新聞などでは、毎日のように沖縄の米軍普天間基地の移設先がどこになるのか、が話題になっている。「キャンプ・シュワブ陸上プラス徳之島移転案」、「勝連沖埋め立て案」、そして「グアム」。しかし移設先として名前が挙がったところではどこでも、「米軍基地はいらない」という声が高まっている。
これまで「米軍基地移転受け入れ」ではないかと思われてきたグアムでも、いま進められようとしている「米軍増強計画(military buildup)」に対して反対・再考の声が高くなっている 。〇九年一一月二一日に米軍増強に関する環境影響評価書(EIS)の素案(以下、EIS素案) が発表され、これまで曖昧にされてきた米軍増強計画の中身がかなりはっきりしてきたことが、その最大の理由である。米軍増強計画は大きく、一)沖縄から八六〇〇人の海兵隊とその家族九〇〇〇人を移転し、あわせて海兵隊の訓練機能・飛行場機能・沿岸機能も移転する、A)原子力空母寄港のための埠頭建設などアプラ海軍基地の拡大、B)陸軍対空・ミサイル防衛部隊の配備、に分けることができる。これを二〇一四年までに実現しようというのだから、グアム住民にとっては大問題である。
一万ページを超えるこの膨大なEIS素案に対するパブリック・コメントの期間が三カ月しかなかったことも、グアムの人たちを怒らせた。グアム住民の声など無視してもいいという米国政府の態度が、そこにはっきり示されているからだ。
私は二月一四日から二五日にかけて、ピープルズ・プラン研究所の山口響さんとグアムでいろいろな人たちの声を聞き、議論をしてきた。そして、今グアムで起こっている動きを、米軍基地見直しを求める「島ぐるみ」のたたかいと言ってもいいのではないか、という印象をもった。グアムでの新しい動きを紹介したい。
「環境影響評価」素案への意見表明
私たちがグアムを訪れた二月中旬は、米軍基地増強をめぐって、グアム社会全体が大きく動いている時期だった。
二月一一日には日本の政府・与党の沖縄基地問題検討委員会のメンバー(国民新党の下地幹夫や社民党の阿部知子など)が、「グアムを普天間基地の受け入れ先に」という社民党の提案が実現可能かどうかを調べるためにグアムを訪れ、州知事やグアム議会の議員たちと話し合った。日本の議員は「普天間基地の移設先」としてのグアムしか念頭になかったようだが、グアム側が問題にしているのはグアムにおける米軍増強計画全体であり、2009年に2月に日米が結んだ「グアム移転協定」によって、日本政府がこの計画にかかる資金の60%近くを負担することになっている。この米軍増強計画だけでも受け入れがたいのに、それに加えて普天間基地の移設を打診するという日本側の態度は、グアム側にとっては論外ということである。
二月一七日は、「EIS素案」に対するパブリック・コメントの締め切りだった。この締め切りを視野に入れ、グアム議会は、満場一致で「EIS素案に対する所感」を決議した。この決議はかなり強いトーンでグアム住民の意向を無視した軍事増強計画への不快感を示している。
「米国における最も小さいコミュニティの一つで、米国史上最も大規模な平時における米軍増強強化が計画されているが、このように過大な軍事的負担を強いるのであればグアムの市民コミュニティのことをもっと深く真剣に考慮しなければならない」。
二月一五日には、一一月に任期を終えるフェリックス・カマーチョ知事が、任期中最後の「グアム島一般教書演説」を行なった。カマーチョ知事は、日米グアム協定が結ばれた一ヶ月後に「米軍幹部、グアム議会議員、経済界代表など二一人からなるタスクフォース」 を召集したことに示されるように、米軍増強を歓迎し、グアム島の住民に向かっても米軍増強を支持することを訴えてきた。しかし、この日の演説では「EIS素案」を批判し、このままでは「EIS素案」を受け入れられないと明言している。
カマーチョ知事が問題にしているのは、一)米軍増強にともなう「痛み」を軽減するための社会整備資金を米国政府がはっきり示していない、二)2014年までに米軍増強を終えるという期間が短すぎる、三)実弾射撃場の設置とアプラ海軍基地の浚渫工事の見直し、である。とくに、三)の実弾射撃場の設置にともなって提案されている「グアム先祖土地委員会」と「チャモロ土地トラスト委員会」が所有する土地の強制収用については、支持しないことを明言している 。
翌二月一六日には、グアム島選出の米連邦下院議員(ただし投票権はない)マデーレン・ボダーリョが議会報告を行なった 。彼女も米軍増強はグアムの経済を好転させるとして、米軍誘致を積極的に行なってきた一人である 。しかし、この報告で彼女も「EIS素案」に対する批判をはっきり述べた。米軍増強によってグアム住民が再び土地を奪うわれることに反対だとし、「現在の基地内で米軍増強を行なうべきだ」と言う。そして、射撃訓練場の建設と原子力空母入港のための浚渫工事によるサンゴ礁破壊を見直すこと、グアム住民の社会・経済的な改善について全面的に書き換えることを求めたのである。
もちろん、ここに挙げたグアムの政治家たちの発言が全て米軍増強に反対するものだとは言えない。州知事や下院議員が米軍増強受け入れという姿勢を変えていないことも明らかだ。とはいえ、全ての政治家が、米海軍省が提案した米軍増強計画に対して今のままでは受け入れられないという立場を示し、米国中央政府にグアム住民の声を突き付けたことの意味はきわめて大きい。
グアムの軍事化に反対する新しい動き
このように、州議会・知事・地元選出下院議員がこぞって、米国政府(正確には米海軍省グアム統合計画開発室)の作った「EIS素案」を支持しないという声を挙げるのは、先に述べたように、この米軍増強計画がグアム住民を無視して進んでいることへの強い反発からだ。グアム住民を無視しているのは米国政府だけではない、米国の言いなりになって米軍増強計画に資金提供する日本政府も同じである。
グアム島は、沖縄本島の半分ほどの面積に一七万人が住む小さな島である。そこに八六〇〇人の海兵隊員とその家族九〇〇〇人など最大で八万人が新たにやってくる、日本と米国が合計で一〇二・七億ドル(約一兆円)の資金を投入する。こんな大改造計画にもかかわらず、住民の暮らしや大事にしてきた文化、グアムの重要な産業である観光業に与える影響は全く考慮しないで「環境影響評価」素案がつくられた。この案をつくったのはハワイにある合弁コンサル業者「AHLセティアデ・グシケン」社である。
米連邦環境保護局(EPA)も、現行の計画のままでの実施は認められないと、素案に「落第点」をつけた。その理由として、急激な人口増を予想しているにもかかわらず、上下水道整備計画が不十分で住民の健康に大きな被害が予想されること、アプラ港の浚渫工事によってサンゴ礁による生態系が破壊されることなどをあげている。ずさんな計画だと言ってもいいだろう。
このまま米軍増強が進んでいけば、自分たちの暮らしや文化、自然環境が破壊されると考え、多くのグアム住民が声をあげ始めている。グアムに投じられる巨額の資金が米軍基地の機能増強と米兵の住宅環境の改善などだけに使われ、「フェンスの内」(米軍基地)と「フェンスの外」(グアム社会)の格差がさらに広がることも、米軍増強への反感を募らせる理由となっている。
住民の多くが米軍基地のことに関心をもちさまざまな声をあげるようになったのは、「今までになかったことだ」と、多くの人が話してくれた。この新しい動きの中心にいるのは、これまでグアム島の軍事化に反対してきた「チャモロ・ネーション」のような先住チャモロ人の組織というよりも、グアムの環境や経済に関心をもつ若い世代だ。
その中心となって積極的動いているのは、グアム大学の教員や学生などを中心にした「We Are Guahan 私たちはグアハン」(http://weareguahan.com/)というグループだ。このグループは、「EIS素案」の問題点をわかりやすく説明するリーフレットを作ったり(何しろ一万ページ以上もあるのだから、それに目を通すのは容易なことではない)、グアムを訪問する予定になっているオバマ大統領に「グアムの声を聞く」よう求める署名を集めたりしている。学生を対象に、強制収用の対象となる場所や浚渫工事で破壊されるかもしれないサンゴ礁へのエコ・ツアーを行なっている。
これは、確かに新しい動きだ。しかし、このグループが自分たちの名称を米国の占領にともなって付けられた「グアム」ではなく、島の本来の呼び名である「グアハン=私たちは・持つ」と付けたことが示すように、自分たちの「島」が植民地とされている歴史を強く意識していることも明らかだ。一八九八年の米国によるグアム占領と同時に米海軍の基地が設置されてからすでに一〇〇年、今もグアム島の三〇%近くを米軍が保有している。一九四四年八月に、米軍が日本からグアムを「解放」してから、そのまま接収(強奪)した土地である。「EIS素案」を検証することは、米国によるグアム侵略・占領・再占領という歴史をもう一度見直すことにつながっている、という印象を私はもった。
「We Are Guahan 私たちはグアハン」は、「チャモロ人の自決権」を掲げた運動ではない。しかし、若い世代が中心となった運動の背景には長い間「脱植民地化」と「自決権」を訴えてきた先住チャモロ民族のたたかいの歴史がある。グアムにおける米軍増強の問題は、先住民族の権利の問題でもある。
米軍増強計画に対して、日本政府はすでに二〇〇九年度に約三五三億円を出し、二〇一〇年度予算では約四六八億円を計上している。二〇一一年度からは、国際協力銀行による融資(米軍住宅建設)も計画されている。グアムは日本が四年近く占領し、殺りくと破壊を行なった島である。それに対する補償も賠償も、グアムが「アメリカ領」だということで一切行われていない。にもかかわらず今度は、その島を再び軍事化するために日本の公的資金が大量に投入される。
何より先ず、この歪んだ関係を正す必要がある。そのためには、まず米軍増強計画への資金提供をストップすることだ。環境影響評価も認められていない計画に資金を出す理由はどこにもない。そして国連の先住民族権利宣言に賛成している政府として、この宣言が先住民族の土地における非軍事化(第三〇条)をはっきり謳っていることを真面目に考えるべきである。グアム島は国連が脱植民地化を進めるべきとした植民地の一つでありチャモロ民族の自決権・先住権の尊重こそが、いま日本政府がすべきことなのである。。
「島ぐるみ」で、「米軍基地見直し」の声をあげているグアムと「米軍基地はいらない」という声をあげている沖縄。米軍基地を押し付けられた二つの先住民族の島の動きは、米軍基地はどこかに移転するのではなく、閉鎖し、その土地を住民に返還すべきであることを伝えている。