もはや感想とすら呼べそうにもない短編作品の備忘録―@

November 24 [Thu], 2011, 0:24
『死にたくない!』 (1978/加) ★★★☆☆ 
……この最後の5分間は人生の凝縮、彼の最期こそは尊厳そのもの

『最悪の遅刻』 (2005/加) ★★★★☆ 
……いくら性差を否定しても男女にとっての結婚って違うもの。無編集の技法が光る

『オン・ザ・ライン』 (2007/独・瑞) ★★★☆☆ 
……彼女を視つめているつもりが、こちらが見透かされていた

『イリンカとサドリンカ』 (2007/仏) ★★★★★ 
……大国の歴史を紐解きながら監督自身のルーツをたどる「解脱」の旅

『14歳の明日』 (2008/濠) ★★★☆☆ 
……いつか明日が過去になっても、その懺悔が消えることは決してない

『タクシーの客』 (2008/仏) ★★★☆☆ 
……今日彼の国に深く根付いている移民問題に対する自国民の意識の示唆

『ホテルの出来事』 (2008/仏) ★★★★★ 
……主人公に情を掛けて滲ませた涙に、別の意味を持たせるまさかのオチ!

『そして、私自身のために』 (2009/希) ★★☆☆☆ 
……愛する人のためにではなく、愛する人と一緒にいたい自分のために

『彼の人生』 (2009/希) ★★★★☆ 
……彼の置かれた状況こそが現代ギリシャの国勢そのもの

『パリの中古レコードショップ』 (2009/仏) ★★★☆☆ 
……このお店に携わる誰しもが憎めない、ただ出来るなら遠くから見ているに留めたいけど

『ブロークバック・マウンテン』 ―"Brokeback Mountain"

November 23 [Wed], 2011, 22:43
1963年、アメリカはワイオミング州の山中で二人の青年が羊番の仕事にありついていた。出逢ったばかりで互いの素性を知らない者同士ながらも、昼間は過酷な仕事を通して信頼を築き、同じテントで他愛もない会話を交わして幾夜も共に明かす。それは、彼らにとってはじめての心を許せる時間と言えた。
やがて唯一無二の友情を愛情へと変えた二人を待ち構えていたものは、誰にも知られてはならない禁断の恋だった。

原作者であるE.アニー・プルーは、自身の代表作であるピューリッツァー賞受賞作の『シッピング・ニュース』の映画化については懐疑的であったが、本作に関しては協力を惜しまなかったらしいことがパンフレットに掲載されたインタヴューから伺える。




これがアカデミー賞作品部門を受賞しなかったことに賛否両論あるようだけれど、私個人としては妥当な評価だったと思う。該当部門のスピーチで監督を務めたアン・リー自身が語ったように、これまでに社会的に冷遇され続けて来た同性愛がいかに受け入れられつつあるとは言え、その風当たりはいまだに強い。
しかしながら、このほかにもいくらでも社会的市民権を獲得し得ていない愛や宗教学の視点から異端視される関係性は存在する。これを主題に据えたからといってそれだけでアドバンテージを持つのだとしたら、それこそ逆差別もいいところだ。この作品が仕上がり如何によって正当な評論を下されているいまこそ、同性愛とそれを扱う映画の人権確立に一歩近付けたと言える。


ギレンホールの演技に関しては、肌の質感やお腹のたるみなど外見に対するアプローチの反面で、いつまでも発声が若々しいままなのが気になってしまった。彼とは正反対に、その見てくれに大きな変化が感じられる部分の少ないヒースは、扮した役の静かな二十年間を繊細な角度を付けて見事に演じ分けていた。
それぞれの妻を演じたミッシェルとアン・ハサウェイは役柄の幅を飛躍的に伸ばしたことを双方ともに印象付ける。特にハサウェイは、これまでに演じて来た自身の代表的な役柄は、そのほとんどがL.ローハンまたはS.ヨハンセンの蹴った役どころだったと自ら吹聴していたこともあり、今回もその例外ではなかったとされるが、彼女たちの誰よりも無難な配役だったことを観ているこちら側に思わしめた。


最後の"I swear"は、恐らくは結婚式の誓約になぞらえてそうしたのだろうけれど、"永遠に一緒だよ"はどう考えても訳し過ぎです。そういった箇所が其処彼処に垣間見えたのが残念、"You bet"もあの場合なら"来れば?"くらいでよかったのでは。昨今は吹き替えも字幕の有無さえ一枚のDVDで思うがままに選ぶことが出来、しかもその方が快適なのだとしたら、劇場まで足を運ぶ意味って一体何なのだろうと、こうした相性の悪い意訳を目の当たりにするにつけ考えさせられる。
でも、それを偲ぶべきときはいまじゃない。二回劇場で観て、二回とも泣かされちゃったよ。参りました。

『クラッシュ』 ―"Crash"

November 20 [Sun], 2011, 5:13
一人の青年がロサンゼルス郊外で殺害された。その遺体を見つめながら憂いを隠せない同人種の黒人刑事。同じ街の中心部では、白人の富裕層夫婦の車がギャングスタによって盗まれ、また別の場所では白人警官から黒人の夫妻が冤罪によって迫害を受けていた。
またあるところでは、ペルシャ系移民の親子が経営する小売店のそれを修理しに来た鍵職人との間で諍いを起こし、さらにほかの路上では売り飛ばされるために連れて来られた大勢のアジア人がその運命をそれと知らずに待ち続けている……。

様々な人種で織り成されるアメリカの社会問題を浮き彫りにした第78回アカデミー賞作品賞受賞作品。本作の監督かつ脚本も手掛けたP.ハギスは、その前年の作品賞に輝いた『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家も務めており、史上初の二年連続受賞記録を達成した。




平素であれば、黒人や白人といった呼称は好ましくないと考えているが、そのように公式のあらゆる媒体が表現していることを踏まえて、ここでは敢えてそれに倣った。

この作品を形成するものは、主に「(人種や民族あるいはその職業で表された)社会における自分」「個人としての自分」の二重構造である。どの登場人物にもすべからく共通する「ふたつの自分」の間には、その大小や濃淡に差異があり、そこには当然ながら苦悩や葛藤が付き纏う。
ほぼ単一民族国家に住まう身としては、その辺りが理解し辛いのではと観賞前にこそ思ったが、だからこそ転じて、何の先入観や偏見を持たずに、この問題を客観視することが出来た。

しかしながら、正直に物怖じせずに言えば、'90年代後半以降から顕著に現れ出した「えっ、これが作品賞なの?」と思うような作風が続いていると言わざるを得ず、今回もその懐疑を打開するには至らなかった。

リュダクリスがはじめて「いいこと」として人身売買の子供たちを解放した場面に、飽くまで個人的には、『卒業』でD.ホフマン扮するベンジャミンが向こう見ずにも花嫁であるエレーヌを奪い去って逃亡するバスの後部座席で意気消沈するラスト・シーンを思い出した。
その最たる違いは「気付いてるか否か」だけれど、あの時点で自身の善行に酔っている節のあるアンソニーが、いくら英語も話せず生きる術のない彼らを閉じ込めていた扉をただ開けたところで、本当の救済とは呼び得ないことに気付くまでには、果たして時間は掛かりそうだ。とは言え、私を含めた大抵の観客は、あれ以上のことさえも為し得ないかも。

いまさらと思う向きあれど、とは言え、何かを立ち還るのに遅過ぎるということはない。あらゆる立場の誰かと様々な意見を交し合える可能性があるというだけでも、これはいい作品だ。
この映画の舞台に据えられているL.A.は、もしかしたら私たちの心のなかそのものなのかも。
P R
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