琴音〜KOTONE〜#12

February 12 [Sun], 2012, 23:19
2.青キ瞳ノMadchen

瑞穂が琴音に対し、説明を開始しようとしたまさにその時、

医務室の扉が開き、2人の可憐な金髪碧眼の少女が入ってきた。

「Guten Morgen! Frau Mizuho.」

2人の少女は声を揃えて瑞穂に挨拶した。

「おはよう、ハイジ、ロッテ」

瑞穂は2人に挨拶を返した。

本当に人形が動いているように繊細で華奢な少女である。

琴音が、その2人の少女に眼を遣ったその時、

何かに惹き付けられたような感覚に陥った。

そう、初めて瑞穂と出会ったときのあの感覚だ。

「まさかこの娘たちも?」
琴音が思ったとき、瑞穂が口を開いた。

「琴音さん、紹介しますわね、この娘たちは室内楽部の部員なの。此方の、背が高くて眼鏡をかけている方が2年百合組でヴィオラ奏者のシャルロッテ=エーレ、通称はロッテ。」

ロッテは微笑んで琴音に手を振った。

一呼吸おいたのち、瑞穂は紹介を続けた。

「そして、彼方の髪の毛を三つ編みにした小さい娘が、同じく2年百合組でチェロ奏者のアーデルハイト=フリードリヒ、通称はハイジ。」

ハイジは、スカートを拡げ、琴音に御辞儀した。

「この娘たちは、スイスの良家の育ちで、日本に留学しているの」

瑞穂は続けた。

「そしてロッテは妖精の血を引いているのよ」

琴音はやっぱりかと思った。

「ハイジは、父親が妖精の研究家で、妖精についての知識は人一倍持ち合わせているのよ」

「これで、来るべき人は揃ったわね。」

琴音と名のる妖精が言った。

「来るべき人?」

琴音は首をかしげた。

「別に私に説明するには妖精さんと瑞穂さんが居れば充分なのに、ロッテさんとハイジさんが「来るべき人」なのはどうしてかしら……」


「不思議がってるようね?」
琴音と名のる妖精が琴音に言った。

「なんで分かったんですか?」

「妖精にとったら、読心なんて朝飯前よ、琴音さん」

「でも、私だって妖精の血を引いているって先ほど仰ったではありませんか?何故、私は出来ないのですの?」

琴音は訊ねた。

「妖精の血を引いていてもできるとは限らないの。」
瑞穂が言った。

「あなたは自身は魔法を使えない特別な妖精なの。あなただけでなくロッテもよ。」

「え、それはどういうことですの?」

「その辺りのことはハイジが教えてくれるわ」

瑞穂が言った。

「昨日の件があってから、ハイジは一晩中今回の合宿の中で起きたことを考察していたの、それをまとめたのをハイジに説明してもらうわ。ハイジ、よろしく。」

「ご紹介に上がりました、アーデルハイトです。日本語に不慣れですが、頑張って説明させていただきます。先ず、妖精がなんたるかを説明しなければなりません。」

ハイジの説明が始まった。
3に続く

石田昌也/レフ・トルストイ:復活〜恋が終わり、愛が残った〜

January 12 [Thu], 2012, 21:55
あけましておめでとうございます。

今年も球児の書庫をよろしくお願いします。

今回は一昨日観に行ったミュージカル、宝塚歌劇花組公演
「復活〜恋が終わり、愛が残った〜」(トルストイ原作、石田昌也脚本・演出、蘭寿とむ、蘭野はな主演)

の感想などなど書かせていただきます。

琴音〜KOTONE〜#11

December 26 [Mon], 2011, 22:52
第3章「選バレシ者〜フェアリー・テイマー〜」
1.琴音と名乗る妖精

自分と同じ名を名乗る妖精があらわれたとき、冷静でいられることができるだろうか。

否、少なくとも櫻田琴音は冷静でいられなかった。

だが、奇声をあげたりあわてふためいたりするわけでもない。

要は「開いた口が塞がらない」といったところか。

…………

どれくらいの時間が過ぎたろうか、否、さほど時間はたっていないか……

医務室のドアがあき、誰かが入ってきた。

「櫻田さん大丈夫かしら…」

瑞穂が朝食を運んできたのである。

「櫻田さんお早う。お粥を持ってきたけど、食べられるかしら……、あ、琴音ちゃん来てたのね!!」

「あら瑞穂さんお久しぶり、ちょっと胸騒ぎがしたもので……」
琴音と名乗る妖精は答えた。


このやりとりを見、漸く琴音はあんぐりとした口を閉じ我に返った。


「櫻田さん、いきなり吃驚させたかしら、この子、私の知り合いなの。」
場を取り繕うように、瑞穂が言った。

「瑞穂さん……、妖精の知り合いが……おられますの……?」
琴音は訊ねた。

確かに瑞穂は「妖精のような」可憐さを持った人だとは思ってはいたものの、よもや、妖精の知り合いがいるとは思わまい。

「…ええ」

答える瑞穂を見、琴音は気づいた。

<尖った耳>

思い返してみると、

………………


琴音は、生まれつき耳が尖っていた

母親の耳が尖っていたので、ただ親ににたくらいにしか考えなかったが……

この合宿で同じ耳が尖った人―福岡瑞穂―に出会ったとき、何か不思議なものを感じ……

木佐貫美穂が、合唱部のメンバーを邪悪な力で次々と半死半生の目に遭わせ、それを福岡瑞穂がなにやら不思議な力で止めた。

木佐貫美穂もまた尖った耳を持っていた……。

そして、この琴音と名乗る妖精が現れた。

これらを繋ぐキーワードはまさしく<尖った耳>である。

この合宿で起こった、奇々怪々な現象は全て尖った耳を持った人によって起こされた。

しかし、同じ尖った耳をもつ琴音は不思議な力を使えないし、ただただ驚くしかなかった。


「尖った耳」

これが意味するところはなんなのか…、

……………………………

とりあえず、琴音は

「あの、今考えたのですが……、この合宿で起きた一連の奇妙な出来事は、耳が尖った人によって起こされたものだということに気づきました。そしてそこにおられる妖精さんも耳が尖っております。これは一体どういうことでしょうか……」

と訊ねた。

瑞穂が口を開いた
「耳が尖っているというのは、妖精の血を引いている証なのよ。妖精は魔法を使っていろいろなことができるの……」
ここまで言って瑞穂は口をつぐんだ。

琴音がまた開いた口が塞がらない状態になった

「そんな、私が……、妖精の血を引いている……なんて…」

琴音の頭では現状を処理できなくなってしまった。

すると、琴音と名乗る妖精が「櫻魔術(チェリースペル)!!」と叫び日傘を振りかざした。

その途端、桃色の光に辺りが包まれた。

琴音の心が不思議と落ち着いてきた。


そして、瑞穂が口を開いた
「これは、琴音ちゃんの『櫻魔術(チェリースペル)』と言う魔法で、人を鎮静させる力があるの……。櫻田さん、いきなりいろいろなことがあって吃驚したでしょう……。本当にごめんなさい。今から、妖精のあれこれを教えてあげますわね。そして、この合宿で起こった奇々怪々な現象が何を意味するかを……」

2へ続く。

ハンナ&バーベラ:トムとジェリー

October 07 [Fri], 2011, 22:32
こんばんは、杉山です。

今日は久しぶりにアニメについての記事を書きます。

今回、書かせていただくのはアメリカを代表するカートゥーンで何度もアカデミー賞を受賞している「トムとジェリー」です。

基本的なストーリーは大柄なネコのトム(CV八代駿)がネズミのジェリー(CV藤田淑子)を追いかけるのだが、頭脳明晰なジェリーがトムをやっつけてしまうというものです。

なぜ、この作品を紹介しようかと思いましたのかといいますと……。

なんとなくネットサーフィンしてたんですわ。

で、なんかいじってたらヨウツベでトムとジェリーの動画にヒットしたんですわ。

トムとジェリーはワーナー配給版のビデオを全20巻持っていて、何度も見たことあるから、久々に見てみようかと思って見てみたら…。

見事はまってしまいました(笑

それからというものの暇さえあれば見まくってます。

このおもろい世界をいろんな人に体感してもらいたいと思い紹介しました。

ヨウツベかニコ動で検索したら一発ですわ。

ちなみに、ワーナー配給版の声優はトムが肝付兼太・ダン小路、ジェリーが堀絢子・チマでした。

ヨウツベとかにあるものの多くはトランスグローバル配給の八代駿・藤田淑子版です。

こちらはかなり台詞が多く、台詞が殆んどないワーナー配給版を幼い頃に見慣れた身としてはかなり違和感を感じました。

トムがいわゆる「スネオ声」でないことも(まあ、ある意味ではスネオ声ですが…)

ただ、見慣れるにつれて、トランスグローバル版の面白さを感じるようになってきました。

まずナレーターの谷幹一さんが面白い!!

即妙なナレーションでそれとなく笑いを誘い、追い討ちをかけるように藤田淑子さんと八代駿さんの掛け合いが始まる…

ちなみに英語版は叫び声以外の台詞が全くありません。

つまり絵だけで充分笑えるのです。

それに上記のような演出が加わると……

もう何度も笑って涙を流しましたね(笑

特に「星空の音楽会」と「ピアノコンサート」は音楽を始めた今見るとかなり笑える……

まあ、なんにしても1940年代にこんなアニメを作ったアメリカはすごいですわ。

1話7分程度なのでかなり気軽に見れます。

皆さんも、見てみて大爆笑の渦に巻き込まれてみませんか。

ワーナー版、トランスグローバル版、英語版にそれぞれの面白さがあります。

お気に入りを探すのも楽しいかも。

以下に杉山の好きな作品ベストテンを挙げてみます。

はっきりいってこのベストテン作品はかなり笑えますよ(笑

1トム氏の優雅な生活
2星空の音楽会
3ピアノコンサート
4強敵あらわる
5変な魚釣り
6パパは強いな
7滅茶苦茶ゴルフ
8ふんだりけったり
9なにがなんだかわからない
10勝利は我に

琴音〜KOTONE〜♯10

September 06 [Tue], 2011, 22:25
5.二人ノ琴音

美穂!?

茂徳と颯天が描いた人相画は寸分違わず美穂そのものだった……

「違うわよね、美穂ちゃんはそんな……、そんな恐ろしい子……じゃ……ないわ……」

琴音が消え入りそうに呟く。

それは美穂を庇うというよりは、そんな奇々怪々な出来事を受け入れられないという、ある種の拒絶からこのような言葉が出たのだ。
恐らく、合唱部・室内楽部の人びとはほぼ全員同じようにその感情-奇々怪々な出来事にたいする拒絶-を抱いていたに違いない。

そんなことがあってたまるか……

これは夢に違いない……

誰もが懐いた拒絶の感情である。

しかし、それを嘲笑うかのように、美穂の蒼白な顔面には冷たい微笑がたたえられている……。

そして、口を開いた……

「ちっ、ばれちゃしょうがないわね……」

口惜しそうに呟くと同時に、目を疑うような光景が琴音らのまえに立ち現れた……

美穂の背中から真っ黒な翼が生えていた。
そして、微笑んでいた口はさらに上へつり上がり、手にした日傘は大きな鎌に姿を変えていた。

それはこの世のものとは思えない恐ろしいものであった。

あまりの恐ろしさに、皆目を見開き、その場にへたりこんでしまった……。

美穂は翼をはためかせて舞い上がり、合唱部・室内楽部の面々がへたり込んで固まっている所に影を落とした。

そして、大きな鎌をバトントワリングのように、回し何やら呪文らしきものを唱えた。

すると、鎌の柄の尻の方から赤黒い光が出て、それが彼女らに降り注ごうとしたそのとき、

カッ!

マグネシウムを燃やしたような白い光が輝いた。

それは徐々に拡がり、幕状になって琴音たちを護った。

「何があったの?」

琴音が振り返ると……

瑞穂が日傘を回しながら呪文のようなものを唱えているではないか……

「美穂が……赤い光を出して、瑞穂さんが白い光を出して……」

琴音はこの信じられない光景を目にして精神に大きな打撃を受けた、

琴音の意識は次第に遠退いていき、暗闇へと転がり込んでいった。

*************************

目が覚めると、琴音は医務室のベッドの中にいた。

深夜2時……

随分寝込んでいたのね……
琴音は寝返りをうちまた、天井を見上げた。

美穂ちゃんに瑞穂さん……
いったい何者なの?

そして、2人とも私と同じ尖った耳を持ってる……

それはいったい何を意味するの…?

嗚呼、この幼き少女の頭では、この幾多の物を処理できないのか……

琴音は悩ましく再び眠りに落ちた……

************************
平成9年5月5日午前6時15分
琴音が再び目を覚ました。
すると、枕元に一人の少女がたたずんでいた。

その少女は黒くて、腰ほどまで伸ばした長い髪の毛を持ち、青白い顔で、そして守ってあげたくなるような愛らしさを備え、ゴシック&ロリィタ風の衣服を身に付けていた。

……そして、尖った耳を持っいた。

「貴方は誰でしょうか?」
琴音はおずおずと訪ねた。

「私は琴音、妖精の世界に住んでる妖精なの」
少女は答えた。


妖精?

しかも私と同じ名前?

一体なんなの?

ここから、琴音は数奇な運命を辿ることになるのだ。

第2章終わり。

琴音〜KOTONE〜#9

July 11 [Mon], 2011, 22:59
4.奇々怪々な現象の元凶
 
平成9年5月4日
 
朝日がのぼり、湯の山の温泉街を照らす。
 
その中を1人歩く男がいた。
 
岡田章博だ。
 
岡田先生は、毎年この春合宿で朝の散歩をすることに決めている。
 
いつもは、今日はどんなメニューを組むかなどなど思案するところであるが、今年は違っていた。
 
この合宿を続けてもいいのだろうか……
 
あまりに多発する奇々怪々な病態に気が気でないのだ。
 
心身耗弱といったところか……。
 
確かに顧問として部員たちの安全保持義務がある…。
だが、根拠のない奇々怪々な現象で合宿を打ち切るわけにはいかない、殊にリアリストの岡田先生はそう思った。
 
しかし、かわいい部員がこんなにバタバタと倒れていくのを見逃すわけには……
なんてことを考えてる内に部員の起床時間になった。
岡田先生は急いで宿舎に戻った。
 
****************
朝食をすませ、午前の部の練習を開始した。
 
午前は、連盟コンの課題曲練習の予定だったが、急遽変更してミーティングとした。
 
議題は
「本合宿を中止するか否か」
 
「えー、みなさんおはようございます」
岡田先生が重々しく話し出した。
 
「おはようございます」
重々しいレスポンスだ。
 
「えと、昨日、室内楽部の岡山とウチの大村、梶本、川越、濱中があまりに奇々怪々な倒れ方をした、まるで呪われたかのような……、このままでは命に関わるかもしれないのでこの合宿は中止されたい、みんなはどう思うかな……」
岡田先生にとっては苦汁の決断だったであろう。
 
現実を前にして岡田先生も怖じけついたのか。
 
「採決を取ります、中止に賛成の方は挙手願います」亜理子が冷淡に言った。
 
というか、冷淡にしかいえない…
 
「賛成10名、多数と見なし可決いたしま……」
 
「待ってください」
琴音が遮った。
 
「皆さんは、この地が呪われているとお思いでしょうが、私はそうでないことを知っています。木霊さんの証言を聞いたのです。木霊さん……いや、倒れた人みんなは誰かによって呪いをかけられたのです。」
 
「誰かというのは…」
美穂が訊ねた。
 
「だとすると、合宿を中止にしたところで解決にならないな…」
千幸がひとりごちた。
 
「誰?」「まあ怖い」……
皆、口々に喋りだした。
 
「静粛に!!琴音ちゃん続けて!」
亜理子が遮った。
 
「誰かはわかりません。ただ日傘をもった黒髪の女の子だそうで……」
 
「でも、この中にいることになるわね、なぜならこのホテルは全館貸し切りだし」
千幸が言った。
 
「この中、まさか!!」
楓が絶句した。
 
ガラリ
 
会議室の扉が開いた。
 
室内楽部の鴇がたたずんでいた。
 
「木霊さんのご証言ならば私がしかと聞き賜りました。」
 
****************
 
鴇くんにより、呪いの正体が明かされた。
 
その呪いをかけたやつは、髪が黒くて長く、ゴシック・アンド・ロリィタの服を纏い、日傘をバトンのように回していた、
 
そして、
耳が尖っていた。
 
琴音はハッとした。
 
私じゃないと言おうとしたとき、
 
鴇が続けた。
 
「櫻田さんではありませんよ。
あなたは昨日は、白い服を着ていた。だから証言と噛み合わない。
瑞穂さんも変わった耳の形をしていましたけれども、日傘なんか持ってなかったと言いますし…」
 
「でも、そんな変わった耳の形をしているのは、私と瑞穂さんくらい……」
 
ドタドタと誰かがなだれ込んできた、
 
背の高い男子が2人だ。
 
******************
 
「どうも、室内楽部コントラバス担当の青葉茂徳です」
「サブコンサートマスターの隼颯天です」
 
「木霊さんの証言をさらに詳しく聞いて俺たちで人相画を書いてきた。」
 
「ありがとう、お二方。」鴇が笑った。
 
そして
「この2人は証言から人相画を書くのが得意なんだ」と合唱部の面々に紹介した。
 
普段なら「こんな才能何の役にたつのか」と突っ込もうとしたところだが今は場合が場合。
 
2人の才能に感謝し、スケッチブックを開こうとしたら
 
微かな嗚咽が聞こえてきた。
 
美穂が泣きながら机に突っ伏していた。
 
「どうしたの、美穂?」
このみが訊ねた。
 
「もう、犯人探しはやめて。この中に、人を呪い倒す人がいるなんて考えたくなんかない……ウッ……ウッ」
 
皆は反省した。
 
この、仲間たちのなかにそんなのがいるはずない。
 
あまりのことに気が動転していたとはいえ、許されることではないことをしていた。
 
仲間を疑うなんて……
 
「さ、もう泣かないで」
かなえが美穂の頭をかきなでた途端、
 
琴音は息を呑んだ。
 
今までなぜ気づかなかったのか。
 
耳が尖っていたのだ。
 
まさかと思った次の瞬間。
スケッチブックが地面に落ちて開いた。
 
開いたページは人相画だった。
 
そのページを見た誰もが、息を呑んだ。
 
狐に、いやゴリラにつままれたような衝撃だ。
 
そして、その真実は寝耳に水いや寝耳にコーラくらいの打撃を皆に与えた。
 
人相画は
 
美穂であった。
 
 

琴音〜KOTONE〜#8

July 04 [Mon], 2011, 23:03
3.妖しげな者
すぐさま木霊は医務室に運び込まれた。
 
「どうしたのかしら…」
 
琴音、他のメンバーは明らかに恐怖におののいている風であった。
 
倒れ方があまりにも不自然であった。
 
両手で新聞を広げた状態で、しかも目を見開いたまま倒れていたのだから……
 
医務室の医者も首を傾げていた。
 
彼もまたこんな症例には出会ったことがない。
 
しかし、生体反応がある以上彼女は「生きている」のか。
 
とりあえず、木霊のことは医務室の先生に任せ、琴音たちは、練習場所へ向かった。
 
**********
 
「皆さん、おはようございます、岡田章博です」
 
「おはようございます」
 
「さて、今回、合唱部と室内楽部との合同合宿というスタイルをとったのには他ならない理由があります、谷川先生どうぞ。」
 
「ご紹介に上がりました、室内楽部常任指揮者の谷川穣二です、まず皆さんこれをご覧ください」
 
谷川先生は指揮台の上の、総譜を掲げた。
 
表紙には以下のように書いてあった。
 
 
「女声合唱と弦楽とピアノのための交声曲『讃歌〜七条高校に寄せる〜』作詞:宮下鞠枝(3年竹組)作曲:星華恋」
 
 
谷川先生は続けた。
 
「来年、七条高校は新制高校としてスタートしてからちょうど50年の節目の年です、そこで生徒から詞を公募して、外部の作曲者の星華恋先生に依頼してこの曲を作っていただきました。今回の合宿でこの曲を目一杯練習して、来年の御披露目の足掛かりとします。では練習開始!!」
 
 
***********
 
合唱部は「飛燕の間」、室内楽部は「流星の間」でそれぞれ練習を始めた。
 
この曲は4章からなり、構成もかなり複雑だ。
 
とにかく音をとるのが必死な曲だ。
 
ただ、美穂だけは、新入りながら美しい声を出していた。
 
まるで「妖精のような」声に誰もがうっとりとしていた。
 
その時、
 
バタと音がした。
 
ふと、音が聞こえたほうをむくと、
 
眞理子が目と楽譜を見開いたまま倒れていた。
 
皆、息を呑んだ。ただ一人を除いては。しかし、誰が冷静でいるのか、冷静でない、他の部員は気づく筈はない。
 
バタ。
 
また、倒れる音がした。
 
振り返ると、
 
真依が、
 
バタ。
 
直子が、
 
バタ。
 
菊江が……
 
次々と倒れていった。
 
合唱部員たちは、あまりの光景に声も出ず、ただただへたりこんでしまった。
 
***********
 
医務室には大学病院の先生が何人も招かれていた。
 
そこへ、次々と運び込まれる倒れた人。
 
合唱部、室内楽部の誰もがこう思ったにちがいない。
「この合宿は呪われている。」
 
谷川先生・岡田先生協議の上、今日の練習は中止となった。
 
「こんな合宿いやだ……」琴音は泣きながら言った。
「あたしも。ごめんねこんな合宿になってしまって……、あたし、ただあんたたちに楽しんでもらいたいと…」
千幸は言葉をつまらせた。
「千幸さんのせいではありませんよ」
小夜子が千幸をなだめた。
「ありがとう、小夜子うっ……」
千幸も泣き出した。
 
つられて小夜子も……
 
一刻も早くこの呪わしい空間から逃げ出したい……
 
3人の思いは決まっていた。
 
脱出しよう。
 
幸い、湯の山から京都に帰るくらいのお金は準備してある。
 
3人は荷物をまとめドアを開けようとしたら……
 
ドアが開かない、どう足掻いても開かない。
 
どうしてしまったのか、私たちは逃げ出すことすら許されないのか……
 
 
***********
 
途方にくれていると、玲王が走ってきた。
 
「木霊さんが眼を覚ました!!」
 
それを聞き、琴音らは医務室に急行、いや快速急行した。
 
木霊はガタガタ震えながら寝台に腰掛け、毛布を被りながら、熱いお茶を飲んでいた。
 
「一体何があったのですか?」
琴音は木霊に訊ねた。
 
「く…くろ…黒髪のお…おん…女の子……が……ひ…ひ……ひが……日傘を」
 
恐怖が蘇ったのか、ふたたび木霊は倒れこんだ。
 
琴音は訊ねたことを、猛省した。
 
私のせいでまた彼女が倒れてしまった……
 
琴音は過呼吸の発作を起こし倒れこんだ。
 
無理もない…、これほどまでに大きなストレスは、15歳の少女には堪えられない……
 
呼吸が安定し、寝台に横たわった琴音は考えていた、
手がかりは黒髪、日傘か……
 
その女の子は日傘をどうしたのかしら……
 
皆が不安な中、合宿1日目の夜を迎えた。
 
果たして無事に朝を迎えることが出来るのか……
 
そんなことを考えつつ、琴音らは、寝床に入ったのであった。

琴音〜KOTONE〜#7

June 27 [Mon], 2011, 22:50
2.魔の合宿
平成9年5月3日
 
京都駅は駅ビルの改築工事で、ある意味では賑やかである。
 
その賑やかな京都駅の中で落ち着きを見せる近鉄口に、真っ白な日傘を差した少女たちが集まってきた。
 
今では高校生が日傘を差すことなど当たり前な光景だが、当時では珍しいものであって、如何にもお嬢様学校という様相を呈していた。
 
ひいふうみいと……
 
よし、全員いるな。
 
岡田先生と亜理子が合唱部の全員を確認した。
 
「すみませ〜ん、遅れました」と声が聞こえた。
 
七条高校の制服に身を包んだ10数名の少女たちが駆けてきた。
 
「おお、よく来たな」
岡田先生は笑みを浮かべた。
 
「誰ですかあの人たちは?」
田口が訊ねた。
 
「あ、言うの忘れていたか。今年は室内楽部と合同で合宿するんだ。同じ音楽を愛するもの同士、お互い学ぶこともあるだろうし…、まあ、あとは車内ででも各自で自己紹介してください」
 
室内楽部はバイオリン5名、ヴィオラ3名、チェロ3名、コントラバス1名という子所帯なクラブでありながら、全国合奏コンクールで、優勝するなどの実績を残している。
 
また、合唱部も、コンクール入賞経験が多い。
 
従って、彼女らはこの密度の濃そうな音楽尽くしの合宿に胸を踊らせた。
 
そうこうしている間に「あおぞらII」号が、京都駅のホームに滑り込んだ。
 
合唱部、室内楽部のメンバーは、いそいそと乗り込み、目的地の分からぬGW合宿へ出発した。
 
車内で、琴音と千幸と小夜子の3人でしゃべっていると、1人の女の子が、弱々しく
 
ここ、空いてる?
 
と訊ねた。
 
「はい、空いております」琴音が答えた。
 
「ありがとうございます、私は室内楽部3年のチェロ担当で低弦リーダーの福岡瑞穂といいます。あなたは?」
 
「はい、私は合唱部1年の櫻田琴音といいます」
 
「同じく大引小夜子です」
「合唱部2年の仁藤千幸です」
 
そのとき琴音は、何かを胸に感じた。
 
何かに引き付けられるような……、そんな気がした。
瑞穂が椅子に腰かけて、髪をかきあげたとき、琴音が目にしたのは
 
自分と同じ、妖気漂う、尖った耳だった。
 
琴音は、今まで何で自分の耳は尖っているのか意識したことはなかった。
 
単なる遺伝くらいにしか考えていなかったが、いざ同じような耳を持つ人を見ると意識してしまう……。
 
間髪いれずに、今度は、絹のような長い髪の毛の男子生徒が琴音たちのボックスに来た。
 
「瑞穂さん、ここにいらしたんですか、谷川先生が探していますよ。あ、合唱部の皆さん始めまして、私は室内楽部2年、ヴィオラ担当の鴇紳一郎と申します。」
 
「合唱部1年の櫻田琴音です、よろしくお願いします。ところで谷川先生とは誰ですか」
 
「おっと失礼、谷川先生は私たち室内楽部の常任指揮者です。」
 
「鴇くん、谷川先生がなんの用で私を呼んでるの」
 
「ちょっとボーイングの確認をしたいようです」
 
「分かりました、では行きますね、では合唱部の皆さんよろしくお願いします。」 
笑顔で手を振りながら去っていった。
 
「ふーん、なかなか感じいいじゃない」
千幸が笑みを浮かべて言った。
 
「そうですね、楽しく合宿できそうですね。」
小夜子も笑顔で答えた。
 
「ちょっと、琴音は室内楽部のことどう思う?」
 
「え…、すごくいい感じの人たちだと思います。」
琴音は場を取り繕うように答えた。
 
どうも琴音は瑞穂の耳が気になって仕方がないのだ。
 
電車はスピードを落とし、目的地に到着した。
 
目的地は三重県の湯の山温泉だった。
 
もっとも、ミステリー合宿とはいいつつ、毎年同じ場所に行っているので、合唱部の上級生は別段吃驚する訳ではない。
 
「湯の山観光ホテル『翡翠館』」という大きな看板が掲げられた建物が駅から見えた。
 
そこのセミナーハウスを宿舎に用いる。
 
宿舎に到着し、部屋割りが発表された。
 
部屋は室内楽部、合唱部の混合になった。
 
琴音は合唱部ソプラノ2年の赤田満子、室内楽部バイオリン3年の都城希美とチェロ1年の岡山木霊の4人部屋となった。
 
練習開始は1時間後なので、1時間部屋のメンバーと親睦を深めようと赤田満子が自己紹介を提案したが、木霊の姿がない、
 
「ちょっと見てくるわ。」
と希美が部屋を出た矢先に
「キャーーーーー!!」
 
ロビーから悲鳴が聞こえた。
 
合唱部、室内楽部のメンバーは皆ロビーへ急行した。
1人を覗いて。
 
 
ロビーにつくと、1人の女の子が血の気のない表情で倒れていた。
 
「木霊!!」
 
合宿1日目、
 
これはまだ序の口であった。
 
彼女らは、さらに恐怖に向き合うこととなる。

琴音〜KOTONE〜#6

June 20 [Mon], 2011, 22:25
第2章「初夏ノ訪問者-2人ノ琴音-
 
1.発端
平成9年5月2日放課後の音楽室にて…
 
「いよいよね」
仁藤千幸が含み笑いを見せると、
 
「そうね」
光原夏々がニヤリと返した。
 
連盟コン自由曲選曲委員会でいつもいがみ合っている2人がなぜか選曲中に2人してにやけ…。
 
木佐貫このみとチェスをしている田口かなえもにやけ……
 
しまいにゃ、怜王まで本を読みながらにやけている始末……
 
なにか今日はおかしいかも……
 
琴音はうすうすなにかが起こりそうなことを察していた。
 
でもそれがなにか全く分からない……
 
なんだろうか……
 
考えるだけ無駄な気がしたので、とりあえずピアノを弾いていた。
 
「おっはよ♪」
 
いつも以上にご機嫌な、近藤部長がスキップしながら音楽室に入ってきたなり
 
「赤田氏、あの紙の束を持ってきてくれたまへ」
 
と赤田満子に、音楽室の角にあった、プリントの束を持ってこさせしめた。
 
なんか亜理子先輩もおかしい……
 
カチャ
 
鉄扉があき、新進気鋭の木佐貫美穂が、音楽室に入ってきた。
 
「美穂りん、おはよっ」
 
軽快に、近藤亜理子が声を掛けた。
 
流石に美穂も少し引いた。
間髪いれず鉄扉が開いて、岡田先生が入ってきた……
「おはようございます」
全員が挨拶をした。
 
「ん、おはよう、ところで近藤くん、あれはあるかね」
 
「はい、もちろんでございます」
 
さっきのプリントの束を渡した。
 
「小瀬君、配ってくれたまえ」
 
小瀬楓にプリントを渡し、配らせしめた。
 
そのプリントは以下のようなものだった。
 

七条高校合唱部
抜き打ちGW合宿!!
 
おはようございます
合唱部にはもう慣れた?
本校の合唱部は、先輩方と新入生の交流を深めるべく、毎年この時期にGW合宿を行っております☆彡
 
皆さんを驚かすため、毎年前日の「抜き打ち」発表の形を取っています(笑
 
寮や家には前もってこっそり連絡を入れてるので、気兼ねなく出掛けましょう!!
日程
5月3日(土)〜5月5日(月)
 
集合場所及び時間 
近鉄京都駅に9:00am集合 
場所
「あおぞらII」号で行きます。目的地は秘密です。
 
内容
練習
野外活動
 
備考
おやつは500円まで
ただし、バナナはおやつに含みます。
 

 
みんながにやけていたのは、そのためだったのだ。
 
琴音は明日から起こる楽しそうなことに、胸を踊らせた。
 
この合宿が、この先、琴音の身に次々と降り注ぐ、不可解な出来事の発端となるのだ。

琴音〜KOTONE〜#5

June 13 [Mon], 2011, 22:42
4.新たな仲間

平成9年5月1日……

初夏の陽光が放課後の音楽室を柔らかく包む。

「『聞こえる』なんてどう?」
光原夏々が机の上の楽譜を見ながら言った。

「嫌よ、ありきたりすぎるし」
仁藤千幸がつんと答えた。
この二人は連盟コンの自由曲選曲委員に岡田先生から直々に指名されたのだが、いつもこのように光原が挙げた曲を、仁藤が突っぱねるという形なのだ。

近山玲王は窓際で本を読み、木佐貫このみと田口かなえの2人はチェスに没頭し…

いつも通りの七高合唱部の練習前の光景だ。



「はじめまーす」

と近藤亜理子部長の号令にみんなビクと反応した。

「それでは、今日の練習をはじめます、お願いします」

「お願いしま〜す」

では先ず琴音ちゃん以外はグランド3週!!

皆が散っていった。

琴音は、合唱部に入部した次の日から、岡田先生の指名でピアニスト専門となった。

歌うわけではないので、筋力トレーニングを免除されてはいるものの、グランドから他の部員が帰ってくる間は暇でしかたがない…。
ガチャと音楽室の重厚な鉄扉が開く音がした。

「おはよう」

岡田先生だ。

「おはようございます、岡田先生」

「なんだ、櫻田だけか?」
「いえ、みんな走っております」

「そうか、じゃそろそろ戻ってくるころだな」
岡田先生は外を見ながら言った。

仁藤がガラッと扉を開け戻ってきた。

「いっちばーん」

満面の笑みを称えて仁藤は言った。

「仁藤ォ、競争じゃないぞォ」
岡田先生は笑いながら言った。

琴音もつられて笑った。

次いで、小瀬楓が戻ってきた。

「にばーん」

「だからぁ競争やないってぇ」
岡田先生はあきれながら笑った。

そしてすべての部員が戻り、ロングトーンを始めようとしたとき、

ガラッと鉄扉が開いた。

細身で小さく、精巧な人形のような―ビスクドールというのだろうか―少女が立っていた。

「どうぞ」
近藤が言おうとしたときに
木佐貫が
「美穂、よく来たわねぇ」と甲高い声で言った。

部員は一同眼を合わせた。

「入部希望者か、何はさておき自己紹介を」
岡田先生が言った

「はい、1年梅組の木佐貫美穂と申します。木佐貫このみの双子の妹です。姉から寮で、合唱部の話を聞いて入りたくなりました。よろしくお願い致します。」
琴音、小夜子は二人を見、そして眼を見合わせて首を傾げた。

どう見ても似ていない。

「双子は似る」という命題が必ず成り立たないんだなと琴音は思った。

「では、新入部員のために演奏しましょう」
近藤が号令をかけた。

NHK全国学校音楽コンクール課題曲の「めばえ」をはじめとして5曲を演奏した。

琴音は観客が一人と謂えどもはじめてのピアニストとしての仕事を果たした。

練習後はみんなで楽しくお茶を飲みながら語らう「練習後ティータイム」となっている。

新入部員も来たことだしかなり盛り上がった。

美穂が以外にも饒舌だったことには、琴音も、他の部員も吃驚した。

そして完全下校となり、皆、寮や家に帰っていった。
帰り道、琴音は玲王と笑いながら楽しく帰っていった。

彼の話しはとても深くて楽しいのだ。



しかし、こんな楽しい日常が、崩れていくなんてこのときは予想だにしなかった……

第1章終わり
プロフィール
  • ニックネーム:杉山 球児
  • 性別:男性
  • 誕生日:1991年7月24日
  • 血液型:AB型
  • 現住所:奈良県
  • 職業:大学生・大学院生
  • 趣味:
    ・読書-漫画、小説何でも読みます。漫画はジャンプやチャンピオンをよく読みます。
    ・音楽-特に合唱、弦楽
    ・スポーツ-野球、ラグビー
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近畿大学理工学部2回生☆

漫画と読書と音楽をこよなく愛しています。

漫画は手塚治虫先生の作品を中心に様々なジャンルの作品を読んでいます。

特に、「ブラック・ジャック」については何もしらないことはないと自負しています。


アニメはスタジオジブリ作品や外国文学原作のアニメを好むメルヘナー。

自称「メルヘンなオタク」

小説は日本文学から外国文学まで何でも読みます。

演劇、映画も好きです。

これは、私が読んだ本や漫画、観てきた映画・演劇についての感想考察を記したり、それらに関する雑感をグダグダと書いていくブログです。

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