南西地方・三日目 〜マディラン タンニンの向こう側を目指して〜
2013.04.05 [Fri] 13:56



南西地方・遠征三日目、
今日はマディランです。

本当にまだ3日しかたっていないのか、という程
毎日知ること・考えること・学ぶことが多く、
知識が下書きのデッサンだとすると、体験はキャンバスに色が塗られていく感覚です。

昨日は大空の青、雪の白、ワインの黄色、古酒の飴色などが彩られ、
今日は漆黒の黒紫、そう、マディランです。

早朝、雨に滲んだフロントガラス。




最初の訪問は、樽貯蔵庫をやわらかな七色の光で循環させるドメーヌ。

ラ・ヴィネでも扱いのあるLaougueなどでもコンサルタントとして働く
ボルドーから来たというマチュー氏に案内され、テイスティング。




マディランはご存じのとおり、タナ種がメインとなる南西地方でも
もっとも骨太で、『タンニン』という渋みを現す言葉がここから来ている程、
強烈な渋みと同時に酸をもった赤ワインです。

ボトリング前の原酒を飲むと、口中が収斂します。
ただし、これが長期熟成を可能にする証ともいえるのです。

小樽熟成を経たワインが大樽に移され、ゆっくりとエイジングしていきます。




果実味を減退させずに、かつ熟成させてバランスを取っていく。
これがマディランを美味しく飲む鍵となる部分ですが、
このドメーヌではかなり古いストックまで、現行で保存しています。

その実績で、タイユヴァンのオフィシャルマディランに輝いています。

近代流行のマイクロ・オキシダシオンなどを取り入れず、
古典的な熟成によって、ワインを仕上げていきたいと言います。

ボルドーの醸造家でも、様々ですね。
この蔵からは良年1990年と、更に古い80年代を分けて頂く約束をしました。




続いての蔵は数年前、阿保店長も訪問実績のあるドメーヌです。

ここは近年、マディランではなかなか難しい有機栽培に取り組み、
タンニンを豊富に含みながらも、果実の膨らみときめ細かい酸でバランスする
出色のワインを造っています。

とくに気を付けるのは、タンニンの元となる果皮と種から抽出される渋みを
小さく留める為のタンクの表面積や容量、ピジャージュと呼ばれる攪拌作業の質や回数など、
理想のワインの味わいをゴールに見据え、緻密に作業を行う理論派です。




マディランのAOC地図で、畑の立地や特徴を様々教えてくれました。

ご覧いただけるように、マディランには南北に数本の丘と谷があります。
そしてマディランの葡萄畑は、非常に高樹齢の樹が多く植えられています。




ワインは若くしてもバランスよく、2009年や2010年が美味しく飲めるほどで、
これはマディランでは珍しいことです。

補助品種であるカベルネ・フランとメルロを用いたVDPも、
とても好印象でした。




マディランエリアは小さな村ばかり、レストランはおろか、カフェなどもほとんどなく、
大きな町までも数十キロ離れているので、今日はお昼はなし。

フランスの田舎の生産者巡りでは、
時々こういうこともあります。

午後の訪問時間まで、教会の脇でひと休みです。




午後一軒目は、その名も教会通りの名前が付いた造り手です。

筋肉質でマッチョな風貌で、マディランのイメージ通り。
ここでは、マディラン3種、パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィル3種を造っています。


マディランは新樽仕込みされるケースが多いのですが、
ここの2010年は素晴らしい完成度でした!

ボルドー・サンテステフなどの格付け上位の若いものと飲み比べてみたいですね。




樹がこうして密着しているのが不思議で聞いてみると、
70年代に流行った方法で、選定や収穫が簡易に出来るのだとか。

今はほとんどないそうなのですが、初めてみる風景でした。




そして、最後に期待を抱いていた蔵元へ。

ここも栽培・醸造までは古典的。
コンクリートタンクと新樽熟成でマディランを仕上げます。






この蔵の当主はチャーミングな女性なのですが、この日の気温は低く、
訪問したどの蔵でもボトルのテイスティング温度がおそらく12度位で、
マディランには低い温度でした。

その為、酸とタンニンが余計に際立ち、果実がクローズして感じましたが、
この蔵だけ、テイスティングのボトルを適温(少し高めの16度くらい)にしてくれていて、
女性ならではの気配りを感じました。

ワインがより美味しく感じるには、素材だけではない、ホスピタリティによっても
ワインの味わいは変動するな、と再確認。

勿論、先の蔵の低温でのテイスティングも、適温を想像してチェックしてきたので
問題はありません。




ラベルの張られていないワインの正体は特別な樹によるもの。
そう、再びマコタージュです。

これは、まさしく接ぎ木ではない、プレ・フィロキセラ(自根)のワイン。

実は、あまり知られていないことですが、マディランの栽培地の各所に点在して、
こうしたフィロキセラにやられていない葡萄畑が残っているそうです。

何故なのかは分らないそうなのですが、ただし面積は非常に小さく、
この蔵でも0.5haだけだということ。

多くの造り手は量が取れないので、通常の接ぎ木のワインに
ブレンドしてしまうことが多いようです。

アメリカ台木にフランスの樹が接ぎ木されたフランス中の葡萄畑。
今では、これが当たり前です。




フランスの中には、もうほとんど自根のワインは残っていません。

自分も数多く、飲んだ経験がないのですが、
目の前にあるこれはまさしく、統合され、地に足の着いた
非常に余韻の長いワイン。

ああ、ミネラルとは、こういうことなんだ。
タンニンの量とか、ヴィンテージとか、
そういうことではないんだ。

感覚に、身体に、訴えかけてくるのです。

ああ、これがワインなんだ。  と。





通常のマディラン、パシュランも女性らしい柔らかさと品があり、
そして、このプレ・フィロキセリックには、驚きを隠せませんでした。

蔵のストックは既に、完売。

次回の瓶詰め分を予約しました。

(・・・と同時に、以前のラベルのボトルを
 頼み込んで2本だけ、直接売ってもらいました。)

一本はラ・ヴィネテイスティング用、
もう一本は何かイベントで、皆様で飲みましょう。

是非、この感覚を共有して欲しいです。


***




マディランでの充実した蔵元訪問を終え、
ホテルで明日の訪問先、Tursan, Saint Montの資料を予習した後は、
今日のディナーです。

・・・何と、自身でもTursanのワインをプロデュースし、
フランスで長くミシュラン三ツ星を維持する
Les Pres d'Eugenie 〜Michel Guerard〜にやって来ました。




この近辺は本当に何もない農道なのですが、
ここだけはまるで別世界、スパなども併設された楽園リゾートのような場所。

フランスはもとより、ヨーロッパ中の富裕層が
癒しを求めて訪れるそうです。

明日はここのシャトーも見せて貰う約束を取っています。




料理は、言うまでもなく素晴らしいものでした。
(これはまた次回、別枠でご紹介致します)

昨年もジュラの二ツ星Jean Paul Jeunetで感じたことですが、
こういうレストランが、しっかりと地元のワインを紹介し、
地元の料理とワインを世界の来客に発信していけることが
フランスワインと料理の文化財なのだろうなと思いました。

土地的にボルドーも近いので、もちろんグランヴァンの1940年代くらいまで、
圧巻のワインリストでしたが、ページの最初にはたっぷりと、
南西地方のリストが取ってあります。

Alain Brumont.
Chateau d'aydie.
Berthomieu.
Chapelle Lenclos.

などのマディラン。
今日訪れた蔵も、もちろんありました。

CedreやClos Triguedinaなどの
カオール。

またリストはイルーレギ、パシュラン、ジュランソン、
サン・モン、トゥルサン、ビュゼ、ガイヤック、フロントン・・・
と続きます。


フランス南西地方の片田舎に、世界の富裕層が利用するラグジュアリーホテルがあり、
そんな土地で飲まれる地元のワインが、遥か東京で飲めるのです。

それもボルドー、ブルゴーニュのグランヴァンのような高価な対価を
必要とすることなく。


自分の中の南西地方をテーマとした絵画は、
もうすでに8割ほど、鮮やかな色合いで彩られています。

明日のSaint Mont, Tursan,

明後日のGascogne, Armagnac.

最後のCahorsで、どんな完成を迎えるのか。


・・・自身が一番楽しみです。


*今回も長々と、ご拝読ありがとうございました。