にーにーとの出会い

February 14 [Sun], 2016, 19:31
その日は数人でカラオケで盛り上がっていた。


「ねーねー!ルイたち来るってさ!!」


誰かがクラスチャットを見ながら言った。


私もチャットを確認する。


「カラオケなうー!」「え、いいなー!」
「来いよー」「行く行く!!」


そんなメッセージのやり取りがされている。


誰にもバレないように小さくため息をついて、携帯を閉じる。


高校卒業してから、輪をかけて人見知りになってしまった私は、この狭いカラオケルームにさらに人が増えることを考えるだけで吐き気がしてきた。


「ことり、楽しんでる?」


ツバキさんが心配そうにこちらを見る。


「もちろんですよー!とっても楽しいですっ♪」


私は笑顔で返答する。


いけない。


暗い顔なんて見せちゃダメだ。


ここでは私は「ことり」なのだから。




私の本名は椛 仔烏(もみじ しう)


高校を卒業して声優になるために養成所に入った。


そこで互いにニックネームで呼び合うことになり、私は「ことり」と呼ばれている。


ことりは、いつも明るく笑顔で人懐っこく、悩み事なんてなさそうな、元気な子。


「ことりちゃんは、ほんといい子だよねぇー!」


ことりを知る人はみんなそう言うけれど、それは私が「ことり」になりきっているから。


呼び名を変えることで、その役になりきり、私は学校でそれなりに楽しい日々を過ごしている。




ツバキさんだって、ことりの学校の友達の1人。


この人は鋭いからしっかりと繕わなきゃ。


その時、ガチャリとドアが空いて顔を出したのは、ルイさんとアリーさん。


外国人ではなく、ただのニックネームだ。


ついに来たかと私は気合を入れ直した。


元々私を含め5人いた部屋に新たに二人、しかも男の人が追加になって、狭かった部屋はさらに狭く感じられた。


嫌でも腕が触れ合う距離で、何故かルイさんが隣に座り、私は1人身を強ばらせていた。


先ほどの気合なんて、瞬間でどこかに消えてしまった。


「ことりちゃん、、、だっけ?」


「!!?」


画面を食い入るように見つめてた私は背後からの声に肩を震わせた。


「えっと・・・」


振り返るとルイさんが曲を選ぶ機械をこちらに見せるように掲げている。


「ボカロとか好きなんだって?」


誰それ喋ったの!!?


まぁ確かに好きだけど!!!


と、ルイさんのどこ情報か分からない私のプロフィールに心の中でつっこんでから、
ニコッと微笑んで、肯定した。


「これ知ってる?よかったら一緒に歌わない?」


差し出された画面をのぞき込むと、私のよく知る題名が表示されていた。


「あ、はい!この曲大好きです!」


私の返答を聞いて、ルイさんは予約ボタンを押す。


順番が迫っていたようで、すぐにマイクが渡され、イントロが流れる。


1番はルイさん担当だ。


歌詞は覚えているのでチラリとルイさんを見ると、ルイさんも私の方を見ていた。


この人は歌がとても上手い。


昔バンドを組んでいて、そこでボーカルを担当していたらしいが、納得だ。


そのバンドがビジュアル系だったことは関係があるのかないのか、目が合うとウインクしてまるで私に話しかけるように歌う。


歌がそういう歌だからおかしくはないけれど、周りはヒューヒューとはやし立ててくるし、少し恥ずかしかった。


2番に移り、今度は私の番。


お返しに、ルイさんにむかって歌ってみたが、とくにダメージは受けていないようだった。


でもおかげで緊張がほぐれ、ラストサビ2人で歌うところはお互い向かい合って、まるでPVの再現のようにして歌った。


「・・・・っ、ふぅ。」


歌い終わってマイクを置く。


チラリとルイさんを見ると、目の前に手のひらが降ってきた。


「わっ!?」


くしゃくしゃっと暖かい手が、押し付けられる。


一瞬の出来事で次の瞬間にはもうその温もりはなくなったけれど、私は数秒固まっていた。


我に返って今自分は頭をなでられたのだと気づく。


とたんにかぁぁっと顔が赤くなる。


「見せつけるなよぉーw」


なんて周りが冷やかす声も通り抜けて、心臓が脈打つ音が響く。


その後ワイワイ騒いだことは何となく覚えているけれど、気がつくと家にいた。


もやもやとしたままベッドに潜りそっと頭に手をやる。


たった2回頭の上を往復しただけなのに、何かが私の中を駆け抜けた。


これは一体・・・


ベッドに置いてあるアシカのぬいぐるみを抱きしめて、考える。


本当はもう分かっている。


この感覚がなんなのか。


そう。


これは。


「出会えたんだ。」


小さく呟く。


「お兄ちゃんの手だ。」

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