♯1 忘れ始まり 

January 29 [Thu], 2009, 15:50
♯1

突然 必然的に現れる影
俺の光で照らし 甘く囁き近づき包み込み
「待ちくたびれたぜ、お前もそうだろ?」
一つ 輪廻が終わった
一つ 永遠が始まった

過去…結ばれぬ恋 よどんだ雲抱き 不安を胸に 不満を吐き出し 夜は泣き 意味を
悩み 確信は無し
断然 完全な恋の始まり
俺の命の在るわけ知り 内蔵に響く鼓動 痺れる唇
失えないモノ見つけ 刹那 いてぇな釘付け
「待ちくたびれたぜ、お前もそうだろ?」
一つ 気付いてたんだ
一つ 違いに…俺はよ

♯2 マイベイビー 

January 29 [Thu], 2009, 15:54
♯2

元々たいした事ねぇことはわかってるから たいそうな夢は望まねぇしよ
才能もねぇし 金持ちの子供じゃねぇし やる気もそんなねぇし けど死ぬ気はねぇ
死ぬ気ねぇから食わなきゃならねぇ 働くしかねぇなっつっても 何していいかわ
かんねぇ
とりあえず働きゃ微妙な給料 多少の欲望が生まれて アルコール含んで隣の女に
ラブコール送ってよ
なんだかんだ 社会人気取りになっちまって バカなガキ見て昔を懐かしむ俺って
何様?虫けら ケラケラ笑って楽しく生きりゃあいいかって思ってんよ
元々たいした事ねぇからたいそうな夢は見ねえけど生きてりゃイヤでも見ちまう
のが夢…虫けらが夢見るくらい勘弁してくれよ

♯3 ねぇ 

January 29 [Thu], 2009, 16:05
♯3

覚えているかい?最初に会ったのは二年前の冬―ベージュのダウンジャケットを
着た君を小手指駅で見かけて声をかけたんだ。とても寒い夜だったよ。最終のベ
ルの音が、まだハッキリと頭の中で鳴っているよ。君は意気なり声をかけられた
にも関わらず、僕を軽くあしらった。僕は必死だった。独りで帰るのは嫌だった
から、どうしても君と飯を食べて、手を繋いで途中まででも二人で帰りたかった
んだ。
あんな寒い夜は心が淋しくて、身体が冷たくて…独りでいると死んじゃいたくな
りそうだったから、どうしても君と一緒にいたかったんだ。

君は答えてくれた―モスバーガーの前で立ち止まり振り返ってくれた。あの時に
持っていたのはサザビーのバッグだったよね。靴はヒミコ―時計はフォッシルだ
ったような…そこまでは覚えてないけど、君の振り返った時の不機嫌な顔は今も
忘れない…。
僕はモスバーガーとモスチキン。君は匠のセット。僕は右手、君は左手。しっか
りと絡ませて家路を歩いた。家具店を曲がって街灯の無い細道を自販機の灯りを
頼りに僕のアパートを目指した。
僕は先に上がり電気とエアコンのスイッチをいれた。君はゆっくりと靴を脱いで
上がった。警戒は無い、帰り道に繋いだ手から僕の思いは伝わっていたから―独
りで帰るのが嫌だったから君と帰った。独りで腹を満たすのが虚しいから二人で
食べた。アロマポットの灯りが暖かく包んでくれたよね…。

君の仕事は“ねずみこう”朝から晩までチューチュー言ってる。僕の仕事は“殺
し屋”で仕事が無い時はプラプラしてる。

僕らはダイバスターを見ながら買ってきたモスバーガーを食べた。君の笑顔は子
猫みたいだった。僕はマヨネーズのついた君の唇の端っこを舐めた。君は無反応
でリュウジの殴られてるシーンを見ている。
“バカモーン!!”
何事も無かったかのように僕はモスチキンを食べた。
今度は君が烏龍茶を口に含み、僕の口に流し入れてきた。僕は思わず溢した。
愛し合う僕らの巣の窓を強すぎる木枯らしが叩いていた。電気ストーブの“ジジ
ジッ”と鳴る音が君の吐息の合間に聴こえていた。
ねぇ…愛し合うってこういう事じゃない?
ねぇ…出会いってこういう事じゃない?
僕、思うんだ。必ず出会わなきゃいけない人がこの世に一人いて、皆はその人を
追い求めている。運命といったら運命…。偶然でも必然でもあり、現代の辞書に
は乗らない言葉…。
言葉の表現では無理で、自分の脳みそしか反応しないんだ。だからわからない…
。この事に気づくのは、ほんの一握りの人―。
ねぇ…君の辞書ではこの感情を何て名付けるの?
ねぇ…君はこの感情に気づいているかい?僕と同じように…。
僕は“殺し屋”今まで何人か殺した。

♯4 武蔵野ツイスター part1 

January 29 [Thu], 2009, 16:11
♯4 今回は長めなので3部に分けました。続きはリンクから…

カオルさん、俺と付き合ってくれないか?

中坊の時以来の告白をした―。
ごめんネ。アタシには鎖が絡まってるからテツオとは付き合えないよ。テツオの
事はキライじゃないよ。

あっけなくフラレた―。
でも、テツオが中学生みたいな告り方するなんて思わなかったよ。

クスクス笑ってる。
下蓮雀三丁目の交差点にて俺は泣きそうになった。
先週。相談にのった時のカオルさんの涙に惚れてしまった。カオルさんには[鎖
]と称した[ヒモ]がいて、なかなか切れないと相談されたのである。
夜。二人で記憶が無くなるまでズブロッカを浴びた。薄れる視界の中、薄笑いの
カオルさんの中に涙を見た。そして「カオルさんをカオルと呼び捨てにしたい」
と思った。
でも、今さっきフラレた。これからも[カオルさん]のままである。

俺は風俗の送迎のバイトをしている。知り合いの知り合いの知り合いくらいから
誘われた仕事である。疲れた女達を家まで送る単純な仕事である。
俺が送り迎えする女は六人いるが、カオルさん以外は会話をしない・・・。皆、
後部座席で携帯をいじくっているから会話はほとんど無い。だが、カオルさんは
例外で気軽に話掛けてくれるのである。
カオルさんの家は下蓮雀にあり、店から15分くらいである。俺の唯一の楽しい時
間だ。

#1 悲
フラレてからひと月。蒸し暑い日が続いている。カオルさんの帰宅時間の10分前
から車のエアコンを入れる。カオルさんの好きな雑誌[FLASH]をさりげなく置いと
く、少しでも気を引こうという俺の懇談である。 カオルさんも諦めない俺の気持
ちを知りながらも親しくしてくれる。ありがたくも、歯がゆく苦しい・・・。
ルームミラーで化粧を落とすカオルさんをそっと見つめる。時折、目が合う。ギ
コチナク目を反らす俺。クスクス笑うカオルさん。会話は無い。吉祥寺通りが何
処までも永遠に続けばいいのにと思う。
楽しい時間はあっという間に終わる。
ユニクロの路地に消えてゆくカオルさんを恋しく見つめる。ずっと側にいたいの
に―。叶わぬ願いか叶う願いか・・・。

俺はひたすらカオルさんが心地よい雰囲気作りをした。俺といる15分という短い
時間を意味ある大切な時間にしようと思ったのである。カオルさんが愛用してい
る香水(サムライ)を仄かに香らせて、好きなバンド(ロリータ18号・ニューロティ
カ・ゲルググ・SA)を用意した。カオルさんが喜んでく
れるならなんでもしようと思ったのである。
ある日。昼間から店のオーナーの半田さんから武蔵境の駅前のマックに呼び出さ
れた。
「お前、昼間に暇してんなら、なんか仕事するか?」
半田さんはテリヤキバーガーを口いっぱいに含んでいる。
「はぁ」
あんまり深く関わりたくない人達である。気乗りしない返事を返した。
「気の抜けた返事しやがってよ。・・・お前よ、カオルとはどうなってんだよ?
皆ウワサしてんぞ、お前らがデキてるんじゃないかってよ」
今日呼ばれたのはコレか!と思った。
「先月、告ったらフラレましたよ」
シェイクを一口。
「この業界よ。店の女に手だしちゃ駄目なのしらないのか?」
「え?マジすか」
「マジだよ。まぁ知らなかったなら許してやるよ。・・・カオルにヒモいんの知
ってっか?」
「はい。それが原因でフラレたんで・・・」
「ハハハ。ヒモいたって好きなら付き合うよカオルはよ。お前に気を使ってフッ
たんじゃないか?俺にテツオが何かされるんじゃないかってよ」
・・・。
「カオルの事が好きなら付き合っていいぜ。条件付きだけどよ」
「条件?ですか」
「アイツに付いてるヒモを切れ、そんであと三年はカオルを辞めさせるな・・・
できないなら、お前クビだ。そんでもって損害賠償として三百万払え」
「ええ!」
「やなら、諦めな」
「わかりました。じゃあ、これからはアタックしてみますね」
俺は“条件”の事より、カオルさんと付き合ってもいいという事が嬉しかった。
俺は上水道のソメンヨシノを眺めながら帰った。

#恋

「テツオ。少し遠回りして帰らない?」
ルームミラーでチラリとカオルさんを見た。
「イヤ?」
俺は返事をするのを忘れていた。
「ごめん。返事するの忘れてた・・・うん、遠回りしよう!小金井公園でも行こ
うか?」
カオルはルームミラー越しに微笑んだ。
五日市街道をゆっくり安全運転で走らせた。会話は無く、ステレオから微かに[
東京ヘブン]が聴こえている。
信号で止まる度にルームミラー越しにカオルさんと目が合う。その都度、微笑み
合う。
公園の駐車場は深夜のために閉鎖されていた。俺は車を適当に停めて自販機へ走
った。急いで缶コーヒーを二本買って車に戻った。 後部座席のカオルさんの姿は
無くて慌てて辺りを見渡すと桜の木の下にカオルさんのシルエットが見えた。月
明かりに薄っら浮かぶシルエットは美的にエロい。俺はうつ向くカオルさんに缶
コーヒーを渡して隣に座った。夜露を吸ってジッとりとした桜の木に背中をべっ
たり付けた。
今日は何故か会話が無い。会話は無いけど居心地は悪くない。
カオルさんは俺を見る度、ニッコリと笑う。俺は何かのサインなのかと思うが、
思いすごしだと言い聞かせる。何か期待しているのだが、期待を押しころす。妄
想癖がありポジティブで、ロマンチストな俺は何でも都合良く解釈してしまうか
ら後で辛い事になる。今回のこの“恋”は大事にしたくて自分をムリクリにコン
トロールするのである。「昨日ね。半田さんに呼ばれて・・・テツオの事をどう
思ってるのか聞くのよ。私はテツオの事好きだけど、こんな商売してる女は駄目
よ。オマケ付きだしね。今の送り迎えの時間が凄く好きなの、テツオの想いが凄
く伝わるの・・・もて遊んでるんじゃないのよ。この時間がずっと続けばいいな
って思ってるの」
カオルはタバコを缶コーヒーで消した。
カオルさんの横顔に涙が滲んでいた。俺はその涙を拭いてやれなかった。怖かっ
たのである。俺なんかに拭ってもらいたくないんじゃないかと思ってしまい、手
を差し延べる事が出来なかった。ただヤリたいって思えるくらい軽い気持ちなら
良かったのにと、カオルさんへの恋心を恨んだ。

#突

公園の夜から俺はカオルさんと距離を置くようにしている。カオルさんの帰宅時
間より早く他の女を送るようにして、違う人にカオルさんを送ってもらうように
したのである。
カオルさんの気持ちがわからなくて歯痒くて、カオルさんの笑顔が悲しくて、見
てられなくなってしまったのである。

いつも携帯をいじくってるハルカが珍しく話し掛けてきた。
「テッちゃんって彼女いるの?」
「え?いないっすよ」
「じゃあ、アタシがなってあげようか?」
「いや、結構っす」
「そっかぁ」
「どうしたんすか?」
「彼氏が浮気してさぁ、そっちの女んとこ行っちゃってさぁ・・・この仕事して
る意味無くなっちゃったよ」
ハルカは後部座席から身を乗り出して助手席に来た。
「テッちゃんってカッコイイよね。クールで優しいし、なんで彼女いないの?」
ハルカがジッと俺をみつめている。
ハルカはシフトレバーを握る俺の手を取り自分の胸に押し当てた。
「アタシって魅力無いのかなぁ」
「そんなこと無いですよ。可愛いしお客さん喜ぶんじゃないですか?」
カオルさんには敵わないがハルカは可愛い。

何か間違ってしまった。
ハルカの部屋へ上がってしまった。コーヒーを沸かすハルカの後ろ姿を見ながら
半田さんにバレたらどうしようか考えている。
だが、すぐに投げ遣りな思いが巡ってきた。

どうにでもなれ。

そう思って台所のハルカを後ろから抱き締めた。強く抱き締めながらキスをした
。ハルカも俺に身をまかせている。柔らかな唇を舐め合いながら服を脱がせた。
仄かに汗ばんだハルカの躰を舐めた。ハルカも俺の躰を舐めた。互いに傷を持っ
てる者同士舐め合いながら癒すのである。ハルカと絡み合いながら涙が出てきた
。羽毛布団で拭いながら、ひたすら腰を振った。
朝日が登るまでなんどもイッた。ハルカの毛も俺の毛もカピカピになった。それ
を二人で笑った。
「なんか・・・都会って疲れるよね」
ハルカがテッシュで拭きながら言った。
「俺、ずっと武蔵野だからわかんないや」
「テッちゃんって都会人なんだ?」
「でも、東京タワーはみた事ないよ」
「フフフ。アタシはあるよ。置物買って実家に贈ったもん」
「実家どこなの?」
ハルカは“アッ”という顔をした。
「初めてテッちゃんから質問してくれたね・・・山梨から一昨年出てきたよ」
「行ったことないや」
「なぁんにも無いよ。嫌な人ばっかだし・・・でも、懐かしいな」
ハルカは裸のままカーテンを開けた。眩しい朝日が眼球を刺激する。
「富士山見えないや」
「見たことないよ」
俺はしかめっつらをしながら服を着た。
「ありがと」
「ん?」
ハルカが俺の頬にキスをした。
「いっぱい抱いてくれてありがとう」
俺もお返しにハルカにキスした。

#打

半田はイラついていた。店の売上げの悪さとハルカの無断欠勤が原因である。四
人の従業員と二十人の女で構成されている大型店なのだが一日に出勤する女はせ
いぜい六人といった程度になってしまったのである。一週間で40%も売り上げが落
ちてしまった。ハルカ一人でここまで落ちてしまったのである。
「という事なんだよ。だから、お前の仕事無くなったから車を持ってきてくれな
いか?」
「そんなぁ、俺はどうすればいいんすか?」
いきなりのクビ宣告にかなり動揺した。
ハルカが来なくなったのは知っていたが、ハルカがナンバーワンだったとは知ら
なかった。
「俺の副業の方で仕事するか?」
「副業ってなんすか?」
「組の仕事だよ」
「いや、無理っす」
「だろ?だから他の仕事探せよ」
「わかりましたよ。今日中には車持っていきますよ。そん時に今までの給料もら
えますか?」
「あぁ用意しとくよ。わるかったな」
「いや、しょうが無いっすよ」
俺は電話をきってからベッドに潜り込んだ。
「店長?」
「うん」
「なんだったの?」
「クビだってさ」
「え!なんで?」
「お前がいかなくなって売上げが落ちたからだってさぁ」
「いいじゃない。なんか簡単なバイトすれば」
「俺はいいけど、お前みつかったらヤバいぜ」
「アタシ、引っ越すよ」
「どこに?」
「烏山」
「近いな」
「だって、武蔵野が好きなんだもん」
ハルカの部屋にもう三日もいる。
そろそろ自分の部屋の掃除でもしなくちゃなと思った。
突然に何かがグルグル廻り出す。音もたてずに風が吹きだす。俺らはそれに身を
任せて、洗濯物のシーツのようにフラフラ揺れる。隣のシャツと絡まったり、バ
スタオルと遠退いたりしながら風に身を任せてフラフラする。突然の風に俺らは
翻弄される。

俺は車を掃除してからいつものコインパークに停めた。
店に入ると半田さんが若い従業員を殴り倒していた。俺は何事かと慌てて近付い
た。
「おお、テツオ来たか」
「どうしたんすか?」
「ワリィな、こいつがよ。従業員の給料を使いこんじまったんだよ」
「ええ!」
「ワリィけど一週間待っててくれねぇか?」
暗がりの中。半田の恐ろしさを知った。俺もハルカとの情事がバレたらこうなる
のか、いや、殴られるどころじゃないなと心の中でビビりまくった。
「は、はい。車いつものとこに・・・コレ、鍵っす」
少々震えながら鍵をレジの横に置いた。
「ああ、一週間後に電話するからさ、ワリィな」
俺は軽く会釈して足早に店を出た。

「大丈夫か?」
「全然」
「お前、結構演技派だな」
半田は倒れている従業員に手をのばしながら言った。テツオに給料を払いたくな
いが為の演技である。

テツオは葡萄屋の角を曲がり東急の裏のスターバックスに入った。
アイスコーヒーを注文していると、後ろから膝カックンされた。勢い良く振り返
るとカオルさんが微笑んでいた。

-リンク-
武蔵野ツイスター part2
http://yaplog.jp/lainel/archive/5
武蔵野ツイスター part3
http://yaplog.jp/lainel/archive/6

♯4 武蔵野ツイスター part2 

January 29 [Thu], 2009, 16:18
♯4

テラスにて、駐輪場寄りの席に二人で座った。
「こんな明るい時間に珍しいね」
カオルさんはベーグルを食べながら微笑んでいる。
「眩しいっすよ。太陽が」
「ハハハ。久しぶりだね・・・最近、避けられてたのかな・・・私って」
俺はうつ向いた。
「図星かな」
「カオルさんこそ、こんな時間に何してるの?」
話を変えた。
「バイクでプラッとしてるの」
「バイク持ってたんすか」
「うん。バイカーだもん」
「いいっすね。こんな日は最高ですよね」
「どっか行こうか?」
「え?」
「武蔵野市をグルッとしない?」
「いいっすね」
カオルさんは立ち上がり、コーヒーを一気に飲み干した。俺も慌てて飲み干して
カオルさんの後を追った。
カオルさんのバイクはSR400でトラッカーに改造されていた。タイヤは太く、ワ
イドハンドル、SRキャブ…。パッと見るだけでもかなりイジッてある。
俺は駐輪場のおっさんと親しげに話すカオルさんをバイクの前から見た。
「あのおじちゃんさ、いつも見ててくれるんだよね。いい人だよ」
この辺りはバイクを停められる駐輪場が無いために駐輪場の職員と仲良くなった
んだと思った。
カオルさんがエンジンをかけると同時に周囲の人達が振り返った。細めのシガー
マフラーなのに凄い爆音である。俺の躰中に鳥肌が立った。アイドリングもSRじ
ゃないみたいな太い音をだしている。
カオルさんが俺に早く乗れと合図した。俺は恐る恐るカオルさんの後ろに跨った

「しっかり捕まってね」
カオルさんは俺の腕を自分の腰に回して、力を入れるように命じた。
「行くよ!」
カオルさんは一気にスロットルを絞り、発進させた。
俺はあまりの勢いにカオルさんに抱きついた。
吉祥寺通りに入り三鷹を越えて、アッという間に東八道路へ出た。府中方面へ走
り、刑務所の脇を走り、府中街道を東村山方面へ進んだ。

あんなにも好きだった人なのに、今、強く抱き締めてるのにカオルさんが遠くに
感じる。不思議な感覚である。カオルさんと距離を置いた事により、こんなにも
冷めてしまうなんて自分でも信じられない。
なぜか早くハルカに会いたいと思った。ハルカに「好きだ」と言ってあげたいと
思った。

府中街道沿いのコンビニで、二人並んでタバコを吸った。
「カオルさんは店辞めないの?」
「私は腐った女だから、今のままでいいの、熊本から上京した時はバンドで頑張
ろうと思ってたけど、もう無理だよ。才能とかじゃなくて気力が無くなっちゃっ
た。だから憧れたバンドのCDを集めてるの、夢が無いから夢がある人を見て満足
してる日々だよ…」
カオルさんは苦笑いしながら語る。
「私についてる男も一緒に上京してきたの、彼がギターで私がボーカル。他に二
人いたんだけど…ドラムは自殺した。ベースは薬で逮捕されちゃった。皆、都会
にやられちゃったってわけよ。でも私は生きてるし、何かしたいわけじゃないけ
ど、これからもとりあえず生きてこって思ってる」
カオルさんが身の上話をするなんてと少し驚いた。
「テツオが私を好きって少しでも思ってくれた事は感謝してるよ。本当にありが
とう。私も好きだよ。一緒にはなれないけど、これからも好きだよ」
はにかんだ笑顔が可愛い。 サバっと重い上京話をしているカオルさんは、なんか
凄い。何か仕組まれたドラマのシナリオみたいである。

#綴

ハルカが洗濯物を干しながら鼻歌を歌っている。俺はペンを原稿用紙の上で休憩
させて、しばらくハルカの後ろ姿を眺めた。
一ヶ月前から俺は小説を書き始めた。ハルカが進めてくれたのである。最初は全
く何も思いつかないでイラついていたのだが、カンシャクを起こす俺にハルカが
微笑んでくれた。ハルカがいてくれて俺は生きている。
今までの二十一年の俺の人生で[小説]という言葉は存在しなかった。だが、ハル
カと部屋を借りて一緒に暮らし始めてから新しい発見がたくさんあって、小説も
その中の一つであった。ハルカが進めてくれた小説を読む度に堅苦しい文学ばか
りであり、つまらないものばかりであった。読みながらハルカに意味と話の流れ
を聞いた。ハルカは解りやすく教えてくれた。そこで俺は、馬鹿じゃわからない
小説なんて読まれるわけないじゃんと思い、自分で書いてみた。ハルカは絶賛し
てくた。そして、鉛筆と原稿用紙を買ってきてくれた。
俺はハルカを後ろから抱き締めた。
「書けた?」
「ある程度」
ハルカにキスした。
「後で読ましてね」
暖かい日差しに汗ばんだハルカの首筋に頬杖をついて舐めた。うっすら塩味。
吐息をこぼすハルカを抱き上げてソファに優しく押し倒した。
「幸せ…」
ハルカが言った。

あの時―カオルさんと別れた後にハルカに「好きだよ」と伝えた。理由など無く
伝えた。ハルカは「誰でもいい訳じゃないけど、今はテッちゃんがいい。テッち
ゃんが欲しい」と言ってくれた。
「アタシの人生で一時だけ感じたい事があるの“幸せ”って、一分でも一秒でも
感じたいの…」
ハルカは言った。
なんか涙が出た。俺にソレを託してくれるなんて、なんて俺は“想われ屋”なん
だろう。
青梅街道から少し入ったコンクリ造りのアパートを二人で借りた。近くに西武新
宿線が通っていて耳を澄ますと微かに電車の音が聴こえる。
俺たちは自転車で田無駅の辺りまで買い物に行く。ハルカの職場は田無駅から五
分くらいの所にある。灯油販売所の事務員をしている。ハルカは俺に小説が書き
終わるまで仕事の事は考えてなくていいよと言ってくれた。俺は完全に甘えてい
る。情けなく思う反面、感謝の気持ちでいっぱいてある。

[バカ]
赤木太郎はバカである。
時は、まだ日本人が髷の頃。村の長達が古い野太刀を手入れしながら戦話に花を
咲かしている。
太郎と幹太も長達に混ざって話をきいている。
「太郎と幹太は太刀が無ぇのに戦ぐのけ?」
長のひとり、立野がからかってきた。
太郎と幹太は捨て子である。どっかの国から逃げてきた一向がこの村に捨てたの
である。
村の衆の情けで外れにある小汚い寺に住ませてもらっている。食い淵は畑仕事の
手伝いや墓掘りなんかをしている。今この村では奇病が流行っていて毎日のよう
に死人がでているのである。
村の奇病を治す為に戦に参加して薬を買おうと村の衆で決めたのである。
「太郎や、コレ使えし」
片目の茂木が太郎に竹槍を渡した。
「戦場ぁ行ったらよ。太刀なんていっぺぇありゃあ」
キセル好きの巌が笑いながら言った。
この村の男達は何度か戦に行った事がある。太郎は一旗挙げるつもりで戦に参加
するつもりである。

筆者 浪江テツオ
第一話 赤木太郎
つづく

ハルカが作品を読んでいる間に俺はコーヒーを沸かす。ハルカは薄いめで砂糖は
一杯。俺は濃いめで砂糖は四杯いれる。昨日サミットで買ったショートケーキを
皿に並べる。
ハルカの隣に座り頬にキス。ケーキを差し出す。俺の唇にハルカがキスを返す。
リモコンでオーディオを再生する。レッドホットチリペッパーズが流れる[ダニー
カリフォルニア]が小さく流れる。時代劇にチリペッパーズとはかなりのミスマッ
チである。
ハルカは読み終えた原稿を丁寧に揃えてファイルに綴じた。
俺の肩に寄り添いながらケーキを一口。
「テッちゃん・・・」
「ん?」
「アタシはテッちゃんのファンだよ」
「いいや。パートナーだよ。そんでもって俺よりも大事な人だよ」
「こんなに幸せにしてくれてありがとうね」
ハルカをグッと引き寄せて抱き締めた。

#芽

涼しくなり始めた頃―ハルカの生理が止まった。妊娠したのかもしれないと俺は
喜んだ。急いで小説を書きあげて仕事をしなくちゃと奮闘した。毎晩、徹夜で書
いた。内容などどうでもよくただ書いた。
俺の子供ができてたら、俺は自分に子供ができるなんて思いもしなかった。想像
もつかないがとにかくハルカを食わせていかなければいけない…ソレしか考えつ
かない。
俺の想いをよそにハルカは少し暗い顔をしている。俺は気になっていたが、小説
を夢中に書いた。
書きあげた小説をハルカは不満そうに読んでいる。いつもの楽しそうな顔とはま
るで違う。嫌々読んでいるように見えた。
「どう?」
まだ最後まで読んでいないのに、我慢できずに聞いてしまった。
ハルカは首をかしげながら考えてこんでいる。
「焦ってる気がする」
「そうなんだよ。早く書き終えて仕事探さないとなって思って早く書き終えちゃ
ったんだよね」
「アタシ、産みたくない」
「え?」
「ずっと二人でいたい。二人だけで、こうやってくっつきながら暮らしていきた
いよ」
ハルカは下腹部を擦りながら言った。

苦しいんだな…苦しんでるんだな…子供を産んで三人で平凡な幸せを手にいれる
か…二人だけで熱く愛し合いながら生きていくか…よそ見しないでハルカだけを
俺に見ててもらいたいんだな。

「ごめん。アタシ、わがまま言ってるよね。幸せすぎちゃって、浴が出ちゃった
んだね。幸せって底無し沼みたい、満足してるんだけど、まだまだって思っちゃ
って、せっかく赤ちゃん出来たんだもん。産みたくないなんて残酷な事言ってご
めんなさい」
「ハルカの想いがわかって良かったよ。ハルカ無しじゃ生きてけない。子供が産
まれてもかわらないよ。こうやってくっつきながら…ずぅっと一緒だよ。俺は汚
ったない世界からハルカと一緒に抜けたんだもんよ。紙一重な場所でスレスレな
生活してさ、でも今は純恋愛をハルカとしてるし、これからも武蔵野でハルカと
生きていきたいよ」
何故か自然に涙が出てきた。俺の胸に埋まるハルカ。
好き過ぎて〇〇〇〇。

#寒くて暖かい

太郎は立派な兜を被った武将の生首を抱えて死体の転がる田んぼを全速力で走っ
ている。
ぬかるむ泥に何度も足を取られながら、転びながら走っている。この生首は敵方
の総大将の首である。太郎は泥に紛れ背後から大将を討ち取ったのである。この
生首を味方の本陣に届ければ褒美が貰える。
だが太郎は本陣とは違う方向へ走っている。
太郎の向かうは木陰で休む幹太の所であった。
「幹太ぁ。やったでよ!首取ったでよ!」
「おぉ!太郎!やったじゃねだか。これで出世じゃ出世じゃ!よぉし、俺が本陣
に届けるでな、太郎は長達探してここで待ってろ」
太郎は何の疑いも無く首を幹太に渡した。
「じゃオラは長達探してくるで!お偉方に首渡してきてくれ」
太郎はそういって再び泥の中に入って行った。
長達は全員死んでいた。亡骸を木陰に並べて傷ついた長達の体を自分の褌で綺麗
に拭いた。全員を集める頃には辺りは暗く、遠くフクロウの鳴き声が聴こえてく
る。
太郎は疲れ果て眠くなるのを堪えて幹太の帰りを待っている。
長達を残して幹太を探しに行くわけにはいかないと、眠気を堪えてひたすら待っ
た。
朝方。夜露に体が冷えてしまい太郎は凍えた。空腹にも耐え、薄れる視界には幼
い頃の幹太と太郎が走り回っている。太郎はそっと体を倒した。
冷たい土に寝そべって深い眠りについた。

幹太は太郎を裏切り褒美を手にいれた。幹太には罪悪感は無かった。それが幹太
の生き方であった。乞食の生活が嫌だったのである。長達に媚を売って芋を貰う
生活などに戻りたくなかったのである。寒くて、ひもじい夜に見る明るい太郎の
笑顔など見たくなかったのである。幹太は今までの自分を捨ててしまいたかった
。新しくやり直したかった。ただそれだけで裏切ったのである。



俺は書き終えた原稿用紙を整えた。ふと窓を見ると雨の雫がガラスに数滴ついて
いた。
慌てて洗濯物を入れてから傘を持って部屋を出た。ハルカの終わる時間まで、ま
だ時間があったから遠回りした。団地の公園を抜けて、桜並木の遊歩道を歩いた

満開の紫陽花の向こうに愛しい後ろ姿があった。
駆け寄ろうとした時、後ろ姿に傘がさされた。知らない後ろ姿だった。二つ後ろ
姿はくっつきながらタクシーで消えた。 直後―携帯にメールが届いた。ハルカか
らであった。

-リンク-
武蔵野ツイスター part1
http://yaplog.jp/lainel/archive/4
武蔵野ツイスター part3
http://yaplog.jp/lainel/archive/6

♯4 武蔵野ツイスター part3 

January 29 [Thu], 2009, 16:21
♯4

ごめんね。残業で遅くなりそうなの、先にご飯食べててね

何かが弾けた。ハルカが浮気している。そう思った俺の全身から力が抜けた。何
度も抱き締めたハルカの温もりが俺の体から消えてしまった気がした。ほんの一
瞬でハルカの温もりを忘れてしまったのである。溜め息と同時に濡れたベンチに
座った。
―アレから結局、子供はできていなかった。生理不順で遅れていただけであった

ハルカにとって俺は“成り行き”…ただその時その場に居たのが俺なだけだった
のかもしれない…。
ハルカに俺は必要じゃないのかもしれない。俺にハルカは必要なのに、だがハル
カが気づいてくれてもハルカは俺を必要としないかも…。渦巻く脳味噌…空と地
面が逆転している。
気づくと13階建ての都営団地の屋上にいた。雨に紛れた武蔵野が一望できる。土
と埃とコンクリと排気ガスの匂いがしている。
こんなに寒いのに、冷たい雨が降っているのに…俺の育った武蔵野は俺を暖かに
包んでくれている。コンクリートと緑が半分半分ある武蔵野―俺の心と同じよう
である。光と闇とが半分づつあり、黒と白を半分づつ持ち合わせている。信じる
気持ちと疑う気持ち、冷たさの中に暖かさ、俺は飛び降りた。落ちてゆく中…熱
った身体の熱は冷まされゆく…“ハルカ”。
愛しさが切れた途端。俺は満足に満ちた。ハルカが俺と暮らして一瞬でも“幸せ
”と感じてくれた。それだけで満足…そんで地面が間近に見えた時に、そう思え
た事が嬉しい。 太郎は消えてゆく意識の中に幹太の笑顔が見えた。太郎の生命は
微笑みながら途切れた。太郎は俺で、共通点はこの死によって生まれて、物語は
終わった。

-リンク-
武蔵野ツイスター part1
http://yaplog.jp/lainel/archive/4
武蔵野ツイスター part2
http://yaplog.jp/lainel/archive/5

♯5 ワタシは“A ” 

February 01 [Sun], 2009, 10:57
♯5

別れ話しを切り出したら、悟がポッケの中で拳を握った。

悟はワタシの後輩と付き合っている。浮気なんてどうでもいいけど、普通に過ご
してて周りから痛々しく思われるのが痛いから別れる。
「由美ちゃんと付き合ってるでしょ?美香から聞いたの…浮気されて平気な女な
んていないから…ドライに話しましょう」
「…」
普段はベラベラ喋るくせにこういう会話になるとダンマリ決め込むのよね―男っ
て…。
ワタシは二年ぶりに煙草をくわえた。
「里子…煙草辞めたんじゃないのか?」
「悟と付き合ってる間はね…」
「…」
ワタシは煙と共に冷たい視線を悟のアイスコーヒーに注いだ。辛口のアイスコー
ヒーをたまには飲みなさいと上から目線で見た―みてやった。
ワタシは立派じゃないけど立派ってなに?生きてるんだからいいじゃん。どんな
に傷ついても生きてるんだもん。皆痛いの嫌だもん―泣いちゃうもん。
フラレてプラスになんてならないでしょ?強い女なんて嘘だもん…嘘だもん…。
男の事なんてわかりたくも無いよ。わかるような事を言ってくれないんだもん…
。コレッて女性的な感情じゃないかな…?ワタシは!周りの目も気になるけど…
やっぱりワタシはワタシだし…自分に正直にいたいのよ。ワタシに原因があった
のかもしれないけど…。「ねぇ?悟…貴方はワタシに何を期待したの?ワタシは
…」
泣いた―呑んだ…。この女の弱さが…いらない。悟の憐れみが痛い…。
「ワタシは貴方と生きて…行きたかったよ…」
言いきっちゃった…。しかも、思ってもない事を言ってしまった。
―開き直っちゃお!ワタシにだってプライドはある。男の一人や二人、傷つけて
やりたいもの…後で虚しくなるなんてわかってる。でも、そんなの関係ねぇ!っ
て…。
「ゴメン…」
「ワタシは貴方を望んでたよ…悟は?」
「ゴメン…」
「どうなの?」
「ゴメン…」
「ゴメンって何?」
「勘弁してくれよ」
普通はするけど俺はしないなぁ、したいと思う気持ちが理解できないよ…浮気っ
てさ―。とか言ってたくせに…なにこの様は?だから男は皆一緒なのよ。
しばらくの沈黙の後、悟は荷物をまとめ始めた。後ろ姿が全く知らない人に思え
た。

同じ会社に三年いると男は働き盛り―女は古株に思われる。
別に構わないわ、ワタシはワタシだし…たまには残業しちゃおう―。
夜八時―。疲れたサラリーマンに混ざって駅まで歩くと普段見なかったものが見
えてくる。夜の労働者達の出勤や、ほろ酔いの鳶職。タクシー運転手の一服。し
かめっ面の美人。何もわかっちゃいない学生。調子に乗った大学生。
男が皆同じ顔に見える。女も三種類くらいしか無いなぁ…。
満員電車でワタシはどうしてもふてぶてしくなれないから、グイグイ、体を奥に
進める事が出来ない…。 アンコウのようなオヤジに押されながら奥に進み手摺り
に、なんとかつかまって落ち着く…。ワタシの駅は人がたくさん降りるから、ま
た人の波に乗り、電車から降りる。
帰りにコンビニに寄って夕食を買う…。レジに並び会計途中に男友達から“呑み
”の誘いメール…下心…あっても良いけどタイプじゃないから無視―。
ワンルームの部屋に帰り、新作の発泡酒を呑みながら深夜番組を見ながら化粧を
落とす。
悟と別れて二ヶ月がたった。たまに電話がかかってくる、出ないけど…。未練も
無いからどうでもいい感じである。
今度、男を作るならワタシの理想を貫く事にしている。顔がカッコイイのは当然
で、スキが無い、いつも魅力的で、少々の緊張感を持ちながらお互いを認め合っ
て受け入れ合える。収入は月50万円くらいでいいや…。これが最低条件―。
ハァ…溜め息。この空間はワタシの空間だからわがまま言いたい放題…虚しいけ
ど外の冷たい風に当たるよかましだよ。
明日も仕事だし、寝よう…。

おわり

♯6 あい“死”てるのに 

February 01 [Sun], 2009, 11:20
♯6

彼が指名してくれる度に辛くなる。
彼が笑顔で、私を席で迎えてくれるだけで私は死んでしまってもいいと思う。
これが愛なのかなって初めて感じてる。
でも、私が彼に「あいしてる」って伝えても信じてもらえないんじゃないかなっ
て不安で、胸が張り裂けそうになる。たまたま来た店にいる女というだけ…私は
ただの女。道ばたに転がってる石ころのようなもの…。

昼間に外に出るのが久しぶりで、太陽の光が私を攻撃してくる。サングラスをか
けてもレンズを貫いて眼球にパンチしてくる。ノースリーブの私を熱の毛布で包
んできて汗がジワリと沸いてくる。長らく太陽に触れていなかったから、太陽に
嫌われたみたいだ。
月は冷たく見つめるだけで何もしてくれない。太陽は日によって優しくしてくれ
たり、叱ってくれたりしてくれる。太陽が恋しい…。でも、彼に会えなくなるの
は嫌、太陽を捨てても彼に会いたい。
なんとなくで夜に働くようになった。夜は黒いキャンパスにイロトリドリなネオ
ンがキラキラしてて心がワクワクした。でもネオンの向こうは、真っ暗で何も見
えなくなって自分すら見えなくなっちゃう。私は馬鹿。何度も自分に言った。私
を「あいしてる」って言ってた男は皆いなくなった。愛ってなんなんだろうって
、捨てられる度に思う。
だから私が彼に「あいしてる」って言っても信じてくれそうにないし、私自身、
自信が無い。
OLしてた頃はカフェで寛げたけど、今は世間に後ろめたさを感じてアイスコーヒ
ーをテイクアウトしてしまう。被害妄想だとわかってるけど、頭で理解しちゃう
と孤独になってしまう。「誰も私を知らない」という哀しすぎる言葉が頭をよぎ
る。だから被害妄想でも後ろめたさを感じていたいのだ。誰かが見てるんじゃな
いかと常に思ってれば寂しくなんてないから…。

オープンして直ぐに彼が来た。私は嬉しくて頬が揺るんでしまった。
彼は一つ二つJODANをいった後、無表情になった。
「俺さぁ今日帰ったら死ぬんだぁ」
「へ?」
「たまには死んでみようかなって…」
「なんかあった?」
「なんもないよ。ただ飽きちゃったんだよ。毎日さ、同じ事繰り返してるだけ、
なんか…つまらなくてな」
「じゃあ、私も死ぬ」
「なんで」
「お客さんに会えなくなるんじゃ生きてる意味無いもん」
「嘘でも、嬉しいね…その言葉」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ一緒に死ぬ?」
私は頷いた。
「終わったら電話してくれる?俺待ってるから」
私は頷いた。
彼に電話はつながらなかった。
一人で逝ってしまったのか、それとも…結局は嘘だ。男なんて皆嘘つきだ。あい
してたのにさ―。

猫でも飼おうかな…。

終わり

♯7 女神に恋した底辺の男 part1 

February 01 [Sun], 2009, 11:22
♯7

ここから観る夜景が好きでたまに一人で見にきている。右の方には微かに東京タ
ワーが見える。少し左に葛西の観覧車―下に運河、水面に揺れる光。悲しげに踊
る妖精のようである。飲み込まれそうな闇を覗き込み“落ちたら…”と想像して
震えがくる。
煙草をニ・三本ふかしてから帰る。

女神に恋した底辺の男

運河沿いのアパートに住んでいる。
10:00〜22:00までピッキング工場で働いている。世の中的にワーキングプアなん
ていわれている。現代社会における犯罪者の巣窟のような場所である。テレビを
つけると派遣社員の雇用問題とか殺人事件とか派遣社員の話題がいっぱいである
。その真っ只中にいる俺はなんか優越感を覚える…が実感は無い…元々家族や他
人…世の中に不安や不満は無いからである。ただ言える事は自分は底辺にいると
いうことである。
精一杯の難しい事を考えて頭の中で議論しているのはヒマだからであって趣味も
なんに対して興味も無いからである。
自分で働いた金で生活していて休みは部屋から殆どでないけど他人との会話は嫌
じゃない過去に家庭内暴力も無い俺みたいな人間はなんていうんだろう…よくわ
かんないけどこれもニートの部類なのだろうか…。積極的に何かしないといけな
いみたいな雰囲気の社会だが、誰に迷惑をかけるでも無い俺みたいな人間はダメ
なのか…取り柄のないそれを自覚している人間って何すればいいんだろう。
:あっ裕樹だけど…今年は帰れそうだよ。おせち料理がたまには食べたくてさ
:急に言われてもなんも用意してないわよ
:兄貴は元気?
:知らないよ。あの子も連絡よこさないし…で、どうすんの?
:あぁ30日に帰るよ
久しぶりの母との電話だったが味気ない会話でありなんかめでたくなかった。
最終電車で最寄り駅に着いてから徒歩一時間かけて実家に帰ると母も義理の父も
いなかった―。
俺は義理の父の仕事用の軽トラックで近所の浜辺へ向かった。とっくのとうにカ
ウントダウンは終わっていて年末のテレビ番組に興味の無い俺は年明けの実感は
無くて、ただ日の出だけは見たかった。…なんとなく真っ暗な実家を見てたら日
の出だけは見たいと思い衝動的な行動をした。
海に続く道は真っ暗で海に着いても見渡す限り真っ暗な世界であった。
真っ暗な中…耳を澄まし波の音だけを聴きながら眠りに落ちた。

頭が痛くなるような寒さに目を覚ますと周りには人だかりが出来ていて日の出を
見に来た連中が騒いでいる。うぜーなと思いながら車から降りて分厚いジャケッ
トのジッパーを首元まで上げながら波打ち際まで向かった。
辺りは薄く白ばんできていて靄のような雲に光が照らされてきている。
デケー犬を連れた夫婦が幸せビームを出しながら通り過ぎてゆく…失恋日の出ツ
アーの女の子グループが写メを写し合っている。中学生のカップルが初々しく体
育座りしている。皆、今年の幸せを日の出に託そうとアホな信仰心全開である。
そんな事を思う俺が一番アホらしく誓うものも無いくせにここに来て情けなさを
感じながら人気の無い方へ歩いた…。
海藻が溜まって汚ならしい浜辺は人気は無く俺には丁度いいスポットであった。
俺は足を止めジッと日の出を待った。
詩的な発想はするが“美”を理解していない俺にとって海は動く直線でしかない
…。直線が地球の揺れで揺れている。好きなのは“あの橋”だけ…。
雲がオレンジに染まるに連れてなんだか後悔がジワジワと足元から身体に入り込
んできた。頭を出し、ただの直線が光の線になり雲に伸びる輝く翼を太陽が拡げ
―。
「なんだこの夜明けは…」
まるで、まるでまるでまるで…イヤッ例えが浮かばない―ただジッと見つめよう
。登るまで見つめさせていただこう…。
太陽は全身を出していきながら光の翼でごま塩のような観光者達を一人残らず包
んで行った。この海の日の出は、今年の日の出は“あっぱれ”であった。
痺れた足を交互にゆっくり動かしながら車へ向かう途中、なんども太陽へ頭を下
げた。そして一人で来た事を悔やんだ。周りの人を見ると「綺麗だったね。綺麗
だったね。綺麗だったね。綺麗だったね。」と口々に言っていた。日の出につい
ての他人の会話を耳にする度に「なんで俺は一人で来てしまったんだ!バッキャ
ロー!」と心で叫んでいた。痺れた足が憎かった。
俺はスーパーマーケットの“おせち料理”を食べてビールを飲んでたわいもない
会話を義理の父としてその日のうちにアパートへ帰った。
正月気分もすっかり消えてテレビを見ながらぼんやり過ごした。
「あの日の出は一人で見るべきじゃないよな…」
うとうとしながらコタツで寝た―。

♯8 恋しさ 

February 01 [Sun], 2009, 11:23
♯8

裸で抱き合えればいいのになぁ
無駄な遊戯はいらなくて
単純に向き合えればいいのになぁ
無意味な時間もいらなくて
妖気を感じ合って 殺気を捨てて 素敵に縛り 苦しみを噛み合う 肉塊でいられる
…誰かのソレになりたい
ワラワラと流れる風
フサフサと漂う流木
サパサパと渦巻く渦巻きで会いましょう
知り合う無駄な時間はいらなくて
単純に素直になりたい
頑丈な壁の壊しかたがわかれば楽なのに
欲望を刺激する異物がある
欲望を満たすボタンを探し廻り
無意味な時を歩いてしまった
裸で抱き合えればいいのになぁ
無駄な遊戯はいらなくて
ただ単純に…単純にいられたら
この恋しさも伝えられたのに 嗚呼…
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