてなぜ帰ってきたの?
僕だったらずっといるのに?」と聞いた。
「私もそう思ったさ」サンタは先を続ける。

ある日町を歩いていると、
肌の浅黒い銀髪の男の子が目に飛び込んできた。
明らかに周りの人々とは違う雰囲気を持ち、
着ているものは同じランニングシャツに短パンだが
どこかしら自分に似ている気がした。
声をかけて聞いてみると、お父さんが北欧の人で
お母さんと結婚してこっちに来たのだと教えてくれた。
北欧と聞いて、ふと懐かしさにかられ聞いてみた。

君はサンタクロースを知っているかい?

すると子供の顔がぱあっと満面の笑顔に変わった。
おじさん、サンタクロースを知っているの!?と逆に質問された。
ここでは困っている人に手助けするのは当たり前だったので、
プレゼントを配るサンタの存在は誰も知らないのだ。
彼が知っていたのは、父親に話を聞いていたからだった。
「ああ、ちょっとした知り合いでね」と言葉を濁した。

今までは「サンタにプレゼントがもらえるよう伝えて」とか、
「何でプレゼントくれないんだよー!」という子供ばかりだった。
その度うんざりしてきたが、彼の答えは違った。

「いいなぁ、僕もサンタになってみんなにプレゼントを配りたいよ」
どうして?と、今度は私が聞いてみた。
「だって、みんなが喜んでくれるでしょ?そういうサンタが羨ましいんだ」

彼は現実を知らない。そういう子供は少ないのだと教えてあげたかった。
と同時に「サンタを信じている子供」の存在を忘れている事に気づいた。
その子達を無視して、ただ逃げてるだけの自分に。

「君はそんなにサンタになりたいのかい?」と聞いてみた。
「うん!もちろんさ!」と、彼は元気に答えた。
それを聞いた私は、これからやるべき事を知った。
いや、前々からそうするしかないとわかっていたのだ。
それでも彼の言葉で、目の前に道ができたような気がしたのさ…

「それで戻ってきたの?」ドワーフは言った。
サンタの私が次にやれるのは“彼のためにサンタを続ける事”だ。
もしかしたら途中でサンタになりたくなくなるかもしれないが、
それでも今はそれくらいしか私にはできないのだよ。
もし彼がサンタになりたいのに、席がなかったら悲しむだろう?と。
そう答えるサンタの顔は、ランドを逃げ出す前の顔とは違い
満面の笑みをたたえていた。
ドワーフはその子供を知らないけれど、
今の彼みたいな笑顔をしていたんだろうと思った。

その後サンタは毎年笑顔を浮かべてプレゼントを配るようになった。
サンタを信じている、また信じない子供や大人にも区別なく。
実は時々、彼に会いに行ってる。
その後決まってキラキラした笑顔で戻ってくるのだ。
まるでサンタがサンタに会いに行ってるみたいに。

その子供がサンタクロースになって、そりに乗ってトナカイと空を駆け抜ける。
そして誇らしげにプレゼントを配る姿。
想像するだけでサンタも、ランドのみんなも幸せな気持ちになった。

もしサンタにならなかったとしても、それはそれでいいのだ。
“サンタになりたい”という彼の気持ちが、今のサンタの原動力になっている。
いつか誰もが“サンタになりたい”と願うようになればいいなぁと
サンタと一番仲の良いドワーフは思うのだった。

One Thousand Song 

September 22 [Mon], 2014, 13:41
「私と付き合おうなんて、1000年早いのよ!」
中一の頃から片想いしていた女の子に告白し、高二の秋にふられた。

勉強もファッションも彼女のために頑張ったのに。
その結果がこれだ。あまりにも残酷な響き。
1000年後なんて確実に死んでる。
吸血鬼かゾンビにでもならなきゃ無理な相談だ。
他の女の子には目もくれず、彼女だけを見てたのに。

それでも諦めきれず、彼女が他の男と結婚しても
僕自身は一生独身をつらぬいた。

死後の世界に着いた時、自分だけ別な場所に案内された。
2畳ほどの白い部屋。真ん中には背もたれのない白い丸椅子。
椅子に座ると、上の方から“声”が聞こえてきた。

[おまえの望む人生を与えてやろう]

最近滅多にいない
“一人をずっと想い続けた”僕に対する“ご褒美”らしかった。

金持ちでも偉い人でも、思いのままの人生。
だけど望みはたった1つ。

彼女にふさわしい人に生まれ変わりたい。

死んでもなお、僕にはそれしか思い浮かばない。
“彼女”は僕にとって特別な人だから。
その“声”の主は、願いを聞き入れてくれ、
僕は“告白する日”まで何度も生まれ変わり
“彼女”を待ち続けた…

1000年後。
ようやく彼女と同じ魂を持った女の子に告白した。

「私と付き合うなんて、10000年早いっつーの!」



      一ケタ増えてる…


ああ、僕はいつになったら彼女と一緒になれるんだろう?

それともこれがいつまでも続くのが僕の運命なんだろうか?

WISH〜月見る猫と月が嫌いな私の物語 

September 06 [Sat], 2014, 11:50
月にウサギが住んでいると昔の人は言ってたけど、
私にとっての“ウサギ”は猫のガリレオ。

会社から家に向かう道すがら、
いつも同じ塀の上で月を見ていた猫。
それがガリレオとの最初の出会い。

「私んちからはもっとよく見えるわよ」と声をかけてみた。
その猫は私の顔をじっと見て、
塀の上から降りてそのまま家までついてきた。
そんなに月が好きなのか…この猫は。
私、月なんて大嫌い。

どうしてかは忘れてしまったけど、
月は私を不安な気持ちにさせる。
それなのに仕事は月旅行のツアーコンダクター。

今は誰でも気軽に宇宙旅行に行ける。
ワープ航法が安全確実なレベルに上がってからは、
火星でも木星でもほぼどこへでも行けるようになった。
しかし、月旅行の人気は高い。
“月から地球を見たがる”人達はなぜか絶えないのだ…

私の家は丘の上にあり、
周りには高いビル1つない場所に建てられていた。
今時木造の平屋で、花壇も何もない殺風景な広い庭がついている。
猫はその庭の真ん中でじっと月を見ていた。
何だか悔しいので、猫の名前をガリレオにした。
それに母の名が“月子”だから。
その猫に母の名を冠するような真似はしたくなかった。

大きな瞳と耳のグレーの短毛で、赤い首輪をしていた。
一緒にいてわかったのは、猫らしくない猫という事。
一度教えた事はすぐに理解し、粗相もいたずらもしない。
何日か留守にする時は餌を置いておくのだが、
計画的に食べるのかニャアニャア鳴きわめく様子もない。
まるで聞き分けのいい人間のようだった。

今まで一人で寂しいと思った事はないが、
ガリレオを飼い始めて日常が少し賑やかになった気がした。
両親は私が高校を卒業する年に事故で亡くなったから。

年に1度、会社からの誕生日プレゼントとして
宇宙旅行が贈られる。
この時だけは担当地区以外の星へ行けるのだ。
しかし今年は月を選んだ。
担当地区なら自分の他に誰か…ガリレオを連れて行ける。
いつも淋しい思いをさせているし、
好きな月に行けたら嬉しいだろうと思ったから。
ガリレオに一緒に月に行くよと言うと、
ビックリしたような表情で私を見た。
その後一段高い声でニャアオと鳴いた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

27才の誕生日。
私はガリレオを腕に抱き、月の展望台に立っていた。
ツアコンとして来る時とは違い、ここから観る地球はとても遠く感じた。

ふと思い出した。

母は月で生まれた人だった。
祖父母が月への移住計画で試験的に住む事になり、その間に生まれたのだ。
その計画は失敗し地球へ戻るのだが、彼女にとっては出生地であり故郷。
時々月を眺める母の顔は、まるでかぐや姫のように儚く思えた。

子供の頃「どうして月を見ているの?」と聞いた事がある。
「月にね、お友だちがいたの。とても楽しかったわ」
幸せそうに笑う母を見て、いつか月に帰っちゃうのかも!
一人で月に帰っちゃうんだ!と思った。
ああ、だから私は月が嫌いになったのだ。母を月に取られるという不安。

その時ガリレオが展望台から外に出ていった…感じがした。
実際はガリレオは私の元にいたし、
展望台のドアが自然に開くわけがなかったのに。
でも…ここにいるガリレオは、出会った時のガリレオではなくなった。
“じゃあね”という声が聞こえた気がしたが、私と猫以外誰もいない。

その後、ガリレオは普通の猫になった。
利口な猫には変わりはないが、それでも前のガリレオではないと感じた。
月を見つめる事がなくなったから。

月に行った時に感じた“あれ”は何だったのか?
もしかしたら母に会いにきた“月のお友だち”だったかもしれない。
それとも地球に落ちてきたエイリアンが月に戻りたかったのかもと
いろいろと考えてみたものの、その証明はできないのだ。

代わりに私が月を眺めるようになり、少しだけ月を好きになった。
ねぇガリレオ。月の様子はどう?仲間はそこにいるの?
もしひとりだったなら、淋しくはない?
また地球に来てもいいんだからね。

短い時間だったが、私の日常も少しは変わったのだろうか?
心に少しだけできた隙間に一抹の淋しさをかかえて、
同時にもうここにはいない“相棒”を携えて
ちょっとだけ大人になれた気がした。

ありがとう。私の“月のお友だち”
2017年01月
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