面影しか追えない

September 10 [Mon], 2012, 10:17
 好きだった人が男になっちゃったんだ。カウンターに突っ伏したまま、さつき君は呟くように言った。私はこぼさないように用心しながら二人分のアイスティーを淹れていた。この間お客さんがフランスのお土産にとくれた薔薇の紅茶は、香りはもちろん、高級そうな紺色のパッケージに印刷されたマリー・アントワネットの肖像画やら、ヴェルサイユ宮殿で売られていたという背景も相まって、何か特別な時に丁寧に入れるお茶にしよう、という認識が私の中にできていた。そんなハイソな香り漂うお茶をニトリの五客三百円の安売りグラスに注ぐのはちょっとどうかと思ったけれど、ディッシャーでバニラアイスを落として、その上に去年乾燥させておいたミニチュア・ローズの花びらを散らすと、なかなか見栄えよくできた。
 「好きだった人が男とくっついた、んじゃないんだよね?」
「違う違う。男になっちゃったの。文字通り」
ティーフロートにカントリーマアムを盛ったバスケットを添えて出すと、さつき君はふにゃふにゃとありがとう、みたいなことをうめいた。長い間叫び続けたような、がさがさとした小枝。たぶんここに来るまでの間に大泣きしたか、お酒を飲んだか、あるいはその両方を経てここに来たのだろう。とっておきのお茶を前にして酔っぱらうとは、なんとも失礼な野郎だ。冷たい水をコップ一杯浴びせるか、顔を挙げさせて横面を引っ叩くか、少し悩んだ末に、軽くテーブルをこつこつと叩いて「しゃんとしてくれない?」と言うに留めた。丸くなったものだ。もう少し若いころだったら水を引っ掛けて背中をはたいて、拳骨の一つでも落としていたに違いない。
 さつき君はのろのろと顔を上げると――すでに顔が少し赤い――ごめんね、つつじちゃん、といつもの少し困ったような笑顔を見せた。学生時代から童顔だ女顔だと思っていたけれど、お互い社会人になってそれなりになる今でも、さつき君はやっぱり少し気弱な少年、あるいは雨に濡れたチワワのような風情で、彼の顔を見ていると、母性本能らしきものが全力で彼に優しくしろと吠えるのだった。
 「ね、その話、詳しく聞いていい?」
自分の分のティーフロートを持ってさつき君の隣に座る。閉店した店内は薄暗くて静かだ。いつもは火のひかりでいっぱいにしているお店が、今は私とさつき君の上の方にあるライトしか灯していなくて、なんだか喫茶店というよりも場末のバーのような負に気だった。となると、さつき君は飲んだくれの客で、私はさしずめそれをなだめるママといったところだろうか。
「どこから話せばいいのかわかんないんだけど」
ティーフロートを無意味にぐるぐるとかき混ぜながらさつき君は目を伏せた。言葉を待ちながら私はさつき君の指先を見ていた。少し節くれた指の先には短く切りそろえられた爪がついていて、白いところが全然見えないそれは少し前にもらった桜貝を思い起こさせた。この指先が白鍵や黒鍵の上を飛び回ってサティやドビュッシーを弾くのを想像するだけで私は少し幸せな気持ちになる。話が終わったら、店のアップライトで何かリクエストしようか。仕事で嫌になるくらい弾いているのに、プライベートまで弾きたくないよ、とか言われそうだけど。
「じゃあ、最初から話してくれない?」
「最初から?」
「そう。出会いから順々に。わたし学生時代にいっぱい相談に乗ったけど、もう随分時間もたっちゃったし、改めて最初から聞きたいの」
さつき君はしばらく迷っていたようだったけれど、つつじちゃんがそれでいいのなら、と小さくうなずいた。

***

 恥ずかしながらねえ、その男になっちゃった人っていうのは、おれの初恋の人だったんだ。その時のおれ、19歳でさ。始めたばかりのバーのバイトが楽しくって楽しくって仕方なかった。子供のころからずうぅっとピアノばっか弾いててさ、ぼんやりとピアノでご飯食べていけたらいいなって思っていたけど、それが段々と現実になりつつあったからさ。
 あの店――アラベスクっていうんだけど――で、おれはシェイカー振ったり、酔っ払いの話相手したり、つまみ作ってたりしてたんだけど、時々ピアノ弾かせてもらってたの。フロアの隅っこに綺麗なアップライト、木でできた箱みたいなピアノがあってね。いつだったか、誰もいないときにちょっと触ってたらバイトの先輩に見つかっちゃってさ。で、あっという間に店長に話がいったの。新入りの工藤は意外とピアノがうまいって。それからすぐに店長にちょっと弾いてみてよって言われて、アラベスクを弾いたら、その日から営業中に暇ができたらピアノを弾いてもいいことになったんだ。あの頃何弾いてたっけな。ジャズとか流行りの曲とか、あとお客さんにリクエストもらってメドレー即興で作ったりもしたなあ。で、気に入ってもらったらおひねり五百円もらえるの。つつじちゃん知ってる? 宇多田ヒカルのFirst Loveとタイタニックのテーマって、すんごく相性がいいんだよ。
 で、そのバイトの先輩っていうのがアオイさん。おれの初恋の君。すらっとした体つきにバーテン服がよく似合ってて、髪はいつもベリーショート。ちょっとやさぐれた不良少年みたいな雰囲気があって、おれはそこがすごく気になってた。最初はちょっと怖かったんだけどね。
 ピアノ弾いてるの、見られた時は本当にどうしようかと思ったよ。やばい怒られる! って思ったね。でもアオイさんは煙草に火をつけてさ、ぼそっと「続けなよ」って言うんだよ。おれが最後まで弾き終わったらゆっくりこっちに歩いてきてさ。「明日はワルキューレ弾いてくれよ」って、五百円玉をそっとピアノに乗せたんだ。もー、カッコいいでしょ。一発で恋に落ちちゃったよ、おれ。
 それからはもう、気づいたらずっとアオイさんを目で追ってた。寝ても覚めても彼女のことばっかり。煙草を吸う前に吸い口を指でもむ癖だとか、シェイカーを振る指先だとか、そんな所ばかり見ていたよ。
 でも、一番惹かれたのはやっぱり目、かな。アオイさんの目は大きくて、いつも食い入るように物を見るものだから、その眼力たるや! 横でちらちらアオイさんの方をうかがいながら、あの黒い瞳がこっち向いてくれたらいいのになって、ずっともじもじしてた。本当に恋する乙女だったよ。今思い出しても恥ずかしすぎてクッション抱えてごろんごろんしちゃうくらい、甘酸っぱい想い出だね。
 でもさ、そうやってずうぅっと彼女を見ていると、気づいちゃうことが結構出てくる。その中でも一番ショックだったのは、やっぱりアオイさんに好きな人がいるって確信したときだったかな。
 アラベスクは俺とアオイさん、それにもう一人、店長のヒナさん――アオイさんの高校時代からの友人なのだそうだ――の三人で切り盛りしていた。このヒナさんという人は、アオイさんの真逆の性格で、外見はどちらかというと森ガールみたいにふわふわしていた。世の中に不幸せなことは何一つないって顔で、いつもにこにこしている人だったよ。絵を描くのがとても上手で、店の壁にはヒナさんの絵がかけてあった。
 いつからだったのかな。最初はさ、すごく仲の良い友人同士って思っていたんだ。おれが知ってる限りでは二人はいつも一緒で、ヒナさんがアオイさんに甘えたり、アオイさんがヒナさんの頭を撫でたりしながら、料理をしたり絵を描いたり、時々おれのピアノに合わせて歌ってくれたこともあったっけ。
 でも、その内少しずつなんか変だって思い始めたんだ。目、そう、目線の意味が違ってたんだよ。
 さっきおれアオイさんの目が好きだって話、したでしょ。ちょっと手持無沙汰の時なんか、どこ見てんのかなって、目線をたどっていたのね。そうするとさ、大概ヒナさんに行きつくんだ。
 教会で祈る人を見たことがある? ずっと目を伏せて祈っていた人が、ふっと顔を上げて正面のイエス様を見る時。そういう時、みんな少し目を細めるんだ。まばゆい、尊いものを見る時、人は皆そうするんじゃないかな。
 アオイさんは、そんな目をしていたんだ。
 尊敬とか崇拝とか、親愛とか、そういう感情が燃える星みたいに彼女の目の中できらきら輝いていた。それを傍で眺めているおれまで息が詰まるような切実さで、アオイさんはヒナさんを見ていたんだ。
 ねえつつじちゃん、ただの友達同士なら、そんな目でみないよね。その後大学の女の子の友達をずっと観察してみたけど、アオイさんがヒナさんを見るような目で友達を見ている子は、ひとりもいなかったんだ。
 目だけじゃない。呼ぶ声だって。
 アオイさんはまるで宝物について話すように、大事に大事にヒナさんの名前を呼ぶんだ。その時のアオイさんの顔にいつもの無愛想な不良少年みたいな翳りはなくて、ちょっと口の端が上がっていたりするの。名前を呼ぶだけで幸せ、みたいな顔してたんだ。
 もう認めざるを得ないでしょ。アオイさんは、ヒナさんのことが好きだったんだ。
 それに気づいた時、正直どうしようって思ったよ。だって傍から見ていても、アオイさんがヒナさんに向ける愛情がすごく深いものだってわかるからさ、もうおれなんかに向ける分なんて、ひとかけらも残っていないように見えた。
 それがひっくり返ったのは、いつだったかもうよく覚えてないけど、きっかけはやっぱりピアノだったよ。
 その日はヒナさんが用事で店にいなくて、おれとアオイさんとで店を切り盛りしてたんだ。お客さんが帰った後、二人で掃除して、後は戸締りするだけって段階になった時、アオイさんがぼそっと言ったんだ。「なあちょっと一杯付き合えよ」って。おれはもう嬉しくて嬉しくて、「ぜひ!」って叫んじゃったよ。犬が尻尾振ってるみてえって、アオイさん笑ってたな。
 洗いかごの中からシェイカーとグラスを二つ取り出して、アオイさんはおれに何か一曲弾くように言った。リクエストは? って訊いたら、何でもいいとのことだったから、少し悩んだ末にジュ・トゥ・ヴを弾くことにした。今思うとすっごいド直球だよね。好きな人に向かって「あなたがほしい」なんてさ。
 お酒の瓶がぶつかる音を後ろに聞きながら、おれは心をこめて弾いたよ。ちょっと前にヒナさんが教えてくれた歌詞の意味を思い出していたな。ジュ・トゥ・ヴには男性版と女性版があって、メジャーなのは女性版だとか、歌詞の雰囲気が全然違うとか。その時おれが想い浮かべていたのは女性版の歌詞だった。「たったひとつ願ってるのは、あなたのそばで、ほんとにすぐそばで、あたしの人生を生きることだけ」
 同時におれは心の中で、アオイさんのことを思っていた。ヒナさんに向ける愛情の、ほんのひとかけらでもいいからおれにもくれませんか。ねえアオイさん、アオイさん、アオイさん。
 弾き終わって、なんだか夢の中にいるみたいにぼうっとしていたら、後ろからチャイナブルーのグラスが出てきた。振り返ると初めてピアノを聞かれた日みたいにアオイさんが立っていて「美しいピアノの夜に乾杯」って、笑うんだよ。それを聞いてうっかりおれは感極まっちゃって、みっともなくぼろぼろ泣いてしまった。初めてのお酒は、すこし塩っぽい味がしたよ。
 チャイナブルーをあおって、アオイさんは少し緊張したように、「さっきのピアノはよかった」って言った。何か大事な話をしなきゃいけないけど、どこからどういえばいいのか悩んでいるみたいだった。深呼吸をに会して、アオイさんは一気に言ったよ。
「あのさ、お前俺のこと好きだろ」
 ああ、そちゃあ毎日あれだけ見てれば気づくよなあ。何だか開き直ったみたいにおれはハラが据わったよ。はい、好きですって、アオイさんの目をまっすぐ見て答えた。ヒナさんに向ける目に満ちていた感情のうねりは全然見えなくて、その時のアオイさんは何かを怖がっているようだった。
「俺がヒナのこと好きなのも、気づいて言ってるんだよな」
今度は念押しみたいに尋ねられて、その時も俺はただ「はい」って答えた。
 アオイさんは深く深くため息をついて、近くのボックス席のソファーに沈むようにして座って、しばらくじっとしていた。それから、うなるみたいに言った。
「あのさ、お前俺のことどんなふうに見てんの」
おれはなんて答えていいか、ちょっと見当がつかなくて、でも嘘を言いたくはなかったから、結局は正直に答えた。
「男前でカッコいい人だと思っています」
「女なのに俺とか言って、変な奴だとか思わなかった?」
「全然。よく似合ってると思いました。……最初は怖かったですけど」
「そっか」
アオイさんはもう一度、そうか、と言って、ゆっくりとおれが座っているほうに歩いてきた。何かを試しているみたいに、おれの顔、じいっと見ててね。普段横顔をちらちら見るくらいしかできなかったのが、いきなり間近でじっと見つめあいっこだよ。おれ心臓すごいバクバク鳴ってて、この音がアオイさんに聞こえませんようにって、それだけ考えてた。
 「ヒナのことが好きだって気持ちに変わりはないんだ」
アオイさんは絞り出すように言った。
「でも、お前の気持ちに応えたいって気持ちもあるんだ」
 夢かと思った。それにしては窓の外で泣いている虫の音だとか、相変わらずバクバク鳴っている心臓だとか、アオイさんのいきづかいだとか、そういうのが全部リアルに感じられて、違う、ちゃんと現実なんだって気づいた時には、もう今死んでもいって本気で思った。
 「おれ、アオイさんの目が好きです」
気づいたらおれはそう口走ってた。「ヒナさんを見る時のアオイさんの目は、星みたいにすっごくきらきらして、綺麗なんです。おれなんかのために捨てちゃだめなんです」
アオイさんは不意を打たれたように目を丸くして、じいっとおれを見ていた。
「だけど、もしよければ、あなたの中のヒナさんの場所の、ほんの爪のひとかけら分でもいいんです。おれをそこに置いてくれませんか」
 アオイさんは言葉をかみしめているみたいにじっと目を閉じて、やがて言ったよ。お前へんなやつだな、でもいいやつだな、かわいいやつだなって。その一言で、おれの初恋は実ったって思ったよ。

 だから、付き合っていたかっていうと、ちょっとビミョーなんだ。それから何が変わったってわけでもなし。いつも通り、アオイさんはヒナさんを見て、おれはそんなアオイさんを見て。ただ、前よりちょっとアオイさんと一緒にいる時間が増えたってくらいかな。前と違うところって。閉店作業が終わって、ちょっとだけ二人で残るの。ヒナさんがいない日だけだったけどね。

 なんでこんなしゃべり方をしてるかって、そりゃあ俺は女になんかなりたくなかったからだよ。いつだったか、アオイさんにどうして男みたいなもの言いをするのか訊いてみたら、心底嫌そうにそう返された。
 「昔っからさ、どーしても男が苦手だったんだ。ていうか、男にいやらしい目で見られるのが嫌だったんだよ。女子高生の時に口にするのもおぞましい目にあわされてから、もう女であるのが嫌で嫌で。で、その時から髪切って男みたいな服着て、こんなしゃべり方」
「おれは大丈夫なんですか」
「お前はなんか可愛い顔してたからさ、ほら、昔金融会社かなんかのコマーシャルでチワワが出てくるやつあったろ。最初にお前がこっち見てるって気づいた時、なんかあのチワワみたいだなあって思ったんだよな。だからまあ、お前はノーカン」
言いながら、アオイさんはわしゃわしゃとおれの髪の毛ををかき混ぜた。(撫でる、というにはアオイさんの撫で方は乱暴すぎた)細くて冷たい指だな、と思いながら、ちょっと複雑な気分を持て余していた。男としてノーカンって、それちょっと問題があるんじゃなかろうか。口に出しては言わなかったけれど、表情で何を考えていたのかアオイさんにはわかっていたと思う。少し優しい目をしてゆっくりと話し始めた。
 「お前が俺のこと好きなんじゃないかって気づいた時、悩んだよ。俺はヒナのことが好きだし、これからもずっと好きでい続けると思う。でも、やっぱり女である限り、ヒナは俺のことそういう目で見ないんだよな。そういうことに気づいちゃって、のたうちまわっている時にお前が登場したわけ」
煙草に火をつけながら、アオイさんは続けた。
「正直さ、もうここで楽になっちまいたいって、思ったんだよなあ。ヒナのことずっと想い続けてもヒナは俺のこと見てくれないなら、いっそこいつに流れちまおうかって。お前可愛いし、あんまり男っぽくないし。こいつなら男だけど上手くやっていけるかもって。でもそれって、お前にもヒナにも失礼だろ。どうしたものかって悩んでいるところに『アオイさんの目が好きです』だもんなあ」
笑いながらアオイさんは煙草を灰皿に押しつけて、カクテルに口をつけた。そういうわけで、なんか一曲弾いてこいやと背中を叩かれて、その話はうやむやに終わったよ。

 ああ、でも一回だけ、アオイさんの家に上げてもらったことがあったかな。大学の忘年会で終電逃しちゃったことがあってさ。ケータイの充電が切れたから電話もできなくて、さてどうしたものかって途方に暮れてたところにアオイさんと出くわしたんだ。ちょうどコンビニの帰りだったみたいで、セブンイレブンの袋が風でしゃらしゃら鳴ってた。
「おう、さつきじゃねえか」アオイさんはにかっと笑った。「どうした、こんな所で」
飲み会で終電を逃して困っていることを話したら、じゃあうち来いよって簡単に言われてしまった。この時どんだけおれが焦ったことか! 好きな女の人の家にご招待、なんてさ。期待っていうか、やっぱりいらん事を考えちゃうわけだよ、男としてはさ。どうしよう、どうしようって迷っているうちに、やっぱり足は正直だね。気づいたらおれはアオイさんのアパートの前に立ってた。
 二階の角部屋にアオイさんは住んでいた。六畳一間のワンルームで、家具といえばスチール製のパイプベッドとラックくらいしかない、がらんとした部屋だったよ。その代わり、ベッド脇の壁にずらっと小さな絵が飾られていて、それが部屋にすこし華を添えていた。
 「それ上手いだろ。全部ヒナが描いたんだ」
言われてみれば、店の壁にかかっている絵とタッチがよく似ていた。同じ人がモデルをしているのか、姿は違えどどれも似たような雰囲気の女性が描かれている。
「俺がモデルやったの。髪長い奴が高校ん時ので、短いのがそれ以降のやつ」
なるほど、言われてみれば描かれている騎士も女神も王も天使も、アオイさんの面影があった。絵に色はなく、鉛筆の線だけで細かく描きこまれている。よく鉛筆だけでこれだけ陰影がつけられるものだと思っていたら、いつのまにかアオイさんがすぐ隣にまで来ていた。
「上手なんですね」
「天才だよ、あいつは」
ほう、と息をついてアオイさんは描きこまれた自分の姿を見つめていた。
「高校の文化祭の時にあいつが描いた絵を見てさ、もう一目ぼれしちまって、こんなすごい絵を描くやつは誰なんだって美術室に乗り込んだら、ヒナが黙々とクロッキーやってたんだ。そこから今に至るんだけど」
「なんで絵に一目惚れからヒナさん愛してるってなっちゃったんですか」
「最初は才能に惚れたんだよなあ。でもあいつ、いつもほわんほわんしてるだろ。頭のねじが二、三本抜けてるっていうか。怒るべき時に怒らないし、危ない時でものほほんとしているし。で、俺が守ってやらなきゃって思うようになって、いつの間にかフォーリンラブだ」
アオイさんの目は、そんな友を持てたことへの誇りに満ちていて、ヒナさんの絵に負けず劣らず綺麗だと思った。そして、そんな目を向けてもらえるヒナさんに少し嫉妬した。そして、嫉妬している自分がとても汚いものに感じられて、少し気が滅入った。
P R
プロフィール
  • アイコン画像 ニックネーム:上連マミ
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 誕生日:1990年5月14日
  • アイコン画像 血液型:A型
  • アイコン画像 現住所:東京都
  • アイコン画像 職業:大学生・大学院生
  • アイコン画像 趣味:
    ・読書-三度のメシと同じくらい好き
    ・FF-もうスクエニの犬でいい
    ・ピアノ-なんだかんだで16年目
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