4_2空中都市

November 06 [Sat], 2010, 18:59
*** 衛星都市(老人の都市) ***
 カプセルはしだいに速度を落とした
操作部の先頭には逆噴射ロケットが露になっていた
先端部のカバーが本体側に収納され、逆噴射されていた
青い炎が前方に伸びていた
それは10秒程続いた
青い炎が次第に弱く成った時、前方に第二衛星都市がはっきり見えていた
人口8万の衛星は巨大なドーナツを思わせる物だった
第二衛星はかなりの速度で右回転をしていた
カプセルは衛星の右側の接点に向かって進んだ
比呂斗には衛星の回転が停止した様に見えた
比呂斗のカプセルはゲート4に着陸した
着陸と同時に吸い込まれる様に第二衛星の内部に導かれた
 衛星都市は、老人の都市と言われていた
ドーナツ状の中央にあるスペースは無重力となっていた為、80才を越えると殆どの人は、8基ある衛星都市の一つに移住してきた
低重力な空間が、彼等に様々な楽しみを提供していた

なにかおかしな感じがする

と比呂斗が言うと

重力の代わりに、遠心力を利用している関係よ
衛星の直径が不足しているから、背の高い人ほど違和感を感ずるの
直ぐに慣れる


あんなに、高速で回転しているのに?


大きく成る程外側は高速で移動しているけど、回転数はそれ程多くは無いの

1つの駅には、それぞれ6箇所の発着口があり、衛星には基幹駅は無く4つの駅が有った
駅の風景は、地上の風景と働く者の年令を除けば、余り変わりは無かった
カプセルが到着口へ吸い込まれる時、地上のそれと同じ音がした
駅は前方と後方の2つの出入口が有り、マインを見ると前方を指差すので、比呂斗は前に進んだ
扉の先は真っ直ぐな道が1本あった
1本の道は4筋となっていて、左右の両端が歩道となっていた
中央の2筋が干渉帯を挟み動く歩道だった
歩道の外側は10m間隔で、地下と2階に通ずる階段が設けられていた
地下は居住区、2階は旅人の部屋とグループ利用のスペースになっていた
比呂斗は歩道に乗りながら、マインに聞いた

部屋は近い?

比呂斗は、ここで1ヶ月過ごすとマインから聞いていた
「老人に混じって、1ヶ月も何をしようというのだ」
と思ったが、黙ってマインに従うことにした
比呂斗にも、自分のマインが、並々ならぬアンドロイドである事が思い知らされていた
徐々に変質したとは言え、改めて考えれば、アンドロイドにあるまじき事ばかりだった
比呂斗はそんなマインをチワワに変えようと考えた事を後悔していた
それでいて、マインが自分の我儘を聞いてくれるので、つい
「まあ、いいか」
と深く考える事を止め
「マインを刺激せず、楽しくやろう」
と決めた
考えると怖い部分も有るが、比呂斗は頼りになる、冗談好きのマインが誇らしく、好きだった
 「
比呂斗のカプセルが第二衛星のゲート4に着いた

彰浩がテヨンに言った
テヨン達3人はニューヨークの駅で待機していた

ここからはマインを置いて
3人で比呂斗を追います

テヨンは席を立ちながら2人に言った

ロゼッタストーンを必ず奪ってみせる
何か、わくわくして来た
ボーエンの事が嘘みたい

雪野が応えた
 駅と駅の中間にエレベータが4基並び、その1基から4組が出て来た
4組は4人の老婆と、4体の青年風のマインだった
老婆は同じユニホームを着ていた
マインはほぼ同じ顔立ちで、同じ髪型で、体形も似ていた
比呂斗はマインを見た

テニスのお仲間なのね
お茶に出てきたのかしら

仲の良い事
世話させるマインまで同じようにして

と、比呂斗の問いに応える様に言った
空となったエレベータに乗り込んだ
するとエレベータ扉は閉まり、上昇した

エレベータの昇りは回転の中心に向かっているの
重力がそれだけ下がります
筋力の衰えた人達がスポーツを楽しむに適した空間
テニスの球の速度も緩慢になるから

エレベータが到着し、出ようとすると、比呂斗はふわふわした感覚に、納得した

一如真人さんは別として
この様な老人ばかりの衛星に来る事を嫌う人も多いけど、80%の人は宇宙で生涯を終えます


衛星では、そのうちのどの位?


80%の中で、約半数
宇宙旅行へマインと共に10人位のグループで行く人が多いのです
自らの死を求めて


随分悲しい話だね


念仏を唱えながらの旅ではないの

カラオケを積んで行くの
全員で合唱もするの


もうよしてくれよ
余計悲しくなるじゃないか

延々と、幅10mの空間があり、大勢の老人がマインと共に、そこにいた
殆どの人達がスポーツをしていた
サッカーをしているスペースも有った
マインの言っていた通り、すべての動作が緩慢であった

あのサッカーボールは地球上の物と同じ?


いいえ
ずーと柔らかで、色々工夫がされています

下では、ゲートボールもしているの、ゲートボールの玉は
地球と同じ


時々、中年の人達に会うけど?


私達のような旅人や、将来の為に見学に来ている人達
多くは、1週間位滞在します

比呂斗とマインは次のエレベータの位置まで、老人達の様々なスポーツを眺めながら歩いた
エレベータを降りた時

明日は、ここの中心へ行って見ましょう


何が?


中心は、無重力
楽しいですよ


気持ち悪くならないか?


比呂斗にはセンサが埋め込まれているじゃないの
多少体調が悪く成るかも知れないけど
直ぐに慣れるから
危険が検出されれば、エレベータは停止し
緊急通報を受けヘルパーがやってきます
心配ありません

「気持ち悪い思いをするのは、僕なのだけど」
 マインに付いて、昨日のエレベータ昇降口の裏側へ回った
そこにも、4基のエレベータの昇降口が有った

こちら側のエレベータで衛星の中心に行きます
中心まで1時間40分


そんなに遠い?


宇宙酔いをするのは、比呂斗ばかりではないの
途中で休み休み行くから

もっとゆっくりでも良いの

エレベータは中心に近付くに連れ、上昇の速度が落ちていった
途中、9回エレベータを乗り継いだが、乗り継ぎ場には休憩スペースが設けられ、軽食の店等があった
休憩場所で、マインはそれぞれ8分の休息を取った
比呂斗は、重力が次第に無くなるのを感じたが、気分が悪くなるまでに至らなかった
見れば、この衛星の住人らしい老人達は、自分に合わせ調整しているようだった
 衛星の中心部は、広大な空間が広がっていた
その中で、数百人の老人が幾つものグループとなり、球を追い、ゲームをしていた
ただ跳ねるだけの者もいた
少数であるが、若者も、壮年も、マインもいた

重力の影響が少ない、この場所は、昨日とは違い、チーム戦が行われます
直径が1556m有ります
実際は球体だけど、狭くなっている両側には、衛星のメンテナンス用になっています


変な感じだね
どちらが上なのか分からないなんて

頭の上では、空中を泳ぐ人がいるわ
遥か向こうでは、人が逆さで宙吊り
左右の人が、頭を此方に向け横になっている

遠心力は引力の逆だね
地球は球の外側に人間が立っているのに
ここでは、球の内側に人間が立っている

なにか、立っていても頼りない
ここでジャンプすれば、あちらまで行けるのかな


慣れればね
衛星が回転し
空気が回転している事を忘れないように

中心付近は、非常に微妙な状態になっているから
少しは、泳がなくては無理ね

 「
彰浩、比呂斗の部屋は何処なの


カプセルの中でも言ったように
空室の部屋数は簡単に分かるし
名前から部屋の検索をするのは容易だけど
部屋の番号から、宿泊の者の名前は時間が掛かるのだって

匿名を指定している者も居るし


だから、空室ではなく匿名でもなく名前も表示しない部屋を探して


お言葉ですが
テヨン様
匿名とは、名前が表示しない事なのですが


じゃあ何しているのよ


使用されている部屋を何度も見直しているのですよ
他に何をすればいいか、教えてくれませんか

ロビーにテヨン、彰浩、雪野が立ち話をしていた

おや


何か

雪野が彰浩に反応した

男性でも女性でも無い人間もいるの?

テヨンが言った

馬鹿じゃない
性別の無い人間なんていないわよ
仮に居たとしても、‘中性です’と言う人間なんて居るわけ無いじゃない

ここで、毎日交代で見張ろうか


254号室
宿泊者名はマイーヌとなっているけど

見てみなよ254号室

性別の所、確かに空欄だから

雪野が254号室の情報を見た
サングラスに映し出された情報の性別の欄は確かに空欄だった
雪野の

本当

の言葉にテヨンは脱ぎかけたヘルメットと、外したメガネを付けた

この部屋を見張りましょう

 テヨン達の見張りは、長くはならなかった
雪野の順番となり、雪野が254号室を行き過ぎようとした時、向こうから比呂斗が中年女性姿のマインと歩道に乗り、来たからだった

間違い無い、比呂斗の部屋
さっき、あの254号室に消えたのを
私、見届けた
でも、何故マイーヌなんて女のような偽名を使ったのかしら
そもそも偽名を使う必要が無いのに


あの254号室は何日までの予約?


1ヶ月と成っているから、あと5日間、金曜日には何処かへ移動
また、面倒になる


いいえ
そうは成らない

ここでロゼッタストーンを頂く
彰浩、ナイフを用意して
雪野は下剤を用意して、比呂斗に接触


下剤でどうしようと言うの
第一、 私達のマインはニューヨークへ置いて来たのよ
部屋の合成器で用意するって言っても、レシピ
テヨンは知っているの


雪野
何の為に、あなた電脳を付けているの
たまには、自分の脳を使い電脳の利用の仕方を考えなさいよ

 テヨンは彰浩と雪野にロゼッタストーン奪取の計画を告げた

彰浩は金曜日まで、比呂斗が何時に部屋を出て、何時に部屋へ戻るか
しっかり記録して
雪野は、彰浩の記録を元に、比呂斗に接触し
比呂斗が金曜日の朝、下剤を飲むようにして

彰浩、金曜日、比呂斗がトイレへ行ったら、トイレで比呂斗を刺すの
一気に絶命させて
マインが比呂斗の異変に気付かぬ間に
比呂斗が死ねば、マインも活動を停止します

雪野、活動を停止したマインからロゼッタストーンを奪って
ロゼッタストーンを女子トイレに置き
彰浩と雪野は、現場から逃げて


逃げられる?


逃げられっこ無いじゃない


テヨンだけ捕まらないって訳か
少し不公平じゃないか
俺と雪野は捕まるのは


彰浩と私の役割が変われるのかしら
私が男子トイレに入るのって不自然じゃない?

雪野と私が代わればいいのかしら
雪野にロゼッタストーンを利用できるのかしら

ねえ、雪野どう
私と彰浩を解放するよう、マザーのプログラムを変えてくれる
何も、貴方が変えてくれなくて良いのよ
ロゼッタストーンを渡す条件にしてくれるだけで


雪野にそんな立ち回りができるものか


どうしようと言うの、彰浩
私、男子トイレには行きませんから

 明日は武装マインの都市へ旅立つ事になっていた
比呂斗はベットに横になり、眠る前に、とりとめも無い空想をするのが好きだった
マインは、そんな比呂斗の壁をテレビから淡い照明に変え、リフォーム室に姿を消した
 金曜日、朝9:00、比呂斗は喫茶店で、いつもの様に朝食を摂っていた
マインは対面で静かに椅子に腰掛けていた
雪野は離れた席で、比呂斗がコーヒーを飲むのを、それとなくチェックしていた
雪野は結局、比呂斗に接触することは止めた
その代わり、喫茶店の店員と仲良しとなり、比呂斗へ朝食を運ぶ店員に軽口を聞き、コーヒーカップに手にした下剤を投げ入れた
雪野の前には彰浩が、何食わぬ顔で朝食を摂っていた
 比呂斗は衛星に来た翌朝から、この喫茶店で朝食を摂るのを日課としていた
朝食を済ませると、ここのトイレに行くのも日課と成っていた
比呂斗は手にしたトーストの口へ運び、皿に残っているスクランブルをホークで纏めた
「おや」
比呂斗は何時に無い鋭い便意を感じた
急いで、皿の卵を口へ掻き込んだ
そして席を立った
マインは比呂斗のコーヒーに下剤の成分が混入していた事をセンサにより検知した
マインはトイレへ急ぐ比呂斗の後をゆっくりと追った
雪野が、マインが椅子の脇に残した包みを目にし、彰浩に目で知らせた
彰浩は、それに応え首を僅かに横に振り、雪野の行動を制止した
彰浩はマインを追い越し、比呂斗に続いてトイレに駆け込もうとした

比呂斗

トイレの扉を引いた比呂斗に声を掛けた

机で待っていて

比呂斗はマインに振り返って、そう言った
「しまった、マインが付いて来るなんて
早く、トイレの中へ入れ」
比呂斗は後ろの彰浩に気付き、彰浩に先を譲った
すると今度は彰浩が、比呂斗にトイレの扉を譲った
「僕は、ここで譲り合う程、余裕は無い」
比呂斗は再び扉に手を掛けた
「マインが来る、今だ」
彰浩は懐から布とナイフを取り出し、比呂斗の頚動脈を目指した
マインの後ろに雪野は歩を止め、マインが床に崩れるのを予感していた
彰浩の布を持った左手は、比呂斗の背後から、その口へ、右手のナイフは比呂斗の右頚動脈に流れるように向かった
その時、マインが手を彰浩に向け翳した
雪野の目には、マインが彰浩に静止を告げるような動作に見えたが、マインの手から青白い光が彰浩で繋がり、次の瞬間に彰浩が消え去るのを見た
雪野は、一瞬息を飲んだが

あわわ

と、その場にへたり込んでしまった
恐怖に小便が漏れ、床に広がった
比呂斗は異変を耳にしながらも、周辺の様子を見る余裕がなくなっていた
とりあえず用を済まさなくてはならなかった
店員が通路の異変に気付き雪野の所へ来た

可愛そうに、間に合わなかったのだね

お客さん、大丈夫ですよ
着替えなら、すぐに手に入りますから

その様に、大声を出さないで
落ち着いて下さい

そとの異変を女子トイレの中で待っていたテヨンは何くわぬ顔で外へ出た
そこには、期待したマインが立っているばかりか、雪野が床に小便に塗れて大声を上げていた

雪野、しっかりなさい

テヨンは店員や野次馬の老人に頭を下げながら、雪野を抱き起こした

このマインが
彰浩を消した

手先から青い炎が
私は見ていたのだから

何も残っては居ない
彰浩の居た影さえ残さず
あのマインが消やした

テヨンは部屋に雪野を連れ戻った
確かに雪野の言うように、忽然と彰浩が消えていた
テヨンはニューヨークの、自分のマインから、彰浩のマインが活動を停止したと報告を受けた
「比呂斗は、既にマザーのプログラムを変え、アラスカのマザーを意のままにしているのではないかしら」
正気を失った雪野を見て、空恐ろしくなった
「とても、私1人の手に負える人物ではない」
 比呂斗はマインと月面へ向かった
テヨンは雪野を伴って、とりあえずジンバリーへの報告を含め、ニューヨークに戻る事にした

*** 月面都市(武装マインの都市) ***
 月面にはドーム型の足元以外は透明な道が果てしなく続いていた

月面には人間が定住する都市はありません
宿泊は14箇所あり、それぞれの宿泊場所は地球上の駅同様、店も部屋も有ります、駅と違ってカプセルの発着場所はありません

それぞれの宿泊場所の従業者は、チューブの中を移動します
1週間で交代し、1ヶ月で1週間の勤務です

月面を観光に来た人達は、皆、徒歩で15日かけ一周します
重力が少ないでしょ
歩くのも、苦になりません


その観光を僕達もするのだね


そうです、地球に対する月の役割が自然に体感できるようになっています

ドームの中には、比呂斗と同じ様に誰もが歩いていた
中には、重力の軽さを跳ねながら行く若者もいた

月の1日は、確か1ヶ月?


心配しなくても大丈夫
24時間を1日と呼んでいるから

火星の場合と違って
衛星や宇宙船では24時間を1日と呼んでいます


そうだよね
15日が15ヶ月の事かと、一瞬考えてしまった

そんな訳無いよね
外には武装マインと戦闘カプセルしか見えない
無数の星は確かに美しいけど、衛星で充分眺めた
遠くのクレータは幻想的だけど、この風景を15ヶ月はつらいものが
それを聞いて、ほっとした

一体、月に武装マインは何体?


月面には武装マインが80万体、戦闘カプセルは16万機です
明日からは、武装マインと戦闘カプセルによるデモンストレーションが見学できますよ
駅付近でデモンストレーションを行なえない理由が、明日分ります

4時間歩き、宿泊場所に着いた
途中のチューブからの眺めは、何1つ変化は無かった
比呂斗は、その武装マインと戦闘カプセルの列に圧倒されていた

チューブは観光の為だけに有るの?


各宿泊場所から、駅に直接接続するカプセル専用のチューブが地下に有るけど
宿泊勤務の人と緊急用です
月面には、観光の為の歩行チューブだけです
マインには空調も酸素も必要有りませんから


それはそうと
ずっと気になっていたのだけれど
一如真人さんと単清さんとリロイさんが特質すべき人達なの?


いいえ
マザー世界にも、ヨーロッパ世界にも
ネクスチューマンの中にも、特質すべき者は大勢います
過去にも、途切れる事無く
無数の人が存在したし
現在でもそうです


それほど居るとは思えないけど


科学者だけでも200人以上居ますよ
ボーエンでも10人は居ましたよ
会いたい?


会いたくない

マインは比呂斗の顔を覗き

知りたい?

「知りたければ自分の電脳で調べるさ」
比呂斗はきっぱりと

知りたくない

 次の日、マインの言った通り、月面の武装マインは隊列を作り行進していた

武装マインの行進が壮観だけど
反面、滑稽に見えるね
まるで「集団兎跳び」みたい

思わず、テレビで見た
怖いマッチョなお兄さん達のラインダンスを連想しちゃう

月面は土埃が上がっていた
空中にはカプセル一面に覆っていた

こんなこと毎日繰り返されているの


毎日切り返されています


メンテナンスの為?


メンテナンスは、この様な事をしなくても出来ます
観光客の為です


僕達を楽しませる為だけに
この様なデモンストレーションを?


それだけではありません
強大な軍事力を誇示する為でもあるのです


誰がマザーを侵略するのさ
戦う前に勝負は着いている様な物じゃあないか


マザー世界の人間にもテロでマザー世界を転覆しようとする誘惑を捨てさせる為
マザー世界の事が「赤の民」に伝わり、ヨーロッパ世界に喧伝される事で
比呂斗の考えたように
「戦う前に勝負は着いている」と常識の様に思わせるの

 次の日も、その次の日も、嗜好を変えた武装マインと戦闘カプセルのショーは続いた
10日目、比呂斗達は月の夜を歩く事になった
そこで宇宙戦争の実演を見る事になった
葉巻型の宇宙船が何千と地球の方から現れ、ふいに比呂斗達に向けて無数のミサイルが発射した
比呂斗を始め、チューブの中がパニックのようになった
観光客のそれぞれのマインは、既知の事らしく、人間が不測の行動をしないように注意していた
比呂斗の手は、マインにしっかり握られていた
すると、カプセルからレーザーがミサイルに向け照射された
カプセルから赤いビームが伸びた
空中爆破されたミサイルが閃光と共に消えたようだったが、ミサイルの数はそれに勝っていた
カプセルの撃ち漏らしたミサイルが依然比呂斗達に向かってくる
月面の武装マインが一斉にレーザーを照射した
あわやと言う所で、チューブの中の人間がミサイル攻撃から一瞬で救われた
暫くして、破壊されたミサイルの破片がチューブを覆い、乾いた落下音が聞こえた

比呂斗達観光者は、14日目には一様に、月面や空中でどの様な奇抜なショーが行われようが、すっかり慣れてしまっていた



*** 宇宙船都市(旅人の都市) ***
 宇宙船都市は4基あり、その第三宇宙船都市に着いた。
宇宙船都市は旅人の都市とも呼ばれていた

宇宙船都市は、約200年前宇宙へ旅立った宇宙船と同じ構造となっています
ここの宇宙船は、その中でも最小の物で、1基に4万人居住しています


学校で千300万人が宇宙へ旅立ったと教わった、その宇宙船?


ええ


その宇宙船、今どうなっているの?


26個の船団で130基の宇宙船が旅立ち、3船団が、今もそれぞれの目的に向かって航行しています
12船団が内部で戦闘が発生し崩壊しています
115船団は、現在連絡が取れず、行方不明となっています

1船団は、3基以上の宇宙船で構成され、宇宙船1基に平均10万人収容しています
他の惑星に移り住むに、最低30万人が必要を試算されたからです

合成器と分解器が発明され、可能になりました


その時、アラスカのマザー設計者の多くが宇宙へ旅立ったのでしょ


地球の未来に失望したからでした

地球の最適人口を30億人と計算しました
宇宙船の大きさを、10万人の人口に対応する大きさで算出すると同時に


なぜ、30万人で計算しなかったのさ


3基の船団と言っても、その3基の間は1万キロ離れています
流星等と遭遇しても全滅しないように

そして、1基の宇宙船は数千の小宇宙船として機能するよう設計されました
被害が最小限に留まる様に

小宇宙船での生存は1ヶ月程度
1ヶ月有れば、残りの2基との距離1万キロは問題にならないでしょ

この宇宙船も、そのような構造となっています

比呂斗は宇宙船の外に幾つかの光の点が移動するのを見た

流れ星?


いいえ、旅立ちの宇宙船です
宇宙の旅を望む人はここから出発するの
ここが、その様な人達の基地となっているから
旅人の都市と言うの


 雪野は衛星都市からニューヨークへ戻るカプセルに乗る前に、テヨンの手を振り解き宇宙の中に自ら飛び出していった
テヨンはニューヨークでジンバリーに会い、事の顛末を報告した
ジンバリーは水中都市のボーエンで崎尾に会っていた

分りました
後は我方で処理します
ロジャー-アルトマンと言う優秀な者がいます
彼を派遣しましょう
ただロジャーは比呂斗に面識がありません
比呂斗の写真もお持ちで無いとすると
テヨンさんにご同行頂けませんか

いえ
ロジャーに比呂斗を引き合わせて下されば、それで良いのです
遠目で良いのです
後は、ロジャーが行いますから

 ボーエンにロジャー-アルトマンが呼ばれやって来た
テヨンは再三再四、ジンバリーの指令を辞退していた
テヨンは、自分の子供を持つ夢など雪野の死と共に失っていた
しかし、ジンバリーを始め、組織はそれを許さなかった

テヨン、君の辞退は、そのまま受けたいのだ
しかし、君しか比呂斗を知る者はいない
写真でも有れば、それでも構わない
それも無い、「写真を撮ったのだが写っていなかった」では
組織の500名を、どうして説得できるのだ
君は、君の言っている内容で納得できるか


だから、私は、比呂斗が既にロゼッタストーンにより
アラスカのマザーのプログラムを変えたのではないかと
言っているのです

彰浩が雪野の目の前で消え、雪野はその恐怖で発狂し、自殺したのです
普通の人間に、彰浩の衣服、持ち物も含め、一瞬に消し去る事が出来るものですか
分解器ではないのですよ、比呂斗は

インド、スーラトで忽然と消えたトニーも比呂斗によって


よし、君の推理のように、比呂斗がロゼッタストーンでマザーのプログラムを変えたとしよう
でも、テヨン、冷静に考えてくれないか
私は情報処理に詳しい訳ではないが
プログラムするには明確な意図が必要なのだよ
比呂斗に彰浩を消し去る、如何なる意図が考え得るのだ
仮に、自分を襲おうとした者を消し去るように意図したとしよう
比呂斗に襲われる可能性は、ロゼッタストーンを持っている事
何も、そのような面倒なプログラムをしなくても
ロゼッタストーンを破壊すれば良いじゃないか
誰にも分かる公の場所で


...


いや
あれが比呂斗だと
遠くから教えてやりさえすれば良い

「赤の民」のロジャーがどんな災難に見舞われようが
君に気遣ってくれと頼んでいる訳では無いのだ




*** 火星都市(囚人の都市)
 宇宙船都市を発ち、3つ有る火星都市の第一火星都市に着いた。
火星はマザー世界で殺人等の重罪者が送られるので囚人の都市と呼ばれていた。
第一火星都市の駅に降り立った比呂斗は、今まで訪れたどの駅にも有った、グループの占める‘店’と呼ぶ活動スペースがない事に違和感を覚えた。

火星には店が無いの?


駅には無いけど、駅の外には有ります


ここは第一火星都市、第二、第三も同じなの?


2121年、地球上の人口が80億を越え、温暖化、食料問題、南北問題が
どれを取っても人類の存亡の危機にまでなりました
それらの解決策として、衛星都市、宇宙都市、月面都市と共に火星都市建設が始まりまし
た。
ユーロ圏は、今、第一火星都市と呼ばれる位置に
アジア圏は、第二火星都市と呼ばれる位置に
アメリカ圏は、第三火星都市と呼ばれる位置に
それぞれ都市を競うように建設しました
宇宙船都市は4つあるでしょ、ロシア圏が宇宙都市までは、都市建設の競争に加わっていたけど余りもの出費で、火星都市建設を諦めたから、火星都市は3つになりました
人口衛星都市が多いのは、アフリカ圏からの参加と、アメリカ、中国、日本が独自の衛星都市を建設したから衛星都市は8つ
月面都市は、衛星都市に次いで建設されたけど、この時は世界共同だったから軍事バランスが配慮された為1つでした
火星に都市が建設された後は、3つの都市は同じ様な歴史を辿りました
火星の都市の、一番乗りの住人は犯罪者で100年以上の刑が確定した人達でした
火星都市は地下に作られて居るでしょ、誰も火星に移住を望まなかったの次に来た住人は、所謂ヒューマニストでした
「受刑者と謂えども、人間としての文化的生活を送る権利が有る」と言って
火星都市は犯罪都市と揶揄されるように成る程、初めは混乱しました
受刑者とヒューマニストの居住区は厳格に区別されていたのに
10年が過ぎると
犯罪者の居住区からヒューマニストが現れ
ヒューマニストの居住区から犯罪者が現れました
20年が過ぎると
犯罪者の居住区に規則ができ
ヒューマニストの居住区の規律が緩やかな物となり
30年が過ぎた時、どちらも地球上と同じ様になりました
犯罪者の居住区とヒューマニストの居住区の区別が
無くなってしまいました
2140年ガウンゼンによる、ゴブリン禍が起きました
調度この頃、火星で居住区の撤廃が起こったのです
それは地球からの物資の供給が10年間停止状態になったのに関係しています
犯罪者と言えども、全員が協力し会わなければ火星の人類は滅亡するしかなかったからです
事実、月面都市と衛星都市は一旦、この時に滅亡しています。
2157年ロボットがアンドロイドに発展すると、3年後、総ての都市は再び地球と繋がりました。
この時から月面都市はマインの都市となり、衛星都市が老人の都市となり、宇宙船が旅人
の都市と呼ばれるような性格が形作られたのです。
地球上は以前の国家体制は崩壊し、未曾有の破壊が人類を1つの世界にしました。
勿論、偉大な指導者ユン-ピョンの手に因ってだけれど
2220年ユン-ピョンの構想したマザー統治が決定しました
マザー統治を嫌う人々は、宇宙船で旅立ったり、あるいは地球上でマザー統治外となりました。
それらの人が嘗てのユーロ圏に多かったのでマザー世界からヨーロッパ世界と呼ばれています
2225年ヨーロッパ世界でネクスチューマンの大虐殺が起こりました。
マザー計画の多くの人が大虐殺を非難し、ネクスチューマンを保護したため
ネクスチューマンの絶滅を指向する人々が「赤の民」としてマザー計画から離れました
同時に「赤の民」ヨーロッパ世界からマザー統治の人々が、マザー世界と呼ばれるようになりました
2225年マザー計画が完了で

比呂斗が口を挟んだ。

休みもせず
よく喋るね
僕は、第二、第三の火星都市が、ここ第一火星都市と同じか尋ねたつもりだったけど

マインはにこりとして

マインですから、1日中でも大丈夫
コーヒーを飲まなくても、喉も渇きません

比呂斗は手にしたコーヒーを机に置いた。

マザー計画が完了して?


2195年の事件以来、開発及び使用が停止されていた合成分解機の本格使用となり、マイン、電脳の利用方法を決定し都市建設、カプセルの駅と通路の建設を行いマイン統治となったのです
この火星都市も、この時現在の構造に整備されました
火星内の、直接3都市間の行き来が出来なくなったのは、この時です
マインが、火星駅から都市内に出る事の出来なくなったのも、駅以外からマインが一掃されたのも、火星都市の建設が完了した、この時です


なぜ、火星都市だけマインを排除したの


犯罪者の送致場所と決められて、犯罪者には自活を要求したからです
また、逃亡者に逃亡先を用意したのです
マザー世界では、マインと監視カメラが都市システムに接続され、都市システムはマザーに接続されている為、逃亡者の隠れ先は都市内には有りません
逃亡者にマザー世界から逃げるか、マザー世界で火星に逃げるかの選択肢を用意したのです


都市外に逃げれば自由で良いじゃないか、なにも火星に来なくても


比呂斗、都市外に逃げた人達の90%は、餓死するか野生動物に殺されているの
「赤の民」に救われたり、「赤の民」やヨーロッパ世界に辿り着ける幸運は10%
比呂斗の場合、日本から逃げるのは、「赤の民」にしろヨーロッパ世界にしろ、海を渡らねばならず、生き延びる事の出来る確立は1%に満たないの

比呂斗はコーヒーを再び手に取っていた。

僕は逃げる必要はないから
僕を絡ませないで続けて


火星都市では、随分昔から都市内での自給自足が確立しています
簡単な貨幣経済が確立しています
逃亡者でなくて、自ら火星都市生活を望んで来る人もいます


僕も一度、ここで生活してみようかな


それでは2度と火星都市から出ない決心をして下さい
経験の為、ためしに火星都市に入る事はできません
この駅に戻って来る事さえできません
犯罪者が前提の都市ですから入る事は出来ても、出る事は出来ないのです
足に埋め込まれたセンサが除かれ、同時に私は消滅し、センサが無くては行けない所へは行けなくなるのです


じゃあ火星都市で生活するのは止めた
諦める

マインが口を押さえて笑い出した。

しょうがないじゃないか、お前に消滅されたら
僕は何も知らないから困るだろ

マインは、火星都市内に、来たばかりの人の手助けをする人々や組織が有る事を言わなかった。

火星都市の生活は、ほぼヨーロッパ世界と同じレベルです
ヨーロッパ世界の人々は身の回りから、ネクスチューマンを一掃したようにマザーや合成分解機のような極端な科学の進歩により発明された物を排除しました
結果として19世紀の人類と同じ様な生活になりました
一方、火星都市の人々はマザー世界の科学進歩の成果を剥奪または捨てた人々の集まりでヨーロッパ世界以上の科学は持っていないのです
ヨーロッパ世界が覇権争いをしているのに反し
火星都市にはそれが無い、あるいは出来ない事が違いです


火星都市には戦争がないの?


ミサイルを打てば天井が崩落します
火星都市は地中にあるから
天井が崩落しなくても、大停電となり、真っ暗になってしまいます
何処の区画を攻撃しても
火星都市の生態系は瓦解し、やがて攻撃側も滅びます
お互いが相手の命を支えているのが、地球上の1都市と同じ面積しかない火星都市では誰にでも感じられるのです
昔の地球の核兵器と同じ様に
その様な環境の中の人間は、憎み合うのではなく、尊重し合ったのです

要するに、スペースの問題でした
火星都市のスペースは、相手への攻撃が、やがて自らに返って来る事を実感できるスペースだったのです


火星の引力はどの位?
体が軽く感ずるのけど


宇宙船、衛星は地球の引力と同等の遠心力に成るよう自転の回転数を調整しているから
引力が地球の40%の火星では月程では無いけど、軽くなります


 テヨンは世田谷の比呂斗の部屋を前にしていた
2424年以前の比呂斗について探る、何か糸口が無いかとボーエンから世田谷に来た
「赤の民」のロジャーは、海路、中国の寧波で最終的な支度をし、テヨンとの合流場所決定を待つ算段になっていた
ロジャーが寧波を出発する準備が完了するのは、ブリスベンからの移動を考慮すれば1ヶ月の余裕があった
テヨンは次いで東京へ移動し‘都市システム’に何か情報が残されていないか調べる事にした
2403年6月11日、仮名ヒーロー、東京第3新生児院にて誕生

2423年3月5日、北緯36度36分34秒、東経139度4分28秒、著作活動
2424年6月14日、シカゴ取材旅行:と、最後の比呂斗の簡単な経歴が、そこに記されていた
「何故、現在の名前‘マイーヌ’が併記されていないのだろう」
試しにマイーヌで検索した
期待無しの操作であったが、以外にも経歴が出力された
2426年12月20日リオデジャネイロ同伴
2427年3月20日グレートバリアリーフ同伴
2427年5月20日第二衛星都市同伴
2427年6月20日月面都市同伴
2427年7月10日第三宇宙船都市同伴
表現は微妙に違っていたが、住所は世田谷の、あの部屋だった
「同一人物に、何故2つも経歴が有るの
何故、トニーが消息を絶ったスーラトでの記録は抜けているの
何故、マイーヌの経歴には‘同伴’と記載されているの
比呂斗は誰の同伴をしていたの
水上都市でも衛星都市でも比呂斗以外、誰も見なかった

きっとマザーのプログラムを変えた時
自分の‘都市システム’の記録も変えたのだ」
テヨンはロジャーに待ち合わせ位置を北緯36度56分4秒、東経138度49分25秒と指定した

私は北緯37度22分29秒、東経138度32分56秒から上陸するのが良いと思うけど、「赤の民」にも地図は有るでしょうから、待ち合わせの所へ来てくれればOK
地図は400年前の物の方が便利
400年前の人工物は無いけど、当時の道路の痕跡は残っているから
第一、地名で場所が特定できれば
北緯、東経では「赤の民」の方には不便でしょう

兎も角、私が待ち合わせの位置へ行く日時を教えて
凡その日にちなら、1週間もあれば出るでしょ
変更があれば、その都度連絡してくれれば良いわ
私にも、予定って物があるの

 4ヵ月後、陽の昇らぬ早朝に、ロジャーは水陸両用車に乗り、枕崎2Km沖で輸送艦を降りた
水陸両用車は外装を周辺同化加工されていた
輸送艦と言っても、マザー世界のカプセルに発見され、あらぬ疑いを避ける為、一見漁船に偽装されていた
その輸送艦から吐き出された同化加工の水陸両用車は、物好きな旅行者が、カプセルから見下ろしていたにしても、気付かれる気遣いは無用だった
 ロジャーはテヨンの助言の位置に上陸した
古い地図には、その地名は‘枕崎港’と記されていた
テヨンの言った通り、微かに嘗ては道路の痕跡が、草原の起伏に有った
「地上から眺めたテヨンには、明らかな筋となって見えたに違いない」
水陸両用車には戦車と違って、どの様な起伏をも越えて行ける無限軌道も車高なかった
「赤の民」の技術者もテヨンの提案に同意していた

水陸両用車にキャタピラを装備させるのは、技術的には不可能ではありません
上層部に、製作時間の制限を付けられたから、我々は無理だと結論を出したのです
装甲強度の有る戦車は、相対的に重量が有るのです
戦車に恒常的な水上移動の機能を持たせるには、基本設計から変わってしまう

テヨンは、その後、カプセルで上空から調べた、待ち合わせ場所までの経路も参考として知らせてきた
 ロジャーは参考経路通り進んだ
テヨンが待ち合わせに指定した座標地‘湯沢’に着いたのは昼を少し回っていた
運転席のスクリーンに、草原の中に佇むテヨンが映し出されていた

車を降りて
此処からは、40Km徒歩

必要な物は最小限にして
食料など、私が届けてあげるから不要

車内のスピーカーから、テヨンの声が流れた
ロジャーは、予め用意しておいたバックを取り出すと車を降りた
草を薙ぎながら、テヨンがロジャーの横に来た

思った通りね
カプセルから見降したなら、カメレオンで移動したって
踏み倒された草の道が
バレバレ

そう思って、私
3時間も前に5Kmも手前でカプセルを降りて
歩きで此処に来たのだから

今日は4時間も歩いたら、そこで野宿
目的地に着くのは、明後日
女だからと思って、変な事考えないで

ロジャーは大きな円筒のバックを背負い、蛮刀に長い柄を付けた物を握っていた
テヨンをちらっと見て、小さく頷いた
すると、水陸両用車の同化機能が解除され、黒ずんだ車体が露になった

カプセルなら、ほんの15分
でもカプセルに貴方は乗れないの、知っているでしょ

何これ
巨大なゴキブリ

テヨンはそう言うと、ロジャーの先を歩き出した
テヨンは軽合金の棒を手にし、小さなバックを背負っていた
 12Kmの間は草原の道を、テヨンを先頭に進んだ
やがて突然草原は途絶えブナなどの広葉樹林に覆われた山となった

ここから先は
昔はトンネルだった

ロジャーがポケットから地図を取り出す前にテヨンは答えていた

本当に
徹底的にアンドロイドが人工物を破壊したのね

どおせ人間が居ないのだから必要ないけど
自然に任せておいても良かったのに
ひょっとしたら
目的地に山など越えず行けたかも

ロジャーはテヨンの後に続いた
テヨンはどの様に調べたのか、獣道を辿っているようだった
テヨンの服装は厚手のアクアスーツに似ていた為、ロジャーは道中に水を渡る所でも有るのかと思ったが、それはマザー世界での登山者の服装であることが後に知ることになった

ロジャー
大丈夫、大変な汗

「赤の民」には登山用スーツは無いの

今着ているのが、登山用の装備?
ダサいファッションかと思っちゃった

私、登山愛好クラブの人達にレクチャーを受けて来たの
初心者には、筋力補助付が良いと勧められ、これにしたの
迷彩色にして貰った
どお

テヨンがロジャーを振り返って言った

どお

と体を伸ばした拍子に、木の葉に足場を奪われ、ロジャーに倒れ掛かった
すると、ロジャーは素早く杖代わりの偃月刀を横へ投げると同時にテヨンを受け止めた

大丈夫
このスーツには衝撃吸収にもなっているから
この程度の所で転んでも、少し痛い位
放って置いて
貴方こそ、その服装じゃあ

自分の事だけ注意して
私、後ろの貴方を助けられないから

テヨンはロジャーの手を振り解くようにして、先を急いだ
偃月刀を拾うと、ロジャーはテヨンに続いた
山の勾配が増し、何時しか獣道から外れているようだった
テヨンとロジャーは両手を山肌に付き、這うように登っていた

きゃー

テヨンが再びロジャーに向かって落ちてきた
テヨンの目の前に、枝からぽとりと蛭が落ちて来たからだった
目の前に落ちた赤い塊を「何なのだろう」と、ついテヨンは確かめてしまった
木の葉の上に落ちた赤い塊は、くねくねしていた
見たことの無い、奇怪な生物に、思わず奇声を上げ、杖を放し立ち上がった
そして体が倒れ、ロジャーの方に落ちた
ロジャーは、そのままの姿勢でテヨンの圧迫に耐えた

ここで下まで落ちると
30分は無駄になります


あ、あれ
気持ち悪い生き物

ロジャーはテヨンの臀部を肩で受け止め、テヨンの居た所を見た

蛭ですよ
気持ち悪いかもしれないけど
テヨンさんには、関係ありません

肌の出ているのは、顔の一部なのだから
血を吸う為に取り付こうたって
どこも無いじゃないですか


貴方もそう思っていたのね
そうでなければ
あんな虫の気持ちなど分かるものですか

肩の圧迫から解放されるのを感じ、ロジャーは苦笑していた
1時間も行くと、筋力補助付のスーツを着たテヨンの額にも汗が浮かんだ

もう少し登れば尾根に出ると思うけど
瞼から落ちる汗、見ていられない

仕方ない、あそこで暫く休む

とテヨンは言った
ロジャーはテヨンの腰掛けた石から3m離れた所で肩のバックを根元に下ろした
テヨンはロジャーの背中が汗で濡れているのを見た
「「赤の民」の登山着には、温度調節機能もないのかしら」と思った
ロジャーはバックの上に腰掛ける時、裾を上げると腕時計に目を落とした
「「赤の民」は時計を腕に付けているのだ」と豆知識を得た気持ちで居た

5分経った
テヨンさん、先を急ぎましょう

ロジャーは再び腕の裾を上げ、時計を確認すると立ち上がりバックを背負いそう言った
「お前の為に、わざわざ休んでやったのに、偉そうに言うのじゃないよ」
と、内心で毒づいたが、憮然としてバックを背負うと、金属棒を手に取った
 暫くすると、木は低木となり、やがて視界が開け、稜線に辿り着いた
尾根を行く歩行は、テヨンにとって嘘の様に楽になった
1時間ほど尾根に沿って行くとテヨンは立ち止まり

あれが茂倉岳

と朽ち掛けた小屋を指差した

登山愛好クラブの人が言っていたけど
日本の山々は‘登山愛好クラブ’の目標ではないのだって
カプセルで谷川岳まで行き、近辺の山々を、その都度、仲間を誘いハイキングする程度じゃないかだって
だから、休みの日以外は誰も行く者は居ないと言っていた

何の返事も返って来ない後ろに向け、一人、テヨンは話していた
 山の峰伝いの眺めは、テヨンの彰浩、雪野の暗い思い出を晴らすに充分だった
カプセルからの眺めと、同じ眺めとは思えなかった
頬を抜けて行く風が実に清々しかった
茂倉岳を抜け一の倉岳の途中だった
登山用スーツの筋力補助、体温温度調節機能はテヨンに岩間の高低差を、苦痛に感じさせなかった
幾つかの岩場を登った時、テヨンは‘登山愛好クラブ’の中年女の助言を思い出した

登山スーツで谷川岳をハイキングするのではないのでしょ


私、ヒマラヤを登ろうと思っているの


そうでしょうとも
でも、やはりセパレータのスーツの方が良いと思いますよ
どうしても、そのスーツが気に入ったのなら、その服の上から着なさいよ

「女だからって、赤いセパレータスーツなんて、単純
服の上から、登山スーツが熱くて、着れる訳無い」
と思って、肌着に青い登山スーツにしたけど、中年女の言葉が正しかった
谷川岳の店が遠目に望める所まで来た時、俄かに便意を催したからだった

ちょっと待っていて

テヨンは谷川岳の店まで我慢できないと、ロジャーを待たせる事にした
先ほど、ロジャーが用を足すのを待ってあげたのだから、遠慮する謂れは無かった
峰から少し岩場を下れば、格好な岩が物陰を作っていた
 テヨンの目を付けた岩陰の下には、小さな塒が有った
癇に障る音で、塒でうたた寝していたうさぎが目を覚ました
それは、何となく危険を知らせる音だった
足音共に、その音が近付いて来た
うさぎは塒を出て、逃げようか、そのまま危険が行き過ぎるのを待つか迷っていた
 テヨンはバックを岩の上に下ろし、仕方無く、登山スーツを脱ぎ、バックの横へ置いた
登山スーツから肌着となったテヨンも夏とは言え、標高1,900mは寒かった
バックのポケットからティッシュを取り出そうとした手が震えた
ティッシュを取り出す拍子に、一緒に入っていた腕輪がすべり、岩場を転がった
その腕輪は、金属棒と同時に‘登山愛好クラブ’の中年女が

この腕輪は、獣が忌避する音が出ます
イエティも近付きはしませんよ

と笑いながら渡してくれた
テヨンは仕方なく受け取り、腕には嵌めず、バックのポケットに入れていたのだった
 物の落ちる音がし、不吉を知らせる音が、転がる音と共に塒に近付いて来た
うさぎはもう逡巡の暇は無かった
堪らず塒を捨て、外へ飛び出した
 バックから飛び落ちた腕輪の行く方向から、急に茶色の塊が飛び出した
テヨンはびっくりして

ギャー

と大声を出した
 バックを下ろし、偃月刀を片手に岩に座っていたロジャーがテヨンのただならぬ叫びを聞いた
すぐさま、ロジャーは偃月刀を引っ提げ、テヨンの消えた岩陰に向かった
ロジャーがそこに見たのは、テヨンがトップレスにピンクのパンティで立っている姿だった
 テヨンはロジャーを見て、再び奇声を上げた

キャー

ロジャーは敢えて最初の叫びの理由を聞かなかった
テヨンはロジャーが裸になった所に来た事をなじらなかった
そのまま沈黙は谷川岳の店に入っても続き、夕日を愛でる事もせず、誰も居ない店の左右に分かれると、共に寝袋を取り出し、遂に一言も交わさず、寝袋のジッパーを閉じた
 翌朝、ロジャーは空腹で目を覚ました
外はすっかり明るくなっていた
それでも、テヨンの自然の目覚めを待つことにした
それなのに、腹の虫は待ってはいなかった
頻りに、ロジャーに空腹を訴え鳴った
その音を聞きつけ、テヨンの、寝袋の顔の辺りが開いた

何、この音

テヨンは寝付かれずにいたようだった
ロジャーを見た目が赤かった

僕の腹の虫が鳴いたのさ


私に気遣いはいらないから
お先にどうぞ

と言ってジッパーを閉じた
「そう言われても、食べる物は持っていない」
ロジャーは仕方なく寝袋をバックに収めると、水筒を取り出し飲んだ
すると、水が食道から胃に流れる音が、空腹の音と共にした
いたたまれなくなったのか、テヨンの寝袋のジッパーが下ろされた

色々な音で、とても眠れそうも無い

と言って起きて来た
テヨンのその姿は、昨日とは違っていた
腕には腕輪が嵌められ、登山スーツの胸の辺りがジッパーの変わりに紐で締められ、幾つかのパーツを紐で繋いだベルトを締めていた
ベルトの前は4本の紐が蝶結びになっていた
「登山スーツの様々な機能は失われたに違いない
テヨンの目が赤いのは、作り変えに1夜を使ったのか」

あら
お腹が空いていたのじゃなかったの?


空いているけど
食べる物を持っていないから
水で我慢しようと思ったのだけど
...


そんな大きなバックを背負って来たのに
食事を忘れたの


君が車から降りる時
不要と言ったじゃないか


そうだったっけ

なら
何を食べたいの


持っている物を少し分けてくれれば
それで済ます


何も持っていないわよ


,,,


ここには合成器がある筈

そうか、「赤の民」には合成器が無いから知らないのか

合成器で金属以外なら、レシピさえ有れば何でもできるのよ
合成器より、小さなものなら
何でも食べたい物を言えば作ってあげる

私の知らない物は駄目だから
ホットドックはどう


それで充分


10個も作れば良いのかしら

ロジャーは、俄かには信じられなかったが、大きく頷いて見せた
テヨンは続いて、スパイスは何が良いか、スライストマトを挟むか、色々聞いてきた
ロジャーは面倒に鳴って

腹の虫が、何でも良いから食わせろと言っている

と答えた
結局、昼飯とその後の用意もして、朝食が済むと早々に谷川岳の無人の店を出た
 湯木曽川沿いに湯木曽に下り、そこで昼食を摂った
昼食を終えて、歩き始め、暫くするとテヨンの様子が変わってきた
頻りに体を揺らし、しばしば立ち止まるようになった
ロジャーが見ると、テヨンの顔は青ざめていた
ロジャーはテヨンを止め、地図をバックから取り出すと

目的地を教えてくれ

とテヨンに渡した
地図をテヨンに渡すと、ロジャーは偃月刀を片手に山に入った
切り出してきた枝を、バックの底に敷き詰め、椅子と成る様な張り出しを作った
次にバックから毛布を2枚取り出すと、テヨンの地図を覗き

分ったか

と、言った
テヨンが地図の1点を指差すと、その場所に書かれている文字を読み取った
そして、2枚の毛布をテヨンに巻きつけた
テヨンは寒さと疲れで、抗する気にも成らず、ロジャーのするままに従った
次にテヨンを抱くと、バックの枝で作られた部分に尻を乗せた
そして、バックにテヨンを括ると、ロジャーはバックに手を通し、一気に立ち上がった
テヨンの身体はふわりと地上を離れ、ロジャーの背で、歩に合わせ揺れた
テヨンの身体は揺れと共に次第に温まり、不眠と疲れで心地よい眠りに落ちた
 テヨンが目を覚ました時、道脇の土手に、ロジャーのバックに座ったまま乗せられていた
身体の自由が利かず、目が覚めた時、何が起こり、どうして此処にいるか分らなかった
そうして居る所へロジャーが来た
ロジャーはテヨンの顔を覗きこみ、額に冷たい手を当てた
「私は気持ち悪くなり、毛布で巻かれ、ロジャーの背で揺れていた」
ロジャーは何も言わず、ただニッコリしただけだった
ロジャーはバックとのロープを解くと、毛布を1枚剥いだ
そして、谷川岳で用意した夕食をテヨンの前に広げた
ここで二人は各々寝袋で1夜を過ごす事にした
 翌日、目的地点に到着すると、テヨンは、そのまま前橋に向かう事にした

カプセルは大丈夫なのか?

てっきりロジャーは、ロジャーと同じ様に、テヨンもカプセルを置きっぱなしで来たと思っていた

私、あそこまで乗せてもらったの

とテヨンは笑った
笑った時、右手を口元に当てた為、右手の腕輪が際立った

この腕輪は、獣よけ、獣が忌避する音を発生しているのだって


それ僕にくれませんか?

テヨンにロジャーの微笑が、拭いきれない羞恥を思い出させた
「私が、この腕輪が元で悲鳴を上げた事を知っているのだわ
私の弱みを取ろうとしている」

いやよ
男の貴方に、この腕輪は入らないでしょ

そう言うと、さっさと前橋に向かって歩き出した
そんなテヨンの後を、偃月刀を下げロジャーが続いた
前橋駅の郊外に広がるクラブが野菜を育てている畑が見える所まで、ロジャーはテヨンを見送った

明日、1週間分の食事を持って行ってあげる
比呂斗が帰ったら直ぐ来るけど、でなかったら、1週間毎
もう私は大丈夫、じゃあね

 テヨンは実はロジャーの所へ通うのが楽しみだった

1週間毎

と言った手前、はやる気持ちを抑え、ロジャーを訪ねるのを指折り数えていた
1週間で必要な、考え得る、あらゆる物を、特に食事は朝夕夜食と分け、それを1日毎にパックして行った
ロジャーの所へ行く日は、朝早く行き、夕方まで居た
歯痒いほど無口なロジャーが話す、ロジャーの話を聞くのが好きだった
そして何より好きなのは、ロジャーの着物の洗濯だった
ロジャーの所に通い始めた9月が、何時しか新しい年を迎えようとしていた
 この日、テヨンは新しい厚手の下着6着と、特大のステーキの入った1週間の食料をカプセルに積み込んだ
そして、毎日チェックしている‘マイーヌ’の所在を確認した
結果は何時ものように‘不在’だった
 前橋の屋上から、ロジャーの驚きの顔を思い浮かべ、カプセルを飛ばした
「きっとロジャーは、年が改まった事も知らず、木の上で今日を迎えている」
テヨンには揺ぎ無い未来があった
<比呂斗からロゼッタストーンをロジャーが奪い、ロジャーは1000両を「赤の民」から受け取り、故郷、シチリアへ
「赤の民」はアラスカのマザーを無能化し、私達は一番に子供の生める身体に
手術を受けた私は、私を待つロジャーのシチリアへ>
雪雲が垂れ込めていた
雪雲の向こうに微かに三国山脈の山々が見えていた
カプセルが、その山裾に向かって下降し始めた
着陸の位置は、嘗て比呂斗が通った座標だった
「木の上から、カプセルの着陸をまっている
カプセルから、沢山の荷物を抱えて降りる私を見て
ロジャーが木から急いで降り
私の手伝いに来るだろう」
カプセルが着陸した
テヨンは荷物を両手に用意の荷物を抱え、カプセルを降りた
ロジャーの影を探した
「まだ寝ているのかしら」
ロジャーの木の見える所まで来て、根元に異様な物が有るのを見つけ
「何を根元に置いて居るのだろう」
と思い、さらに近付いた
それは物ではなく人間が横たわっていた
ぴくりともしない
悪い予感がテヨンの脳裏に走った
両手の物を振り撒き、根元に向け走った
根元に横たわる人間はロジャーだった
顔の半分は削ぎ取られ、元の顔が分らないほど崩れ、ハエの群れている目の前の死体は、、紛れも無くロジャーだった
千切り取られたその衣服が、見慣れたロジャーの着ていた物だった

ロジャー

流れ出た血液が黒く変色していた
偃月刀が1m離れ横たわっていた
何物かに、偃月刀での対応も無い間に、強烈な腕力で、一方的に襲われた
テヨンは途中までしか無い梯子を昇り、樹上の小さな部屋でロジャーを呼んだ
部屋には電子機器と寝袋とバックと粗末な棚が有った
棚にはカバーの付いたナイフとノートが一冊乗っていた
無造作に棚のナイフを手にし、ロジャーを見出せなかったテヨンは再び地上に降りた
ロジャーの回りに、獣の足跡が無数に見えた
「熊、ロジャーは熊に襲われた」
居た堪れなく、この現実を消し去るように、カプセルに向かって疾走した
そして、立ち止まるとロジャーの所へ悄然と戻った
「ロジャーを葬ってあげなくては」
手にしたナイフのカバーを取ると、偃月刀の横をナイフで掘り始めた
土は柔らかく、掘り易かった
何気なく、マイーヌの所在を確かめていた
‘在宅’
「ロジャーの居ない今、何の意味も無い」
ロジャーとの思い出が、次々に脳裏を巡った
シチリアに老母を残し、生活の為「赤の民」の傭兵に応募した
ロジャーは、諜報員としてオーストラリアで訓練を受け、崎尾の指示により今回の日本行きとなった
ロゼッタストーンを奪った暁には、1000両が約束されていた
1000両を貰えたなら、「赤の民」を離れ、故郷、シチリアに戻るつもりだった
崎尾から突然の呼び出しが有ったのは、孫美麗の口添えが有ったからだった
中国に渡り、水陸両用車の完成を待って、テヨンの指示した座標に上陸した
ロジャーにとって、テヨンとの出会いは、思いがけない幸運だった
食事と衣服の労力を、これに裂くことから開放されたからだった

テヨンのお陰で、これが無用の長物になったよ

ロジャーは、或る日、偃月刀を振りながらテヨンに言った
そう言った後も、ロジャーは常に偃月刀と共にあった
「それなのに何故
ロジャーなら偃月刀で熊と戦えた筈
根元で転寝の所を突然襲われたのか

そう言えば、ロジャーは腕輪を欲しがった
あの腕輪さえ
あの時、素直にあげていたら

始めて涙が込上げてきた

比呂斗に会おう
会ってロゼッタストーンを
「赤の民」から、ロジャーに変わり1000金を受け取り
彰浩のように消されようが
惜しむ人生は無い

ロジャーの遺体を穴に入れ、放散していた腕などを丹念に拾い集め、土を覆った
ロジャーのナイフはカバーに収め、テヨンのポケットに入っていた

 比呂斗は長時間のカプセルの旅を終え、久々の世田谷に戻っていた

世田谷に戻った時、世田谷は新しい年を迎えています

マインの、その言葉を聞き比呂斗は充分の睡眠をカプセルで取っていた

センサを外されている事を知って
本当に、「これで一生、火星都市暮らし」と覚悟した

でも何故センサを再び付け、火星の駅に戻って来れたのかな
お前も待っていてくれたし


犯罪者ではなかったからではないですか


僕は駅の部屋で眠り、起きたらセンサが外されていた
訳が分らず、最初の頃は随分苦しんだ

心細かったけど、その日に凄い人に会った
向こうから話し掛けて来たのだ
60歳位の叔父さんだった
その人の名はヨーゼフ

お前も長い事待っただろ
ヨーゼフさんから、色々教えてもらい
とっても楽しかった
...

比呂斗は世田谷の部屋に戻ってから、次々とマインに火星都市での経験を話していた
部屋の外に誰かが尋ねて来た
比呂斗は話を中断しドアに向かった
ドアのスクリーンに異様な雰囲気の若い女性が映っていた

何か用ですか


テヨンと言います
マイーヌさんにお願いが有り伺いました
話を聞いて頂けますか


僕は比呂斗です
マイーヌ?

比呂斗は何処かで聞いたような名前だと思ったが、はたと思い付いた
扉を開くと

マイーヌは僕がマインに‘ドラゴン広場’で付けた名前です

テヨンさんのお願いとは何なのですか
協力出来ないかも知れないけど

間違いない、目の前の青年はボーエンから第二衛星に追った比呂斗だった
ナイフの柄をポケットの中でしっかり握り締めた

比呂斗さんが今お持ちの
リリアンの形見
ロゼッタストーンを私に頂けませんか

ナイフのカバーのホックを外した

リリアンの形見はバベルの塔の額ですが

そうか、マインがロゼッタストーンと言っていた

比呂斗は部屋の中のマインに言った

あれ、ロゼッタストーンと言っていたよね

どうぞ、テヨンさんがお持ち下さい
リリアンにとって僕は、只の通訳を頼まれた者の一人に過ぎないのです
ジュリアーノと言うリリアンの同僚から届けられた時
「ジュリアーノの方が、形見を受け取るに相応しい」と思ったのです
貴方とリリアンがどのような関係か知らないけど
形見が僕の所にある事を知るには、きっとジュリアーノから聞いたのでしょう

マイーヌ、リリアンの額の包みを取ってくれないか


何なの
どうなっているの
マインを呼ぶ口実なの

比呂斗はマインから包みを受け取ると、テヨンに差し出した

縁のある貴方に受け取って頂けたら
きっとリリアンも喜ぶでしょう


トニー、彰浩、雪野
ロジャーの死は、何だったの?

ポケットに入れた右手からナイフを放し、左手と共に、比呂斗から差し出された包みを受け取った




*** 閑話 ***
仮想空間のマリアが登場は8_0伍員
今年こそは年賀状を作ろう、しばらくお休み
P R
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