沈黙の騎士の花束を2

April 20 [Wed], 2011, 14:35
沈黙の騎士の花束を

  2


「ちょ……ルヒィド! どこまで行くの? 飴細工のお店過ぎちゃったよ!」

 私の手を引いているというのに、ぐいぐいと人ごみを掻き分け進んでいくルヒィド。彼が行くっていたお店はとっくの昔に過ぎ去って、でもルヒィドはそんなことに気づいてないように私を引っ張っていく。

 なんか、いるものルヒィドらしくない。
 おばちゃんが言っていたことのせい? でもそれがこんなに怒ることなの?

「ルヒィドってば!!」
「!!」

 私が声を荒げると、ルヒィドはようやく立ち止まった。怪訝そうに辺りを見回して……あれ? ここどこ? な顔してる……まさか自分でどこ歩いているのかわかってなかったの?

「ルヒィド?」
「すみません、何か……ミカ、大丈夫ですか?」
「いや、私は大丈夫だけど」

 ようやく一息つける。走っていたわけじゃないけど、男の人のペースをあわせるのはちょっと辛かった。自分でも気づかぬうちに肩が上がっている。ルヒィドはそれに気づいてもう一度謝ってきたけど……一体どうしちゃったんだろう?

「どうしたの? おばちゃんが何かした?」

 もしかして、私の見えないところでセクハラでも受けたのか!?(やりかねない、おばちゃんだ)と思ったが、苦笑する彼の顔はどうやら違うようだ……そのことちょっと安心した私。ルヒィドは無言で私の手をひっぱりながら再び歩き始める。

 私達は街の中でも高台にある、噴水のところまで来ていた。
 この辺りは貴族の人が住むので、一般の人たちはあまりやってこない。別に来てもいいらいんだけど……やっぱりね、身分があると気まずいらしい。でも貴族の人たちともなれば、こんなところで散歩とかもあまりしないらしく、貴族の住む区画であってもあまり人気もないところなのだ。
 ルヒィドは噴水の傍でようやく手を離してくれた。先ほどから困ったような顔をしてるのは何故だろう? 私はいつもなら、疲れた? 急に引っ張ってごめんね、とか言い出しそうな彼が何も言わず前を歩いているのが不思議でしょうがない。無言の彼の後をなんとなくついていきながら、ふと辺りを見回せばここにもルドウィカの花が風に吹かれて揺れていた。人が来ない場所でもちゃんとこの花があるところを見ると、華送りの祭りというのは余程重要なんだろう。そんなこと思いながら、ぼうっと揺れるルドウィカを見ていたときだった。

「ミカ」
「? なに?」
「私と結婚してくれないか」

 ……はい?
 そよそよとルドウィカが揺れる中、ルヒィドが何か言った。
 私はぼうっとした顔でそれを聞き……
 聞き……

「はぁ!?」

 驚愕した。



 何言ってるのこの人。
 彼氏いない暦20年、悲しくも付き合ったことのない私がこんなことを思っても仕方あるまい。
 別に男の子に興味がなかったわけではない。高校生ぐらいのとき、なんとなくいいな〜と思った子はいる。馬鹿騒ぎするとか、友達とかいうわけじゃなかったけど、隣の席になったときなんとなく話して、たまにくだらないことを話した男の子はいた。だけど告白とか、好きとかそういう気持ちになることはなくて、きっと向こうも同じだったんだろう……そう、ただのクラスメイト。私達はお互い気持ちを伝えることもなく(というか、相手はわからないけどね)大学に行ってそれっきり。

 ……んな、私と結婚!?
 ありえないでしょう!?

 私は百面相でもしてたのか、ルヒィドが困ったように笑い、そっと近づいてくると……な、なんと手を握ってきたぁ! なんか、両手で私の手を包み込むような……うわぁ!

「今すぐ答えは聞かないよ。びっくりさせてごめん。でも……華送りの祭りの日、答えをくれないかな?」

 私を見下ろすルヒィドの顔は、なんかすご〜く色気? なようなものがあって、私の心臓は鳴りっぱなしだった。もう頭の中はパニック状態で、頷き返したのはわかったんだけど……王宮の自分の部屋にいつ帰ってきたのか、全くわからなかった。

 ぷろぽーず……されたんだよねぇ。
 うひゃぁ!? と私はベットの上で転げまわる。
 もう恥ずかしくて、恥ずかしくて仕方がない!
 こんなところを誰かに見られたら……ものすごく怪しい人と思われたんだろうけど、運良く私は一人部屋だ。多少怪しいことをしていても見られる心配はない!(……って断言することでもないか)

 ……けど、少ししたらなんか頭の中、冷静になってきて。
 今更ながらに思った。

 私……ルヒィドのこと好きなの???

 彼が信頼できる人というのはわかる。傍にいてとっても安心できるし、頼りになる人。でも……なんだろう、彼のことは好きだけど……そういう好きとは違う気がするのよね。うん……高校生の時に感じたような、なんかくすぐったいような、ちょっと緊張するような感覚って感じたことがない……

 それは、ただ単に私が彼の気持ちに気付かなかったせいなのか……でもプロポーズとかされたから、私も意識し始めて、ちゃんと彼のこと好きになっていったりするんだろうか。

 ……よくわからないや。
 その晩、私はよく眠れなかった。いろんなこと、たくさん考えて考えて……でも答えがでることはなかったんだ。


◇◇◇

 あ〜なんか、だるい〜
 あれから三日。私は答えのでない問題に悩まされ続けていた。いや、真剣に考えるのはいいと思うのよ。うん、どっちにしろ答えはださなきゃいけないんだし。でも……あれからルヒィドと会うと、どういう態度をとったらいいのかわからない。

 彼も自分の言葉が私を悩ませているって知っている。
 困ったような顔をしながら、でも私に触れる態度は以前と違ってしまった。

 さりげなく手を引いたり。
 さりげなく体が近かったり。
 さりげなく色気があったり!?

 な、なんか妹から恋人へと変わったような態度なんだよ!鈍い、恋愛度ゼロな私でもはっきりわかるぐらい!(……だから周りも気づいてるんだよねぇ……やたら生温かい目で見られる) 
 シャードリックのにやにや笑いなんて、むかつくしっ!

「はぁぁ……」

 思わずついたため息は、そよ風の中に消えていった。最近の私のお気に入りはここ、王宮の庭園だ。そう、シャードリックと初めてあったあの庭。シャードリックはこの庭を気に入っていて、休む時間があるとよく来る場所らしい。そのために彼がいる時間は別として、特に出入り禁止でもないのに人は滅多に近づかない。最近人の目がきになってばかりの私が息抜きできる、ちょうどよい場所だ。

「あ〜空が青いなぁ」

 行儀悪くもやわらかい草の上に転がって、青い空を眺めた。違う世界なのに、空はどこも一緒なんだなぁと改めて思いながら。やわらかい風がとっても気持ちいい。地球でいえば、春らしい陽気だ。

みゃぁ〜

 ん?
 そんな私の耳に届いた小さな泣き声。おやっと思い起き上がれば、空耳ではないらしい、もう一度声が聞こえてきた。

「猫?」

 声の甘さから、まだ子猫だろうか? 私は静かに声の聞こえる方へと近づいて行った。なるべく静かに近づいたのは、子猫が驚いて逃げないように。もし怪我とかしてたら手当してあげたいし。

 だけどそこで見たのは意外な光景。

「っ……こら、待て、逃げるなっ」

 地面に屈んだ大きな背中。何やら悪戦苦闘している声の主は……エルデスさんだった。
 いつもぱりっと上にあがっている前髪には木の葉がたくさんついていて、しかもぐちゃぐちゃだ。彼の前にいるのは、予想通り白黒のぶちの入った子猫。後ろ脚には包帯が巻かれていたけど、ちょっと取れかかっている。どうやらエルデスさんはそれを治そうとしているようだけど……

 意外とすばやく、警戒心の強い子猫を捕まえられず、彼の手はあっちゃこっちゃと空を切っている。
 ……あ、転んだ。しかも顎から。

 なぜか子猫が得意そうに、彼の頭にあがって勝利の雄叫びをあげる。
 顔を土まみれにして、よくみれば頬に三本の引っかき傷。恨めしそうに自分の頭を見上げるエルデスさんに……

「ぶぶっ」
「っ!? 誰だっ!! ……ミカ?」 
「ご、ごめんなさいっ……ぶ、ぶぶぶ〜〜〜」

 笑っちゃだめだってわかってるけど、笑いが止まらないっ!
 だって、あのエルデスさんがだよ!? 騎士の鏡ってぐらいにいつもぴしっとしているエルデスさんが、こ、子猫を頭に乗せて泥だらけなんて〜〜

 みゃぁ?
 一人お腹を抱えて笑う私に、子猫が首を傾げている。エルデスさんもあっけにとられているように私を見て……でも自分の状況にようやく気付いたのか。

 顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
 
 へ!?
 思わず硬直してしまった私から、彼は思いっきり顔をそむける。
 なんか……自分の醜態をさらしてしまい、声もでないというありさまのようだけど……な、なんかすごい意外! というか、普段の彼からはありえない!

「た、頼む!」
「え? は!?」

 いつの間にか子猫の後ろ首をつかんでいたエルデスさんは、私に子猫を押しつけ、思いっきりダッシュでいなくなってしまった。というか、逃げて行った。

「……」
「……」

 私と子猫はそれを見送り……顔を見合わせた。



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