【5】怒涛編

April 10 [Sun], 2011, 15:23

「オナくんはね、どう思ってるか知らないけどね、私はね、心配で心配なんだからね・・」


テニスのラケットを小脇にかかえ、彼女が早足で、ついて来ていた。


「今日、部活あるんとちゃうん?ええんか?」

俺は、戸惑いながらも答えた。

「一緒に帰るもん」
少しスネたように、彼女が言った。


俺の近くにいては、圧倒的に危険なのである。
だから、俺は先に、帰ろうとしていた。

一週間もすると、風の噂で、例の事件の話は、あっという間に、学内中に広がった。
しかも、尾びれをつけて、拡大拡散されていくのである。

そして、とうとう中三の先輩達までもが、奴らと、イザコザを起こしてしまったのだ。

俺が予想していた以上に、事態は悪化していた。


自責の念を感じつつ、この一週間を過ごした。
そんな状況の中で、彼女と一緒に、手を繋いで、呑気に帰れるはずがないのだ。


正直、他人がカツアゲされようが、俺は、知ったこっちゃねぇ。
俺のせいでもあるが、それほどの正義感が、俺にはなかった。

但し、奴らが、彼女に何かすれば、それは絶対にただ事じゃ許さない。
そう思うと、しだいに本格的に怒りが、こみあげてきた。
俺は、そんな事を考え続けていた。

俺の後ろを小走りで、ひょこひょこと、ついてくる彼女を見ていると、
「部活に戻れ」っとは、強く言えなかった。
とりあえず、家まで送ってやろうと思った。

そして、正門を出ようとした時・・・
門柵の近くにいた同級生の堂山が、俺を見つけ、目で合図を送ってきた。

(ヤ・・バ・・イ・・にげろ!)

瞬時に、やつらだと身体で感じた。

俺は、彼女の手を、ギュッと握った。

彼女は、「まぁ」と素っ頓狂な声だした。
状況が全くわかっていなかったのだろう。

彼女の手を強くひいて、校舎の方に走り出した。

「ど、どうしたん・・なおくん・・なおくん・・痛い・・」

驚き、目が顔の真ん中で、まん丸になっていた。


「ごめん!とりあえず、こっちへ走れ!」


そして、俺は言葉を続けた。
「問題発生や、普通に部活して、友達と普通に家に帰るんやぞ。夜電話するからな」
彼女は、くしゃしくゃになり、今にも泣きそうな顔をしていた。

一瞬にして、二年から三年まで、血気盛んな奴らが、飛び出してきた。
校内は、ざわざわと激しく、うごめきだした。

正門前の曲がり角には、「原型をとどめてないほど改造したバイクにまたがった男」
後ろに5人ぐらいの灰色の制服をきた奴らが、立っていた。

たった6人で、乗り込んできたのだ。

三年の副番長格の西田が、
「スギタはどこにおんねん?とりあえず、オマエ、出て行くなよ、隠れとけ」
と俺に向かって、面倒くさそうに言った。

(うるせぇ・・おまえに何ができるんや・・)
とりあえず、自分が行けば、話がつくんや。

その時、校舎の中に、バリバリバリっと、爆音が、響き渡った。

奴らの一人が、改造したバイクで、正門から校内に乗り込んできたのだ。
アクセルをふかし、けたたましいマフラー音を鳴らしながら。

もちろん、生活指導の先生達も、飛び出してきた。

「なんだ、おまえらぁ!」


そんな事には、お構いなく、特攻野郎は、ゆっくりと、バイクをスラロームをえがきながら、
あざ笑うかのように、奇声を発しながら、校内を走り抜けた。

そして、前輪を浮かし、アクセルをふかし、爆音を立てて、去っていった。

もうこれで、決定的である。


しばらくして、三年の今中に、呼び出された。
近くの公園と神社の間にある、陽のあたらない小さな空き地があった。
荒くれ風の生徒が20人ぐらいいた。


「あのよぉ、実は、スギタさんに、話をつけてもらったんや」
面倒くさそうに、三年の今中は、言った。
ベンチに座りながら、視線は下に落としたままだ。

「スギタさん」と言うのは、この俺の同級生のスギタの「兄貴」である。
この頃は、もうすでに卒業して、高校生であったが、頼りになる存在だった。
弟のスギタとは、大違いである。

「おまえら、相手悪いわ。とりあえず、全面戦争を避けて、何人かでのガチになった」
ひどく、重々しく、今中はゆっくりと、言葉を吐いた。

全面戦争なんて、まるでヤクザの世界である。
俺には、どこが他人ごとの様に思えた。
自分が中心人物であることは間違いはないのに。

「三年から三人、二年からも三人、もちろんおまえもやぞ」

下からゆっくりとこすり付けるように、今中は、俺の顔を睨んだ。


「わかってます。最初にで出たらぁ。あのクソガキっ」


俺は、なかばヤククソだった。
「どうなってもいいや」とさえ思っていたのだ。

徒党を組んで、何か事を成すのは、嫌いだったが、もうそんな事は、どうでもよかった。
ガチでも、なんでもやったろうやないけ。

そういえば、ここに、スギタの姿が見えなかった。

どうも、腹痛を起こし、便所で戦っているらしかった。
あいつには、あいつの闘いがあるのだろう。

三年からは、

今中(番長格)
西田(副番長格)しかしこれは自称だ。
この西田と言うのは、俺が一年の時、最初にケンカした奴だ。
そして、原田。スギタの柔道部の先輩。

二年からは、もちろん、俺とスギタと千の三人。

当日は、スギタの兄貴やら、相手側も、OBが来るらしい。
そのOBと、スギタの兄貴が、柔道の道場でのツレだったらしい。


何故こんな事態に陥ったのか?


それは、もちろん、俺のせいでもある


しかし、話を戻せば、俺じゃなく、「千」のせいでもあるのだ。

あの日、俺はいつものように、スギタと、近くのゲーセンに行った。
スギタがパクったチャリで、インベーダーゲームをやりに。
そこに、千が、やってきたのである。

「レコードを買いに行くから、ついてきてくれ」
ふてぶてしく、千が言った。

ゲーセンの近くに、「ワルツ堂」というレコード屋があった。
「おまえ、何言うてんねん、それぐらい自分で行けや。すぐそこやろ」
インベーダゲームの画面に熱中しながら、吐き捨てるように、スギタが言った。

「わかってるわ、違うんじゃ、よしえちゃんのレコードに、ポスターが付いてへんのじゃ!」

千は、偉そうに言ったが、そこには、なんの説得力も存在しない。

奴が言うには、柏原芳恵の『花梨』というシングルレコードを購入すると、
先着で、特典で「サイン入りポスター」がもらえると言う。
しかし、ワルツ堂では、ポスターは付いてなかったのだ。

だから、隣町のレコード屋まで行くから、俺達に、ついて来いと言うのだ。
サインと言っても、所詮は、印刷なのだ。

「なんで、そんな軟弱なものに、付きあわなあかんねん。行かへんぞ」
俺も、ふてぶてしく言った。

「大雅で、しょうゆラーメン大盛りオゴるから」

俺の心は、あっけないほど、簡単に折れた。


結局、隣町のレコード屋にもなかった。

「千、それ誰に聞いた情報やねん」

スギタが少し口をゆがめながら言った。

「明星に書いてたんじゃ」
わざと潰したような太い声で、千が言った。

この無鉄砲な荒くれ風なデカイ野郎が、自分の部屋で、こっそりと、明星を読んでいた。
その姿を連想するだけで、恐ろしすぎて、俺は、何も言うことができなかった。

今の言葉は、まるで、「聞かなかった事」にした。

同様に、スギタまでもが、そう感じ取っていたのだろう。
あのスギタが、「へぇ〜明星かぁ〜」としか言わなかったのである。


結局、隣町どころか、東住吉を越え、西成まで来てしまった。


この頃には、なんとか、千に、よしえちゃんをプレゼントしてやろうという気持ちが芽生えていた。
ここまで足を運び、ここが危険な場所である事は、わかっていながら。

結局、念願のポスターは見つからなかった。
「当然やと思うけど、ポスターなかっても、ラーメンは、おごってくれるんやろなぁ」
俺にとって、それが一番の重要課題であった。

ここは、俺の実家がある岸和田と雰囲気が似ていたが、どこか異質な空気が流れていた。

今で言う二番館らしき、映画館があった。
そして、その前で、数人の集まりが、大きな声を荒げていた。

それは、見て瞬間に把握できた。
誰かが、不良に絡まれていたのである。

二人のカップルらしき中学生が、数人の灰色の学生服に囲まれていた。
(あぁ〜こんなとこ映画観にくるからや)

「おいっ、おの絡まれてる奴、中島ちゃうんか?」

よく見たら、ほんと同級生の中島だった。
口だけの奴で、キザな野郎で、俺の一番嫌いなタイプだった。
いつも弱い奴ばかりを相手に、吠えていた。

となると、隣の女の子は、誰だ?妹?彼女?
よく見ると、名前は、知らないが、俺と同じ同級生だった。

「あいつ、一組の坂口や。あいつら付き合ってたんか!」
スギタが、目を丸くしていた。

それでも、俺は、関わらないでおこうと思った。

自業自得である。
彼女がいるなら、オマエが守れや。

「おい、どうするよ、助けるんか?」
珍しく、スギタから、言い出した。

「ほっとけ!ほっとけ!」
捨てるように、俺は言葉を吐いた。


中島は、奴らに囲まれ、小突かれても下を向いたままだった。
となりで彼女も肩を落とし、小さく泣きそうになっていた。

(やっぱり、可哀相か。。)

「あっ、あいつ財布、渡しよった・・」
とうとう、彼女の前で、中島は、カツアゲされてしまったのである。
最悪である。

一人が、彼女のポーチをひっぱり始めた。
そして、嫌がる彼女のスカートを勢いよく、バサッとまくりあげた。

この辺が、俺の限界である。

「てめぇー、もうええやろー」
しかし、声を出したのは、俺でなく、千だった。

俺は、チャリのカゴに入っていた「週刊チャンピオン」を掴むと、
思いっきり、奴らの方に投げつけた。
どうせ、スギタがどこかで、拾ってきたものだろう。

届かなかったが、充分に奴らの目をひいた。

「おまえらなんや、調子こいてんか。ヒーロー気取りか」

ペシャンコな帽子をかぶった背の高い一人が言った。

まるで、柄の悪そうなゴロツキ気取りである。


スギタが、小声で呟いた。
「あぁ・・やべっ。。あいつら、金中やぞ・・」

そんな事は、先に言って欲しかった。
もう時すでに遅かりし・・。

俺と千は、奴らに向かって歩き出した。
途中どこかで合流した同級生の大川は、緊張して固まっている。

「もぉ〜、どうなっても知らんぞぉー」

ふんぎりをつけたスギタも後に続いてきた。

案の定、言い合いから、俺が先に手を出してしまったのである。

いつもの事である。

わかりきった結果だ。

ペシャンコ帽子の中の薄情そうにすこし光ってみえる目を、油断なく俺は、見つめながら、
まず、こいつの顔面に、渾身の力をたきつけてやろうと思ったのだ。

その後は、千やスギタも交じってのの乱闘戦である。

実際の話、スギタは、俺や千よりも強い。
強いはずである。
ものの見事に、相手をコンクリートに投げつけた。

一人は逃げて、誰かを呼びに行ったうだが、まぁこれで済んだであろう。

中島が、申し訳無さそうに近づいてきた。、
そして「ありがとう」と呟いた。

よっぽど、強く言ってやろうかと思ったが、奴の落胆した顔をみると、
なんだか可哀相に思えてきて、俺は、何も言わなかった。

後味の悪い結末だった。


「あーー!ヤベぇ〜!!」

千が、叫んだ声の方を見ると、灰色の学生服が、大量増殖していたのだ。

低い唸り声をあげて、こっちに向かってきているのである。
十数人どころの騒ぎじゃない。

「彼女連れて、逃げろ!どこか、店入って、夜まで、じっとしとれ」

それだけを中島に、伝えた。

そして、俺達も、逃げた。
追われる犬のように、町の中を走りぬけた。

元はと言えば、「よしえちゃんポスター」が原因なのである。

とは言え、自分の決着は、自分で決める。

ここで逃げて、そういう思いをずっと怯えのように、引きずって生きていくのだけは、嫌だった。


この頃の俺は、真っ直ぐにしか、生きていけない不器用な男だった。


つづく
P R
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  • アイコン画像 趣味:
    ・趣味-知らない町をふらつく
    ・食べ物-かなり大食漢
    ・音楽-歌うし、弾きます
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