それを

September 23 [Sun], 2012, 14:52
かには、あの日の体験者らしい顔もいるようにおもえた。
 その講演会が終ると、バスはペンクラブの一行を乗せて夕方の観光道路を走っていた。眼の前に見える瀬戸内海の静かなみどりは、ざわめきに疲れた心をうっとりさせるようだった。汽船が桟橋に着くと、灯のついた島がやさしく見えて来た。旅館に落着いて間もなく、彼はある雑誌社の原爆体験者の座談会の片隅に坐っていた。
 翌日、ペンクラブは解散になったので、彼は一行と別れ、ひとり電車に乗った。幟町の家に帰ってみると、裏の弟と平田屋町の次兄が来ていた。こうして兄弟四人が顔をあわすのも十数年振りのことであった。が、誰もそれを口にして云うものもなかった。三畳の食堂は食器と人でぎっしりと一杯だった。「広島の夜も少し見よう。その前に平田屋町へ寄ってみよう」と、彼は次兄と弟を誘って外に出た。次兄の店に立寄ると、カーテンが張られ灯は消えていた。
「みんなが揃
そろ
っているところを一寸
ちょっと
だけ見せて下さい」
 奥から出て来た嫂
あによめ
に彼は頼んだ。寝巻姿や洋服の子供がぞろぞろと現れた。みんな、嘗
かつ
て八幡村で佗
わび
しい起居をともにした戦災児だった。それぞれ違う顔のなかで
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