透明少女 

March 02 [Sat], 2013, 19:05
久しぶりに見る写真のあの娘は、その冬の木立ちの景色のように凛として、十歳年をとった我々を置き去りにしていた。

神主さんも十年前と同じ方だった。初めと終わりに「おーーーう」「おーーーう」と声を響かせる、あれは何と云うのだろう。魂呼びとでもいうのだろうか。写真の中の冬の景色と、その声が呼応する。

あの時も思っていた。彼女は、この世界に生きるにはあまりに清らかだった。写真のあの娘は、既に凛とし過ぎていた。


もう十年も経ったのかと全く実感が無かったのだけど、今日此処へ来て矢張り、私は十年の時間を過ごしてきたのだと思った。
それは一体どんな時間だったのか。
此処へ来た誰もが、そんなことを考えていたに違いない。

ほら、そんなことを思い返していたら、また涙が出てきた。


『マリア・ブラウンの結婚』から『めし』『稲妻』へ 

January 04 [Fri], 2013, 10:22
今年の映画館初めはシアター・イメージフォーラムと早稲田松竹。


R.W.ファスビンター『マリア・ブラウンの結婚』と成瀬巳喜男『めし』『稲妻』。『マリア…』は5年前VHSで観て以来。『マリア…』と『めし』は奇しくも血の繋がらない双子の如き脳内二本立てに。
前者は小さな幸せの為に大物食いする女、後者は小さな幸せの日々に「こんな筈では」と悶々とする女。両者の中で蠢くのはザ・女の業。


『マリア・ブラウンの結婚』
妻であることが矜恃であり、夫を守るために男を踏み台にしてのし上がる才能を発揮し乍らも、その目的を失いかけた途端に不安定になるハンナ・シグラ。彼女にとっては夫がヘタレかどうかも関係無く、妻という言葉を依り代にすることのみが彼女の存在証明のように提示するファスビンター…怖い。

『めし』
原節子は不満や嫉妬で妄想を肥大させつつ、とどのつまり彼女もまた「私は妻ですもの」と、妻という言葉を依り代とする。現実離れした顔貌の原節子が生活じみた役を演じてる作品が好き。グダグダ云う女たちをピシッと叱る小林桂樹と包容力のある母役の杉村春子も良かった。

『マリア・ブラウンの結婚』『めし』に続いて『稲妻』も、これら三作品はいずれも敗戦後の物語。男が圧倒的に少なかったり寡婦だったりするうえ、何らかの形で男に頼るなり利用するなりしなければ女が独りまたは母子だけで生きていくのが困難な時代を描いている。
そんな社会に対して「男なんてケダモノよッ!プンプン!男に寄生するなんて真っ平御免だワ!」てな具合に息巻く『稲妻』での高峰秀子。でもちょっと気になる高潔な王子様も見つけつつ、そのへんに帰着しないあたりにこの物語の旨味を見ました。男たちがとことんヘタレに描かれている。にしてもデコちゃん可愛い。

『めし』『稲妻』ともそれぞれ昭和20年代後半の、東京と大阪の風景がたくさん出てくる。60年後の現代に面影は全く無いのだけれど、東博だけは今も同じ。




旧ユーロスペース→シアターN 

November 14 [Wed], 2012, 17:10
シアターNは7年の営業でこのたび閉館とのこと。
今日、7年ぶりに此処へやってきたことになる。
シアターNになってから、実は足を運んだことなかったんです…すみません。

ユーロスペースが移転になってからもほぼそのままで引き継いでいたようで、トイレの扉を開けようとすると必ずつまづく床の傾斜とか、座席の感じとか(背もたれが頭まで来なくて、前の席と程よく空いている。一番前には座ったことないけどどのへんからでもほぼストレスなく観られると私は思う)、全てが無条件にゆかしい。
戻ってきた。と。


閉館後は、もう引き継がれることは無いんだろうか。

『白夜』 

November 04 [Sun], 2012, 14:25
さらさらとすんなりとした身体、刺繍のブラウスに道を引きずるほど長く黒いマントという、さながら可愛い兎の毛皮を被っているかの如き「マルト」の、呆れるほどあっという間な身の翻し、いやこれは若さゆえかと思いきや、もしこれを中年の男女で描いたらまた面白いかも…などと考えてみる。

随所で路上音楽家の演奏が差し挟まれ情感を誘うように見えて、あくまでブレッソンは冷徹であることよ。

しかし幾つになっても、テープレコーダーへの呟きと再生を繰り返し評価されることを恐れ乍ら絵を描き続ける「ジャック」のような行動に共感を覚えてしまう。

最近観たもの 部屋鑑賞篇 

October 15 [Mon], 2012, 22:54
抜けてるものも多くあるし、既に思い出せないものもある。何処から書けばいいのかも判らない。繰り返し何度も観ているものは省く。


2012.8 『愛のむきだし』園子温
2012.8 『麦秋』『晩春』小津安二郎
2012.9 『ミラーズ・クロッシング』コーエン兄弟
2012.10 『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』ロバート・ゼメキス
2012.10 『タワーリング・インフェルノ』ジョン・ギラーミン


結局、新規で観た作品は『愛のむきだし』のみ。小津安二郎だって何度も観てる。しかもなんか節操が無い。

最近観たもの 銀幕篇 

October 15 [Mon], 2012, 22:51
書かない怠慢のせいではあるけど、書かないと観たことすら忘れてしまいそう。記録だけ。


2012.9 『黒い河』小林正樹 神保町シアター
2012.10『やくざ絶唱』増村保造 〃
2012.10『ライク・サムワン・イン・ラブ』アッバス・キアロスタミ ユーロスペース
2012.10『アウトレイジビヨンド』北野武 近所のシネコン



忘れるほどたくさん観ている訳じゃない。

秋の境 

September 22 [Sat], 2012, 22:17
宇部は東日本の蒸し暑さが嘘のように秋。風邪を引きそう。

羽田に戻ると、東京の都会は特有のむわっと感があるものの、やっと秋に追いついたよう。

今朝のことが過去のことのように思える。私が写真を送ったらそういう返事が弟から来た。たしかに、畑に蹲っていたのがもう随分前のことのようだ。色んなツールが時間と場所の感覚を狂わせる。あっという間に、予定より20分早く着いたヒコーキで、余計にそう思う。

畑は祖母が生きていた頃やりくりしていたようで、畑、畑と聞いてはいたものの何処にあるかも知らなかった。弟が少しずつ手をつけている。水を引くところも近くにないと云う。一体祖母はどうやっていたんだろう?

土いじりなんて殆どしたことがない。これで真夏や虫がたくさん出る時季ならうんざりしたかもしれないけど、何時間もかけて50mくらいの一畝の雑草を取っただけで、効率悪いことこの上なく徒労かもしれないのに、よく働いたような気分にテイ良くなれた。

従事者の平均年齢が70歳を超えている日本の農業、という話に申し訳なくなるような。



「光る女」 

August 31 [Fri], 2012, 21:21
神保町シアターにて。初めて来ました。


「道」におけるザンパノや「夜長姫と耳男」の耳男を思い出す、若き武藤敬司(プロレスLoveの。すごく良い。)の朴然とした台詞回し、棒読みでたどたどしいが妙に張りがあって清々しい秋吉満ちるの声が、80年代東京と北海道に現出する幻の異世界に配置される。そういう、映画にしかできない奇跡が好きだ。

道具立てといい、ファシスト的な存在(すまけい)に対して、弱く小さく蠢き共生する人々(武藤敬司、秋吉満ちる、安田成美、出門英)という関係性といい、鈴木清順の「陽炎座」みたいだなぁなんて思っていたら、脚本は清順大正三部作の田中陽造だった。特にすまけいは中村嘉葎雄さながらだった。


帰りは神田エチオピアでチキンと豆のカリー。いい一日だった。

仕事終わりに 

June 20 [Wed], 2012, 21:50
いい大人の自転車二人乗りを見かけた。今日び珍しい。最後に二人乗りをしたのはあの時だ。祖父母の家から隣駅の大型スーパーまでの往復、鍋の材料を買いに行ったのだった。祖父が使っていた自転車を弟が漕いだ。片道20分くらいあったと思う。当該スーパーでも熟年二人乗りを見かけ、さすが大阪だなぁなんて云ってた記憶がある。あの頃はまだ祖父が生きていて、あの家もあった。あれは何年前か、なんて云うほど昔の話でもないのに、今もう祖父は居ないだけでなく、あの家もない。最後の晩餐だったんだ。

「ラヴ・ストリームス」 

June 02 [Sat], 2012, 17:22




ぶちのめされた。









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