ある冬の日の約束【2012冬雪祭】

December 10 [Mon], 2012, 1:06
 寒さにブルッと震え、ライトは読んでいた本から顔をあげた。
 暖炉の中の炎は小さくなっていて、ライトはソファーの上に本を置くと、暖炉脇に積んであった薪をくべる。
 何気なくカーテンの隙間から窓の外を眺めると、空から白いモノがハラハラと舞い落ちていた。
(「寒いはずですね」)
 立ち上がり、羽織っていた厚手のガウンの前を合わせる。そして、窓に近寄ると、カーテンを少し開け、空を見上げた。
 見上げた先からは、次から次へとフワフワとしたモノが落ちてくる。ジッと見つめていると吸い込まれそうで、軽く首を振ると、ライトはシッカリとカーテンを閉めた。
 ソファー横に置いたサイドテーブル。その上に乗っている細長い酒瓶に手を伸ばそうとした時、ドアがノックされた。
 意識は扉の向こうにいるだろう人物に移り、誰だろうと首を傾げる。
「はぃ……どなたですか?」
 返事をしながら扉に向かって歩き出す。
 扉を開けて廊下を見ると、そこには館の主であるバーバラの姿があった。
「バーバラさん、こんな夜更けにどうされました?」
 ライトが問いかければ、彼女はニコッと微笑んだ。
「夜更けに御免なさいね」
「いぇ、まだ起きていましたので……」
 応えたライトはバーバラの恰好を見る。彼女は地厚の暖かそうなガウンを着ているが、流石に暖房の無い真冬の廊下は冷える。廊下よりはマシだろうと、ライトは部屋に招き入れた。
 バーバラは無警戒にライトの部屋に入ってきた。その無防備さにライトは戸惑う。
 本来ならば、廊下の扉は開いておいた方が良いだろう。未婚の男女が密室で二人きりになるなど、彼女の名誉の為にあってはならないと考えるが、扉を開け放つと折角の暖気が廊下に漏れてしまう。
「夜更けに男の部屋に入るのは、どうかと思いますよ?」
 招き入れた側が言うセリフではないだろうと思いながらも、思わず零してしまったライトに、暖炉の前のソファーに座ったバーバラはクスクスと笑った。
「あら、ライトなら大丈夫よ」
「信頼してくださるのは、嬉しいですけどね……」
 ライトは悩んだが、風邪をひいてしまっては意味がないと扉を閉めた。
 それでも、バーバラの言葉に引っかかってしまうのは仕方がない事で、自分自身に言い聞かせるように小さな声で呟く。
「それはそれで、男としてどうかと思ってしまう訳でして……」
 シンと静まり返った部屋の中。小さいと言っても静か過ぎる部屋の中で、ライトの呟きはバーバラの耳にも届いた。
 バーバラはフフッと笑みを零す。
「覚えてるかしらぁ?」
「え?」
 薪がパチリと大きな音を立てて爆ぜる。
 赤々と燃える炎をジッと見つめて、バーバラは続けた。
「冬のお祭り、一緒に参加しましょうって約束したの……」
「えぇ。覚えていますよ」
 ライトは微笑むと、書棚にあるガイドブックに目を向けた。
 バーバラに冬の祭典の話を聞いて、一緒に参加しようと誘われた後、街の書店で買い求めたガイドブック。大切な人と過ごす一日を綴ったソレは、とても美しく幻想的な物だった。
「少し気が早いかもしれないけど……確認したくて」
 暖炉の炎からライトに視線を移したバーバラは、ソッと唇を開いた。
「冬のお祭りは、一緒に参加できるかしら?」
 その何処か蠱惑的な表情にライトは顔が赤らむ。
「は、はぃ……よ、喜んでお供させていたらきます」
 焦って早口になったライトは、最後の最後で噛んだ。その事に更に顔を赤くして、口に手を当てた。
 バーバラは、キョトンとした表情を浮かべた後、華やいだ笑顔を浮かべる。
「まぁ♪ 一緒に参加してくれるのね」
 ライトはコクコクと頷いた。
「あ、他に一緒に参加したい人とかいるかしらぁ?」
 ハッとしたようにバーバラが問いかけると、ライトは軽く首を振って答える。
「私は、バーバラさんに誘われなければ、たぶん一人で過ごしていましたから、特に……」
 誰かとともに冬の祭典を過ごすなど、考えても居なかったと言外に告げるライトに、バーバラは「一人は寂しいわ」と呟いた。
 その寂しげな表情をライトが不思議そうに見つめていると、「ごめんなさいね」と視線を逸らした。
「ダメね……ガーディアンだった人と、この時期に出会って……つい、思い出しちゃうのよね」
 何処か遠くを見つめるバーバラの姿に、ライトは彼女とガーディアンとの深い絆を感じ取る。
「素敵な……人なんですね」
「素敵な人だったわ」
 そっと瞼を閉じ、当時を思い出すかのように唇に優しい微笑みを浮かべた。
「……だから、一人が嫌なのかもしれないわ」
「私でよければ、何時でも……バーバラさんの素敵な人の代わりにはなれませんが、話し相手くらいにはなれますよ」
 ライトは淡い微笑みを浮かべた。自分には、それくらいしか出来ないと心の中で自嘲する。
 それでも、優しいバーバラの心を癒せればと、細長いカクテルグラスに、薔薇のリキュールとシャンパンを注いで差し出した。
 人の気配にバーバラが目を開けると、目の前に差し出されたのは、淡いピンクがかった金色の揺らめき。無数の泡が、まるで真珠の様に輝いていた。
「どうぞ」
「ありがとう……」
 カクテルグラスを受け取る。グラスの中ではじける泡をジッと見つめるバーバラに、ライトは「楽しみです」と呟いた。
「え?」
 思わず見上げるバーバラ。その瞳の中に映るライトが、ニッコリと微笑んだ。
「冬のお祭り、初めての参加なので」
「素敵よぉ」
 バーバラもニコッと微笑んだ。
 ライトの手にはブランティの入ったグラスがあった。ライトはバーバラのグラスに近付け、カチリと軽くグラスを鳴らす。
「何に乾杯かしらぁ?」
 バーバラが上目遣いでライトを窺えば、ライトは真面目に悩みだした。
「何にしましょうね? んー、バーバラさんが、寂しくない様に?」
 首を傾げて答えるライト。その純朴な様子にバーバラは笑みを零す。
「ライトと居ると癒されるわぁ」
「私と話す事で、バーバラさんの心が安らぐなら、いくらでも話をしますよ。そうですね……バーバラさんに素敵な人が現れるまで」
 ライトがニコッと微笑むと、バーバラはフフッと微笑んでポツリと呟いた。
「いつか素敵な人になっちゃうかもねぇ」
 ライトは手の中のグラスをジッと見つめて、どこか硬い表情で呟く。
「バーバラさんのお相手だったら、喜んで努めますよ……素敵な人が現れるまで、ね」
 バーバラはライトの答えにキョトンとして破顔する。
「あら。自覚が無いのね。素敵な人が現れなかったら、ずーと、あたしの相手をしないといけないのに」
 ライトは無理やり唇に笑みを乗せた。
「まずは、冬のお祭りですね? お姫様のエスコートだなんて、大役ですね」
 軽い調子で告げるライトに、バーバラもクスクスと笑う。
「お姫様なら、ドレスアップしないといけないわねぇ」
「ドレスアップですか?」
「そうよぉ。ダンスパーティに行くんだもの♪」
 どんなドレスにしようかと色々なドレスの型を思い浮かべながら応えるバーバラ。
 しかし、その答えを聞いたライトの表情が固まった。
「え……もしかして、盛装ってことですか?」
「そうよぉ。あたしは、街の仕立て屋さんに作ってもらうの。どんなドレスにしようかしらぁ♪」
 サラリと当たり前のようにバーバラは応える。
 その言葉から、当日は盛装しなければならないと知ったライトは慌てた。
「と、当日までに準備します」
 自分のドレス姿とライトのタキシード姿を想像したバーバラは、フフッと笑みを浮かべてグラスに口を付ける。
「当日はライトの為だけに着飾るわぁ」
「バーバラさんの美しいドレス姿を私だけしか見ないなんて、そんな恐れ多いです」
 ワタワタと慌て出すライト。
 そんな姿を微笑ましそうに眺めていたバーバラだったが、部屋の時計が鳴るとハッとしたように時間を確かめた。
「長居しちゃったわね……」
「え?」
 ライトも時計を確かめる。バーバラが言う通り、バーバラが部屋に訪れてからだいぶ時間がたっていた。
「そろそろ部屋に戻るわね―――御馳走様」
 ふんわりとした笑みを浮かべたバーバラは立ち上がる。
「え、あっ……おやすみなさい」
 ライトが扉を開けると、バーバラは「おやすみなさい」と囁いて部屋を出て行った。
 部屋の中には、バーバラの愛用している薔薇の香水の仄か香りが漂っていた。
 急に一人きりになってしまったのが、何故か寂しくて、ライトは迷い子の様な表情を浮かべる。
「私一人が、独占していい相手じゃないですよね」
 目を閉じれば、瞼の裏に少女の姿が浮かび上がった。
 ライトは思わず自分の耳に手を伸ばす。ライトの指に当った耳飾り。そこについている金細工の鎖が、シャラリと微かな音を立てる。
『忘れないで……』
 耳元でナニカが囁いた。
「私では……誰も幸せに出来ない」
 ポツリと呟いた言葉は、コロンと床の上に転がった。



---*<本日の御客様>*-----------

赤薔薇姫・バーバラ・サンタモニカ(c06489) 様
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