黙って守られろ

December 06 [Fri], 2013, 21:25


真田が幸村君に、『黙って守られろ』と言ったらしい。
幸村君としてはかなり納得がいっていないらしく、病院にお見舞いに行く度に真田についての罵倒(ぶっちゃけのろけ)を聞く。
真田は病気の幸村君に全て任せろ、頼れという意味合いだったみたいだけど、守られるのは納得いかないと幸村君の男としてのプライドが許さないらしい。
愛されてるからいいじゃんなんて言おうものなら、愛じゃない。真田は何も分かってないと怒るから黙って聞いておく。
幸村君は我儘だ。皆には優しいけど、真田に対してだけは我儘。
さっきだってお見舞いに来るっていう真田からの連絡に、お見舞いの品に病院とは逆方向のケーキ屋のケーキをリクエストしていた。
たぶん、そろそろ真田がそのケーキを持って来るはず。

「失礼しま…幸村はいないのか?」
「検査に行っちゃったぜ」

ビンゴ!!ブラウンに金字で店の名前が入った紙袋を提げ、病室内に入ってきた真田は幸村君がいないのが分かると、あきらかにガッカリして俺達によく見せるちょっと取っつきにくい厳つい顔になる。

「それ、幸村君のリクエストのやつ?」
「あぁ」

渡されるケーキを受け取り、さっそく袋から箱を出しケーキを取り出す。
リクエスト通り、リンゴのコンポートのパイとマロングラッセのタルトに濃厚チーズケーキ。

「こら、何を勝手に…っ!!」
「これ、俺のリクエストだし。幸村君が何食べたいって言うから」
「だからといって勝手に…」
「幸村君から先に食べて良いって了承済みだから」

幸村君の名前を出したら真田は黙る。唸るように押し黙る。
まるで幸村君の飼い犬みたいだ。
リンゴのコンポートのパイを箱から取り出し、ザックッとパイ生地にかぶりつく。

「…幸村は、何か怒っているのか?」

思わず頬張っていたリンゴのコンポートを噛まずに飲み込んでしまった。
柔らかく煮たリンゴは一瞬にして舌から喉に通過し、ごくんと喉が鳴る。
喉に絡まるパイ生地は、むせる前に慌ててそばに置いていたペットボトルの紅茶で流し込む。

「…怒ってるって分かってるんだ」

マジマジと真田を見ると、失礼な奴だと顔全体に表し俺を見てくる。

「幸村は怒ると、無理難題を言ってくるからな」
「よく分かってんじゃん」
「…幸村が怒っている理由は分からんがな」
「あ〜…、そりゃな……真田には分かんねえよ」

真田は善意で幸村君に言ったのだから分かるわけがない。

「丸井は、幸村が怒っている理由を知っているのか?」
「知ってるけど教えねえ」
「なっ!!」
「幸村君に怒られるの嫌だもん」

不服そうな真田は無視して、今度は味わうようにリンゴのコンポートのパイにかぶりつく。

俺は幸村君の味方だから真田には教えてあげないんだ。
それに、俺が何か言っても言わなくても変わらないんだし。
結局は仲良いってことだから、何もしなくても大丈夫なのだ。


幸村君と真田君と丸井君。

神出鬼没の英雄

July 13 [Fri], 2012, 21:42



※大人きりひよ。



『付き合いたい子が出来た、別れてくれ』

付き合ってから一度も見たことがない顔して、切原は俺を見ていた。
本当に驚いた時というのは、人間真顔になるものなのかと思った。

『別れてくれ』

もう一度、声のトーンは変えずに切原に言う。

『テッメェッッ!!』

掴みかかってくる手を手刀で振り払い、睨んでくる瞳を受け止める。
真っ直ぐなその眼と、ストレートすぎる言葉を何度も向けられて、忌々しさが愛情に変わったのは、今でも気の迷いだと思っている。
気の迷いを現実に戻そうと、好きになれそうだと思った女の子と付き合おうと決めたのだ。

初めて会ったのは中学の新人戦の時で、試合開始前は挑発的な笑顔を向けられて、終了後は勝ち誇った笑顔を向けられた。
先輩達に、勝利に喜び、駆け寄る姿は可愛がられているさまがよく分かった。
新人戦の頃からすでに立海のエースの頭角は現れており、期待され、ヒーローのように同学年でもテニスの腕は一目置かれていた。
『興味あるんだよね』と、目の前に現れた時は、何の嫌みか揶揄なのかと不信感。
無視したらしつこいぐらいに、待ち伏せされ氷帝に現れるようになった。
真っ直ぐに向けられる言葉は、腹ただしいことも多かったが、好きだと気恥ずかしくも次第にほだされた。
しかし、現実を悟った俺は別れを切り出す。
一緒にいて幸せな未来などくるわけがない。

『嫌だっ!!付き合いたい子って何だよ!?俺のこと好きなくせに、女なんか好きになるわけないだろっ!!』
『好きじゃないから別れるんだ』
『……っ』

押し黙る切原に、了承を得る前に目の前から立ち去る。
傷付けた。怒らせた。
だが、中途半端に未練を残すぐらいならいっそとことん嫌われたほうがいい。
男の切原を好きになれたんだ。告白してきた彼女を好きになれるに決まっている。


切原と一方的ではあるが別れた次の日、中学の頃によく待ち伏せされていた場所に切原が現れた。

『………』

見据えてくる眼差しを、無視して横を通り過ぎようとしたが、名前を呼ばれ付きまとわれる。

『日吉っ!!』
『………』
『俺、声かけてんだろ。何、無視してんだよ』
『………!!』

切原が初めて声をかけてきた時と、同じ言葉を発したもので思わず目を合わせる。

『…日吉がつまんねーこと言ってもな、昔みたいに待ち伏せして、また好きにさせるんだからな』

宣言。
揺らぎそうになる気持ちを押し込めて、逃げるために無視して歩き出した。



少し大人きりひよ。

決め台詞の後は

November 30 [Wed], 2011, 23:04


『南〜…』
『………』

千石が全て言い終わる前に察しの良い…、いや、毎回の事過ぎて慣れてしまっている他の部員達は一斉に帰っていく。
薄情者っと嘆いたところで、しっかりと千石に腕を掴まれた俺は逃げ帰ることが出来やしない。

『…この後、付き合ってやるから部室の戸締まり手伝えよ』
『了解!!』

掴んでいた腕を離した千石は、手早く部室の戸締まりをしていく。
南と呼ばれる声音が今日みたいに低く甘えるように呼ばれる時というのは、千石が女の子にフラれた時で、初めのうちは部員皆も付き合っていたが、次第に聞き飽きて俺が押し付けられるようになってしまった。
千石も分かっていて、最近では俺を狙ってくる。
さっきだって、俺一人に押し付けるなと東方に目で訴えても頑張れと小さなガッツポーズをサインで送ってくるだけで逃げられた。
何がダブルスのパートナーだ、薄情なやつめと何度か訴えてみたが、『千石の面倒見れるのは南だけだろ、部長だし頑張れ』と言われるだけ。
部長だからって、千石の恋愛事情なんて面倒見たくないぞと訴えれば『千石のメンタルケアだろ』と、押し付けられた。


『南…聞いてよ〜!!』
『今度は、他校の子か?それとも前、言ってた下級生か?』

あの子が可愛い、あの子は美人とか女の子情報が毎回、聞く度に違っていて、本気で聞いていても次に聞くときは好きな子が変わっているもんで途中から本気で聞くのは止めた。顔も知らない女子なんて、可愛いと言われてもピンとこないのだ。

『はぁ…俺はすっごく好きなのに、何でいつもフラれるんだろう』
『そりゃあ…、次々、好きな子が変わっているから真実味がないんだろう』
『酷いっ!!俺はいつも真剣だってば!!』

フラれた相手のどこが可愛くて、どこが優しくて好きだったとか、毎回、好きだった女の子の事を語る時は、真剣で本当に好きだったというのは分かる。
だけど、期間を空けずに告白し女の子には声をかけているような奴は信用はされないだろ。

『…まぁ、俺はラッキーだからフラれても南がいるし』
『俺がいて何でラッキーなんだよ?』
『そりゃあ、今日も慰めにコロッケ奢ってくれんだろ』
『何で、そうなるんだよ!?』
『いや、いや、本当ラッキーだよ。南みたいな部長に慰めて貰えるなんて。ねっ、南』
『おっまえな〜……』
『ラッキー』

底抜けに明るい声で、ポジティブ発言。
フラれて毎回、本気で落ち込んでいるのだって知っている。
それでも、笑ってラッキーと口癖を言うもんで毎回、甘いと分かっていてもコロッケぐらいならと奢ってしまうのだ。



『うぅっ、やっぱり彼女欲しい』
『……1年ぐらい女子に声かけるのやめたら彼女出来るんじゃねえの』
『それ、俺死んじゃうから!!』

コロッケを奢ってやって食べながら帰り道隣で叫ぶ千石に、本当にどうしようもねえなあ…と、俺は深い溜息を吐くのだ。



南部長と千石君。

愛と平和と君のため

September 01 [Thu], 2011, 22:28


可愛いとか綺麗とか、好きなタイプの女の子なんてまだあやふやで良いなと思っても結局のところ重要なのは女の子の容姿じゃないのだ。


好きですと告白された。
素直に喜べない状況にどうしたとものかと、目の前で真っ赤になった子を見つめる。
色白の肌は真っ赤になって可愛いなぁと思う。
しかし、俺が可愛いから付き合いたいと思っても好きだと言われたのは淳で俺ではないわけで、淳じゃないと訂正すべきかとか俺じゃないのか…ガッカリだなとか、どうでも良いことばかり思い浮かぶ。

まぁ、しかし淳であっても答えなんていうのは決まっているのだ。
俺が淳のふりして言っても淳も同じことを言うだろう。

『ごめん、気持ちは嬉しいけど付き合えない』

真っ赤だった彼女は大きく目を見張り泣きそうな顔をして、ありがとう、ごめんねと小さく呟き去って行った。
小さな罪悪感はあれど、前に同じように勝手に告白を断られてた。


可愛いとか綺麗とか、そういことじゃなくて俺達を見分けられるかが重要で、間違いなく見分けた子が現れたら好きだという言葉も信じたくなるに違いない。
双子というのは一緒に見られたいが、一緒にされるのは嫌だという難しい生物なのだ。
だから、俺達を見分けられない子なんて一緒に幸せになれるはずがない。
これで平和。

部活へと向かう足取りは、実に軽やかだった。


木更津ツインズ。


新しいお題お借りしました。

驕児様。

春だ、嵐だ。

April 22 [Fri], 2011, 21:24


『誕生日、何が欲しい?』

ジャッカルが部活帰りに、思い出したように聞いてきた。それが一週間前。
その時は、ジャッカルが買えなさそうな高いもんとか手に入れられねそうな物とか言ってみた。
酷く困った顔したジャッカルに、期待してるぜとはぐらかした。
1番欲しいものなんて言えやしない。
俺の事好きになれよとか、友情破滅覚悟じゃねぇと言えやしねぇ。
ジャッカルを困らせるのは、俺のささやかな気を引こうという恋心。
ガキみてぇだけど、ジャッカルは良い奴だから全部付き合ってくれる。でも、鈍いから俺の気持ちには気がつかねぇ。
まあ、当たり前。男に好かれてるなんて思わねぇだろ。


誕生日。たくさんのプレゼントは両手いっぱい。美味そうな菓子もたくさん。
昼にジャッカルは学食のデザートを奢ってくれたが、プレゼントと認めるはずもなく当日にもさらに困らせる。
まあ、良いんだ。今日は俺が1番偉い特別な日なんだから。


『ジャッカル、プレゼントは?』
『学食のデザート…』
『却下って言っただろい』

一週間前より、さらに困った顔して黙り込むジャッカルをさらに困らせてやろうと、肩に腕を回し、耳元に無理難題を囁く。

『ハグ、キス』
『はっ?』
『俺、今日はスッゲェ気分良いの。外国式に盛り上がりたい気分なわけ。親愛なるダブルスパートナーの俺に、ほら!!』

回してた腕を離し、腕を広げ促す。

『いやいやいやっ、日本だし!!』
『ラテンだろっ!!』

俺の一大決心と振り絞った勇気を無駄にするものかと、拒否するジャッカルにやれと催促というか命令。

『ジャッカル〜』
『………路上だし』
『人いねぇだろ』
『人に見られるかもしれねぇし』
『だから、いねえうちに早くやればいいじゃん』

少しごねればジャッカルはたぶんやってくれる。
俺の我が儘に長年付き合ってる習性だ。

『………』
『あ〜ぁ…、ダブルスパートナーへの愛はその程度かよ。明日からダブルス解消だな』
『えぇっ!?』

ずるい言葉だけど、これぐらい言わねぇとやってくんねぇ。
ぐるぐるぐるぐるジャッカルの中で心底悩んで、渋々、困った顔で広げた腕に答えるようにハグされる。

『チュウ』
『…マジ、勘弁してくれ。男同士じゃ挨拶でもやんねぇよ!!』
『………』

ジャッカルのくせに!!と、思った瞬間、間近にある唇に噛み付いて奪ってやった。

『っ………っつ!?』
『このぐらいさっさとやれよな』

唖然としているジャッカルから離れ、何か言われる前に急いで歩き出す。

『…っんの、ブン太っ!?』
『えっ、何?ファーストキス?』
『………っ!!』

照れ隠し。揶揄してみたら、ゆでたこみたいに真っ赤になって怒るジャッカルに全力脱兎。
くそっ、俺の顔だってきっと真っ赤だ。
捕まらねぇぞとさらに加速して、部活後なのに全力疾走。

春だ。嵐だ。
蹴りあげたコンクリートに散った葉桜になりかけた桜の花びらが舞い上がった。


ジャッカル←ブン太


HAPPY BIRTHDAY!!ブン太!!

『すき焼き弁当、大盛2つ!!』

December 20 [Mon], 2010, 23:30


年に一度、必ず丸井に優しくされる日というのが桑原にはある。
11月3日の桑原の誕生日だ。
毎年、祭日ではあるが部活があり朝から練習に学校に向かう。
男同士ということもあり、プレゼントを渡されるまではいかないが部活メンバーにもおめでとうと声をかけられ桑原は嬉しそうにありがとうと返す。
ダブルスの練習試合では、いつもより積極的にボールを追う丸井がいて、それも誕生日限定の丸井の優しさである。

『いつもどおりにやらねぇと練習になんねえだろ』
『いいじゃん、たまには。楽だろい?』
『楽っつうか、調子狂うっつうか…』
『たまには、いざっていう時のために俺も攻めの練習しとかないとな』
『いざって時ねぇ…』

攻守徹底して完成された陣形、最強ダブルスとさえ自信さえある俺達ににいざということがあるのかと桑原は疑問に思うが、満足そうに笑う丸井を見れば、まぁ、いいかと何も言わないでおく。


『終了だっ!!』

真田の大声が響き渡り午前の部活が終了する。

『よっし、昼行くぜ』

試合終了直後だというのに丸井は勢いよく駆け出す。ベンチに置いていた、テニスバックからジャージの上着と財布を取り弁当屋目指して走りだす。
その後を桑原はいつものように追い掛ける。少し後からスタートした桑原だが、丸井がいつもより動いてくれたおかげで体力には余裕がある。
すぐに横に並び丸井に追い付く。

『今日はどこに行くんだ?』
『弁当屋!!』

学校近くにある弁当屋は、その場で作った出来立てのおかずと温かいご飯をを詰めてくれる店で寒い季節になり始めると二人は利用する回数が多くなる。
せっかくの誕生日だから、いつもより豪勢にしようかと意を決して桑原がメニューから焼肉弁当を決めた瞬間にに丸井が勝手に二人分の注文をし始める。

『すき焼き弁当うどん入りで大盛2つ』
『えっ?』
『今日は俺の奢りだから遠慮するなよ』

今まで、誕生日にはいつもより優しくされたことはあっても奢られるという経験はない。
小学生の中頃までは誕生日プレゼントも渡しあってはいたがいつしか渡しあわなくなった。
丸井の気まぐれにしても、いつも奢ってばかりの桑原には意外でとても嬉しくなるような出来事である。
出来立てのすき焼き弁当を持ち帰り、テニスコートの外で食べる。
寒さの中、立ち上がる湯気に食欲が誘われる。


『旨いけどよー…、普通好きな弁当選ばさねぇか?』

甘い汁が染み込んだ温かい肉を口に運びながら桑原は丸井に問い掛ける。
すき焼き弁当は旨いが、焼肉弁当のほうが好きだ。焼肉弁当にしようと決めた矢先に丸井に選択権なく注文されたのだ。

『バァッカァ、今の時期っつたらすき焼き弁当に決まってるだろい』
『誕生日の俺に選択権は?』
『ねぇよ!!』

ご飯を頬張りながら丸井は桑原に返す。

『酷えな…』
『はぁ?今1番旨い弁当じゃん』

何の不満があるんだと逆に丸井は桑原に問いかける。

『今日は何の日か分かってんのか?』
『ジャッカルの誕生日だろ。仕方ねぇなあ、明日、ケーキでも作ってきてやろうか?』
『男の手作りケーキなんていらねえ…』

可愛い彼女から貰いたいと桑原が呟いたら、丸井に後頭部を殴られた。

『痛ってえな』
『喜べ、ハゲっ!!』
『喜んでるけどよ〜…』

桑原の優しくされてえと呟いた声はあまりにも切実だ。
丸井にしてみれば、練習ではいつもより桑原を楽にさせたし、1番美味い弁当を奢ってやった。
最大限の優しさをかけているのに、桑原が優しくされたいと不満げなのは納得いかない。

『……っ、ハゲッ!!』
『ハゲじゃねぇって何度も言ってるだろ』
『ハゲ』

膨れっ面に頬張りさらに膨れる頬に、リスみたいだと、丸井が機嫌を損ねているのは分かっているが何だか可笑しくなり 桑原は笑う。

『ありがとうな』
『……おっせぇよ』
『悪かったて、…確かに、今日みたいに寒いとすき焼き弁当が旨いな』
『そうだろい!!』

桑原が折れることが仲直りのタイミングで、決まり事項になった二人の儀式である。
得意げ、嬉しそうに笑った丸井のその単純さにに、桑原は可笑そうに笑い返し弁当を頬張るのを再開する。


『あっ、そうだ。お礼は帰りにタイヤキでいいぜ』
『バッカッ、今日は奢らねぇぞ』


2年生、桑原くんと丸井君。


HAPPY BIRTHDAY!!ジャッカル!!

たしかに見えた、赤い糸。

October 19 [Tue], 2010, 23:17


落ち込む理由なんて、毎回、何度同じ事を繰り返しているんだと飽き飽きするぐらい堂々巡りで、そんな悩み杞憂でしかないのに毎回真剣に落ち込みものだから同じ愚痴を繰り返し聞かされるこっちは心底うんざりした溜め息しか出てこない。
そう、もう飽き飽きなのだ。
それでもブン太は毎回本気で頭を悩ませ落ち込むものだから、話しを聞いてやるのだ。

鼻孔をくすぐる甘ったるい香りはブン太の精神安定剤。
中学時代から変わらない甘党は、俺の部屋のテーブルいっぱいにケーキ屋で買い占めたケーキにシュークリームにゼリーにサブレ、その他色々なものを広げ手づかみで口に含んでいく。
沢山買い占められたケーキの中から俺は、フルーツがたっぷり乗ったタルトを選びフォークで食べる。ブン太が買ってくるケーキはどれを食べてもハズレがない。
甘いものと美味しいものを見つける嗅覚も、ブン太の天才的な要素のひとつだと思っていたりする。

『前から何度も言ってるだろ。そんなに不安ならジャッカルに直接ぶちまけてしまえばいいって』
『女々しすぎて言えねぇし…』
『直接言わないほうが女々しいじゃないか』

ブン太の悩みはただひとつ。「ジャッカルは自分のことを本当に好きなのか?」と、いうことだ。
いくら、ジャッカルの性格が人が良くてブン太の押しに弱いからと言って男と付き合うようなお人よしではないだろう。
グラマーな色白美女が好きなのは男の性、可愛い女の子に優しくされてトキメクのは男の本能なのだから仕方がないだろうって、何度言ってやったけ。
特にジャッカルはブン太みたいに女の子にあからさまにモテていたわけじゃない。女の子にトキメクのだって、仕方がないし良いじゃないか。これも毎回繰り返し言ってやっている。

『…いざとなったら女というだけで、全て持っていかれるんだ』
『そりゃ、ブン太じゃ子供は産めないし。柔らかな胸はなくはないけど…揉めるほどじゃないし、男なんだから女の子と比べるだけ無駄だよ』

女の子じゃないのに選ばれたほうが凄いと思うんだけどなぁとぼやいてみる。
小学校から一緒で、ずっとダブルスのパートナーで、ケンカしつつも仲直りして、男同士でも付き合ったりするようになっているんだから、もうそれは何ていうか腐れ縁というか運命の赤い糸で結ばれているぐらいの自信を持てばいいじゃないか。

『幸村君、最近冷たい…』
『ブン太はジャッカルと何年付き合っているんだよ』
『え〜…と……』

両手いっぱいに指折り数える程の長い付き合いなら、大丈夫。
確かにジャッカルは女の子に弱いけど、女の子よりブン太にはもっと弱い。
どうせもうすぐジャッカルがタイミング良くやってきて、俺は今日もこのバカップルに見せつけられるのだ。
だから本当にブン太の悩みは馬鹿馬鹿しくて飽き飽きしてるんだ。

『大丈夫、俺には二人の赤い糸が確かに見えている』
『……幸村君、頭大丈夫?』

こんにゃろう。

『ブン太…、俺は神の子だ。それぐらい見えるんだよ』

自信満々にゆっくり笑みを作る。

『だったらさあ…どこにあるわけ?』

信じてないなこんにゃろうと思いはするが、まぁ実際見えていないわけで。
だけどハッタリだろうが神の子と言われるからには不可能は見せてはいけない。

『そうだなぁ…』

さもあるように、見えやしないがブン太の左手小指の直線上、指先で糸をつまむ仕草で引っ張り上げるそぶりを見せる。

『引っ張ると、ジャッカルがやってくる』

ブン太のほうに引っ張ると、タイミング良くジャッカルがドアを開けて入ってきた。
見えてないけどやっぱり繋がっているんじゃないのかと疑いたくなるタイミングの良さ。指先に持ったふりした糸は見えやしないけど、確かに見えた(気がした)赤い糸。



丸井くんと幸村くん。

Title:【確かに見えた、赤い糸。】
SpecialThanks:粘土様

Love+Collaboration=愛Lab.

神様はなんて意地悪。

May 15 [Sat], 2010, 22:02


なんて神様は意地悪なんだ。

鼻はつまって息苦しいくせに、くしゃみしたら盛大に鼻水出るし。
何なんだよっ!!
苦しくて、死んでしまう。
俺、人生最大のピンチ。


『ジャッカル…死ぬぅ……』
『たかが風邪で大袈裟だな』

くそ、ハゲっ!!俺の心底辛い気持ち分かんねーくせに、たかがとか言いやがって。

『ほら、アーン』
『…あ゛ーん』

ジャッカルが見舞いに持ってきた、コンビニで売ってる中で1番の高級アイス。
プラスチックのスプーンに救われて口元に運ばれる。
パクリと食ってはみるも鈍った味覚では甘いなんて感じねぇ。冷たさだけが舌に溶けて伝わる。

『美味いか?』
『分がんね゛ぇ〜』

ねだってもなかなか買って貰えない高級アイス。せっかくジャッカルが買ってくれたのに。

『残念だなぁ』

頭を撫でてくれる手だっていつもより優しい。
神様が風邪の俺への施しか。
だけど神様、これからはジャッカルの優しさがもっと欲しいとか言わねぇから味覚を返して。
味覚がないと俺死にそう。

『死ぬ゛…』
『大丈夫だって』

神様、本当にごめんなさい。
ジャッカルはいつも優しいです。
ジャッカルの優しさがもっと欲しいなんて贅沢言わねーから、俺に味覚を返して!!




風邪っぴきブン太とジャッカル君。

ガムシロ3個

March 30 [Tue], 2010, 0:05



ガムシロ3個、ミルク3個、甘いココアにさらに甘く並々とグラスに注ぎ込まれる。
大きなドリバイのコップには氷もたっぷりココアもたっぷり。注ぎ込まれたガムシロとミルクは零れるか零れないかギリギリのところで保っている。
シマシマのブルーのストライプストローで零れぬようくるくると器用に混ぜるとココアの茶色は薄い茶色になる。

『げー…、入れすぎじゃないっすか?』
『……うっせえ、馬鹿』
『八つ当たりはよして下さい』

夏休みが空けた始業式後に丸井に衝撃的なニュースが伝えられた。
ダブルスの相方のジャッカルに彼女が出来たというのだ。照れた様子で本人から告げられた丸井は引き攣りそうになる顔を堪え、ジャッカルのくせに生意気だと殴った。殴ったところで幸せそうなジャッカルには効きやしなかったのだが。
部活がない日はいつもなら後輩の切原と三人で遊んだりするのだが、今日はジャッカルが彼女のとこに行ったので丸井と切原の二人でファミレスになったのだ。

『甘すぎないですか?』
『甘くねー…』
『それ、絶対おかしいっスよ』

丸井が飲む糖分増加ココアに切原は顔を歪めるが本人は少し飲み干すとさらにガムシロとミルクを追加する。

『マジで病気になりますよ』
『だって味がしねーんだ…。食っても旨くねえし、これぐらい甘くしねーと味しねえ』
『………』

どんな時でも食べる事を生き甲斐にしている丸井が旨くないと言ったのだ。切原も思わず言葉に詰まってしまう。

『…丸井先輩、それなんか異常ですよ』
『はぁ?』
『だって、まるで…』

ジャッカル先輩に失恋した女みたいじゃないっすかという言葉を切原は飲み込む。

『ジャッカルは俺のものだったのに』
『………』

その言葉が友情を過度に表して出た言葉なのか、本気なのかを測りかねて切原は黙り込んだ。



桑原君と丸井君と切原君。

青春謳歌

March 16 [Tue], 2010, 23:59



例えば、そう例えばの話。
遠いのか近いのとても曖昧な未来。
大人になった頃の将来の予想。

『南の将来のお嫁さんと俺は絶対仲良くなれる自信があるよ』
『……何だよ、いきなり』
『そうなったら南の失敗とかいっぱい教えてあげて笑ってやろう』
『やめろっ!!』

他愛ない事で笑ってふざける帰り道。
モロ青春みたいな夕暮れ時に沈む夕日を正面に。
今きっとドラマや映画なら青春を歌う曲が流れててる。
大人になって今みたいな青春を歌う曲が流行ったらきっと思い出すんだ。


昨日、南に彼女が出来ました。
今日、俺は南への恋心を諦めます。


南←千石
P R