身長差 後 

December 15 [Thu], 2005, 21:12
 目線だけを水城に向ける。
 水城は相変わらずリスのように頬を膨らませていた。そんな滅多に見せない顔も可愛くて。
新聞の影から見えた三蔵の顔がちょっとだけ綻んだのに、水城は気づかなかった。
 チャーハンを炒めるこうばしい香りが水城の集中を解かせようとすると、視線がぶつかった。

 沈黙。ただ沈黙。

「散歩行こう!「あ?」
「いいから、行くよ!外寒いからって逃げるのはなしだからね!「お、おい」

 三蔵の意見もなしに水城は、三蔵と2人のマフラーを掴んで外へ出て行く。
 バタンッ、と乱暴にドアが閉まった。驚きが顔に出ている3人を残して、2人は消えた。

***

 三蔵が連れて来られたのは、町の一番西にある川の辺だった。

「何だ急に」
「…「おい、水城何か言」

 言えよと言葉を続ける前に、三蔵の唇が塞がれた。
 三蔵は水城が持ってきたマフラーを、首に巻いていた。それを引っ張られ前かがみに
なった時に、水城の桃色の唇が重なっていた。





 背伸びをする水城と、前かがみになる三蔵と。





 甘い味が広がって、 





   それは仄かに酸味を帯びて、  ピンクとか、 オレンジとか、





 そんな色の味。






 目を瞑る水城が、なんとも可愛らしかった。






 長いまつげに、触れたくなるような白い肌、細い髪、





 時間は止まったかのように感じられた。










 いつものキスとは、ちょっと違う。










 そっと唇が離れて潤んだ水城の瞳が、三蔵を見つめた。そして満足そうな顔で笑う。

「いつも私ばかりキスされるから、一度くらい自分からしてみたかったの」
「くだらねぇ」
「くだらなくないの、身長差があるのが悪いのよ。でもこれで満足」
「…それで、ずっと怒ってたのか」
「怒ってないよ。ずぅーっと考えてたの、どーやろうかってね」

 あの顔で考え事するのか。三蔵が水城の新しい情報を呟いていると、三蔵の前を歩い
ていた水城は振り返り舌を出して、







「ざまーみろ」






 と、笑った。

身長差 前 

December 15 [Thu], 2005, 20:32
 9時になっても起きない水城。
 いつもは早起きなのだが昨日は悟空の隣で寝たので、案の定足蹴りを喰らったのだった。

「ごくーが…蹴ってきたの「俺のとこにくりゃ良かったじゃねーか」
「でも…眠く…て…」

 そう言って水城は再び三蔵の香りが残る枕に顔を埋める。
 三蔵は溜息を吐いて「仕方ねぇな」と水城が倒れているベッドに上がる。 そして…

「起きねぇんなら、睡魔じゃなくて俺が襲うぞ」

 水城は「ほへぇ?」と蕩けそうな瞳で顔を上げる。それを見て笑みを作った三蔵は水城の
頬に手を当てて、キスをした。夢とこっちの世界の境にいる水城には今の状況を把握するに
は多少時間が必要だった。そして重なる唇の感触に覚えがあって水城はハッとなる。
 しかし抵抗できずに、三蔵が飲んだのだろう、コーヒーの香りが口から伝わってくる。

「ざまーみろ。嫌だったら早く起きろ」

 何もなかったかのように三蔵は寝室から出て行った。蕩けそうだった水城の瞳は、
ぱっちり開かれていた。なかなかいいお目覚めだったらしい。
 「あ、またやられた」 と。1人の寝室で、水城は呟いた。


身長差


 瞳の美しさを際立てる整った眉を、思いっきり寄せて眉間にシワを作る。マショマロの
ような頬も風船のように膨らませて、水城は「怒っていますオーラ」を放つ。それをまるで
珍獣でも見るような目で眺める3人と、見て見ぬふりをする1人。
 ただいまの時間は、部屋の壁時計が正午を指している。

「なんでアイツ怒ってんの?」
「さあ、なんでしょうね」
「でもあんま怖くないよな、むしろ可愛くね?」

 悟空がそっと八戒に問うが、八戒が原因を知るはずもなく納得できる回答は返って来ない。
 悟浄と悟空も手伝って、八戒は昼食を作っている。今日はチャーハンらしい。
 八戒が返す中華鍋で、チャーハンが踊る。

ベンチ 

December 15 [Thu], 2005, 20:13


ベンチ


「お〜そ〜い〜…」
 
 腕時計は、相変わらずのリズムで午前11時を差していた。
 約束の時間は、とっくに過ぎていた。しかし、彼は一向に来る気配がない。溜息を吐
いて、水城は白いベンチに深く座り直し、彼の到着を待つ。
 水城は色白の整った顔を、空に向けた。
 蒼く澄んだ空、透き通る蒼が一面に広がっていた。雲もプカプカと、カップから昇る湯
気のように浮かんでいる。もう冬だからかすこし冷たい風がデートのために整えた髪を
揺らした。

「お天気いいのに寒いな。ごじょぉ〜早く来ないと凍ってしまう」

 まず来たら、一本触角抜かせろ。―そんな冗談を呟いた。これも寂しくなってきた心を隠すため。

***

 噴水がメインのようにある公園。
 誰もいない公園、冷たい風、耳元でリピートし続ける曲。
 ふと。
 水城は携帯のメールを確認する。悟浄からのメールは着ていなかった。
 確かこの前携帯をポケットに入れたまま洗濯したと言っていた。まったく、悟浄らしい。
 水城はなんとなく迷惑メールを開く。

『この頃彼が冷たくない?あれ、何で好きだったのかも忘れちゃった?ラブラブだっ
 た頃に戻りたいよね。今はどこが好き?不満?でも離れたくない!別れるしかな
 いの??…アナタもそう感じることはない?そんな時は、http://〜〜まで!』


 ―あれ、私は悟浄のどこが好きなんだっけ?


*** 

 先程と打って変わって風は冷たくなっていた。水城は自分の肩を抱いて、帰ることに
決めた。息が白い。


 ふわり…


 立ち上がろうとするのを、何かが止めた。背後から寒くなり始めた身体を何かが包む。
そして、ベンチに座る水城をそのまま抱きしめたそれはとても暖かい。
 コートだと言うことに、水城はやっと理解をした。
 首を上に向けると、そこには空ではなく、大好きな人の笑った顔があった。

 黒いコートを着た悟浄は、ぎゅっと強く水城を抱きしめる。
「遅くなってゴメン」
「うん、また遅刻」
「許し「ダメ。こんなに寒いのに、女の子を待たせたんだから」

 ―でも…

 久しぶりに、ふざけて私が喜ぶようなことをしてくれた。やっと思い出せた。私はそ
んな貴方の優しさが、大好きなんだと。
 今回ばかりは、ちょっとだけこんな演出を考えてくれた悟浄を許してあげようと思う
のでした。

DOLL 3 

December 13 [Tue], 2005, 20:40
 ピピピピピピ…。

 鳴り響く悟空のお気に入りらしい目覚まし時計。肉まん型の最新型らしい。肉まんの
匂とともに音が鳴ることが、人気の決め手らしい。
 ガゴンッ。
 布団の固まりから、悟空の右手が伸び目覚ましを破壊した。三蔵はその音で目を覚ま
す。悟空はうなりつつ、また眠りについた。悟空が目覚ましを食べる日は、そう遠くな
いだろう。

「夢、だろうな…」

 溜息を吐いて、乱れた髪をそのままに、新鮮な日差しがあたるシーツから降りた。
 …変な夢だった。何処かで観たことのある雰囲気、何処かで観たことのある髪の色、
瞳の色、輪郭、肌の色。夢での情報と、これかまでの情報を照らし合わせても、ハッキ
リした答えは見つからない。
 トポトポトポ…とコーヒーがカップに注がれる。
 と。

「さささささ、三蔵!」

 急に悟空がボサボサの髪も気にせず、驚いた様子でドアを開けた。珍しく寝起きがい
い。

「どうした、朝っぱらから煩せぇんだよ」
「そ、それが、この人形泣いててさ!」
「…はぁ?人形が泣くわけねぇだろうが。寝ぼけてんのか?」

 バッ。っと差し出された昨日の人形。長い金髪に隠されたクリクリの瞳。澄んだ蒼は
まるで人の瞳のように潤んでいて、目尻には確かに悟空の言うとおり涙があった。

「…なんかの呪いか?」
「俺わかんねぇよ、そう言うのは三蔵の方が詳しいじゃんか!」
「しらん」
「…さっきはもっと悲しそうだったんだぜ、コイツ」
「気味悪りぃな、捨てちまえ」
「そんなことできるかよ!…俺コイツの泣く理由に興味あるなぁ」


***


 気ヅイテ。

 気ヅイテ。

 ワタクシノ大好キナ人。最愛ノ人。

 モウ、涙モ枯レテシマウ…嗚呼声ガ、欲シイ。
 コンナニモ『一言』ト言ウモノガ重イナンテ、知リマセンデシタ。

 砂時計ハ、アト少シデ無クナッテシマイマス。アト少シデ、ワタクシモ貴方ノトコロ
ヘ行ケルノデショウカ?…アイタイ。会イタイ。逢イタイ…ヨ。マタ、綺麗ナドレスガ
着タイ。オ喋リガシタイ。
 砂時計ノ砂ガ落チタラ、ドウナルノデショウカ。

 モシ星ニナッテモ、風ニナッテモ、虫ニナッテモ、ワタクシハ朽チルマデ、好キデイ
マスカラネ…

DOLL 2 

December 13 [Tue], 2005, 20:39
 嗚呼。



 嗚呼。

 風がとても強かった。

 ある時は気持ち良さそうに、ある時は困ったように風を受けていた彼女。
 レモンのワンピースと金髪がなびき、蒼が涙で潤う。白い肌に細い髪がかかり、それ
を長い指が耳にかける。見守る俺はそれに魅入られ、そっと手を伸ばした。


 届かない。あまりにも遠かった。
 悲しそうに、苦しそうに歪めた顔を金髪が隠すように揺れる。


「      」


 彼女が訴える。

 聞こえない。

 音声は、何処かでOFFになっているのだろう。
 彼女は寂しそうな顔で俺に訴える。何かを、必死に。でも聴こえない。届かない。伝
わらない。
 そして俺に圧し掛かるのは、何故か罪悪感。

 彼女は笑う。

 そっと、寂しそうに、仕方なさそうに、それが運命なのだと言うように。
 手を振る彼女、薄くなる彼女の身体。






 待て、行くなっ。






「ごめんね」






 消える寸前に、彼女は涙を落とした。

DOLL 1 

December 13 [Tue], 2005, 20:33

 ワタクシハ、恋ヲシタ。


 ワタクシノ恋ヲシタ相手ハ、マダハッキリト覚エテイル。
 細ク流レル金髪、貫クヨウナ紫ノ瞳ノ男ノ子ダッタ。トテモ優シク、トテモ勉強熱心
ダッタソノ子ハ、タダ1ツ夢ガアッタ。病弱ダッタ男ノ子ハ、独リ言ノヨウニワタクシ
ニ言ウノダ。

「学校に行って、いっぱい勉強して、いっぱい走って、愛されたい…」

 ト。
 何モ声ヲカケラレナカッタ。
 声ナンテ持ッテイナイカラ、ワタクシハタダ男ノ子ノ涙ヲ見ルダケシカデキナカッタ。
ソット抱キシメタカッタ。涙ヲ、ワタクシノ自慢ノドレスデ拭イタカッタ。
 ソシテ少年は天国ヘト旅立ッタ。
 言イタイ。伝エタイ。「ごめんね」ト「ありがとう」ト、「私は心から貴方を愛して
います」ト。
 デモ、ワタクシハ人形ニシカスギナイカラ、無理ナノデス。



DOLL



「ごほっ。」

 埃が上へ横へと舞い上がる。まるで威嚇するかのように、容赦なく目や鼻を刺激する。
それに三蔵は顔をしかめながらも、掛け軸を探す。
 厚い埃の布団を掃うも掃うも、瀬戸物や剣玉、木彫りのものや、よく分からない書物
などしか出てこない。昔にタイムスリップしたかのようだ。

「…ねぇな。おい、今日は帰るぞ悟空」
「さ、三蔵。ちょっと来てよ、何かスゲーもんある!」
「一昔前の肉まんでもあったか?」
「ちげぇよ。人形!フランス人形みたいな!」

 人形?
 三蔵は眉間にシワを寄せて、悟空の声がする木箱の裏に回った。歩く度埃が立つ。
 三蔵が、座っている悟空に視線を落とすと、悟空が言う人形の顔が見えた。
 よく言えばクリクリとした、悪く言えば不気味な瞳は光が当たって透き通っている蒼。
三蔵の髪に似た金髪を腰の辺りまで伸ばして、前髪はきちんと切り揃えられている。汚
れているレースの着いたレモン色のドレスを着ていた。

「このドレス、手縫いっぽくね?」
「だろうな、どっかの人形フェチのヤツが作ったんじゃねぇのか?」
「なあ三蔵、この人形持って帰ってもいい?」
「あ?…好きにしろ」
P R
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