のちハレ-2- 

January 21 [Thu], 2010, 21:41
 私の自宅は駅から結構な距離のところにあり、そのため有り難いことにほぼ毎朝父か母が駅まで車で送ってくれました。逆に学校は駅から徒歩数分という距離にあったので、梅雨の季節といえど、実際には傘の需要はそれほどありませんでした。ですから、私が急にBURBERRYからこの大袈裟な傘に持ち替えたことを、友人たちが不思議に思ったのも当然です。
「なになに、BURBERRYなくしたの?」
「あ、わかった。それ、柴田君からもらったんでしょ!」
「えー、柴田君ならもうちょっと気の利いたものくれそうじゃない?」

 私と君は違う学校(そもそも女子校と男子校)だったのですが、君は私の学校においてもそれなりに有名人でした。君の所属していたバンドは、高校生としてはかなり名が知れていました。当然、女の子のファンもたくさんいて、その子達にお知らせメールなるものを送信するために、君の携帯電話には常に三桁もの数の女の子の連絡先が登録されていた程でした。君は私以外の女の子と会うことは極力避け、やむを得ない場合には前以て私に話してくれました。が、噂とは事実がどうであれ一人歩きするもので、「柴田涼平は面食いで女たらし」というのが、私の学校のほとんどの生徒の認識でした。
 ですから、私は仲のいい一部の友人にしか君との交際を話していませんでした。最初に報告したときのその友人達の感想も真っ二つで、「まみすごいじゃん!」とまるで芸能人を捕まえたかのようなリアクションをする子もいれば、「あの人大丈夫なのー?しばらくは、ある程度距離おいて付き合った方がいいよー」と遠回しに不信感を露わにする子もいました。とにかく、良くも悪くも君は、音楽や女の子の趣味、通学ルートや住んでいる地域、通っている予備校、日頃の発言、行動まで多岐に渡って私の友人たちに把握されているのでした。

 話は戻ります。ですから、傘についても、友人たちはブランド好きだと認識されている(実際にはごく一部のブランドに入れ込んでいるだけの)君がくれたものとしては見栄えが悪すぎる、というクエスチョンマークを抱くに至ったのでした。私は、仕方ないので罪無き親友たちに包み隠さず事情を説明しました。
「なにそれ。要するに、より快適に相合傘するためってことじゃん。どんだけ好きなの、相合傘」
「意外にかわいいとこあるんだね」
「え、気持ち悪い」
「こら麻美、そんなこと言ったら悪いよ」
 友人たちは思い思いに感想を述べ、私はそれに「でしょ」とか「大丈夫だよ」とか当たり障りの無い相槌を打ちながら、傘が大きくなっても結局左半身が濡れるという事実は、君の名誉のために隠蔽しておきました。
 事情を知らない人たちからは、父親の傘でも借りている単純にださい女だと思われたに相違ありませんが、それでも構いませんでした。付き合って一ヵ月とちょっと。思えばこの頃すでに、私の頭の中は君のことでいっぱいだったのです。
P R
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