First Step 

March 31 [Wed], 2010, 23:17
本館テキストサイト「さよならでいず」の離れというか習作置き場というか実際にはダストボックスみたいなところです。365Themeに挑戦しています。同一設定上で書かれているものがいくつかありますが(同一カテゴリ内にあるテキスト群は、数字が若いものから読むほうが話が通じます)、基本は流れぶった切り状態の導入も落ちも存在しないシーン抜粋テキストばかりです。

100題目までいった時点でストップしていたのを再開しては停止しての亀の歩み。ところどころ抜け落ちているのは目を背けたいほど恥ずかしい文章やら何やらです。ものによっては別のテキストを書いて補完する可能性もありますが、所詮は希望的観測に過ぎません。

基本は数字が若い順から進めていきます。いつ更新されるのかは誰にも分かりません。

水(No.105) 

March 23 [Tue], 2010, 18:46
 ひたひたと、満ちる。
 しずくがひとつ、ふたつ。落ちて、跳ねて、…響いて。
 いつか、満たされる。

灰(No.104) 

July 24 [Fri], 2009, 21:01
 人は死ねば本当に骨と灰になるのだ、とはっきり悟ったのは、あのときだった気がする。

声(No.103) 

July 18 [Sat], 2009, 17:13
 もういないひとを何とかしてここに留めておくための手段としてある記憶で、一番強く最後まで残るものは何なのだろう。
 顔か、握った手の強さか、触れたときの熱か、においか。それとも――声か。
 分からない。もう、ぜんぶ消えてしまった気がするから。

トランス(No.102) 

June 30 [Tue], 2009, 18:54
うっすらと薄まってゆく虹を追いかけながら、わたしの思考は空を疾る。
たとえばあの虹色のアーチを駆け上り助走して、もっとも高いところで足下を蹴れば宇宙まで届くのではないか。
まずは群れ飛ぶ鳥たちに別れを告げ、町並みも海も山もすべて眼下に小さく、ぐいぐい進むうちにジェット気流に煽られてきりもみ急降下、それでもめげず、今度は上昇気流を足がかりに、積乱雲の頂上へと到達する。飛び越せばそこはもう成層圏だ。ここからさらに上を目指す。もうすでに距離と高さは区別をなさない。高熱で燃え尽きそうな身体を振り絞り、重力を脱し、未練を振り切り、ついには巨大な月と対面する。
そしてわたしは太陽風に背を押され、遥か先をゆくパイオニアとボイジャーを追いかけるのだ。飛び石のように連なる惑星を飛び越え、彗星の揺りかごを掻き乱し、先達のように一度は地球を振り返り、けれどいずれはその故郷のあたたかさも忘れた、ヘリオポーズの向こうまで。

不意に目を貫いた照り返しの西日に、意識を引き戻された。
虹はもうほとんど消えていた。

風(No.101) 

June 15 [Mon], 2009, 20:57
 右手には流れる川を。左手には山とその裾野に広がる町を。
 そして視界を占める空、その青さが泣きたくてわたしは歩き出す。
 わたしが地面を蹴ると、地面が私を蹴り返す。
 空を目指してわたしが跳ぶと、地球がわたしを引き戻す。
 駆け抜けると、風が生まれる。負けないように走る。
 時々背中を押してくれる。それに突き動かされて、想いが、声が。
 飛び出すけれど。
「―――― !」
 後ろから風が追い掛けてきて追い抜いていって、言葉はどこにも届かなかった。
 誰にも響かなくていい。自分にも聞こえなくていい。

 そっと唇を開いて、流れてきた風を食む。
 なんだかすこし、甘い気がした。

記憶(No.99) 

April 14 [Fri], 2006, 11:13
「ここに、ね」
 自らの側頭部を人差し指でこツこツとやりながら、
「ずうっと残ってる景色があるの」
 水無月まゆかはつぶやいた。
 散り初めの白の桜の下。やわらかな晴れ日和。
「空は快晴で、強い風が吹いて。一気に桜の花びらが高く飛んで、それから雪のように舞い降りてきて。春の雪のような、青と白の景色」
 黙って聞いていた宮島夕菜も、今語られた光景に覚えがある気がして、ふといつか聞いた和歌を想い出した。
「我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも」
 息を継がずに夕菜は詠いきって、
「え?」
 今なんて言ったの、まゆかの目が問いかける。
「こっちは梅の花だけど。万葉集」
 それはかつての歌人が彼の邸宅で梅の宴を開いたときに詠まれた歌。人々にいちばん愛されていた花は、桜でなく梅だったその頃。
「花、散る…。天より雪の、流れ来るかも」
 まゆかは噛みしめるように和歌を繰り返し、
「そんな昔から、この景色はあったんだね」
 見上げるのは、風に吹き上げられた白い花びらが舞い降りてくる青い空。
「だからずっとここに、そしてここにも、残ってるんだね」
 そう笑って、両手を胸に当てると目を閉じた。

週末の過ごし方(No.98) 

March 27 [Mon], 2006, 16:11
たまには会えるといいね。
そう言い合って離れたくせに、結局半年もの間お互いの顔を見ることはなかった。
たまに休みがあっても、どちらかの都合が悪く、珍しく会う約束を取り付けてみたら親類の不幸が舞い込んできたりする始末。ええ、あのときはびびりました。大叔父さん、車にはねられてあたしを呼んでるっていうから慌てて駆けつけたのに、個室にどっかり陣取ってお見舞いのバナナ食べてた。いくら自分に子どもがいないからっていっても、あたしで遊ばないでください。結局、デートはおじゃん。
そんなふうに200日間一度も縮まらなかった、1000kmの距離。
ずーっとメールと電話だけでがまん。
しかもコンタクトを取るのって、いっつもあたしばっかり。
ごくはじめの頃から気付いていたけれど、彼はものすごく無精なひとだったのだ。
やればできるのに、やらない。
やればすごいのに、やらない。

このままだと自然消滅しちゃうんじゃないの、そんなふうに不安に思い始め、そうしたらものすごく珍しいことに、彼から連絡がきた。
『休み取れた』
メール、たったそれだけ。5文字。ひらがなにしても6文字。件名なし。携帯画面、1行も埋まらない。
嬉しいんだか悲しいんだか分からなくなった。
詳しく聞き出した結果分かったのは、来週末、まとまった休みがあるんだって。
しかもそこは、あたしも空いていた。
この機会を逃すまいと、あれこれ計画を頭の中で構築して、ちまちまメールのやりとり。贈って帰ってくる間だのタイムラグを使ってどうしようかを思案する。あたし長文、彼、1行。むっとするけど、まあ、会ったときにでも顔を合わせて文句を言えばいい。
「じゃあ、土曜日二時、××駅前のポルスで集合ね」
ひにちと時間とお気に入りの喫茶店の名前を打ち込んで、うきうきしながら返信を待った。
そうして、返ってきたメール。
『りょうかい』
……また5文字!(しかもひらがな!)

あたしの3連休と彼の3連休が、ここにきて初めて重なった。
ど・にち・げつ。
なんてことのない週末が、それだけで特別な3日間。
さて、どこに遊びに行こう──!


まあ、大叔父さんに知られないよう、ひっそり計画を進めなきゃ。
聞かれたら、面白がって邪魔されるに決まってるもの。

森(No.97) 

March 26 [Sun], 2006, 11:18
ふかふかの絨毯が敷き詰められた六畳間。
陽の光が差し込みやすいように作られているところ、とか。
そこかしこにある木のにおいとか。
そのくせ本に日が当たらないように棚が配され、きちんと整備された空調がここは確かに書斎なのだと訴えてくる。
生前の祖父が一切の他者を寄せ付けなかった場所。
彼がいなくなってからもこの聖域を踏みしだかれるのを嫌って、その最後に立ち入ることを許されたものはそうはいなかった。
ここは秘密基地だったのだろう。
あたかも大木の上に作られた小さな家のような。

いっぽいっぽをだいじに歩いて、書斎の中をゆっくり眺める。
まだ本を手に取るのは、何かに触れるのは、早い気がした。
空気さえ、本当は動かすのを躊躇った。

紙のにおいは木を由来にする。生木のそれよりもかさかさして、閉じこめられた時間のにおいがする。
古い本にはブックワームが棲んでいる。


まるで森林浴だ。
立ち込めるのはみどりではなく紙とインクのにおい、ふりそそぐのは、ひかりでなく。
もしかしたら、いくつもの世界だったのかも知れなかった。

たそがれ(No.96) 

December 21 [Wed], 2005, 0:18
隣の家の老婆が死んだ。