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July 16 [Mon], 2012, 4:00
「ぢやあ、教父
とつ
つあん、お前は、まだ補祭がとこの新家へは行かなかつたのかい?」と哥薩克のチューブが自分の家の戸口を出ながら、短かい皮外套を著た、痩せて背のひよろ長い相棒の百姓に声をかけた。その男の髯もぢやな顔は、もう二週間以上、よく百姓たちが剃刀を持ち合はせてゐないところから髯を剃るのに使ふ、あの鎌の破片
かけ
も当てられてゐないことを物語つてゐた。「今夜あすこで、素晴らしい酒宴
さかもり
があるだよ!」と、茲でにやりと笑顔を見せてチューブは語りつづけた。「どうかまあ、遅参にならなきやあよいがのう!」
 そこでチューブは皮外套の上からしつかり緊めてゐた帯をなほして、帽子をぐつと目深に引きさげると、煩さい野良犬を嚇すための鞭を手に握つた。だが、空を見あげて、思はず彼は足をとめた……。
「これあ、いつたい、なんちふことだ! おい見ねえ! 見ねえつたら、パナース!……」
「なんだね?」と言つて、教父
クーム
も同じやうに空を見あげた。
「なんだぢやあねえや、お月さまが無くなつたでねえか!」
「はあて、面妖な! ほんに、お月さまがねえや。」
「だから、ねえつていふのさ!」チューブには教父
クーム
の相も変らぬ暢気らしさが、少し忌々しかつた。「お前にやあ、いつかうに構はなささうぢやけれど。」
「だといつて、おらにどうしやうがあるだよ?」
「これあ、てつきり、なんだよ、」と、袖で口髭を拭きながらチューブが言葉をついだ。「どこかの悪魔の奴めが――そん畜生にやあ毎朝一杯づつの火酒
ウォツカ
も呑まれなきやあええだ!――邪魔をしくさるのに違えねえだ!……ほんに、人を小馬鹿にしやあがつて……。家んなかにをる時、わざわざ窓から見れあ、殊の外にええ晩ぢやねえか! 明るくて、雪は月の光りにピカピカと光つてまるで昼間のやうに何もかもよく見えたつけが。それが一歩
ひとあし
そとへ出るとどうぢや、まるつきり眼を刳りぬかれでもしたやうでねえか! ちえつ、ほんとに、カチカチに干からびた黒麺麭でそん畜生の歯が残らず折れてしまへばええ!」
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