楢崎裁判長の弁護人批判は的はずれ

2004年12月29日(水) 19時37分
 以前にも取り上げましたが、Winny正犯の判決全文が掲載されました。
 判決で指摘された弁護人批判は、大きく2点で、(1)著作権紛争解決のあっせんを申請するに当たり、その申請書に、起訴状及び検察官の冒頭陳述書、告訴状2通の各写しを添付し、開発者に対して、捜査報告書の内容を送付していたことが捜査の秘密や第三者のプライバシー権侵害などの観点から問題がある、(2)開発者と連絡が取れていたのに、そのことを秘匿して、開発者の警察官調書の開示を請求したことが裁判所との信頼関係を損ねるものである、ということです。
 しかし、(1)については、起訴状・冒頭陳述書は公開の法廷で読み上げられるものであり、そこに秘密だとかプライバシーがあるものか理解できません。性犯罪で被害者を特定する情報が記載されているというのであれば別ですが、そういう事件でもないでしょう。また、文化庁の紛争解決あっせん制度は、被害者・加害者とあっせん委員の三者で行われるものですから、「第三者」と呼ばれる人物は観念できないと思います(あっせん委員が「第三者」とされてしまえば、弁護人は、被害弁償のために調停等を利用できなくなってしまいます。)。
 また、開発者に捜査報告書を送付した点については、弁護活動のため、捜査書類について専門家に意見を聞いてはならないとすれば、ほかに弁護人が検証する術が思いつきません。すべて弁護人が独力で対応しなければ、不適切弁護だとでもいうのでしょうか。これに対しては、開発者が従犯として立件されたことが問題になりますが、開発者は、当初から被疑者(共犯者)と目されていたわけではないことを指摘しておきます。
 (2)については、弁護人当人が経過をコメントされておられますが、そうであれば格別信頼関係の問題が生じるとは思えませんし、まして、裁判長自らが適切に訴訟指揮権を行使して検察官に証拠を開示させていればよかったのですから、それを棚に上げて弁護人を非難するのは、筋違いも甚だしいでしょう。
 どうも裁判長の本音は、判決末尾にあるようです。すなわち、「弁護人が、種々の主張をして争ったため、審理に約1年間を要することになったものの、この弁護活動は、被告人の公判供述等に照らすと、果たして被告人の意思に適ったものであったのか疑問なしとしない」というところでしょう。要するに、「自白事件で執行猶予確実なんだから、ごちゃごちゃ屁理屈こねんと、さっさと結審させんかい! 被告人も遠方から裁判所に通っているのに。」ということです。ここは、弁護活動の価値観が裁判所と違っているというほかないですね。裁判所に結論が見えている事件では、弁護人は、ひたすら「迅速な裁判」に協力せよというのは、多くの弁護士にとって唾棄すべき弁護活動観です。
 いずれにせよ、楢崎裁判長の批判は、捜査機関や告訴人に異常に配慮したものといわざるを得ず、刑事裁判官がどこを向いて裁判をしているかを示す事例といえましょう。
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