みいの事 

July 12 [Sun], 2009, 13:57
 夫婦というものに寿命があるとすれば、その寿命を全うできる夫婦は今でこそそう多くはなくなってしまった。
古きよき時代の、”生涯一伴侶”等と言う言葉は私語と化し、今では前時代的なB級お茶の間ドラマか国営放送の歴史ドラマの中でしか見かけなくなってしまった。
彼女の家庭事情も多分に漏れず、みいはその誰にも打ち明けられない寂しさと決して癒える事のない孤独を抱え育んでいた。
彼女の両親はみいが5歳の時に離婚していた。
紙切れ一枚で公的に夫婦であった男女が、同じ書式の紙切れ一枚で味気なくその終焉を迎え、互いの体を知っている他人になってしまう。
ユーモア溢れるこの国の夫婦制度の区切りであったが、わずか5歳のみいにとっては家族、という世界観の崩壊であった。
 
みいは両親の離婚前、父親から暴力的虐待を頻繁に受けていた。
ある晩、泥酔状態で帰ってきた父親に顔面をストーブに押し付けられた事もあった。
幸い大事に至らず済んだが、背中の中程まであった黒髪がばっさりとおかっぱになってしまった。
なにより少女の心に大きな傷跡が残ってしまった。
何かにつけ、幼いみいに当たる夫を見て、母が離婚を決意し親子3人で暮らしていく決心をしたのは、今では悪くない選択だったのではないか、と今のみいは思っている。
それからのみいは決してくじけず健気に、すくすくと育っていった。
幼い妹の面倒を私が見なければ、そうして寂しさを我慢しなければ母は満足に働くことが出来ない、母が働けなければ生活ができず、またあの父親の元に帰ることになるのだ。
寂しいけれどその引き換えに今の生活が幸せであるのならみいは我慢しようと思った。
今の幸せ、未来に大きな夢を抱えているはずの少女はただそれだけを求めて幼少時代を過ごして来た。

 7歳になったみいが好きだったのは母に連れられ、近所のビデオレンタル屋でアニメ映画を借りて観る事だった。
アニメ映画の内容は何でもよかった。
母と5歳になる妹と3人で幸せに暮らしている事を一番実感できる時間だった。
いつも同じビデオレンタル屋に行き、いつも同じお兄さん、お姉さんが忙しそうに働いている。
中でも髪の毛を腰まで伸ばし、気だるそうにしている青年の事が、みいの大のお気に入りだった。
気だるそうにしながらも「こんばんは」と笑顔で話しかけてくる。
父親のお陰で男性不振になっていた私の、もしかしたら初恋だったのかもしれないな、とみいは思う。

そんなお気に入りの毎日は、みいが中学生の頃まで続くことになる。
みいが中2の春、母親が再婚したのだ。


2004年 春 02 

July 02 [Thu], 2009, 3:38
 その時まで逢瀬市に体育館が二つある、なんて全く知らなかった。
僕は生まれてから10数年、隣の那古乃市に住んでいた。父親はなかなか仕事の安定しない人であった。
しかし、大きくなっていく息子たちを見て、心を入れ替えたのか、或いは別の理由があったのか、ある時からマジメに働くようになった。
そんな父に一生懸命尽くす母も少し世間離れした所があったが、子供である僕たちを時には厳しく、時には優しく育ててくれた。
中学校3年生の時、父の仕事の都合で逢瀬市に家族4人で引っ越してきた。
僕には2つ離れた兄弟がいる。
どちらかというとおっとりしている長男の僕とは違い、弟はいつでも快活で、一人で行動してはよく母親を心配させる事が多かった。とは言え、特別やんちゃであったり、世間で言われる不良なる物とは全く縁のあるわけではいなかった。
僕たち家族は、ごく一般的な家庭のはずだった。

僕が17歳の頃、両親は離婚した。
僕は「好きにしたらいいと思う」と、当事者達の離婚を承諾した。
一方、僕とは性格が正反対の弟は、やはり意見までもが正反対だった。
「いやだ、絶対にいやだ」
今思うと、彼の言い分が分かる気がする。寧ろ当時の自分が何故あんなにも両親の離婚を受け入れられたのか、疑問にすら思う。

少し話しが脱線してきたので元に戻そう。
そんな風にして、僕は20年近くをこの何もない町で過ごしてきた。
20年経っても大して変わらない町並み、変わらない顔ぶれ、自動車メーカーの工場が立ち並ぶせいか、澱んだ空だけが、より一層色合いを濁らせている気がする。
本当に興味のそそられない町だ。
そのせいか、この町に体育館が二つある、などと言う事など全く気付かないでいた。

結局、老夫婦と1匹を車に載せたまま、僕は駅前の車道の脇へと車を寄せ、交番へと足を運ぶことになった。
「申し訳ありませんねぇ」
ご主人が助手席側の窓から顔を出し、申し訳なさ気に頭を軽く振った。
僕は振り返りながらその動作に合わせる様に、同じように頭を振った。
申し訳ないのはこちらの方だ。
知りもしない場所へ連れて行く、と格好をつけたは良いが、時間と車のガソリンを消費するだけで、これでは格好のつけようがない。
僕は足早にして、今来たばかりの駅前にある交番へと入った。
六畳間程の狭い空間には机と椅子、ロッカーしか見当たらず、そのロッカーの横から奥へと通路が続いていた。
いかにもらしい顔つきの凶悪犯の目が、壁に貼られた指名手配ポスターの中からこちらを睨んでいる。
「ごめんくださーい」
奥へと続く通路の先にあるであろう小部屋に向かって僕は大きく叫んだ。
人のいる気配はない。
その後も何度か声を出してみたが、文字通り人っ子一人居ないようであった。
壁に貼られた逢瀬市の地図を眺めてはみるも、戦後に近隣の村や町との合併を繰り返し、肥大化したその町には僕の行った事の無い所も多い。その地図に指を這わせてみた物の、5分後には交番の前でタバコを吹かしている僕の姿があった。
「交番、留守の様だったので誰かに聞いてみますね」
助手席の老人にそう言うと、彼はにこにこと笑顔を返すだけだった。

暫くすると、僕を挟んで駅の反対側から歩いてくる人影があった。
若い女の子だ。多分。
ナンパと間違われるのは嫌だな、とナンパの経験など一つもない僕は思ったが、助手席から覗く老人の目の、そうも言っていられないプレッシャーが、僕の背中をぐいぐいと押しやってくる。

今の僕 

June 23 [Tue], 2009, 14:23
今の僕は東京に居ます。
東京で働いて、東京で暮らしています。
今の僕の生活を話中で語ることは極力しないつもりです。
このブログはノンフィクションブログです。

但し

現在進行形のお話ではありません。
各記事名が示すように2004年〜2005年頃のお話です。
ですので僕の回想、という形でお話が進みますがお話の中で現在進行形の様な表現があるのはご了承ください。

どれくらいの頻度で更新できるのか、寧ろ読んでいる人がいるのかわからないけど出来るだけは更新していきたいと思います。

よろしくお願いします。

2004年 春 01 

June 22 [Mon], 2009, 21:57
その日の事は良く憶えている。
春風が暖かく頬に触れる晴れた日、残酷にも僕と彼女は出会ってしまったのだ。

その日僕は、あるきっかけから老夫婦を自分の車に乗せて、地元の街道をあちこちと走り回っていた。
「どうもすみません、ご迷惑でしたらどこかで降ろして下さって結構ですので」
老婆は目算、60代から70代と言った所。膝に小さな犬を乗せて後部座席で申し訳なさ気にしている。
「いえ、大丈夫です。こちらこそ頼りなくてすみません」
彼女は不安気にしているその小さな生き物を、皺だらけの手で撫でながら右へ左へと揺れている。僕はその頭のてっぺんをルームミラー越しにして力なく答えた。
「すんませんなぁ、孫の剣道の試合をどうしても見たいと言うもんだから」
と、助手席の老人は言った。

二人を乗せたのはほんの偶然からだった。
その日の午前中、僕は地元の駅前にある大きな書店へと本を探しに来ていた。
本を探す、と言っても何か目的の本があった訳ではなく、書店に入って本棚に並んでいる本を眺めるのが僕は好きだったのだ。
そうして30分程を過ごし、書店近くに停めた車に向かおうとすると何かが膝に当たるのが分かった。
見るとそれは小さな犬だった。
「可愛いな」とも思ったが、おや?飼い主は?と周りを見渡すと二人の老人が近寄ってきた。
「まぁまぁシロ。ごめんなさいね、この子人懐っこくて」
飼い犬同様に人懐っこそうな老婆は笑顔で話しかけてきた。
僕は「シロって名前の割りに茶色いな」とは口に出さず笑顔を返した。多分その笑顔はどこか引きつっていただろう。
「よしよし」と僕が子犬の頭を撫でていると
「お兄さん、逢瀬体育館はどこかね?」
と、それまで笑っているだけの、老婆ではない方の老人が尋ねてきた。後で分かった事だが、その子犬は犬の子供ではなく、ただ小さいだけの大人の犬だそうだ。
「多分わかります。お連れしましょうか?」
なんとなく突いて出た自分の言葉に我が耳を疑った。と、同時に小さな後悔が生じた。
「あ、すいません。出過ぎた事を・・・」
苦笑い混じりにそう言うと意外な答えが返ってきた。

「よろしければ、是非」


Re:2005年 

June 20 [Sat], 2009, 7:03
 色んな事が変化した。
流行は色あせ過去の遺物となり、僕は年齢を重ね、いつからか生まれた町を離れ、今は東京の空の下で過ごしている。
彼女も同じだけ時を過ごしたのだ。僕と同様あの町にはもう居ないのかもしれない。

人の心は複雑だ。それでいて至極単純だとも思う。
昨日までの悩みはほんの些細な幸福で吹き飛んでしまい、そんな幸せも、些細な事で傷ついてしまう。
あれから4年が経った。
自分の心でさえあの頃のままではない。
様々に想い巡らせたあの頃の気持ちは少しづつ色褪せ、そしていつしか消え去ってしまう。
この肉体と共に。
さあ、物語を終わらせようか、未完のまま閉じてしまった物語を。
僕の心が色褪せてしまわないうちに。

Greeting Song 

December 20 [Tue], 2005, 1:29
諸事情により全てを抹消
違うテーマでブログを続けるか
もしかしたら閉鎖します

色々とたくさんありがとう
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