ПоТоМ:1:遊んだげようか? 

2006年11月13日(月) 19時12分

遊んだげようか?
…暇なの?
可愛いーくないね

それが、俺と藤緒の出会いだった。

---------- ПоТоМ:1:遊んだげようか? ----------


 「さーて一緒に帰ろうかあ」
  ガッと両肩をホールドされ、
 「今日も一日一膳♪」
  バッとカバンを奪われる。
  連行されるように教室を出て行く俺の後ろで、
  もはや同情もしなくなったクラスメートの挨拶。

 「じゃあな掛川」
 「気をつけてね〜」
  何にだ?

  前を行く身長185センチの体力馬鹿は、
  30センチ下の子悪党と同じ紙面を見ようと、背中を丸めた。

 「やっぱ肉かな」
  ものすごく真剣な顔だ。この顔のまま永久凍土に眠ってしまえば、
  全国のファンが本性を知らず、全うな人生を送れるというのに…。
  温暖化の激しい今では無理難題か。
  いや、いっそ肉屋に行くついでに、大型冷蔵庫に拉致監禁、
  程よいところで解放後、「氷の微笑」で売り出すか…ア。
  あれはサスペンスだったな。

 「時間的には薬局、で、魚、で、肉じゃない?」
  ちょっと紙面を持ち上げながら、
  最短コースをはじき出した小さな頭が同意を求める。
  相手が反論することないコースをはじき出す脳みそには、
  数学の数式を解いたり科学の用語を覚えるスペースは余っていない。
  数学教師から家庭教師を頼まれる身にもなってもらって、
  勤勉になってほしいものだ。

 「どう?トモ」
  俺は手元の財布、そして書き出されたメモを見ながら答えた。
 「魚も肉も1品ずつ減らさないと、この薄い財布では払いきれない」
 「「…はぁ、やっぱり」」
  ダブル・サイ(ため息)。
 「ナツ、ミートボールは諦めて」
  死刑宣告を告げるような深刻さで肩をたたく。
 「ナナのシシャモも?」 
  絶望的な顔で肩を落とす。
 「「遊んじゃったからね、昨日」」
  自業自得の財政状況。
  同情の余地はないが、
  同情を誘うような二人の背中に俺の良心と
  無いはずの母性(父性とでもいうべきか?)が揺らぐ。
  しかしここは飴と鞭。
  手を出すな口を出すな金を出すな。
  さっさと買い物を、自分の役目を終わらせて家に帰るべきだ。
  俺だって金はない。

 「わかったら、さっさと行くぞ」
 「「…うん…」」
  こいつらは、俺の兄妹でもなんでもないんだ。
  ただのクラスメート!しかも知り合ってまだ1ヶ月も経っていない!!
  なのになぜ奴らの家計簿の財布番をやっているのか、
  気づいていなかった自分のお人よしさに呆れるが、
  今後これ以上奴らの家庭に介入しないためにも、ココはさっさとッ…

  なんとかギリギリ、薬局のタイムセールに駆け込み、
  お1人様1個までのトイレットペーパー・ティッシュペーパー・洗剤3個ずつ、
  スーパーで1週間分の食料を買い込み、
  荷物もちとしての役割を果たす直前、
  運悪く、出くわした。

  本当に、何で俺はこいつの前でまともな姿をしていないんだろうか…

 「あれ〜?今日ってセールの日ぃ?」
 「藤緒さーん!お疲れ様です〜♪」
 「あ、ヒロも手伝ってるんだ?」
 「親友ですからね〜オレ達の♪」
  どうでもいい、どうでもいいから俺を今この瞬間ここから消してくれッ!
  制服の上着を腰に巻き、
  ネクタイ緩めて汗だくで、
  トイレットペーパーその他もろもろを運んでいる姿なんて、
  惚れた女に見られたくない…ッ
 



ПоТоМ:2:意地悪すんなよ 

2006年11月13日(月) 22時09分

ねぇねぇ、好きなスポーツとかないの?
…バスケ…
カッコイー!!アタシも好きなのー♪一緒にやろ♪
…でも…
何?
…ねーちゃんの方が背高いし

…おれだって授業でやっただけだし…

…意地悪すんなよ…
…ヒロ…あんた可愛いねぇ
っな!!?もーやんねぇ!絶対バスケなんかッ
あーゴメゴメン!!うそうそやろうよバスケっ!!

歳相応の拗ね方を、初めてみた。本当に可愛いと思った。

---------- ПоТоМ:2:意地悪すんなよ ----------


 「よいしょー」
  裂けた玉ねぎの袋をなんとかキッチンの台の上まで無事届けた。
 「どうもありがとうございました♪助かりました〜」
 「ありがとうございました、藤緒さん。何か飲みますか?
 コーヒー、紅茶っと、緑茶もありますけど」
 「じゃ緑茶で〜。ありがと〜」
  すすめられたのは日当たりのいい窓際のクッション。
 「トモも緑茶、と」
  「朋友」と筆で書かれた、
  たぶんヒロ専用の湯飲みと来客用の湯飲みを取り出して、
  ナツ君がお湯を沸かし始める。
  けれど、ヒロはもともとあがる気がなかったようで、
 「勝手に決めんな。帰る」
  すぐに上着を羽織って出ようとする。

 「えー!?お茶くらいしていきなよー。藤緒さんもいるのにーっ」
  ナナちゃんがヒロから渡されたトイレットペーパーの抱えて引き止める。
 「関係ないだろ。用事あんだよ。じゃな」
 「むおーっ」
 「あ。ありがとなーまた頼むー」
  ナツ君も残念そうに、けどちょっとはわかっていたように御礼と、
  次回のお願いも(笑)

 「頼むなっ!」
 「また明日ね〜」
  賑やかな2人の部屋はやっぱり賑やかで、
  パステル色の写真たてには子供の頃の写真から今までの写真が
  賑やかに壁に飾られている。
  入学して間もないのに、ヒロの写真もすでに飾ってあった。
  仏頂面で、2人の抱擁から逃げるように顔を背けた瞬間の。
  耳がほんのり赤く染まってる。
  まんざらでもない親友関係を始めたみたいな…そんなかんじ。

 「今日は早番だったんですか?」
  緑茶とせんべいをテーブルに置いて、
  ナツ君がどっこいしょと腰を下ろした。

 「んー、そうじゃないんだけどね」
  湯飲みを手で包み込むと、湯気でちょっと鼻をすすった。
 「早退ですか?風邪でもひいてます?」 
  やっぱり気づかれた。この子察し良すぎ(笑)
 「まぁ鼻風邪だとは思うんだけどね。同僚に無理やり追い出されちゃった」
 「ひき始めが肝心ですからね〜」
  野菜を冷蔵庫に仕舞い終えたナナちゃんは、
  隣の部屋からブランケットを持って私の背中にかけた。
  この2人、ほんとに良い子だぁ。

 「ありがとね〜」
 「あんまり引き止めるのもアレですけど、ちょっといいですか?」
  ナツ君が、ゴソっとカバンから1冊のノートを取り出した。
 「ん?何?」
 「実はですね…」
  ちょっと真剣な、でも下心のありそうに唇の端をにやりとさせて、
  ナツ君がノートを開いた。




ПоТоМ:3:後ろめたい? 

2006年11月14日(火) 12時19分

夢を見た。
とてもリアルな夢で、頬には涙の跡…


嫌いになったとかやなくて、お前を想えなくなったんや
それって、ん、好きじゃなくなったってことだよね…
かもしれん。けど、
お前とはこれからも仲間として付き合いたいし。
それは好きやってことやろ?

でも…。アタシ、何か悪かった…?
う、ん…
…言ってくれないかな…
なんや、後ろめたそうな雰囲気がしててん
…後ろめたい?
よくわからへん。けど、なんや俺が一番やないっちゅうか…
…そ。
否定せえへんのやな
ん。アタシもわかんない…

夢を見た。
藤緒の振られる瞬間。
俺は、嬉しそうに笑っていたのかもしれない…


---------- ПоТоМ:3:後ろめたい? ----------


 「ただいまッ」
 「…おお」
  私が帰ってくるタイミングがわかっていたような仕草で、
  ゴソゴソとジーンズの後ろポケットに煙草と携帯灰皿をつっこんで、
  玄関先でヒロが立ち上がった。
  こらこら未成年、煙草は20歳になってからだぞぃ。

 「何?どしたの」
 「オージの散歩、明日と換わってやる」
 「へ?いいよ別に」
 「明日俺が用事あんだよ」
 「今度まとめてやってもらうよ〜」
 「いいからリード」
  眉間にしわを寄せて、有無を言わせない態度で手を差し出す。
  なんか、この3人には全部悟られてる…なんかしゃくだなぁ。

 「オージ、ただいま〜」
  いつもよりも振りの多い尻尾で、
  玄関からホワイトラブラドールリトリバーのオージが飛び出す。
  ミックス犬の彼女は、今日の散歩相手が換わったことを知っているように、
  口にくわえたリードをヒロに渡す。
  何、3人と1匹なの?

 「餌だけ出しといて」
 「うん。ありがとね〜」

  掛川朋弘が隣に越してきて、10年が経つ。
  日替わりの散歩が始まったのは、彼が小学校に上がってからだから、
  かれこれ8年。
  オージは今13歳。もうおばあちゃんになっちゃった。
  見下ろしていたはずの小さな男の子は、同じ目線で話をするようになり、
  最近ではちょっと見下ろされてる。
  私は学生から社会人になって、
  それなりの経験と苦労、佇まいを得たつもりだけど、
  まだまだ未熟の大人だ。
  月日の経過を振り返るのは、
  自分が成長しているのかいないのか気になるから。
  同時に、
  彼の成長振りに驚いているからかもしれない。
  まだ出会って10年。
  もう10年。
  私はどれくらい成長できたんだろう。

 「ごほッ」
  寒気が出てきた。
  こんな季節に風邪なんて、何年ぶり?
  ヒロが帰ってくるまで足湯でもしとこう。

 「そういえば、風邪薬…なかったかも」
  買いに行かなきゃなぁ、とポストを開くと、新品の風邪薬が入っていた。



ПоТоМ:4:笑顔が嘘くさい。 

2006年11月14日(火) 14時08分

夢を見た。
とてもリアルな夢で、頬には涙の跡…


おはよ〜
おはよう
ん?どしたの?元気ないじゃん
別に…
風邪でもひいたの?
目、赤いけど

笑顔が嘘くさいし

夢を見た。
振られた翌日、朋弘は、私よりも泣きそうな顔で背中を向けた…


---------- ПоТоМ:4:笑顔が嘘くさい。 ----------


  ザーッ
  突然の雨だった。

 「クーン」
 「しまった…」
  ちょっと休むつもりで寝転がった藤棚のおかげで、
  雨に気づくのが遅れた。
  走って帰ったとしても、ずぶ濡れは覚悟しなければならない距離の公園。
  やみそうもない雨雲に覆われた空を見上げて、
  ため息を吐きながらオージの頭を撫でる。
  さらさらとした毛並みは微かにシャンプーの香りがしている。

 「お前昨日風呂入ったのか…」
  せっかく綺麗にしてもらったのに…と残念そうに尻尾を揺らしながら、
  オージも空を見上げていた。

 「しょうがない、走るか」
  風呂には俺が入れてやるから、そう背中を撫でて、立ち上がった。

 「トモー!」
  聴きなれすぎた声に呼び止められ、前髪をかきあげて振り返ると、
  ナツが傘を持って走りよってきた。

 「散歩?ずぶ濡れじゃん!ほれ、タオル」
 「おお…なんで、お前バイトは?」
 「そう、これから。家出る前に雨降ってきてさ〜、タオル持参で出てきたとこ」
  いやいやマイッタと手品師のように、
  俺に渡したものとは別のタオルでオージの身体を拭きながら、
  並んで歩き始めた。

 「俺達はいい、お前バイト遅れるぞ」
 「え?あ、いいのいいの、雨の日はちょっとくらい遅れても」
 「ならちょっと家よってけ、替わりのタオル貸す」
 「そか?じゃ、遠慮なく♪」
  バイト先の制服の上にパーカーを被った格好のナツは、
  それでも結構様になるもんで、通り過ぎる中学生の視線を掴む。

 「藤緒さん、風邪っぽいみたいだな」
 「ああ」
 「やっぱわかってたんだ」
 「…」
 「風邪ひくなよ〜」
  睨み付けた顔には、にやけた口元。
  体調が悪そうだったのは2日前からだ。
  季節に合わず冷たい雨が降り続いていたから、気にはしていた。

 「オージ、ヒロ〜」
  角を曲がると、傘をさして藤緒が立っていた。
 「あれ?ナツ君〜」
 「ども、さきほどは♪」
 「バイト行く途中じゃない?待っててタオルタオル…」
 「お前はいいから中入ってろよ!」
  玄関の中でタオルを奪い取って、ナツに手渡す。
  濡れたオージが玄関先で身体を震わせ水気を落とすのを待って、
  ナツはじゃ、と去っていった。

 「風呂場貸して。オージ風呂入れる」
 「いやあ、何から何までありがとね〜」
 「だーから俺らに近づくな!冷えるだろ!」
 「過保護にしていただいて、ありがとうございますぅ」
  気を使われると機嫌が悪くなる藤緒は、
  バスタオルを押し付けてキッチンに逃げた。
  オージを抱き上げて風呂場へ行くと、脱衣所には俺のジャージとメモ、
  とクスリ。


クスリありがとう。ヒロも風邪ひかないように! フジオ

  雨が降った時点で、隣の俺の家からジャージを借りに行き、
  藤緒に負けず気を使われるのが嫌いな俺を知っていてのメモだった。
  気を使い、気を使われ…中途半端な幼馴染の俺達の関係は、
  前進も後退もせずに現状維持を続けている。



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