仕分けられずに済むに足る内容か? 「白書」のあり方(産経新聞)

June 16 [Wed], 2010, 19:46
【杉浦美香の環境白書】

 環境重視を打ち出す民主党政権になって初の「環境白書」が6月1日、閣議決定された。2020(平成32)年までの温室効果ガス排出量を1990年比25%削減目標の際のコスト計算や、排出量取引の制度設計などでぶつかることが少なくない経済産業省のエネルギー白書が例年より遅れる中、環境白書は前年度から約50ページ増え、すでに書店に並んでいるという。今年の特徴は、「経済成長の原動力」として環境産業と、世界の水問題にそれぞれ一つの章を割り当てたことだ。環境は産業を牽引(けんいん)することができるか。毎年出している白書も内容が薄ければ「仕分け」の対象になりかねない。環境白書の中身を検証する。

 ■環境産業の未来は

 「環境こそが経済成長のエンジン。どんどんやってほしいという総理から指示を受けました」

 再任された小沢鋭仁環境相が8日、記者会見で明かした。

 「環境と経済の両立というより、成長との両立と申し上げたい」という言葉が最近の口ぐせだった小沢環境相。鳩山前首相と違って環境問題では印象が薄い菅新首相も環境を軸に据えた路線に変わりはなかった。

 世界の環境産業の市場規模は2020年には、06年の約1・37兆ドルから2・74兆ドルに倍増するという試算が、国連環境計画(UNEP)などの「グリーンジョブ報告書」で出されている。

 サブプライムローンで大打撃を受けた米国のオバマ大統領が打ち出したグリーンニューディール政策では、環境対策で雇用創出をはかる「グリーンジョブ」に1500億ドルを投資、500万人の雇用創出を目指した。

 麻生元首相時代、日本版グリーンニューディールと銘打って、家電のエコポイント制、エコカー減税に補助金制度などを打ち出した。民主党政権になってもエコポイント制は引き継がれ、とりあえず今年12月までの延長を決めた。

 日本の環境産業の市場規模は平成20年度で約75兆円、雇用規模は約176万人とされるが、昨年12月の新成長戦略では、政策を総動員して32(2020)年までに50兆円超の新規の環境関連市場を開拓、140万人の新規雇用創出を目指している。

 ただ、環境省の幹部の中にも「これから成長する産業を重点的に支援するのは大事だが、エコポイント制などをいつまでも継続できるものではない。消費が拡大して経済活性化には一役買ったが、補助金で投入されているのは国民の税金だ。見直したり、工夫が必要になってくる」と話す。

 ■新指標で日本の順位は?

 環境省が白書で新たに提示した国際指標がある。

 国民の生活の質や発展度合いを示す指標として国連開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI)が有名だが、このHDIを出すために使っている国内総生産(GDP)を、二酸化炭素排出量あたりのGDPに置き換えた。名前も「HDI」に「環境(Environment)を加えた「HeDI(環境人間開発指数)」と名付けた。

 この試算では、HDIでは世界10位だった日本が4位にまで上昇する。スウェーデンやスイスもそれぞれHDIでは7位と9位だが、HeDIでは1位と2位に。中国もHDIでは24位だが、1人あたりのCO2排出量が少ないためHeDIでは4位にあがった。

 その一方で、順位を大きく下げたのがオーストラリア。HDIでは2位だが25位に。米国も13位から18位に落ちた。一人あたりのCO2排出量が多い国は順位を下げることになる。

 伝統的指標として国内市場において取引された財・サービスを計算するGDPが代表的だが、福祉や人々の幸福感、環境価値の喪失・改善など経済指標に現れない指標を盛り込もうとする試みが世界的に広がっている。フランスのサルコジ大統領は、コロンビア大のスティグリッツ教授をトップにした委員会に対し、GDPの算出項目に休暇の長さなどの「幸福度」を加える新たな指標をつくるよう諮問している。幸福感や環境などを数値化したブータンの国民総幸福量(GNH)も有名だ。

 鳩山前政権では、成長戦略の1つに「国民の幸福度を表す新たな指標の開発」を盛り込んでいた。まだ具体的ではないが菅政権もおそらくこういった指標開発を引き継ぐとみられる。

 東北大学の明日香寿川(あすか・じゅせん)教授は「指標作りの試みは重要だが国際的に通用するかどうか…。日本はエネルギー効率が高いため環境省のHeDIの順位は高くなるだろうが、温室効果ガス排出量削減の努力をしなくてもいいといった逆のメッセージになってはいけない」と指摘する。

 ブータンの「国民総幸福量」指標は発想の転換として考えさせられるが、先進国にそのまま通用するのは難しい。なにより財政の立て直しで成長しなければならない日本にとって、こういった指標作りは一つの考え方として必要だが、現実的ではないかもしれない。

 ■白書か青書か?

 政府の政策の現状分析と目指すべき方向を示す「白書」。英語で言えばホワイトペーパーだが、だからといって、表紙が白色というわけではない。各省庁ともプロのイラストであったり、職員らの活動している様子の写真などを使って工夫を凝らしている。

 環境省は絵を一般公募しており、その入選作品が表紙に使われる。今年は小中学生の部に606点、一般の部に60点が寄せられ、愛知県安城市の小学1年生の最優秀賞作品が使われた。啓発の意味では、表紙絵のコンクールは一定の成果を上げているといえるだろう。

 白書といっても、環境白書や内閣府の防災白書、少子化社会白書、農林水産省の水産白書などは法律に基づいて作成されるが、防衛省の防衛白書や厚生労働省の厚生労働白書、警察庁の警察白書などは法律に基づかない「非法定白書」だ。こうした白書は閣議決定ではなく、閣議で報告、もしくは配布するにとどまる。

 “トリビア”になってしまうが、外務省が出すのは「白書」ではなく「青書」で、その名のとおり表紙も青色。趣旨は白書と変わらないが、英国で外交政策の報告書を「ブルーブック」と呼び、表紙も青色であったことから踏襲しているという。

 法定白書とそうでない白書の違いは何か−。作っている職員に聞いてみると、法律に基づく白書の場合は他省庁に関係する個所はその省庁にも事前にチェックしてもらうという。法律に基づいていない白書は省庁だけで作りあげる。チェックする目が多いという意味では、法定白書の方がある意味で信頼性が高いといえるかもしれない。

 ■人気の白書は?

 もっとも売れている白書は断トツで防衛白書(約4万5千部)。続いて厚生労働白書(約3万2千部)、経済産業省の中小企業白書(3万部)、そして4位に環境白書(2万2千部)となる(2006年、内閣官房調べ)。

 米国でも政府が環境白書を出していたが、現在は民間のシンクタンクがそれに代わり政府としての白書の発行はしていないという。

 白書を民間のシンクタンクに丸投げして作っていては本末転倒だが、日本の白書はその省庁のビジョンや政策が大まかに網羅できるようになっている。メッセージを発信する機会になることもある。

 逆にそうした意味がなくなってきているのであれば白書のあり方も考え直さなければならない。まさに仕分けする必要がでてくるだろう。(杉浦美香・社会部環境省担当)

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