ソラノサカナ3 

2005年09月26日(月) 17時28分
新宿で乗り換えるのは、どうしてこう億劫でウザくて面倒なんだ。
古来奥ゆかしいはずの日本人気質は、勤勉で時間厳守な気質に追いやられ
先を急ぐ人間のうねりばかりが黒く地下道を埋め尽くしている。
「どこ見てんだよ!」
肩への衝撃と同時に吐かれた罵声に、舌打ちで返した。くたばれ、ジジィが。
どこ見てんだよ、はお前も同罪だろうが。偉そうな口を叩くな。お前はぶつかった
相手が取引先のお偉いさんでもその態度か。この窓際族が。だから家族からも
煙たがられるんだ。その脂ぎったTゾーンを何とかしろよ。腹立つ。くたばれ。

ふ、と頭ン中に小さな物体が浮かぶ。赤いスカートを穿いた小さな物体。
むしゃくしゃすると、あたしの頭にはそいつが出てくる。あたしは、それを蹴る。
蹴って蹴って蹴って蹴って蹴って、そいつがぐったりと倒れ伏すまで、蹴る。
ごめんなさい、ごめんなさい、と小さいものが呻きを上げても。倒れ伏すまで。
その頃にはイヤなことは、どうでもよくなっている。素敵な自己ストレス処理場。

おかしいと、知っているから誰にも言わない。

緑色の環状線路の電車に乗り込もうとしたところで、携帯が震えた。
飾り気のない白のディスプレイに「ソウイチ@」と表示される。
@というのは滅多に掛かることのない、ソウイチの仕事用携帯だ。
「ソウイチ?どした?」
「姐さん、今何してます?」
「…正常な人間のフリをしてる」
ある意味、的を得たあたしの返答にソウイチは躊躇わず命令した。
「アトリエまですぐ来て」
セミプロとしての、ソウイチの硬い声に濡れそうになる自分が嫌いだ。
ソウイチも自分の硬い声の威力を知ってる。来てください、と依頼すれば
あたしが行かないであろう事を知っている。敢えて命令されるギャップがイイ。
返答を待たずに切れた通話に、ジリ、と身体が痺れた。

ソラノサカナ 2 

2005年09月07日(水) 19時37分
笑えるほど中途半端な曇り空だった。雨は降りそうで降らない。晴れる気配はない。
用心深い人たちがお揃いで持っているビニール傘が哀れを誘う。余計な荷物だ。
サユリは赤い縁取りのしてある真新しいビニール傘をご機嫌で翳して見せた。

「スズ、見て!買ったの。可愛い?」
「…フツー」
「えー。可愛いと思ったのになー」

もうすぐで20歳になる女が唇を尖らせて文句を垂れる。男が好きそうな仕草。
一度殴ってやろうかと思ったが、サユリの場合これが素なのだから始末に終えない。
木底靴をカコカコ言わせて、もたもたと必死にあたしの後ろを歩くサユリは可愛い。
服飾研究会とかいうマイペースなサークルに入ってしまったあたしとサユリは
構内の最西端に位置する部室棟へとペットボトル持参で毎日足繁く通い詰めている。

「おはよ」
「お!姐さん、おはようっス!」
「姐さん言うな、ソウイチ」
「サユちゃんもおはよう」
「…お、おはよ」
「ソウイチ!聞いてんの、あんた!」

明るいモカの髪の毛を引っつかんで、座らす。一つ下の後輩で、ソウイチ。
現在うちのサークルは、こいつで守ってるようなものだ。
高校時代から服飾系の賞を総なめしてきて、何を思ったか総合大学に来るバカ。

「人生、経験が物言いますから!」
「だったら留学すりゃイイじゃんよ」
「海外に姐さんはいませんからねー」
「…あっそ」

軽いノリでまとわりつくソウイチを引き剥がして、ペットボトルを開ける。
テーブルをそれとなく片付ける。また、いつもの無数のデザイン画。
ソウイチの横顔に薄っすらとクマを見つけて、サユリと顔を見合わせた。
努力を見せない弱さが可愛いから、どうしようもない。

Schwarz 8 

2005年09月01日(木) 23時08分
レンは彼女が話すリズムだけは、信じている。このゴミ溜めでは珍しく。
シュバルツは汚い。いわゆる裏路地が密集したような陸の孤島だからだ。
不法投棄されたジャンクやスクラップ、そして人間がシュバルツを作っている。

「どこまで行くん?うち、疲れたんやけど」
「さっき休憩しただろ。少しは我慢しろよ、アホノゾミ」
「せやかて、ここ3日歩きっぱやんか!」
「しょーがねーだろ!カネないんだから」

カネと権力。この2つがシュバルツでは不可欠だ。それ以外は何の価値もない。
容姿が小奇麗だったらカネにはなるが権力がなかったら這い上がれない。
弱者は下種な連中の玩具にされて犬扱いで地べたを這いずるしかないのだ。
シュバルツに法はないからこそ、モノを言うのはカネと権力。誰もが知っている。

「リセットを探すんだよ!何が何でも!」
「ほんまにおると思っとるんか、レンは」
「…あの人に名前さえ貰えれば、こんな惨めな生き方しなくていいんだぜ?」
「答えになっとらん。おるか、おらんか聞いてんのや」
「いるに決まってんだろ!そうじゃなきゃ…ッ」
「うち、レンさえおったらええ。死なんのやったら、何でもするで」

ぬかるむ道の真ん中に座り込み、見上げてくるノゾミの目が気に入らなかった。
脱色のしすぎでパサついたレンの金髪とは対照的にノゾミの黒髪が艶めく。
諦めたような事を言うくせに、やたらと意志の強い目が無闇と癇に障るのだ。

「泥水飲んで、残飯漁って、体でカネ作って?そんなの人間じゃねぇよ!」
「仕方ないやろ!じゃあ、レンは野垂れ死にたいんか?」
「嫌に決まってんだろ!だからリセットに名前貰いに行くんだよ!」
「リセットが偉いんやったら、うちらなんか相手にするわけないやろが!」

分かっている。ノゾミが言わなくても。可能性がほぼ皆無であることは。
ただ、わずか1%の希望でも縋らなくては自分達は最底辺の儘なのだ。
訳も分からず親に放棄された、7歳からの、この地獄から抜け出せない。
生き残って、「勝ち組」にならなければ惨めで、とても耐えられそうにない。

Schwarz 7 

2005年07月26日(火) 21時47分
さよならがしたかったわけじゃないんだ。
逃避行も心中もできない、僕たちは逃げ道を求めただけ。
さよならがしたいんじゃない。守りたかっただけ。

【脈拍マイクロスコープ】

何も書かれていないDVD-Rのラベルに溜息を落とした。
バグって全てのデータが消えてくれたらいいのにと、冥は思った。
そうしたら知らぬ存ぜぬで通して何もなかったことにするのに。
スチールのデスクに額を乗せて熱を冷ます。冷たくて泣けそうだ。
はらり、とDVD-Rに添えられていたレジュメが床に落ちた。
捺印された赤が、目に刺さるように鮮やかで、冥は頭を掻き毟る。

「どうして【螺旋】なんだよッ…!」

出撃命令:明後日1600:ポイントB/Schwarz
いつかこんな日が来るって分かってた。仕方ない。
【螺旋】はシステムだから。【螺旋】は機密システムだから。
人間のために生きて、人間のために死ぬ。それは仕方ない…?

「冥、まだ起きてたの?」
「…ッ!華夜」

柔らかく後ろから目隠しをされる。悪戯に笑う少女の声に息を詰めた。
目隠しを外し肩に手を置いた少女は、そのまま画面を覗き込んで。笑った。

「ああ、来たんだネ。出撃命令」
「・・・うん」
「それで冥がしょんぼりしちゃったんだネ」
「・・・うん」

包むように冥の頭を撫でる少女は、冥とまったく同じ顔をしていた。
双子、では説明の付かない繋がりを感じさせる2人の容姿。
暗然の窓に鏡映しになった自分達から、冥は目を逸らした。直視できない。
ねろりと眦に彼女の舌が這った。猫がじゃれつくように、目配せして、笑った。

「大丈夫、冥。アタシ大丈夫」
「・・・華夜」
「違うデショ?【螺旋】、だよ」
「・・・」
「ネ?」

ふと細められた彼女の目が、仕事の目をしていた。細く長く息を吐く。
逃げたいんじゃない。逃げられるとも思わない。ただ、守りたいだけなのに。
立場が弱いばかりに、彼女を人身御供にしなければならないのだ。

「冥が悪いンじゃないよ」
「わかってる。…行こうか、【螺旋】」
「イエス、マスター」
「明後日1600、作戦を開始する」

ソラノサカナ 1 

2005年07月11日(月) 22時43分
いくつになっても赤い糸の運命論なんて信じてるサユリは。
15歳でオンナになってしまったあたしにとって、羨ましくも疎ましく
「こうなりたかったなァ」
なんてしみじみ思わせるような、ある種の救いでもあった。

今でもショボイ絵の具をケチったような水色の空を見ると。
白く飛行機雲が安っぽいオレンジ色の夕映えにたなびくのを見ると。
サユリの無邪気な横顔を思い出す。白い指が天を指すんだよ。

「ねぇ、スズ!みてみて!」
飛行機の腹を空に見つけて、ガキみたくはしゃいで、走り出す。
「お魚みたい!」
「そう?ま、見えなくもないケドさ」
アホらし。あたしはアンタみたいにロマンチストじゃないんだって。
ポーズだけクールなふりで、あたしは笑ってサユリの後ろから歩くんだ。

アスファルトの匂いでさえ、思い出せそうなのに、何も思い出せない。
サユリがあんな風になって、そして死んだと聴いたとき。安堵したんだ。
あァ、よかったーって。心の底から良かったね、って言ったんだよ。
サユリは、あんな風になっても、どんなことがあっても貫いたんだねって。

「アンタの運命の人を、愛しぬいたんだよね…?」

ハタから見ていて、サユリは幸せだとは思えなかったけど。
当の本人は結構幸せだったんじゃないかって思うんだ。

ううん。幸せじゃなくたって別に構わない。
だから、あたしもね、サユリ。
アンタみたいな恋がしてみたいと、思うんだよ。
赤い糸で繋がってる恋を。命を懸けられるような恋を。

そう考えるたびに、最期に見たアンタの笑顔がちらついて。
あたしはどうしようもなく泣けてくるんだ。泣けて仕方ないんだよ。

ねぇ、サユリ。いま、しあわせ?

Schwarz 6 

2005年06月13日(月) 21時11分
ジョーカーやKonigにとってリセットが絶対であるように。
自分にもまた過去に絶対が存在したことを、リセットは思い出した。

「ユウヤ、おいで」
「じゅ…マスター」

リセットがまだユウヤ、という名前だった頃。彼女は絶対だった。
彼女の名前をリセットは知っていたが、呼ぶことすら畏れていた。
マスター。自らの支配権を彼女は持っていたから、そう呼んだ。
彼女は美しかった。薄墨の髪と白い肌は儚げで。眼差しは凛と。

リセットは最大級の敬意と愛情を持って、彼女を想った。

「仲良くするのよ、ユウヤ」
「マスター…それは?」

見慣れない姿が、彼女の後ろから顔を出した。浅黒い肌の、子供。
蒼い目。ニィ、と笑う。自分と対になった子供にリセットは戦慄した。

「ハヤト、ユウヤにあいさつ」
「俺は零式。零式のハヤト」
「…僕は絶無のユウヤ」

目の前が真っ暗になった。零式と絶無。何もないこと。対の名前。
対の容姿。あからさまに競わされていることをリセットは知った。
彼女を憎く想った。悲しかった。必要ないと言われているみたいだった。

「なぁ、ユウヤ!聞けよ!」
「さっきから聞いてるよ、零式」
「綬眞が約束してくれたんだ!」
「約束?」

煮えたぎる湯を飲まされるように。彼女は、零式を寵愛した。
意識はしてないのだろう。等しく扱っているつもりだろう。それでも。
リセットの中に、彼女への敬愛が捻れて、憎悪が降り積もっていった。

僕には、約束なんかしてくれなかったのに…!

Schwarz 5 

2005年06月12日(日) 20時22分
黒い服で眠っている。黒檀とビロードの椅子に眠っている。
睫毛は蒼いマスカラで彩られ、閉じられたまま長いこと開かない。
死んだかとも思ったが、「死んでいない」と八玖が言うから生きているだろう。
香月も「死んだら人間は腐る」と言っていた。腐っているようには見えない。
じゃあ、生きているのかとも思うが、動かない人間は死んでいるも同然だ。

「わっかんねー、お前死んでる?生きてる?」

彼女は答えない。もう長いこと、ずっとずっと答えない。沈黙の姫君。
零式は昔読んでもらった童話を思い出した。眠りの森の美女、白雪姫。
どちらも王子、とかいう男にキスされて目覚める話だったと思う。たしか。

「んじゃ、キスしたら喋んのかよ。ってか、王子って誰」

零式は頭を抱えて彼女の足元に蹲った。王子が誰なのか知らなかった。
自分でない事は確かだった。彼女は零式をシステムとしか思っていなかった。
彼女は優しかったし、大切にしてくれた。けれど、零式はシステムでしかない。

「八玖?香月?それとも、他の?」

八玖も香月も、彼女とは会おうとしなかった。零式だけが足繁く訪れる。
哀しいから、八玖も香月もここには来ない。彼女を『愛している』のだと思った。
彼女がこんな風になってから、誰も笑わなくなった。あの日からずっと。

そっと、彼女の唇にキスをしてみた。八玖や香月が見たら怒られるだろう。
目覚めるかと期待したけれど、柔い瞼は数ミリだって開きはしなかった。
零式は、自分が王子なんかじゃないことを思い知った。哀しかった。

「いつになったら、約束果たしてくれんだよ?」

自分のデータベースに「哀しい」と「ウソツキ」を追加した。
零式はシステムだ。Sランクの上位システムで、彼女の最高傑作だ。
他の誰でなく、零式は、綬眞の生み出した最高のアンドロイドシステムだ。

そのプライドだけが、彼女とした約束だけが、零式を支えていた。

Schwarz 4 

2005年06月12日(日) 20時18分
走るたびに込み上げてくるのは、郷愁でも何でもない。吐き気だ。
埃で白く汚れた編み上げの革靴で、ナツキは走った。どこまでも。
初めて訪れた黒の街は、噂に違わずガラクタとジャンクで塗れている。
樹海よりも黒く、海底よりも深く、迷宮よりも複雑な街だと思った。

けれど、ここには仲間がいると。ナツキを棄てた保護者は言った。
あいつらは本当の保護者ではなかったけれど、それにしても最低だった。
まぁいい。自分には「力」がある。待ち合わせの路地で、「支配者」を待った。

「はじめまして、ナツキ?」
「・・・はじめまして、リセット」
「君みたいな美しい子が来るなんて、ね」

ゆうに数十メートルは離れた所から、「支配者」は、リセットは話しかけてきた。
顔を確認する事もままならず、見えないことから来る恐怖が背中を食む。
声からしてリセットはナツキとそう変わらぬ歳に思われた。若く、澄んだ声。
抑揚のない語り口は中性的で、底の知れなさが「王者」たる所以か。

「歓迎しよう、ナツキ。今日からは王を、Konigと名乗ればいい」
「支配者であるあなたの庇護の下で?」
「面白いパラドクスだと思わないかい?」

つい、と後ろから伸ばされたしなやかな指がナツキの顎を撫でた。
驚いて思わず振り払う。愉快気な笑い声がこだました。白に染まる世界。
リセットは若く、美しく、そして白かった。髪も肌も、抜けるように白い。

ただ、その双眸だけが、憎悪を模して赤く。

「ねぇ、Konig。決して本当の名前を言ってはいけないよ?」
「いらないものだから、今この瞬間に棄てます」
「いつかシュバルツは攻撃される。それでも?」
「力さえあれば、戦えるでしょう。名前など必要ない」
「屠られれば、埋葬されれば、存在を示すものはなくなるよ?」

死者の名を奉るように、リセットが告げた。その予告をナツキは受け止める。
淡雪のように繊細な色素の支配者が、あまりに激しい感情を浮かべるので、
ナツキは静かにそれを受け止めた。彼の憎悪を分かち合うようにして。

「大丈夫です、リセット。僕らの力は、誰にも負けない」
「ねぇ、Konig。いつか、君にも分かるよ」

生まれきた意味を、この孤独を。

「あの人が、僕たちを生み、棄てたわけを」

支配者の悲痛な顔の意味を、ナツキは未だ知らない。
ガラクタの路地に立ち尽くす。静謐の中、いつかの戦禍へ馳せた。

Schwarz 3 

2005年04月29日(金) 21時03分
緋の髪の少年が運んできた珈琲を、その女は無感動に見やって

「ブラックで結構です」

と短く言った。対面した青年は、ブラック、という単語に眉を寄せた。

「黒の件だったか?貴女の用件とやらは」
「手短に言いましょう。黎黒を出してください」

無糖の珈琲を、さも当然のように飲む女は斯くも可愛げが無いものか。
女との間に幽く揺れるキャンドルの灯を見ながら、青年は思った。

「黎黒は出さない」
「…分からない人ですね、真幌」

うんざりと溜息をつきながら、女は青年…真幌をねめつけた。

「依頼ではなく、命令です」
「双和女史。貴女方と我々は対等のはずでは?」
「黒に関しては、私どもが優位。本部の意思です」

双和の胸に刻まれた蒼い刻印は、真幌の手のそれとは違う。
やたらと蒼い刻印を身贔屓する本部に辟易として、舌打ちする。

「双和閣下。畏れながら申し上げます」

見かねたように割って入ったのは、緋の少年だった。

「発言許可をいただけますでしょうか?」
「あなたは…樹、といったかしら?」
「黎黒のメンテナンスを担当しております」

双和は、あからさまに樹の顔を凝視して、やはり無感動に許可した。
組まれた脚を、もったいぶるように組み替えて、着席を促す。

「黎黒はランクBの上位システムです」
「それが?上位とはいえ、たかだかBでしょう」

深く眉間に皺を刻んだ真幌を視線で制して、樹は微笑んだ。
双和は一瞬たじろいで、樹の言葉を待つ。樹はあくまで慇懃だった。

「螺旋を出されてはいかがでしょうか?」
「……螺旋?デモをとれと、そういうこと?」
「テストには最適かと」


「シュバルツを、殲滅させればいいんです」

樹が豹変した如くに浮かべた凄惨な笑みに。
双和の無感動な表情が微かに動いて、喉を鳴らした。

Schwarz 2 

2005年04月24日(日) 23時32分
シュバルツ。
政府機関も法律も存在せず、地図にも載っていない街。
太平洋に建造され、放置された人工島。犯罪者達の隠れ蓑。
元々は日本の領土で、経済破綻に伴い、事実上遺棄された埋立地だ。
犯罪拠点と言う性格上、ジャーナリストが「黒の街」と評したのが始まり。
この街では、「力」が総てだとリセットはケイに教え込んだ。

「いいかい、ジョーカー。この街にはシステムがある」
「システム?」
「そう。ゲームに勝つんだよ、ジョーカー」

「そうすれば生き残れる」

Stossen・Ass・Zwei・Drei・Vier・Funf・Sechs・Sieben
Acht・Neun・Zehn・Bube・Prinzessin・Konig・Joker
唄うように紡がれた名前を、ケイは半分も覚えられなかった。
異国の香りのする言語を、当然のようにリセットはよく口にした。
微笑ってリセットは言う。カードの名前だと。ただ小難しくしただけだと。
それが特別な地位を表すのだと知ったのは、随分と経ってからだった。


黒の申し子たち。
リセットが呟いた不思議な羅列にはそういう意味があるのだと。
棄てられた自分達にこそ、シュバルツは選んだのだと。
いや、それ以上に。
「シュバルツで棄てられるために」生まれ来たのだと知るのは。
随分と経って、ケイが自分の名前を忘れてからのことだった。

今はただ、触れ合う距離にある、リセットが。
低く醒めたような体温だけが、家族で兄弟で友人で真実だ。
少ない缶詰では満たされない薄い腹を抱いて、ケイは目を閉じた。
明日も、今日と同じ「平凡」がやってくることだけを祈りながら。
2005年09月
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■シュバルツ■
登場人物多し。
シュバルツの人々
・リセット アルビノの人
・ジョーカー リセットの部下
・Konig リセットの部下

組織の人々
・香月 司令部の人
・八玖 司令部の人
・綬眞 寝てる人
・双和 八玖の部下の人
・真幌 黎黒の管理者の人
・樹  真幌の部下の人
・零式 アンドロイド。Sランク
・黎黒 アンドロイド。Bランク
・螺旋 アンドロイド。新型
■メビウス■
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