3.涙 

February 27 [Mon], 2006, 21:47
「……え?」
私は耳を疑った。いや、信じたくなかったのだ。
「今、何て言った?」
智華は無言だ。智華の心境をわかりながら何度も訊き返してしまう。私は何をしているんだ。
「嘘…でしょ?」
少しの間をおいて、智華は小さく首を横に振った。
「うそ…そんな…。」
私はもう、何がなんだかわからなくなっていた。ただ、智華のその言葉に驚きと戸惑いを隠せなかったのだ。そんな私を見て智華は言った。
「別に、朝未が悪いとか言いたい訳じゃ無いからね。だってこんな事朝未にしか言えないもの。でももしかしたらあたしだけじゃなくて朝未も同じ目に遭ってたかもしれないって思うと、あたしだけでよかったと思ったんだ。だから気にしないで。」
無理に笑顔なんて作らなくていいのに。私はそう思い、心が痛んだ。こんな事を言われても、智華を一人にしてしまった私が悪いのだと自分を責めてしまう。
「…ごめんね。」
何故だろう、涙が溢れてきた。私には智華の辛さなどわからない。ただ一つ言える事は、私は同情心で泣いたのではないと言うことだ。
「あたし…傷が治ってから学校にいくね。」
「智華のお父さんとお母さんはこの事知ってるの?」
「知らないよ。ここ一週間まともに会ってないから…。」
智華の両親は大手企業を経営している。その為、智華は昔から一人で居ることが多かったのだ。だからこんなにしっかりしているのかもしれない。
「そっか。なにかあったらいつでも言ってね。」
「うん。」

その日、それ以上私は智華に言葉を求めなかった。

2.痛み 

February 25 [Sat], 2006, 0:47
次の日、智華は学校に来なかった。私は心配になり、「今日どうしたの?熱でも出た?」と、メールを送った。けれど、夜になっても返事は無かった。次の日も、その次の日も智華は学校に来なかった。
ついに、智華が学校に来なくなって一週間が経った。流石におかしいと思い、智華の携帯に電話をしてみた。
「…はい。」
「もしもし智華?どうしたの、一週間も学校休んで。何かあった?」
「……。」
返事がない。
「…智華?」
「…明日、あたしの家に来て。話がある。」
智華は深刻そうに言った。
「わかった。じゃあ明日ね。」
そう言って私は電話を切った。…嫌な予感がする。なんだか妙な胸騒ぎがするのだ。その夜、私は心配であまり寝つけなかった。

私は学校を休み、朝から智華の家に行った。案の定、智華の両親は仕事に行っている様で車はなかった。流石に平日の住宅街は静かだった。私は恐る恐る玄関のチャイムを鳴らした。
ピンポーン。
チャイムの音がこの空間の中に木霊する。返事が無い。私はもう一度チャイムを鳴らそうとした。その時、ガチャっという音と共にドアが小さく開いた。
「入って。」
智華は静かにそう言った。
私は智華に従い、家の中へと入った。何年ぶりだろう、この家に来るのは。そう懐かしさに焦がれながら、私達は智華の部屋に行った。その間、智華は私に一度も顔を見せなかった。
部屋はやっぱり広かった。智華と私は正面に向かい合って座った。その時、私は自分の目を疑った。
「と、智華、どうしたのそのアザ…。」
智華は黙って俯いた。その時、頬に一筋の涙が伝うのが見えた。智華は大きく息を吸い込んで、口を開いた。
「あたし…あたし…レイプされちゃった。」

1.はじまり 

February 22 [Wed], 2006, 15:45
春、やっと私の望んだ季節がやってきた。桜の花びらが風に舞い、鳥の囀りがなんとも清々しい。見渡す限り平野が続いている。都会育ちの私には見たことのない光景だ。
「ね、朝未、すっごいいい所でしょ。」
那歩はまだ出会って間もないと言うのに私を快く迎えてくれた。私には家族も友達もいない。いや、いなくなったのだ。2年前、あんなことさえ起きなければ。   

高校2年の夏、全ては起きた。

私は都立高校に通う自称平凡な高校生。家族や友達に恵まれて、毎日が幸せだ。
私はその日、智華と2人で渋谷へ買物に行った。相変わらず人が多い。その人ごみを掻き分けていくだけでかなりの労力を使ってしまう。
「朝未、こっちこっち。」
「ちょっと歩くの速くない?もう少しゆっくりでもいいじゃん。」
「そんなこと言ってるからすぐ人の波に流されるんだよ。ほら、信号変わっちゃうよ。」
友達の中でも智華とは特に仲が良かった。親友というのだろうか、智華といるとすごく落ち着く。いや、気が楽だといった方が正しいだろう。何も考えずに付き合える唯一の人間だ。時には私を貶し、時には褒めてくれる。とても人の扱い方が上手い奴だ。
「晩御飯どうしよっか?」
どうやら夜までいるつもりらしい。
「智華は何がいいの?」
訊くまでも無いが、一応尋ねてみる。
「あたしは別に、何でもいいよ。朝未が決めて。」
世話好きな割には優柔不断らしい。何かを決める時はいつも私を頼ってくる。
「じゃあ適当にパスタでも食べよ。」
「パスタか…よし、決まり。」

午後10時。いつもならこの辺で帰るのだが、今日は両親がいない。夜通し遊んでも誰も怒る人はいないのだ。この時間を廻っても、渋谷にはまだ人が溢れていた。
智華もまだ帰る気は無いらしい。ショッピングバック片手に呑気に鼻歌を歌っている。
「あ、ちょっとトイレ行ってくるから智華此処で待ってて。」
「うん。わかった。」
そう言い残して私はトイレへと向かった。
戻ってみると、智華がいない。何処を探しても見つからないのだ。私は智華の携帯に電話をかけてみた。…出ない。何度コールしても出ないのだ。私は家に帰ったのだと思い、諦めて帰ることにした。最後に智華に「もう帰っちゃったの?何処にもいないみたいだからあたし帰るね」というメールを残して。
  でも、その時にはもう遅かったのだ。
P R
+++章+++
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