川浦良枝 『しばわんこの和のこころ』 ★★★☆☆ 

2005年12月05日(月) 15時20分
可愛いしばわんこ&みけにゃんこ
◆「和の心」をもつ柴犬しばわんこが、日本の四季折々の暮らしについて愉しく教えてくれる。「満ち欠けする月の呼び名」や「神社での参拝のしかた」を柴犬に云々されるのも面白い。作者の川浦さんの絵が評判で、カレンダーや手帳の売れ行きも好調らしい。私も購入済。
◆それにしても、今の若者は…。柴犬よりも頭が悪く、知的好奇心に欠ける。知らないことに興味を持たないということは、生物的な退化ではないか?子供にも楽しめるので、Xマスの贈り物に如何?

(2002年/白泉社 1470円)

『沖縄オバァ烈伝』 ★★★★☆ 

2005年12月04日(日) 14時29分
元気すぎる!沖縄のオバァたち
◆いわゆる「沖縄病」の罹患者にとって、何より目を見張る存在が、オバァ達の生き様だ。過酷な沖縄戦を乗り越え、米軍統治時代に何人もの子供を育ててきた彼女達のたくましさ。オジィ(爺)達が、最近精彩を欠いている一方で、「何処吹く風ね〜?」の勢いである。
◆豪快さでは「大阪のオバちゃん」にも負けないオバァ達の生態を、孫の世代のライター達が描いた傑作本。ついには、2005年秋にはDVDにもなった。オバァから元気をいっぱいもらえるぞ。

『沖縄オバア烈伝』公式サイト
(2000年/双葉社 1300円)

『9.11 生死を分けた102分』 ★★★★☆ 

2005年12月03日(土) 14時35分
卑劣なテロと闘った人々の記録
◆2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」。世界中の人々の価値観を一瞬にして崩壊させた2つの超高層ビルの悲劇。2005年1月に出版された本著は、あの朝、ビルの中に居た人々の証言集である。冷静沈着に分析するまでに、3年以上の歳月が流れている。
◆タイトルの「102分」とは、WTCの北タワーに1機目の航空機が激突した午前8時46分から、南タワーに2機目が激突(9時2分)、そして南タワーが崩壊(9時59分)、さらに北タワーが崩壊する10時28分までの時間。そのわずかな間に、ビルの中で何が起こっていたのか?を、生存者や関係者へのインタビュー、警察や消防の交信、メールや電話の記録によって明らかにしていく。
◆ビルの新築の時だけではなく、93年のテロ事件時にも、いったい関係者は何をしていたのか?航空機激突から2つのビル崩壊にいたる「102分」は、まぎれもない「人災」である。

(2005年9月/アメリカでは1月 文藝春秋 1800円)

梁石日(ヤン・ソギル) 『夜を賭けて』 ★★★★★ 

2005年12月02日(金) 12時37分
廃墟から鉄屑を盗み出せ!
◆1958年、大阪・京橋。今は「大阪ビジネスパーク」と呼ばれる一帯は、アジア最大の兵器工場跡だった。終戦前日の大空襲で壊滅した工場跡には、ゼニになる鉄屑が大量に埋もれていた。近くには「在日コリアン」の集落。ある日、ヨドギ婆さんが掘り出した鉄屑で大金を得たとの噂が…。若者・金義夫は仲間と工場跡に侵入して屑鉄を盗み出し、 「アパッチ族」と呼ばれる。だが、 国有財産を守る警察は警備を強化。「アパッチ族」と警察の激しい攻防戦が始まった…。
◆2005年に読んだ本の中で、間違いなく「ベスト1」である。94年に発表され、2002年には日韓合作で映画化されているというのに、今さら何を?と識者からは笑われそうだが、尊敬する先輩の薦めに従って読み始めて良かった。特に、逮捕され長崎の大村収容所に入れられた金義夫を、恋人・初子が身を捨てて追いかける展開は、手に汗!眼に涙!心は慟哭!であった。さあ、DVD買わなければ…。

(1994年/幻冬舎文庫 724円)

内田康夫 『風の盆幻想』 ★★★☆☆ 

2005年12月01日(木) 11時51分
愛した人と踊りませんか?
◆『風の盆』とは富山県八尾町(越中八尾)に江戸元禄時代から伝わる祭である。「おわら風の盆」とも言われ、二百十日の初秋の風が吹く頃、毎年9月1日から3日にかけて幻想的な踊りが町を流していく。かつて永六輔氏や櫻井よしこさんが虜になり、作家・五木寛之氏『風の柩』や高橋治氏『風の盆恋歌』で有名になった。私は八尾町の生まれなので、年に3日だけの「おわら」のために町人たちが情熱を傾ける姿を見て育った。今は観光拡大化されて「前夜祭」と称して1週間踊っているが、大阪は泉州の「だんじり祭」が2日間を守り通していることを思えば、少し残念な話である。哀愁かなでる胡弓の音色が、「あんたと添わなきゃシャバへ出た甲斐がない〜」という囃子が、色褪せていく感じ。
◆小説は八尾町の老舗旅館の若旦那の謎の死から始まる。内田作品は『箸墓幻想』も読んだが、簡単に人間が死ぬ。実在の人間が死んでいくので『箸墓幻想』では、某考古学研究所が告訴まで検討したと聞いた。しかし、『風の盆幻想』は、富山県人にも支持されるほど、実に祭の内面・裏側を取材している。愛し合いながらも絶たれた男女の仲を、詳細な取材と構成で描いていく。
◆「夢で逢えればそれでもいいと 伏せた笠の緒 オワラ 濡れている」。傑作であった。

(2005/09/25 幻冬舎 1600円)

東野圭吾 『容疑者Xの献身』 ★★★★☆ 

2005年11月30日(水) 20時07分
自己犠牲の愛って…
◆『秘密』、『白夜行』、『幻夜』と、東野作品には随分と涙させられたが、著者本人が「自分のベスト5に入る」と胸をはるだけあって、最後のシーンでは、しばらく声が出ないほどの衝撃を受けた。こういうのを「あざとい!」とか直木賞審査員は嫌うのだろう。天才数学者ながら、高校教師として働く主人公・石神の愛した女を守るために企てた完全犯罪。それを崩していく旧友・湯川。成就するはずのない「無償の愛」のために、著者は読者まで「トリックの世界」へ引きずり込んでいく。
◆ミステリーとしての骨格の中に、実は「純愛小説」のテイストを織り込んでいて、「ザッツ東野ワールド!」と敬服。後半1/3は、通勤電車の中で読んではいけない。特に、最後の10ページほどは…。

(2005/08/25 文芸春秋 1680円)

横山秀夫 『クライマーズ・ハイ』 ★★★★★ 

2005年11月29日(火) 12時58分
『直木賞』と訣別した男
横山秀夫氏の『半落ち』(平成14年9月・講談社刊)は、発表以来、ミステリー読者を中心に、全般的に高い評価を得てきました。2003年版『このミステリーがすごい!』国内編では第1位にも。しかし、第128回の直木賞選考会では、さほど高い点は得られず、「落ちに欠陥がある」とさえ言われ、受賞はなりませんでした。横山氏は、“自分の作品には、指摘されたような間違いはない”と主張。しかし直木賞側からの反応はまったくなく、同氏は、以後一切直木賞とは関わりを断つことを、2003年3月31日『上毛新聞』のインタビューで宣言しました。
『直木賞のすべて』より引用)
◆昔昔のこと。「芥川賞が欲しいよう」と懇願すれど叶わず、女と心中しちゃった大作家がいた。その後、賞獲りのためにゲイの選者に「オカマ」掘られそうになる『大いなる助走』(筒井康隆)という名作も生まれた。最近は少女達が赤裸々にセックスを描いて、突然受賞して話題になるが、『芥川賞』も『直木賞』も、出版社が潤うのが最大目的な訳で、私は落選した候補作から読むようにしている。
◆横山氏の作品群は、そんなみみっちい賞とは無縁。「役不足」ってやつだ。最新作『震度0』も読破したが、『半落ち』同様に予想外の展開に引き込まれていく。人間の描写に疑問を投げかける批判もあるが、巧みすぎるストーリー構築への単なる嫉妬に思える。
◆さて『クライマーズ・ハイ』は、「直木賞訣別宣言」の翌年2003年の作品。日本航空の「御巣鷹山事故」を題材に、地方新聞の人間関係、山男のロマンを見事に織り込んだ名作。もちろん、「訣別宣言」で開き直った横山氏の、伸び伸びとした筆致が人間描写に生きている。「この作家は、この作品書くために生まれてきた」と思わせる執念に圧倒された。あの大惨事には、私も似た立場で関わったが、地元マスコミの迫力には及ばない。さらに新聞社の内部抗争をも詳細に抉った筆力に拍手!

(2003/8・文芸春秋・1571円)
TVドラマ化!放送は12/10・17
NHKがドラマ化。放送は、12月10日と17日。いずれも土曜日の夜7時半〜8時45分。総合テレビ。主人公のデスクを演じるのは、佐藤浩市さん。

ほしよりこ 『きょうの猫村さん1』 ★★★☆☆ 

2005年11月28日(月) 0時25分
猫村さんを知っていますか?
2003年7月「@NetHome」のサイト
http://www.jp.home.com/で連載の「きょうの猫村さん」。毎日1コマ更新しており現在も更新中。ストーリーは現在も継続中。家政婦紹介所から新しいお屋敷へ派遣された(ホントの猫)猫村さんの屋敷の住人たちとの交流、時には事件アリ・・・ほのぼのしたキャラクターが幅広い年齢層に親しまれています。 とのPRに乗せられた訳ではないが、マガジンハウスやってくれるやん?って感じの、「超癒し系ネコ漫画」である。
◆愛猫家としては、猫が労働しているだけでも涙が出るのに、家政婦として派遣されて苦労する猫村さんの姿には、ただ敬服するのみ。しかも、猫村さんには「家族とはかくあるべき」との信念があって、妥協しない。反抗期の娘には手製の「ネコムライス」を強要し、ついにはワル仲間にまで食べさせてしまうのである。反抗するのはカルシウム不足と、「ネコムライス」には小魚や野菜が隠されていて、家政婦というより、腕利きのシェフ。大学教授の御主人も、整形美人の奥様も、猫村さんの料理を絶賛!
◆この漫画が支持される理由は、きっと、猫村さんの言動に託された作者のメッセージ。家族崩壊の現代に、ネコの家政婦が正論を唱える面白さかも?私が一番好きなシーンは、夫婦の会話の中で、妻が「あなた土日に乗るのはお馬だけかしら〜」なんて会話を背に、猫村さんが「娘さんは週末また孤独なんですね」と語るところです。ネコの方が前向きで、正直で、正しいのだった。
◆「ネコムライス」って何処かの喫茶店や食堂で出しません?読めば食べたくなる。↓

(2005/7刊・マガジンハウス・1143円)

奥田英朗 『サウスバウンド』 ★★★★☆ 

2005年11月27日(日) 15時58分
とんでもない親爺の物語
◆「青春親爺小説」のリーダー、直木賞作家・奥田英朗が贈る「受賞第1作」である。私がこの『サウスバウンド』を2005年の「今年読んだベスト3」に推薦するのは、同時代を生きて混迷の世相を見つめてきた、奥田の自由奔放な発想ゆえかも知れない。1959年生まれ(同じ年齢)の目線は、とんでもなく闘争的な父親世代に翻弄され、背中見つめて生きてきたつもりが超えられないし、真似さえできない息子の父への畏怖の念を、爽やかに描いていく。思い起こせば、直木賞受賞作『空中ブランコ』の主人公も、自分を癒すために悩める患者と対処する、とんでもない精神科医だった。
◆『サウスバウンド』は12歳の少年・二郎が主人公。前半の舞台は、東京の中野。政府も学校もいらないと主張する、かつて過激派だった父親に、振り回される二郎と家族の日々が面白い。後半、物語は一転。一家は沖縄の八重山地方に引っ越す。環境破壊を無視して巨大なリゾートホテル誘致に熱狂する島人と、反対派の市民グループの争いの中、一人独自の闘いを挑む父親の姿。私自身も、3年前に、八重山・西表島で「リゾートホテル反対闘争」に関わっていただけに、悩ましい離島が抱える問題を真正面からきちんと取材した姿勢に敬意を払いたい。

◆「こんな親爺、昔いたよな?」って、のが読後感。若者にとっては、「冒険ロマン」。親爺世代にとっては、自分達はこんな生き方忘れていないか?という「応援歌」。もちろん、「家族の絆」を読み取る読者もいるだろうが、荒唐無稽な展開さえ、読み手に魅力と思わせる。まさに「奥田マジック」の世界である。

(2005/6刊・角川書店・1700円)