トイレ掃除

November 18 [Mon], 2013, 2:13
所が或日の事、前に申しました良秀の娘が、御文を結んだ寒紅梅の枝を持つて、長い御廊下を通りかゝりますと、遠くの遣戸(やりど)の向うから、例の小猿の良秀が、大方足でも挫いたのでございませう、何時ものやうに柱へ驅け上る元氣もなく、跛(びつこ)を引き/\、一散に、逃げて參るのでございます。しかもその後からは楚(すばえ)をふり上げた若殿樣が「柑子盜人(かうじぬすびと)め、待て。待て。」と仰有りながら、追ひかけていらつしやるのではごさいませんか。良秀の娘はこれを見ますと、ちよいとの間ためらつたやうでございますが、丁度その時逃げて來た猿が、袴の裾にすがりながら、哀れな聲を出して啼き立てました――と、急に可哀さうだと思ふ心が、抑へ切れなくなつたのでございませう。片手に梅の枝をかざした儘片手に紫匂(むらさきにほひ)の袿(うちぎ)の袖を輕さうにはらりと開きますと、やさしくその猿を抱き上げて、若殿樣の御前に小腰をかゞめながら「恐れながら畜生でございます。どうか御勘辨遊ばしまし。」と、涼しい聲で申し上げました。
 が、若殿樣の方は、氣負(きお)つて驅けてお出でになつた所でございますから、むづかしい御顏をなすつて、二三度御み足を御踏鳴(おふみなら)しになりながら、
「何でかばふ。その猿は柑子盜人(かうじぬすびと)だぞ。」
「畜生でございますから、……」
 娘はもう一度かう繰返しましたがやがて寂しさうにほほ笑みますと、
「それに良秀と申しますと、父が御折檻を受けますやうで、どうも唯見ては居られませぬ。」と、思ひ切つたやうに申すのでございます。これには流石の若殿樣も、我(が)を御折りになつたのでございませう。
「さうか。父親の命乞(いのちごひ)なら、枉げて赦してとらすとしよう。」
 不承無承にかう仰有ると、楚(すばえ)をそこへ御捨てになつて、元いらしつた遣戸の方へ、その儘御歸りになつてしまひました。
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