揮発性の恋 第一話 

February 13 [Fri], 2009, 0:50
ゆるいカーブをゆっくりと曲がった直後、
急にエンジンの回転が鈍くなった。
とまどいながらスロットルを回すが、スピードはたちまちのうちに落ちていき
マフラーからの排気音もとぎれとぎれになってきた。
そういえば一昨日ガソリンがなくなり、
予備タンクのガソリンで帰宅した後、給油に行くのを忘れたままであった。
ウインカーを出して車体を左に寄せ、ブレーキをかけたと同時にエンジンも停止した。
このへんにスタンドあったかな…?
とりあえずは自宅の方向に向けて単車を押して歩く。
10分ほど歩き続けたところで少し先に石油会社のマークの看板が見えた。
よかった、あと少し。
スタンドに入ると「らっしゃあい」の声で迎えられた。
事務所から店員がとびだしてきて俺を誘導する。
「現金でいいですかあ?」
ショートカットでさらに帽子をかぶっていたためすぐにはわからなかったが、
その店員は若い女の子だった。しかもかなりかわいい。
「あ、あ、あの、げ、現金で…満タンで…」
「はいっ、現金満タンですね」
俺はどきどきしながら給油するその子に見とれていた。
心はずっきゅんである。
「ガス欠ですか? どこから押してきたんですか?」
「え、あ、あの…まあ、そんな遠くじゃないです」
その日の会話はそれだけだった。

その翌日からおれはどこへ行くにも単車を使った。
さすがに矢沢永吉のように
「10メートル先のタバコ屋にキャデラックで」とまではいかなかったが、
それに近いことはやった。
それまでは歩いて通っていた大学にも単車で通い、買い物、用事、アルバイト、
その他の外出はすべて単車を使った。
そうやってガソリンを減らし、
わざわざ少し遠くにある「あの子のスタンド」まで給油に行った。

あの子は見たところ原付や二輪の給油を主に担当しているようで、
車が入ってきてもなかなか出てこず、
男性店員全員の手がふさがっている時だけ車の給油をしている様子であった。

初めての出会いから1ヶ月、その間に10回給油に行った。
休みであったのか姿が見当たらなかったことが2回、
他の原付に給油中だったことが2回、あと6回は彼女に給油してもらった。
しかし、かわす言葉はいつも同じ、
「いらっしゃいませ」
「レギュラー満タン、現金で」

何か話さなきゃ、何かきっかけを作らなきゃ、とは思うのだが、
何を話せばいいのか思い浮かばないのだ。
こういう時ってどうすればいいんだろう。
思い悩んだ末に、彼女のいる先輩に相談を持ちかけてみた。
「ガソリンスタンドやろ、給油だけやったら簡単に終わってしまうから
 簡単やないことしてもろたらええんや、パンクしたとか、ライトの球切れとか…
 それを修理してもらうんや、その間見とくだけやなくて手伝いもしてやな、
 そうしてるうちに話もできるやろ」

なるほど・・・そうか・・・。
他愛のない方法であっても今のおれには大きな一歩であった。

--- 続 く ---
P R
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