ご挨拶 

January 01 [Mon], 2007, 19:44
こちらは成瀬るりのオリジナル超短編小説ブログです。
「chain」=「連鎖」という意味です。
1作1作は短いですがすべての作品が他のどれかの作品と繋がっています。
なお、お題は「涸れる空」さんよりお借りしています。

[自己紹介]
成瀬るり (なるせるり)
2006年4月生まれの子を持つ一児の母。
日本の真ん中あたりに生息。
本サイトはこちら→「夕凪」

申し訳ありませんが、著作権は放棄しておりません。
無断転記・持ち帰り・複製は厳禁でお願いします。

目次 

December 31 [Sun], 2006, 19:52
01.眩暈 / 02.忘却 / 03.いつか / 04.呼応 / 05.切望
06.虚ろ / 07.何故

07.何故 

August 01 [Tue], 2006, 16:59
 「いよいよ東海地方も梅雨入りしました」
 そう笑顔で言うお天気お姉さんを横目でチラリと見ると俺は「ちっ」と舌打ちをした。
 注文を受けた品物を各会社まで運ぶ仕事をしている俺にとって雨は天敵だ。
 品物が濡れれば文句を言われるし、何よりも晴れている日よりも渋滞する道路が増える。
 おまけにスーツのズボンの裾に泥は跳ねるし、先日買ったばかりの靴に雨水が染み込むのは間違いない。
 それでも空の機嫌を取ることは出来ないので仕方なくそれに従う。

 最寄駅まで徒歩で歩く間に案の定スーツの裾は水を含み色が変わってしまった。
 やれやれ、と思いながら電車に乗り込むと車内には湿気が充満しておりなんとも嫌な臭いが鼻をつ く。
 早く梅雨が明けないだろうか。と今日入梅したばかりなのにそんなことを願ってみたりしても車内の不快感は否めない
 せめて席でも空いていないかな。と車内を見渡しても当然空いている席など1つもない。
 それは毎日のことなのに、今日は踏んだり蹴ったりだな。と悲観的になり会社へ行く気力が急速に失われていくのが手に取るように分かる。
 しかし、そんなことをいくら思っても引き返す訳にはいかない。
 仕方がない。
 そう思いながら窓の方へ視線を移すと窓際に座っている1人の女性に目が留まった。
 その女性は雨をまるで親の敵を見るような目つきで見据えていた。

06.虚ろ 

July 28 [Fri], 2006, 6:09
ズキズキと頭痛を伴って目覚める時は決まって雨が降っている。
それは今日も例外ではない。
−−仕事に行きたくない。
そんなことを思っても生活のためには行かなくてはいけない。
頭痛のする頭を引きずってベッドから起き上がるとテレビを付け、
台所へ行きインスタントのコーヒーを作るためにお湯を沸かした。
いつも朝ごはんは食べない。
食べた方が体には良いことは分かっている。けれど、どうしても体が受け付けないのだ。
洗面所で顔を洗い、生まれたままの真っ黒な髪を後ろで1つに束ね、薬用リップを塗って、
地味なスーツに身を包む。
洗面所の鏡の中にはとても26歳とは思えない地味な、老けた女が1人自分を見つめていた。
ピーッ。
というヤカンの音で「会社」へ行く。という現実に引き戻されコーヒーを作るために台所へ行った。
コポコポとマグカップに湯を注ぎ、真っ黒い飲み物を1口飲んでからテレビへと視線を向けた。
画面の中ではお天気お姉さんが爽やかな笑顔を振りまいている。
「癒し系」「世の男共のオアシス」
そんな形容詞がぴったりと当てはまる女性だ。
『いよいよ梅雨本番です。どんよりとした天気が続きますが、皆さん元気に行ってらっしゃーい』
お天気お姉さんのその言葉に私の頭痛はさらに痛みを増す。

家のドアを開けると雨は容赦なく地面を打ちつけている。
行きたくない。
また後ろ向きな思考が私の頭の中を支配するけれど、何も考えないようにして部屋の鍵を閉めた。

雨は嫌い。
空が暗いから嫌い。
服が濡れるから嫌い。
通勤電車の中が湿気でムンムンとするから嫌い。
洗濯物が乾かないから嫌い。
そして、何よりも私の頭痛をより酷くする昔の記憶が蘇るから嫌い。

05.切望 

July 16 [Sun], 2006, 8:30
「ちょっと、祝日だからってゴロゴロしてないの!」
母親のそんな小言で目が覚めた俺は寝ぼけ眼のままリビングへ行くと
ソファーに座りテレビのリモコンのボタンを押した。
「今日は『秋分の日』です。
暦の上ではもう秋。ですが、まだまだ暑い日々は続きます。
さて、今日の最高気温は・・・」
テレビの中ではお天気お姉さんが笑顔でそう言っている。
「暦の上ではもう秋だね」
その言葉を俺は昨日も聞いた。

「季節はどんどん進んでいくのに、あたしだけ夏に取り残されている気がする。」
そう言ってため息をつく彼女の視線の先には彼女とのラブラブな話をする男が居た。
「じゃあ、オマエも進め。」
「あのね・・・。そんなに簡単に割り切れないから困ってるのよ。」

彼女の好きな奴に彼女が出来たら・・・
彼女が好きな奴に振られたら・・・
そんなことを毎日祈っていて本当に飯野に彼女が出来たと聞いた時、
『あわよくば』と思っていたけれど、実際はそんなに上手くはいかないものだ。
落ち込んだ彼女を励ますものの彼女が飯野を思う気持ちの深さを痛感し俺が入る隙間なんて全くないと思い知る。
しかし、そんなに簡単に心変わりするような子だったら俺は好きになってなかっただろう。
仕方がない。
長期戦で行くしかないだろうな。

そう心に決めると俺は携帯電話を手に取った。

04.呼応 

June 19 [Mon], 2006, 21:16
中・高・大学一貫教育のお嬢様学校の制服に身を包んだ彼女の存在に気づいてからは
毎日下校時間が楽しみで仕方なかった。
凛とした横顔にピンと伸びた背筋。
彼女の周りだけ流れている空気が違うような、そんな気がしていた。

彼女と二日続けて同じ電車に乗る時があれば、一週間全く一緒にならない時もあった。
同じ電車になった時は彼女の姿に見惚れて友人との会話なんて全く耳に入らなかったけれど、
一週間以上も彼女と同じ電車にならなかった時は別の意味で友人との会話が耳に入らなかった。

声を掛けようと思ったことは何度もあるけれど、彼女の学校に比べれば偏差値も低く、
また公立高校に通う俺なんて相手にされないと思い尻込みしていた。
だから、そんな彼女から初めて声を掛けられた時、
俺は世の中の人間すべてが自分に味方してくれているようなそんな錯覚にさえ陥った。

『今日はいつもの電車に乗れそうです』
彼女からそうメールがあると俺は友人の誘いをすべて断る。
友人に「友情より恋を取る男」と言われてもそんなことは仕方ない。
当たり前の話だ。
どうせ、その友人だって彼女が出来れば俺みたいになるに決まっている。

今日も彼女からメールが来ると友人に冷やかされながら学校を出て駅へと向かう。
急いで駅に向かわなくても彼女の乗る電車の時間に間に合うけれど、
いつも気持ちばかり急いでしまって早く駅に到着してしまう。
ホームで何本も電車を見送る羽目になるけれど、その時間も彼女にこれから会えると思うと苦にならない。
そんな俺の姿を駅員が不思議そうに眺めていることも分かっているけれど、そんなことも全く気にならない。
俺の頭の中は彼女のことで一杯だ。

彼女が乗った電車がホームに到着し扉が開くと、「飯野くん」と彼女が俺に向かって手を振ってくれる。
その姿を見つけた俺は一目散に彼女の元へと駆け寄る。
きっとその時の俺の顔は満面の笑みだろう。

03.いつか 

June 14 [Wed], 2006, 21:00
午後4時。
太陽は西へ傾き始め、夜へと移行する準備を始めるけれど、その威力は衰えることなく電車内を照らしている。
環境配慮のためか「弱冷房車」となっている車内にはあまりクーラーが効いていない。
35度を超える気温、じっとりと湿気を含んだ湿度。
その2つの相乗効果で不快指数のパーテンセージはどんどん上昇していく。
けれど、その指数は次の駅で下降に向かう。

「ひがしまちー、東町。車内にお忘れ物がありませんようお気をつけ下さい。」
車掌のアナウンスで電車の扉が開くと大勢の高校生が車内へと乗り込んできた。
その中からある1人の人物を見つけると案の定私の不快指数は見る見る下降していった。

「で、告白はいつするの?」
「んー、いつか?」
そうとぼけて答える私を友人は呆れ顔で見る。
「『いつか、いつか』ってもうその台詞1年以上聞いているよ。
まさか・・・、見ているだけでいい。とか思ってないでしょうね?」
「・・・思ってないよ」
本当に『見ているだけでいい』なんて思っていない。
けれど、実際は1年以上も『見ているだけ』という状態が続いている。
「彼女はいないんでしょ?」
「・・・いない。と思う」
彼はいつも男の子と一緒に下校しているようだし、聞こえてくる会話の中に『彼女』の話が出てくることは今までに一度もなかった。
「じゃあ、告白しなよ」
「でもさ、電車内で見られていてキモイって思われたら嫌じゃない?」
「あのさー、そんなこと言っていたら何も出来ないよ。
『いつか、いつか』って言っているだけじゃその『いつか』は絶対に来ないよ。」
「・・・分かってる」
『いつか、いつか』と言っているだけでは何も始まらないことは分かっている。
けれど、『いつか』その日が来るんじゃないかと思ってしまっている。

ただ下校途中に電車内で時々一緒になる程度。
彼は私の存在すら知らないかもしれない、
話かけたら嫌な顔をされるかもしれない、
彼は私が思っているような人じゃないかもしれない。
そんな風にネガティブに考えて自分の行動に自らブレーキをかけてしまっている。

『いつか』
自分から歩みださなければその『いつか』は絶対に来ない。
『いつか』が来るためには『いつか』を『今』に変えなければいけない。
もしかしたら、その日は今日なのかもしれない。

02.忘却 

June 02 [Fri], 2006, 19:53
「偽善者」
熱射病で倒れたため運ばれてきた女子高生はそう俺に呟くと看護師の制止を聞きもせずに病室を飛び出していった。

「偽善者」
その少女にそう言われ俺の心はギクリとした。
見透かされた。と瞬時に思った。

今夏の最高気温を記録した日。
日陰にも入らず、帽子も被らずにじっと炎天下の太陽の下で佇んで熱射病になるなんて、きっと何かあったのだろう?
試験の結果が思わしくなかった。
友人または彼氏と喧嘩した。
もしくは、失恋した。
きっとそういった類の悩みだろう。
俺でよければ解決の糸口を見つける手助けをしよう。
そう思ったことは決して嘘ではない。
しかし、心の底からそう思っているのか?と聞かれれば、答えは「NO」だ。
今、少女が病院に居る間だけ少女の悩みを聞いて「そうだね」「うんうん」と言葉を返す。
それだけしか考えていなかった。
けれど、それだけでいいと思っていた。
結局、勤務医の内科医なんてそれぐらいしか出来ないと思っている。

そこまで思って、ふと、自分は何故医者になりたかったのか?と思った。
思い浮かんだ言葉は、
「人の命に関わる仕事に就きたいから」
「人の役に立つ仕事だから」
それは本当の自分の気持ちなのだろうか?
俺はそれだけの気持ちで医者を志したのだろうか?
違う・・・。
もっと別の何かがあったような・・・。
思い出そうといくら足掻いても頭の中には何も思い浮かんではこない。
高校時代は受験勉強に追われ、何とか大学に入学すれば課題に追われ、卒業すれば試験対策に追われ、インターンになれば時間に追われ・・・。
そんな日々を過ごしているうちにあの頃の、医者を志した頃の気持ちをどこかへ置いてきてしまった。
どこへ置いてきたのか?と考えてもそれすらも分からない。

「偽善者」
少女の言葉が俺の心にナイフとなって突き刺さる。

01.眩暈 

May 29 [Mon], 2006, 20:37
真夏。日中の気温は今年最高の38度を記録した日。
太陽は執拗にあたしを照らし、あたしの額に汗を噴出させている。
だけどあたしはその汗を拭おうともせずに道路のアスファルトの上に漂っている陽炎を見つめていた。
「俺、彼女が出来た。」
あたしにそう言った飯野の顔はあたしが知っているあたしが好きな飯野の顔ではなかった。
そこにはあたしの知らない飯野が居た。
その顔を思い出したとたんにあたしの視界はぐにゃり。と歪んだ。

目を覚ますと視野の中に白い天井と白いカーテン、そして、白い布団が飛び込んできた。
どうやらあの眩暈で倒れたらしい。

「こういうことはよくあるの?」
目を覚ましてしばらくした後、真っ白な白衣に身を包んだ医師という肩書きの男がやってきてそう言った。
「いえ・・・。初めてです・・・。」
「・・・そう、何かあったのかな?」
そう聞く医師の言葉にあたしはまた飯野の顔を思い出し軽く眩暈を覚える。
「先生には関係ないと思いますけど」
「そう?僕でよかったら聞くよ?」
いかにも「いい人」を装い、「僕を頼りにしてね」と言いたげな医師の態度があたしの神経を逆なでする。
「偽善者・・・。」
あたしはそう呟いて医師を一瞥すると鞄を手に取り「お世話になりました」と簡単に会釈をして病室を後にした。
慌てた素振りの医師や看護士があたしの後を追いかけてきたけれど、あたしはそれ以上の速さでその場から逃げ出した。

『偽善者』
あたしは医師にそう呟いたけれど、それはあの医師ではない、それはあたしだ。
精一杯の笑顔を作り「よかったね」と飯野に言ったあたしこそ本物の「偽善者」だ。
悪いのはあたし。
飯野との友人関係を壊すのが怖くて告白する勇気があたしだ。

病院の外へ出ると太陽は相変わらずアスファルトを照らしていた。
あたしはその熱気でまた眩暈を覚える。
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