鍵穴の向こうで [ 最終 

February 22 [Sun], 2009, 16:52
俺はすこし老けた。

時間はかかったが、俺の大切な人が無事返してもらえて嬉しく思う。


少年はあの日
刃物を突きつけた俺なんかに対して
仏のような優しさを用いて
俺を正しい道に送り帰してくれた。

もし、今
犯罪でもなんでもなりふり構わずに片っ端から手を染めて
金をかき集め、大切な人を助け出しても
俺は一生後悔していただろう。


だが
少年のおかげで、俺は永遠のヒーローになれたんだ。

どうしてお礼を言わずして生きていけるだろう。


俺は目的地に着いた。
五年もの月日が経ったのに
俺はよく道のりを覚えていられたなあ。
一人で苦笑してみる。


深呼吸をして
あの日のように震える指でインターホンを鳴らす。

間の抜けた音。

玄関に取り付けられた小さな機械から男の声がした。


「どちら様ですか」

俺は名前を名乗った。
でも、少年に自分の名前を告げていないことを思い出した。


「えっと…お宅の息子さんは御在宅ですか…?」

「はい。」

「お話したいことがあるのですが…」

「なぜですか?」


俺は冷ややかに対処してくる男に早く帰れと言われているようで
手汗でぬめる拳をしっかり握った。


「五年前に助けていただいたことがあったので、感謝の意を伝えに来たのです。」

「…。」

「…どうかしましたか?」

「五年前のことなんか、息子が覚えていると思いますか…?
…それに、息子は人を助けるような善人ではないと思いますが…」

「そんなことはありません!!」


俺が声を荒げたせいか、男は黙った。
だけど、少年を悪く言うなんて今の俺には許せなかった。


「少年のおかげで、俺は犯罪に手を染めずに
大切な人を取り戻す事ができたのです!!
彼は俺の恩人なのです!!」


俺は言い切って
しまった と思った。
言い過ぎた。
変人に見られて少年との再会を却下されたらどうしよう…

俺は謝罪の言葉を並べようとした
その時


「本気で会いに来るとは、微塵も予想していませんでしたがね」


男が呟いた。
少年の口調にそっくりだった。


「え…」

「あと、感謝されるなんて面倒なこと
僕は御免被ります」

「し…少年?」

「久しぶりですね」

「声が低く…」

「成長期ですので」

「あ…あれから俺は…」


少年…とは言い難い声の持ち主は少し鼻で笑った。

俺はいろんな言いたい事が有りすぎて喉がつまってしまった。


その時、玄関が開いて
背が伸び、随分大人びた少年が出てきた。
記憶のままのクールな表情が俺を見る。


「まあ、入ったらどうです?
お茶くらいは入れますけど」


俺は夢中で頷いて
彼の後に続いた。



end

鍵穴の向こうで Z 

January 27 [Tue], 2009, 22:18

僕は玄関の覗き穴に顔を近づけた。

不安に満ちたお兄さんの顔が見えた。

僕は溜め息を一つ、つく。
玄関近くで吐いた息は白い水蒸気に成った。


散らかしたままのお茶を片付けてゆっくりしていると
インターホンの間抜けな音が
薄暗い家に響いた。

僕は機械を覗き込む。
予想通り、インターホンに向かってお兄さんが
僕が対話しだすのを待っていた。

電話の受話器ようなインターホンの機械を取る。

「何か?」

「えっ…待っているんだが、
もしかして…何か用事ができたのかい?」


僕は、お兄さんが僕を微塵も疑っていないことに呆れた。

「今更ですが、見ず知らずの赤の他人に、わざわざ僕の時間を裂くのもどうかと思いましてね。
僕はお兄さんの大事な人を助けに行くのをやめます。」


勿論真っ赤な嘘だ。
そりゃあ退屈で仕方なくって
こんな展開を心待ちにしていた訳だが、僕は危ない橋は渡らない主義だから、しょうがない。


お兄さんは僕の言葉に首を傾げた。

「やめます…って、さっきまであんなに乗り気だったのにか…?
…あ、もしかして外の空気にあたって体調を崩してしまったのかい?」

僕は、僕の説明のひとかけらも理解できていないお兄さんに呆れた。

「所詮お兄さんは見ず知らずの強盗ですから、僕は手助けをする理由がありません。わかってください。」


インターホンに映った寒そうなお兄さんは、さらに首の角度を小さくした。

「赤の他人…?一緒にお茶した仲じゃないのか?」

「でもお兄さんは強盗でしょう?」

「そうだけど…」


僕は、諦めてくださいと言い切って、インターホンの回線を切ろうとした。

「ちょ、待ってくれ!」

僕は明らかに怪訝な顔をした。
こちら側の画像がインターホンを通じてお兄さんに見えなくて
良かったのか…むしろ見てほしいのか…

「行きませんよ」

「そうじゃなくて、俺は君と話が弾むと思うんだ!」


僕は頭上にクエスチョンマークを浮かべた。

今、僕の機嫌を取って、少しでも考え直させようとしているのだろうか…?

もしそうだとしても、しなくても
僕はご機嫌の取り方を間違えているお兄さんを見据えた。

脳をフル回転させて、僕とお兄さんとの会話が弾んだ過去がなかったことを確認した。


「それで?」

お兄さんは幼子のように瞳を輝かせた。

「また話に来ていいかな!?」


僕は
自首してからお願いします
と、ぶっきらぼうに返事をして回線を切った。


暇は、潰せたかな…

僕は
先程までお茶をしていたり
僕の首筋にナイフをあてていたり
かなり年下の僕の前で号泣していたり
初めて顔を合わせた時の真っ青なお兄さんの表情を思い出した。


ストーブの前に丸まって寝転ぶと、
再び熱気に包まれる。

僕はまどろんでいた意識を手放した。


鍵穴の向こうで Y 

January 02 [Fri], 2009, 20:45
俺は少年が注意するまで泣いているのに気付けなかった。

大切なあの人の顔が頭から離れなくて
頭が痛くなって、もうしょうがなかった。

少年は今まで見せていた
氷のような鋭い目をふっと和らげた。

「僕は只の学生、
僕の親から僕を見てみればそれはそれは子供でしょう…
なので、僕に金銭関係の取引を任せるのは間違えています」

俺は少年の顔を見れなかった。
静かに説教を続ける少年の言葉が全て余さず俺の心臓を貫いていた。

そんな俺の涙に濡れた顔を
びっくりするくらい冷たい指先がスッと持ちあげる。

「…ですが、僕だからこそできる事もあります」


俺は視界がぼやけて少年の顔が見えなくなってしまった。

少年は飲みかけのぬるくなったお茶を片付けずに
椅子を引いて俺の手をとった。

「さあ、行きましょう」

俺は何も言えなくてただ顔をくしゃくしゃにして頷くしかできなかった。


玄関のドアを開く。

少年と一緒に外に出てから、少年は思い出したようにぶるりと体を震わせた。
上着を取ってきますねと言い残して家に帰った。

もう夜も近くて、家着のままでは寒いのは当たり前だった。


…だが、少年はしばらくしても出てこなかった。

俺は首を傾げてドアノブを握った。
鍵がかかっていた。

どうしたんだろう…?

鍵穴の向こうで X 

December 13 [Sat], 2008, 16:50
僕はお兄さんがウケ狙いで話しているのか疑問まで抱き始めていた。

「自分を傷つける事への躊躇い…?」

そんな大層なこと聞く位なら、
なぜお兄さんは刃物を突きつけて金を盗もうかと考えていたのですか?

僕の真剣さが無意識に敬語として現れる。
お兄さんはそれに気づいているのだろうか。

お兄さんは泣きそうな顔を静かに伏せた。

「追われているんだ…」

夕方になっても電気を付けない僕の習慣のせいで薄暗いリビングの中、
お兄さんの顔に差した影がいっそう濃く感じる。

「つまり…お兄さんは自分が助かりたいが故に
僕や、家にいた他人を殺そうかと思ったんだね。」

お兄さんは
誤解だ!と叫んだ。
ベランダの向こうでカラスがやかましく鳴る。

僕は静かにするように、と
口元に人差し指を立てて促した。

すると、
お兄さんは今にも消え入りそうなか細い声で言った。

「大切な人が…捕まっているんだ…。」

「だから、お兄さんは代わりとして、運のなかった大切じゃない他人を殺そうと考えていたわけだ。」

僕は
そんなのは身勝手だと思うね、と呟いて
残っている麦茶を飲み干した。


子供達の騒ぎ声が聞こえなくなって
騒いでいたカラスも巣に帰ったようだ

リビングには夕焼けの落としたオレンジの光が床を濡らす


何分黙っていただろうか。
僕とお兄さんはしばらくお互いに口を閉ざしていたようだ。

「その現金の用意にはタイムリミットがあるのですね?」

お兄さんはしたたかに驚いた。
なぜそれを…と言う
「考えれば手に取るように理解できる。
お兄さんのようなお人好しがこんな強行突破の道を選ぶなんて、
ゆっくり普通に金を貯める時間さえも与えられていないんでしょうに」

僕が呆れた声を出すと、お兄さんは黙りこくった。

何とか返事をしたらどうなんですか?

僕がお兄さんの顔を覗き込むと
お兄さんはこれ以上ないほど情けない顔をして
目にいっぱいの涙を溜めていた。

鍵穴の向こうで W 

December 12 [Fri], 2008, 23:58
パン と乾いた音がした。
俺のビンタによって少し頬を赤くした少年は
とても残念そうに、それでいて俺を睨むように視線を戻した。

「なんのマネですか?」

凍ってしまいそうな視線は蜷局を巻く蛇のそれに酷似していた。

「えっと…つい…」

俺は、すまない…
と呟いて首をうなだれた。

俺は悪い事をしていない気がしたけど
少年に面と向かって胸を張れる度胸がなかった。

「でも…、君は俺に対して気を抜いてはいけないと思うし
自分で自分を傷つけてはならない
…と思う…」

少年はそこまで聞くと、ふっと笑って
お茶を入れてきますと再び言いながら
背中を見せずに
明かりをつけていない台所の闇に消えていった。

俺は自分の右手を見た。
誰かを叩いたのは久しぶりだ…。


目の前に麦茶の入ったコップが現れる
少年が俺と向かい合うように座り
「どうぞ」
と言った。

俺は少年が楽しそうにしているのを見て
背中に冷や汗が垂れるのを感じた。

空気が重いので、とりあえず目の前の麦茶に口をつける

すると、少年は笑みを浮かべたまま
唇を尖らせてブッブーと言った。

「お兄さん、自分で僕に気を抜くなとか言ったくせに
僕の出したお茶を軽々しく飲むんだね」

俺は小さくお茶を吹いた。
少年は笑いながら小さく
汚い…と呟いた

少年を見ると、つまらなさそうな顔をして

「入ってないよ」

と言った。


少年もお茶を一口飲んだ。
その拍子に、彼が自らを傷つけた指先からコップへと血が付着する。

俺はなんだか耐えられなくて
ついつい訪ねてしまった。

「自らを傷つけることに躊躇いを感じないのか…?」

少年は切れ長の目をすっと細くして
怪しげな笑みを浮かべた。


鍵穴の向こうで V 

December 09 [Tue], 2008, 22:20
僕が彼に話し掛けると、彼は面白い程にびくりと体を跳ね上がらせた。

僕は笑ってしまうのを堪える。

しかし、世界が終わったとでも言うような顔をした彼は
僕と見つめ合うだけでなかなか次の行動をとらない。

パニックに陥っているらしい。

僕は
どうしても名前を言うのが嫌なら何しに来たのか教えてよ
と交渉した。

無反応。
僕はつまらなくなった。

「お兄さん、さっきから何もしゃべらないけれど、大丈夫?」

僕が立ち上がって彼に近寄ると、
彼は青ざめたり土色になったりして顔の色をコロコロ変えていた。

手を伸ばすと、彼はポケットから急いで刃物を取り出し
近寄るな!と叫んだ。

僕は可笑しくて仕方なくなり、
クスクス笑った。

「なる程…
それで、お兄さんは僕の家に何かを盗みに来たのか、誰かを殺しに来たのか
どっち?」

僕はガタガタ震える僕よりも一回りも年上そうな男を見上げた

男は震える唇で
お金…と小さく呟いた。

僕は納得して、今まで味わったことがないほどの好奇心をくすぐられた。

ダイニングテーブルの真ん中辺りの椅子を引きながら
まあ、座ってよ
と促す。

彼はオロオロして、顔中で不安な表情を広げて、
心配気に大人しく椅子に腰掛けた。


「お茶を入れてきます」

僕が背を向けた時、お兄さんは焦ったように話し掛けてきた。

「通報…しないのかい?」

僕は呆れて彼を見た。

「お兄さんはなんだか普通の悪者の斜め上を行っているみたいだから
話しを聞いてから考えようかと思ってね」

僕は再び背を向けた。

すると、背後から先程の刃物が僕の首筋に延びてきた

「まだ何か用が?」

顔だけ向けると
お兄さんはちょっと怒ったような顔をしていた。

「自分を殺すかもしれない人間に背を向けるんじゃない」


僕は彼の矛盾に腹筋が爆発しそうになって
刃物から静かに体を離した。

お兄さんに向き合うと、僕は自ら刃物で指先を切った。

つぷりと赤い雫が垂れて、僕は笑った


「こんな事に恐れるようじゃ、僕は自分に幻滅するよ」


言い終わると、
左頬に衝撃が走り
ぱん と小気味よい音が響いた。

お兄さんが眉間にシワを寄せていた
僕はたたかれたようだ。


鍵穴の向こうで U 

December 06 [Sat], 2008, 23:01
俺はしばらく躊躇った。

だが、俺は生きたい。

何が何でも生きたい。
俺は自分を勇気づけるように
大丈夫…と呟く。

震える指でインターホンを鳴らした。

間の抜けた音がドアの向こう側で響くのが聞こえる。

しばらくして、誰も出てこないことを理解した。
つい安堵のため息を漏らす。

一応確認のため…ともう一度押す。
やはり誰も居ないようだ。

俺はポケットに無造作につっこんでいた道具を取り出した。金属のそれは、俺が自分で作った物だ。
俺は周りに人が居ないことを確認して
鍵穴に道具を差し込んだ。
一定の道具を繰り返すと、カチャリと音がした。

俺はうるさいくらいにバクバク音をならす心臓を意識して
自分が悪い事をしているんだなぁと確信した。


薄暗い玄関に靴を持って入る。

他人の家に上がり込む時の癖か、俺はなぜか
お邪魔しまーす…
と呟いた。


泥棒をしようと思ったのは初めてだ。

でも、俺はもう引けない…



俺はとりあえずリビングに足を運んだ。
ギシギシ音を立てるフローリングを歩き
リビングを見て
俺は愕然とした。
なぜなら計画外の現実がそこにあったからだ。

人がいた。
顔の整った少年だった。
ストーブの前で猫のように背を丸めて寝息を立てていた。


足がガクガク震えた。
なぜか真っ白になった俺の脳みそは
俺に「帰らなきゃ」と早口で告げていた。

俺は寝ている少年に背を向けず、後ろ歩きのまま下がろうとした。



「…誰?」

もう声変わりした少々低めの声がほんのり暖かなリビングに響いて

俺は多分世界中で一番ヘタレな生物になっていた。


鍵穴の向こうで 

December 05 [Fri], 2008, 19:31
やっと待ちわびた冬休み。

学生の僕は社会人の家族より一足先に家で羽を伸ばしていた。

家族は年明けギリギリまで帰ってこない。
ずっと一人きり。


僕はこれからのずっと暇を持て余す自分を想像した。
せめて僕に趣味があったら…
いや、それよりも兄弟がいたら…
そもそも僕に友達がいたら…

僕はそこまで考えて考えるのを止めた


ストーブの前で寝返りをうつと、遮られていた熱気が顔に当たった。


白く曇る窓の外
ふわふわした雪が降っている。

僕は瞼を閉じた。


廃墟からの空 

November 25 [Tue], 2008, 22:33

烏が居なくなって、僕は身の震えを感じた。
僕の寂しがり屋と泣き虫は何時までたっても治らないなあ…

僕は素足で
烏といた精神世界の廃墟をさまよい歩く。

僕は空を仰いだ。

鴉が二、三羽
弧を描くように飛んでいた。

僕は、この廃墟で
誰かのために物語を産み出すよ。

灰色の空は
僕をやんわり見下ろした。

烏の飛んだ日 

November 16 [Sun], 2008, 22:44
「烏。」

僕がそう呼び止める。
烏は頭上にクェスチョンマークを浮かべて僕を見た。

烏は驚きのために口をあんぐり開けて、片手でそれを覆った。

僕の髪がばっさりなくなっていたからである。

烏は名残惜しそうに毛先を触るが、
僕が似合わないかな…と呟くと慌てて首を振った。

僕は安堵のため息を洩らす。


最近は烏とも別々に行動していて、
だからか、何故かお互いに気を使ってしまう事がある。

でも、まあ、それはそれで良い。


僕はまた一人に帰るけど、

忘れないで。


僕は本能的に感じていた。

烏にそっと忍び寄り、囁く。

「烏って名前、僕がつけたよね。」

烏は頷く。

「理由、聞いたことないよね」


カラスってさ、雑食なんだよ。
生ゴミは漁るし、なんでも啄む。
死体にもよく群がるんだ。

それに、烏は全身ありとあらゆるところが真っ黒でしょう。古来から魔の関連つけられて
人間に忌み嫌われてたんだ。


烏は不思議そうに頷く。


僕が烏を産んだ時、僕は中学二年生で、今まで味わったことのないほどの
世界からの疎外感と苦しみを受けていた。

今思えば、そんなたいしたことのない生活だったのだけれど、
まだ小学生気分の幼稚な僕には荷が重すぎる出来事があった。

だれか都合よく
この僕を苦しめる相手を殺してきてくれるヒーローが飛んできたら良いのに。
そんな想像をしているときが一番楽しかった。

だから、誰より残虐で妄想の時だけでも僕の見方になってくれる者を作り上げたんだ。

その者は僕のイライラを全て食べてくれるし、
僕が嫌な相手に直接手を出さなくても
喜んで殺しを働き、変わりに皆から嫌われる役目を背負ってくれる。

そんな存在として産まれたんだ。


烏は両目を大きく見開いていた。
僕は続ける。


もう一つ由来があってね、
カラスを漢字変換すると鴉と烏があるんだけれど、

僕は鴉に野生の鳥としてのイメージを受けたんだ。

一方、烏は魔術的なイメージを受けた。


目の前の烏は僕の話の流れについていけないようでまばたきの回数を増やす。


「つまりね、もう烏は、僕の希望していた存在理由をなくしているんだよ。
だからきっと
もうこれから一生僕の希望する烏としては一緒にいられないんだ。

すると、烏は鴉になってしまうことなんだ。」


僕の影の存在は一人で生きてみてしまった。

烏は、もう一人で飛べるんだよ。

僕は窓を開け放した。


僕の希望する姿を失いきって、死んでしまう前に…
さよならだよ。

烏は嫌々と首を振った。
僕はなんだか悲しくなって涙をながした。

「お願い…」

僕は絞り出すようなかすれた声で叫ぶ。

烏はふっと、諦めたようにうなだれた。
僕が抱き締めると、烏は鴉になっていた。
漆黒の翼が羽ばたく。


鴉は振り返りもせず、透き通るような水色の空に飛んでいった。

君と築いた生活はこれから空っぽになって寂しくなるね。

消えゆく君を見詰める。
また僕はいつか大人になって君といた生活を懐かしむだろうか。


烏。

短い間だったけれど
僕と一緒にいてくれて有難う…

ずっと大好きだよ。


僕は声を上げて泣いた。


P R
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