ためらい電話

October 13 [Sun], 2013, 12:55
お互いの身体を確かめ合った次の日、職場で彼に偶然会った。
「お疲れ様です」と挨拶した。うん、昨日のことなんてないみたい。まだ普通に接することができてる。
そう思ったけど、彼がふっと照れたように笑うから台無し。私まで恥ずかしくなってしまった。

「何・・・・?」思わず、ため口っぽくなる口調。
「いや、別に・・・・・・」そう答えた彼だけど、顔に手を当てて表情を隠すようににやにや笑っていた。
お互いに昨日のことを思い出してるのは明らか。
何か、ウブな恋人同士みたいな感じに、可愛い気持ちが溢れる。

―その夜送ったメールでも、彼からは、昨日のことを思い出して照れてるような返事が来た。
やっぱり、可愛い人。


その日以降、しばらく彼に会えない日が続いた。
事務所に行ったときに顔を見ることはあったけど、1番奥のデスクにいる彼に話しかけるのは、用事がないとき以外は何だか憚られる。
郵便を届けに行くときは、彼の可愛い耳だけ見てにやにやしながら戻ったり。そんな感じ。

それから、彼は出張に行ったりして忙しい日を過ごし、私も急な職場環境の変化があって思いがけず慌ただしくなる。
そうして彼に会えない日が募り募って、また不安の影が濃くなっていった。
やっぱり、次いつ会うのとか・・・・・決めとけばよかったな。
彼が戻ってくるであろう日を見越して、「出張お疲れ様でした」とメールを送ってみたけれど、返信はなかった。
「行ってらっしゃい」のメールも送ったから、しつこいと思われたかな・・・・・。
本当は送るの迷ったんだけど、彼を心配してることだけでも伝えたくて、送ったんだけどな・・・・・。

寂しくなって、もう失恋しちゃったかも・・・・・とも思ってしまう。
あの日、私たちは確かに抱きしめあったはずなのに・・・・・あれは夢だったの?
私のこと、気に入らなかったのかな?嫌われちゃったのかな・・・・・・・。
ついつい後ろ向きなことばかり考えてばかり。

そんな塞ぎ込んだ気持ちだったけど、会社の飲み会と大学時代の友達との再会があって少なからずは癒された。
他拠点は平和そうでいいな。向かいに座った30代の先輩が優しくて、気遣ってくれて、ずっと話してくれて嬉しかった。その部署のイケメンの課長はやっぱり笑顔がまぶしいな。
大学時代の友達は相変わらずのノリで。私が今の状況を説明したときは、全力で止めてくれた。「不倫なんてやめときな。最後までなんていかない方がいいよ。」って。みんなが負の気持ちを吹き飛ばすような言葉をくれて、思い切り笑うことができた。
ありがとう。みんな、引かないでいてくれて、こんな話を聞いてくれて。
でも・・・・・ごめんね。今度彼に会ったら(その前にそんな機会がまたあるかどうか分からないけど)・・・・・私は、きっと止められない。彼に全てをあげてしまいそう。こんな弱い私でも・・・・・・友達でいてくれる?ごめんね。

この大学時代の女子会の時、母から電話が来たから、駅まで迎えに来てって話してたら、場が凍りついた(笑)
「まさか不倫相手から・・・!?」って。いやいや、まだ不倫じゃないし。電話来ないし。

みんなに心配されちゃったことが、ほろ酔いの私には何故か嬉しい。
何かもう、今日は気分がいいな。彼のことなんか忘れちゃいそう。
電車で帰って、母に家まで車で乗せてもらいながらそう思った。

母の急な電話は、iphoneの使い方教えてくれっていうやつで。
私もiphoneじゃないから、使い方なんか知らないんですけど。とりあえず説明書手にいじってみるけど、もう夜遅いわ酔って頭回らないわで、全然うまくいかない。
もー・・・・こんなの自分でやってよー・・・・。
面倒と思いつつも、操作していると・・・・ぱっと私の携帯の電話の着信音が鳴った。
でも、それはすぐに切れてしまい・・・・・・。
気になって画面を見てみると、表示される――――彼の名前。

え?何?ワンギリ?間違い電話?
間違えたなら間違えたで、切れちゃったなら切れちゃったで何かしらまた連絡があるはず。
そう思ってしばらく待ってみたけど、何も来ず・・・・・。

もー・・・何なの?

そうしてはいけないのは分かってる。これが彼の手だってことは、もうとっくに気づいてた。
それでも私は・・・・・・・通話の画面を押していた。
まるで彼の思い通りに操られているように・・・・・・・・・・・・・・。

母には、「彼氏から。ちょっとごめん。」とごまかし、1番会話が聞こえにくいであろうお風呂場に移動し、電話をかけてみる。
ドキドキして、呼び出し音を聞く。―間違いならそれでもいい。「そっか、おやすみなさい。」とすぐに切ってしまえばいい。少しでも声が聴けるなら。

「もしもし・・・・」
しばらく間があり、耳に入り込む彼の低い声。
「あ・・・・・もしもし・・・・・・。」やっぱり間違い電話だったのかな?こんな夜中にかけちゃって迷惑だったかな・・・・。
そんな気まずさもあったけど、とにかく聞いてみた。
「さっき、電話かかってきたと思ったんですけど、どうしました?・・・・間違い電話?」
「――――・・・・」
彼がぼそぼそと何か答える。だけど、電波のせいか滑舌のせいなのか、それははっきり聞こえなかった。
「え?何?間違い電話?」
「・・・違う。ためらい電話。」
「へ・・・・・?ためらい・・・・?」―ためらい電話?何じゃそりゃ?

「いや、話したかったんだけど、もう夜遅いから迷惑かなと思って・・・。」
電話したいなら、素直にそう言ってかけてきてくれればいいのに。
彼らしい、ひねくれた行動に呆れた様な何だかほっとしたような気持ちになる。
「大丈夫ですよ(笑)まだ起きてましたから。というか、今帰ってきたところだし。」
「あれ?どこか行ってたの?」
「うん。大学の時の友達と飲んでて。」
そうして少し会話をすると、彼もどうやら今日は飲み会だったみたいで。
あの出張の後、職場のみんなと飲むことになったんだって。

久しぶりに彼と交わす会話に、やっぱり彼を好きだという気持ちが溢れ出してくるのを感じた。
すぐそばに母がいることもあって、何となく落ち着かなかったから、はらはらしながら話さなきゃならなかったのが少し残念だったけど。
本当は会いたいけど・・・・・たぶん、無理だな。
いつも、彼と電話で話すと何やかんやで会う流れになるから、少しは期待してみるけど、やっぱりだめみたい。
「もう夜遅いし、お酒飲んじゃったから。」って、断られてしまう。
うー・・・・私も飲んじゃったしね・・・・・・。
「もー、何で飲んできちゃったの。」と、逆に私が拗ねられる始末。
何それ〜・・・・・。理不尽〜・・・・。でも、彼も私に会いたいと思ってくれてるのかな?って思うと、ちょっと嬉しかったりして。

そうして会う会わないの押し問答をして、今日は声を聴くだけでいいと、しばらく他愛ない話をした後、私はふと思いついて言ってみた。
「じゃあ、電話切る前に、私がよく眠れるような一言を言って!」
「えー・・・・・?そんなこと言われても、思いつかないよ。」予想通り、彼からは困ったような返事が返ってきた。
彼がそういうの得意じゃないことは分かってる。だけど、どうしても何か言わせたくて、意地悪しちゃう。
「どうせ他の人にはいっぱい言ってきたんでしょ〜?」
「言わないよ、そんなこと・・・・・・・。」
彼は、しばらくもごもごした挙句、
「じゃあ、よく眠れるかは分からないけど・・・・今度、一緒に飲もうね。」と言った。
何それ?口説き文句でもなんでもないな(笑)まぁ、許してやるか。
「え〜?いつ?」「うーん・・・・・冬。」
「本当?じゃあ、おしゃれする!だって私まだ可愛くしたところ見せたことないもん。会うと大体すっぴんだし部屋着だしさ。」
「それでも全然いいよ。でも、まぁ・・・・・そしたら俺も、それなりの格好していくよ。」
わ・・・・彼のいい恰好、私も見てみたいな。いつも私服オシャレだもんね。絶対かっこいいと思う!
全然確定のない約束なのに、何だかドキドキしてしまう。気が向いたら、デート・・・してくれるといいな。

最後に、「おやすみ」の代わりに言いたい言葉があった。
「じゃあ・・・・今日は、電話ありがとう。・・・・・・・・・好き。」
恥ずかしいのを堪えて言ってみると、
「〜〜〜〜〜〜〜」
電話口で、何だかむにゃむにゃ言うのが聞こえた。
てっきりまた「何言ってんだ」って照れて濁してるのかな?と思って、聞き返す。
「え?何・・・・・?」
すると、さっきよりもはっきりとした口調で彼が答えた。
「俺、も。」

「えっ・・・・・・・!?」予想外(いや、もしかしたら半分は予測してたのかもしれないけど)の返事にびっくり。
私の『好き』に対して、『俺も』って・・・・・・・嘘、彼が?私を好きって?そう言ってくれてるの????

酔った勢いもあってか、ますます舞い上がってしまう。

「きゃー・・・・・><今の一言が1番よく眠れるっっ//」「そ、それはよかった・・・・」
「じゃ・・・おやすみなさい//」「おやすみ・・・(笑)」

電話を切っても、まだ胸がきゅんきゅんしていた。

今までの彼は、私が半分言わせようとしなければ、そんなことは言ってくれなかった。
「そんなこと俺の口からは言えない。」とか言ってたのに。

酔って電話してくるのは、その人が恋しいから。酔ってるときは本性が出る。・・・・よくそう言うけど・・・・・。
彼が電話してきてくれた。好きと言ってくれた。
彼がちょっとだけ素直になってきてる気がして・・・・。私のことを、前よりも気にしてくれてる気がして・・・・・。

ちょっと前までは彼のことなんか忘れたいって思ってたのに・・・・・
忘れるどころか、想いがますます強くなってしまった。





恋人ごっこ。

October 10 [Thu], 2013, 20:55

愛なんか知らない。

October 07 [Mon], 2013, 22:41
私が今の会社に入って、4月から密かに憧れてて、ここ最近ずっと恋してた彼は・・・・・
一見クールでぶっきらぼうで怖そう・・・。でも口を開くとマイペースでお茶目な言動が面白くて、実は照れ屋さんで、「かっこいい」って褒められると「俺の顔見えてる?」とか言って動揺してて、モテたりしなさそうで、女の人に慣れてないような感じで、可愛い人。

だけど、今目の前にいるこの人は違う。

可愛くて、愛しいと思ってた人じゃない。

浮気者で遊び人でヤリたいだけの変態・・・・・そんな最低男だと思った。
もし本当に私を大切にしたいと思ってるんなら・・・・
私の気持ちを受け入れて、誰にも内緒で付き合うか、家族や職場でのことも考えてやっぱりその好意には応えられないと私をはっきり振るのか・・・・・・・・・普通なら、そうするよね。
それなのにこの人は・・・・・・・・平気で、セフレとして付き合うならいいとか言う。私の気持ちに誠実じゃない、失礼な男。

「1つだけ約束して。・・・・俺のこと、嫌いにならないでほしい。」

ここまでぶっちゃけておいて、そんな条件を出すところがまた、ずるくてヒドい。


――昨年、初めて彼と会ったときのことを思い出してみる。一目彼を見たときに感じたドキドキ。あれを今でも忘れない。
事務所で会った時も彼を見るといつもドキドキしてたから・・・・ずっと、これは「恋」のときめきなんだと思ってた。
だからこそ、彼に惹かれていって・・・いつの間にか、止められないところまで来てしまったけど・・・・
もしかしたら、本当は、あれは私の心が発する「危険信号」だったのかもしれない。
「この人に近づいたら危ない。きっと不幸になる」・・・・そういう忠告。

正直言って、幻滅した。本当はあの日、酔った勢いで色々してしまった後もちらっと頭を掠めてたこと。
この人は最低な人。本気で愛してもいない女にキスをしておきながら肝心なことは何も言わない。・・・・見損なったの。

それなのに・・・・・・

私は彼を、しばらくは嫌いになれそうもなかった。

それは別に、彼とあんな約束をしてしまったからではない。

彼が醸し出す気怠げで独特の色気、彼と同世代の他のオジサンとは違う、すらっとした立ち振る舞い、低くぶっきらぼうで、それでいてどこか甘えたような声色、大人の余裕とそれに相反する激しく勢い任せの行為・・・・・・・・・・・・その全てが、彼の今までのそんな最低な行動によって作られたものだと分かったから。

危険な男ほど惚れてしまう・・・・・・・・・そんなの女子中高生にありがちな、くだらない勘違いだと思ってた。
なのに私は今、その状態に嵌ってる。

ふいに、肩の力が抜けていくようだった。

そうして開き直って、素の自分を前面にさらけ出した。
それまでの私は、彼に気に入られようと少しはぶりっこしていた気がする。
彼にはいつも可愛い私を見ていてほしかったから。健気で一途で素直な女の子を多少なりとも演じていた。

だけど今の彼を見て、何だかそれは無意味だったんだと気づかされてしまった。

だからもう・・・・可愛く素直な私をやめる。
本当の私はそうじゃない。口が悪くて、男好き、派手な服が好き、気が強くて負けず嫌い・・・・・そんな女なの。
これからは彼の前でだって自由気ままに振る舞う、そう決めた。
好き勝手にやって何が悪いの?って・・・・。

彼は、意外にも私のそんな態度に引かなかった。
むしろ、素を剥き出しにした私に、「この前から思ってたけど、正直な態度でいてくれたから心を許せる」そう言ってくれた。

そうしてまた、あの日のように私を抱きしめてくれた。

彼の腕の中でうっとりと目を閉じる私を見て、彼は言った。
「オジサンを手玉にとって・・・・・本当に、悪い女だよ。」

悪いのはどっち?あなたの方こそ、何も知らない小娘をたぶらかそうとしてる、悪い男・・・・・。
そう言おうと思ったけど、何だか私の方が優位に立ってると錯覚させるような彼の言葉が嬉しくて、ふふっと笑うだけにしておいた。

・・・・・・・次は、自然とキスをしていた。

―彼のキスは、優しくて苦い味。

さりげなくふっと唇で唇に触れ、やがてそっと舌を絡ませてくる。それも激しすぎず、舌先でなぞって弄ぶような感じ。
キスしてるの?と実感がないくらいにも思えて、淡泊ともとれるけど、私は勢い任せにびちゃびちゃされるのは好きじゃないから、(元彼がそうだった・・・・)、彼の押しつけがましくないキスが好き。

疲れて、もういいよってなるようなのじゃない。「もっとして」と自然にせがんでしまうような、敢えて物足りないように感じさせるキス。(それが彼の作戦なのかもしれないけど・・・・)
それをされると、背筋がぞくぞくして、気持ちいい。
苦いのは・・・・彼がいつも煙草を吸うせいかもしれない。それとも加齢臭?
でも、それも大人のキスの味って感じがして、背徳感があって痺れる。

この前は、例え好きな人とはいえオジサンとするキスに違和感が拭えなかったんだけど・・・・・ともかく総じて、今は彼とするキスが好きになり始めていた。


肝心な話・・・・・・・・・またうやむやになっちゃったけど・・・・・・・・今は、それでもいいか・・・・・・・
もう少し、彼の腕の中にいたい。キスをしていたい・・・・・・・・・・


このまま彼がもたらした最低な選択肢への手を取り、堕落の道に落ちてしまいそうな自分が怖くもあり・・・・・・

それでも、そんな人の道を踏み外した選択も悪くない、むしろ気持ちいい・・・・・・・・そう思い始める、病んでクレイジーな心が勝っていると、とっくに気づいていた。



深夜の逢瀬

October 06 [Sun], 2013, 0:42
彼のことは考えない。

そう決めた10月の3連休は、生ぬるく穏やかに過ぎて行った。

それでも少し重い足取りで次の日、出勤。・・・・・・火曜日が朝礼じゃなくてよかった。
その日、仕事も割と溜まってた私は、忙しくて彼のことを考えてる所でもなく、社内で彼に会うことなく帰ることができた。

何だ、大丈夫じゃん。

ちょっと、そう思えた。こうして穏やかにやり過ごせればいいのに・・・・・・・。

今日は、眠いから早く寝ようかな・・・・・・・・・・・・・なんて・・・・・・・・・・

そう思ってたのに・・・・・・その夜。

「あれから色々考えた。話したいことがあります。今日、電話してもいい?」

・・・・・・・・・彼から、突然のメール。心が凍りついた。

「待ってます。」と返信したものの・・・・・・・・・嫌なドキドキがして、もう眠るどころじゃない。
部屋を暗くして、彼から連絡があるまで転寝しようと布団に潜り込んでも、一向に寝付けない。

彼は、何を言ってくるつもりなんだろう・・・・・・・・・・
やっぱり、別れ話・・・・・・・・・・・・・・・?
もう終わりにしたいって?連絡はとらないどこうって?会うのはやめようって?
そんなマイナスな言葉しか想像できなくて、パニックで心臓がバクバクする。

怖い・・・・・・・・怖い・・・・・・・・・・・・・・・

彼の気持ちは聞きたい。話もしたい。電話が早く欲しい。

でも、やっぱり電話、来ないで・・・・・・・・。怖いの・・・・・・・・・・・・・・・・

焦って、セツナに思わずメールする。

すると、「大丈夫!?怖いね・・・・;」と、すぐに心配の返信。

大丈夫、私には話を聞いてくれる人がいる・・・・・・・・

そう思うと少しほっとして、彼からの電話を待つ間、セツナとメールをやりとりした。
「怖いよ・・・・・。遅くなるって言ってたし、電話まだ来ないし・・・・・。」
―「ていうか、こんな夜遅くに電話なんて非常識じゃない?やっぱサイテー!」
「ねぇ、何で彼、会ってくれないんだと思う?もう顔も見たくないのかな・・・・・」
―「会うとまた理性がおかしくなるから電話で済ませようとしてるんじゃない?」

はっきりと、でも1番彼の本心に近いようなことを言うセツナ。何だかだんだん、彼の手の内が透けて見えた様な気がして、急に呆れたような開き直ったような、そんな気持ちが生まれてくる。

「理性て・・・・なんかバカバカしくなっちゃった。オッサンのくせに何言ってんだか・・・・」
「もー、明日嫌なこと言われたら、会社でビンタはっちゃおうかな〜(笑」
そんな強気発言も連発。

そう、その意気だ。
弱気になってばかりいられない。はっきり強く出なきゃ!そんな風に背中を押してもらえたようだった。

そして・・・・・・深夜0:00。
ようやく、彼から電話が来る。―遅いよ・・・・・。

彼は飲み会帰りだったみたい。
「この前のことなんだけど・・・・・・」と切り出し、ぼそぼそと話し始める。
内容までは全部覚えていない。でも、断片的に「罪悪感が・・・」とか「ジレンマが・・・」とか言ってるのが聞き取れて、彼の今のどっちつかずな気持ちをうだうだ聞かされてる感じ。・・・・・そんな電話だったことは覚えてる。
あんな深刻な感じのメールを送ってきたくせに、そんな内容のない話を語ってくる彼に、心底イライラした。

「は?何言ってるか全然分かんないんですけど。結局何が言いたいの?」

ちょっとけんか腰になってそう言ってみる。

「いや、何が言いたいってほどじゃないんだけど・・・・・」彼はまたもごもごとそう答える。

「というか、仮にもこれからの大事な話なのに電話でするのはどうかと思います。会って話すべきじゃないですか?」
「そんな大事な話ってわけでも・・・・ないんだけどね。」―またそうやってごまかす・・・・・・。
「だめです。やっぱり会いましょう!!今どこですか?」本気でイライラして、はっきりとそう言ってみた。
私の勢いに、電話じゃ収まりがつかないと思ったのか、彼は「30分だけ・・・」と言いつつ、会うのを了承してくれて、
この前のコンビニまで彼を呼びつけることに成功した。

コンビニに車を停めて待っていると、まだスーツ姿の彼が現れる。

彼を助手席に乗せ、とりあえず話ができる場所へ・・と、近くをぐるぐる。
始め、まだ帰ったばっかりでシャワーも浴びてないと言っていた彼に、「家に来てシャワー浴びる?」と誘ってみると、「ダメ。それは絶対ダメ!!」と断固拒否されてしまった・・・・。やっぱり理性かよ・・・・って(笑)
ようやく、その近くの広い公園の駐車場に車を停めた。

そこまで来て、ようやく高ぶってた気持ちが少し収まって、冷静に彼に謝る余裕ができた。

「あの・・・・・夜遅くに、呼び出してごめんなさい。・・・・・電話だと、ケンカ腰になっちゃって・・・・・変なこと言ってすみませんでした。」

ここまで来ちゃって後悔しだす私だけど、彼は嫌な顔はせず、「ケンカは嫌いなんだよな〜」と苦笑いして許してくれた。

そうして、電話では聞き取れなかった彼の話を改めて聞く。

『家族も大事にしたいし、私のことも大事と思ってる、どっちも大切だからこそ罪悪感があって、このままじゃよくないと思ってるけど、私のことは可愛いと思ってるし、傷つけたくないから難しいと思ってる。』
・・・・・・彼のぐだぐだな話を短く略すと、こんな感じ。

うう・・・・やっぱり何が言いたいのか全然わからない。
もう!!はっきり言ってほしいのに!!
結局どうすんの?私のこと好きなの?付き合いたいの?それとも家族がいるから付き合えないって言いたいわけ?

とにかく、彼に聞きたいことはいっぱいあった。
だけど、感情任せにすべて言ってしまうと嫌われそうで・・・・・
それに、はっきりと言われてしまうのも怖くて・・・・・・・・

肝心なところで、私はまた弱気になる。

「それで・・・・・私のこと、好き、なの?」―遠慮がちに、これだけ聞いた。
「それは・・・・まだ分かんないな。今は、ちょっと、戸惑ってる。というか・・・・付き合ってないし。」

それを言われたとき、あの日の言葉はやっぱり違ったんだと確信した。
私の「好き」と、彼の「好き」は全然違うって・・・・・・思った。
私の片思い・・・・・・・・・なんだね。少しでも両想かもって思った自分がバカみたい。

「ま、でも・・・・可愛いとは思ってるよ。藤咲さんのことで事務所のみんなにからかわれるの、本当に恥ずかしいんだから。」

そう言って照れたように笑う彼に、とりあえず好意を持ってはもらえてるってことだけは分かって、少し安心した。
ようやく笑って話をする余裕が生まれる。

「そんなこと言って、誰にでも照れるんじゃないですか〜?」 「そんなことないよ。」
「あ、そういえばあのお局さん、この前『愛しのダーリン』って言ってましたよ!照れる?」
「うわ・・・・・具合悪くなってくるね。(苦笑)」 「それは照れないんだ・・・・・(笑)」
「いや、まぁ・・・・あの人もそんなに悪い人じゃないんだけどね。ただ、作り話が上手だからタチが悪いよ。」
「作り話?」
「例えば、俺と藤咲さんが2人でいるところを見られたら、次の日から・・・・会社で席がなくなる。」
「え、それは・・・・オバサンが言いふらすからってこと?」
「『あの2人絶対付き合ってる』って周りに思わせるように、話を大きくするのが上手だからね。それで今まで何人も消されたんだから。」
「うそー!?怖ー!!あの人、ただのお騒がせオバサンじゃないんですねー・・・」
「そうだよー。うちにも懲罰委員会ってあるからね。気を付けないと、バレたら呼ばれるよ。」

ん?それは・・・・私と付き合う覚悟もあるということ・・・・・なの?そうでもない?

そんなことをひとしきり話した後、何だか彼の恋愛遍歴を聞く羽目に。

「ここまで来たら、もう全部言っちゃおう。」と彼は開き直った様子で全部ぶっちゃけていた。

この前、一緒に飲んだ時もちらっとそんな話をしたけど、やっぱり彼は色々と経験豊富なようで・・・・。
彼の話ぶりから、かなり遊んでるような感じが分かった。
浮気するわ、不倫するわ・・・・・・・・・・・・・色々と。

え、これ・・・・・・・この人、私と出会って付き合ってなかったとしても奥さんに半殺しにされるよね?
そんなレベルの話が次々と。

そっか・・・・・・これが彼の本性か。
その瞬間、私の中の『愛しい彼の姿』が崩壊するのを感じた。

突き刺さる、現実。

October 05 [Sat], 2013, 23:36
「こんなオジサン相手にしちゃいけないよ。」

彼は私を諦めさせたかったのか、フリたかったのか・・・・・最後にそう言ってから、「帰る」とつぶやき、立ち上がった。

その動作で、さらに現実に引き戻される。
縋るように玄関口まで追いかけて引き止めるけど、明日も仕事だという彼の「帰る」という意志は変わりそうもなかった。

―ただ、彼は帰り際、私に、この関係を続ける怖さを説いた。そのすべては、まだ半分夢に包まれていた私は覚えてないけど・・・・・・

「だめだよ、こんなことしたら。お互い怪我するだけだからね。」
「でも、私は・・・・・・あなたが好き。ちゃんと割り切るから・・・・・」

―また私と会って。内緒の恋でも不倫でもいい、ちゃんと付き合いたいって言って。
そう、続けたかったのに。言えなかった。

怖かったの。
理性がおかしくなりそうで、それを抑えようとしてた彼。だけど、半分負けてしまってる。
そんな彼が私とのこと、後悔して、「もう会わないどこう」って思ってるんじゃないかって・・・・・・・・・

「そう簡単には割り切れないよ。お互い傷つくだけなんだから」

それでも聞き分けがなく反論ばかりする私に、彼は何度も
「お願い、分かって。」
を繰り返し、髪を梳くようになでたり、口をふさぐようにそっとキスをして、私を宥めようとばかりしていた。

その優しさが、逆に憎らしい。
今してほしいのはそんなことじゃないのに・・・・・・・・・・・・・。

「ねぇ・・・・・・もうこれで終わりになっちゃうのは嫌。怖いよ・・・・・・」
「そんなことはしないけど・・・・・・・ただ、俺からは、電話とかメールで会いたいとは言わないよ。・・・我慢する。」

何、それ・・・・・・???
訳が分からなくて、混乱する。

「私、フラれちゃったの・・・・・・?」

泣きそうになって聞いてみる。色々言われると、心が折れそうで・・・・・。彼が何を言いたいのか、全然分からなかった。

「それならちゃんと、『無理だから、もう会わんよ』って言うよ。」

じゃあ・・・・・これからも会いたいってこと?私とは終わりにしないって思ってくれてるってこと・・・・?

「ねぇ、それどういう・・・・・・」

はっきりした言葉を聞きたくてそう問うと、彼はゆっくり私の顔を手の平で包み込み、また遮るようにキスをして、部屋を出て行ってしまった。



彼が帰ってしまってから、私は長い夢が終わったかのように呆然としていた。

さっきまでのあれは、一体何だったの・・・・・・・・・・・?
幻かと思わせるほど、現実味がなかった。

彼は何度も私をきつく抱きしめて、キスをしてくれたのに・・・・・・・・・・・・。

彼の感触、彼の匂い、彼のキス・・・・・・・・・・・・・・・

すべてを覚えておきたかったのに、もうそれらを忘れてしまいそう・・・・・・どうして?

そうして、彼のいない現実から逃げたくて、彼の残していった痕跡を見たくなくて・・・・・その日の私は寝てばかりいた。


―夕方になって、やっと起きだしてシャワーを浴びる。
それでも心は晴れなくて、だけど無理やり笑顔を作って、うきうきしたふりをしてお酒を買って、夕方から飲み始めた。

ほろ酔いで、ふわふわ・・・・・・・なのに、やっぱり考えてしまうのは・・・・・彼のこと。

昨日までは幸せだった・・・・・・・・・・・・

彼と他愛ないメールをやりとりして、お互いに顔を合わせると恥ずかしくなって、照れてしまう、だけど心は少しすれ違って歯がゆくて・・・・・・・・・・・・

そんな学生みたいな恋を続けてた方が、よかったのかもしれない・・・・・・。

なのに、今は、ドロドロと深く入り込み・・・・・急に、来てはいけないところに来てしまったみたい。
私、間違ったことしちゃったの?私が彼を焦らせたの?彼との恋をだめにしちゃったの?
彼は私のこと、もう嫌い?こんなしつこい女って、引いちゃった?

ねぇ、ちゃんと話したいよ。あなたとのこれからのこと・・・・・・・・・。

どうにも塞いだ気持ちから抜け出せない私が縋れるのは・・・・・・やっぱりセツナしかいなかった。

セツナは、時間がない中でも、私の話を聞いてくれた。

「私、だめなことしちゃった・・・・・・。もうだめかも・・・・・・(泣)」
くどくどと泣き言ばかりいう私。だけど、セツナは落ち着いてアドバイスをくれる。
「そんなことないでしょ。・・・・ていうかさ、彼も彼じゃない?」
「何が・・・・・・?」
「だって、酔った勢いでそういうことして、何もはっきり言わずにごまかして帰っちゃったんでしょ?何かさー、私には彼がいいとこ取りしようとしてるようにしか思えないんだけど。」
「いいとこ取り・・・・・?」
「うん。家族は大事だけど、自分を好きって言ってくる女の子のこと振っちゃうのはもったいないみたいな。だからキスとかしたんじゃん?」
「それは・・・・・彼が私のこと、好きじゃないってこと・・・・・?」
「うーん・・・・・気に入ってるかもしれないけど、本当の好きかどうかは分からないよね。」
「じゃあ、もう彼、私に会ってくれないと思う?自分から会いたいとは言わないって言われたんだけど・・・・・・」
「それはさ、自分が言うと本気で付き合うっぽくなっちゃうから、こなたから誘ってほしいってことなんじゃないの?たぶん、その内また思わせぶりなメールとかしてくるでしょ。こなたが『会いたい』って電話できるような感じのやつ。・・・・・・何か最低だよね。」
「そう・・・・なのかな。」

―最低?・・・・彼が・・・・・?
でも、確かにそういう見方もあるのかも・・・・・・・・・。
だって彼は、私に自分から「好き」とも「会いたい」とも言ってくれない。
キスとか、したのに・・・・・・これからどうしたいってはっきり言ってくれなくて、キスでごまかして行ってしまった。
挙句、昨日のことでメールしたら、「昨日は楽しかったね」って返事が来た。
それって・・・・・・やっぱり・・・・・・

「そうだよ〜。大体、そこまでしといて『楽しかったね』で片づけるって所がもう最低じゃん!!」

セツナが結論を出した。

やっぱり、そう・・・・・かも。
彼は、最低。
そう思うと、彼とちゃんと話し合いたいって思ってた私って・・・・・・・

「ねぇ、これからどうするか話し合いたいって、メールした方がいいかな・・・・・・。」
「う〜ん・・・・・。次会った時でいいんじゃない?彼もそれなりに考えてるだろうし。」
「そっか・・・・・・・そうだよね。」

しばらくは、様子見・・・・・・・か。

それでも、セツナに色々言ってもらえたら、少しだけ気が楽になった。
そうだね。
何か・・・・深刻に考えすぎることなかったのかも。
何も考えないようにしとこう。あんな人のことなんか、もう考えないぞ。・・・・・・そう思い込み、まだ少し残る痛みを押し込めた。


背徳への入口

September 30 [Mon], 2013, 22:11

汚れた舌

September 29 [Sun], 2013, 23:20

恋の戯れ。

September 29 [Sun], 2013, 22:20
車を走らせ数分。彼の指定したコンビニに到着する。
ここは、ちょうど私と彼の家の中間地点。どっちの家からもまぁまぁ近いから、会うにはちょうど良かった。

適当に駐車場に停めて待っていると、彼がふらりと歩いてきた。
そういえば私の車に彼を乗せるのは初めてで、さっきどんな車か教えてなかったけど、彼は、私と分かったのか、こっちに近づいてきた。
急いでロックを解除して、助手席に彼を迎える。

「こんばんは・・・・・。」何となく気まずくて、少し微笑んで言ってみる。
「こんな酔っ払いを見ないでください・・・・」恥ずかしそうにそう答えて顔をそらす彼。
いつもの照れ屋さんっぷりに、思わずふっと笑ってしまう。
さっきまで、無理させちゃってたらどうしよう・・・・って感じてた緊張と負い目が解けたようだった。
「どうします?ここからどっちに行けば・・・・」
私は1人で飲んでいたというから、彼の家に行くはずでそう聞いた。
そしたら彼は意外にも、「じゃあ・・・・藤咲さんの家に行ってみたいな。」―そう言ってきた。
「へ・・・・?あ、でも、私の家・・・・散らかってますけど・・・・何にもないですけど・・・・・」
「いや、別に気にしないけど・・・・?」
本当にいいの!?ちょっと、恥ずかしいんだけど・・・・・・
まぁ、でも、彼がそう言うなら・・・・・・・
「えっと・・・・じゃあ、お酒は?私の家ないですよ?」「いいよ、途中で買ってく。」

そうして私たちは、近くのセブンでいくつかお酒を選び、また私の家に向かって車を発進させた。
「また、大胆な格好してるね・・・・」車中で彼に言われてはっとする。
そうか・・・・私、本当にそのままで来ちゃったんだった・・・・・。
さすがに露出高い?ケバくて引かれちゃった・・・・・!?
こんな服装、1人のときじゃないとしない。彼には見せたことのない私の一面。
彼の前ではいつも可愛い私でいたかったのに・・・。清楚で可愛いと思われてたかったのに・・・・・。

慌てて言い訳してしまう。
「あ、いや・・・・・その・・・・見てみたいなと言うのでこのままで来ちゃったんですけどっ・・・・。で、でも、普段は全然こんなんじゃなくて・・・・・。今日は誰とも会う予定なかったから、本当に自己満足でこんな服装なんです・・・・//・・・家着いたら着替えるんで!!」
「いいよ、そのままで(笑)でも、おじさんにはちょっと刺激が強いかな・・・・」
顔を隠して「ごちそうさま」とおどける彼。また照れてる・・・・・?この態度に私は弱い。
急に、彼を誘ってるセクシーな女になったような気がして、ふふっと笑う。

そうこうしている間に私のアパートに到着。

前にも1度家の前まで送ってもらったことがあったけど・・・・・家にあげるのは、初めて。

本当にいいの?
また、心の中の私が問いかける。これは私の理性・・・・・・?
現実の私、ここにいる私はそれを振り切って、彼を家に入れた。

少し散らかって酒瓶が出しっぱなしになってる私の部屋。
さすがに明るい部屋で2人きりになるのは耐えられなくて、電気は小さい明りだけにしてもらった。
ソファに並んで座って、「お疲れ様」と乾杯してお酒を飲む。

彼は、きょろきょろと部屋中を珍しそうに見まわした。
「何か・・・・女の子の部屋って感じだね。」彼も、もしかしたらちょっと緊張してるのかな?
仕事のときしかかけないという眼鏡までかけて、いろいろと観察してる。
そんなにじろじろ見られると、あらが見えそうで恥ずかしいんだけど・・・・・。
それから下着が部屋に干しっぱなしになってるのを指摘されてしまった。
「きゃー><」慌てて隠そうとしたけど、彼は意外にもそれには照れずに、「まぁ、これは別に、当然のものなんだからいいでしょ?下着つけない方がまずいわけだし・・・」
???彼は、時々よく分からない。照れ屋さんのはずなのに・・・・・そういうのは別にいいのか。
本当に変な人。彼の言動はいつも私を驚かせ、リラックスさせるような効果がある。

最初に会ったあの日のように、まずは普通にお酒を飲みながら、仕事の話をした。
今日の彼がとても忙しかったこと。この仕事の苦労、その中でも感じるやりがい・・・・。
彼はきっと、仕事が好きなんだろうな。きっと私が方向転換しないと、ずっとそれを語っちゃいそう。
それも楽しいし、勉強になることもあるから聞きたい。
だけど、本当は・・・・彼のプライベートなことの方が、もっと聞きたい。

そう思ってると、今度は私のことを聞かれた。
「ねぇ、元彼から何か連絡あった?」その話、度々聞いてくるけど・・・・気になるのかな?(笑)
「あ〜、ありましたよ。寂しいからヨリ戻そうって。」「やっぱりね(笑)戻しちゃえばいいじゃん。」
「いや、お断りです。『今、好きな人がいるから無理』ってきっぱり断りましたよ〜。」
「ふ〜ん。・・・・なぬ!?」ちょっとリアクションに困ったような彼。
へへ・・・・また思わせぶりなこと言っちゃった。好きな人って、それはもちろん、あなたのことだよ。
彼は、きっと私の言いたいことに気づいてるはず。だから困っちゃったんだよね?
後は、「元彼の写真とかないの?」って聞かれたから、簡単に見せるのがちょっと嫌で、「もうっ!何でそんなに元彼が気になるの?私のこと、知りたいんですか?」と聞いてみる。
「こら、そんな追い詰めるようなこと言うな;;」恥ずかしそうにする彼。

彼は、こんな風に私と思わせぶりな言葉を交わす度、やっぱり、「オジサンをからかうな」とか、「結婚してるからね?娘の方が歳近いし」とか言って、本気に取り合おうとしなかった。
そんなこと言ってほしくないのにな。だから私もその度、反論する。
「も〜、本気って言ってるじゃないですか〜。本気で好き〜。」
・・・真面目な話になるのがちょっと怖くて、笑って軽めな口調になっちゃうんだけど・・・・。

いつか、私の気持ちに応えてくれるといいのにな。
彼の気持ちはいつもイマイチ分からない。
だけど、ともかく今は2人きりでいることが嬉しい。彼の隣でお酒を飲むこの時間を楽しむことにした。



2度目の電話。

September 29 [Sun], 2013, 21:19
月と愛の会話を交わした、その翌日は金曜日。

次の日が休日になる金曜日は、毎週スタバの日と決めていた。

定時になるやさっさと帰り、とびきり自己満足な、派手な恰好に着替える。
―今日は超ミニのショートパンツにガーター付きニーハイで、セクシー気取り♪
肩が出るようなざっくり開いたシャツと、短いパンツから見える最近買ったニーハイのガーター紐が可愛い。やっぱりぴったりだね☆

うきうきして、スタバに出かけた。
お気に入りの奥のソファの席に座って、お気に入りのラベンダーアールグレイティーラテを一口飲んだところで、ようやくほっと息をつく。
そこで、彼にメールをした。
「1週間お疲れ様でした^^私は今スタバにいます。」と。
それだけ送って、ゆったりと音楽を聴きながらスタバにいるこの時間を満喫する。
今週1週間も頑張った・・・・・・・・よね。

いつもの通り2時間ほどまったりした後、スタバを出て、帰る気になれなくてふらふらと本屋に向かう。
その間、結局彼から返信はなかった。
まだお仕事なんだろうな。
そうは思っても、ちょっとだけ不安になる。返事・・・・・来るかな?

本屋で何となく立ち読みをしてる時、彼からようやく返信が来た。
やっぱり、さっきまでお仕事だったみたい。今から帰るような内容のメールが来る。
私がまた、「お帰りなさい^^」と返事をすると、彼は、今家に着いて、これから1人で飲むのだと教えてくれた。
自転車で帰る途中にそのメールを受け取って、時計を見ると、まだ21:30。
・・・・いつもより早い!なら、少しだけ声が聴けるかもしれない・・・・・!

チャンスと思った私は、今外にいるという勢いも手伝って「電話していいですか?」と言ってみる。
すると・・・・「今日なら、いいよ。」と返信が。

やった・・・・・!
瞬間、自転車をすっとばして急いで帰って、息も整えずに電話を掛ける。
少し間をおいて、低くつぶやくような彼の声。ドキドキ、でも、何だかやっぱり、安心する。

まず、私には確かめたいことがあった。
セツナには、「メールで聞いた方がいいよ!」って言われてたこと。
昨日の、「月が綺麗だね」メールの真意を聞かなきゃね!
果たしてあれは、口説き文句だったのか、ただの時候の挨拶だったのか・・・・・・。

緊張しながらも、聞いてみる。
「あの・・・・昨日のメールなんですけど・・・・『月が綺麗ですね』って、もしかして夏目漱石ですか?」
「・・・ん?何か関係あるの?」
―あ・・・・・・やっぱり、知らなかったんだ・・・・・・・。ですよね・・・・・・。
少し恥ずかしくなりながらも、答えを教えてあげる。この会話の本来の目的は、どっちかというとこっちにあるんだ♪
「知りません?夏目漱石って、英語の“I love you.”を、“月が綺麗ですね”って訳したんですよ。」
「え、そうなの?」
「そうですよ〜。だから、昨日、愛の告白されちゃったかな?って思ってドキドキしちゃいましたよ〜(笑)」
「いや、本当に知らなかった・・・。そんな意味があったとは・・・・・(照)ごめんなさい(恥)。。」
彼は、それを知って、やっぱり照れたような声を出した。
そ、これは照れ屋な彼を動揺させて、ドキドキさせちゃう作戦だったのだ☆
(作戦成功?ありがと、セツナ!)

それから、話題は今日の内容に。
「この辺スタバあったっけ?」「駅前にあるんですよ。毎週おしゃれして行くのが楽しみなんです^^」
「へー。おしゃれつて、どんな格好なの?」「いや、まぁ・・・・おしゃれというか・・・・本当に自己満足な格好なんですけどね;」
「ふ〜ん・・・。見てみたいな〜。」「え?じゃあ、見ます?(笑)今帰っていたところなんで、服とか化粧とかそのままですよ?」「いや・・・・まぁ・・・・いいけど・・・」
口ごもる彼に、ちょっと意地悪に言ってみる。「私に会いたいですか?」「それは・・・・俺の口からは言えないよ//」
―お、お・・・・?これは・・・・もうひと押しすれば、もしかしていけるかも・・・?
「え〜・・・じゃあ、1人でいたいか、いたくないかでいったらどっちですか?」「う、う〜ん・・・。そりゃ・・・・1人でいたいかいたくないかで言えば・・・・1人じゃない方がいいかな〜っていう気分ではあるよ・・・。」
「ただお酒飲んじゃったからな〜。」と言う彼に、思い切って「じゃ・・・じゃあ・・・・・・・私、車で行きましょうか?」と提案する。
「じゃあ・・・あそこのコンビニ来てくれる?そこまで行くから。」「あ、はい。分かりました。」

こうして、何だかあれよあれよという間に彼と会うことに・・・・。
何だか私が強引に言わせちゃったみたいになったけど・・・・でも、ともかく彼も、私に会いたいと思ってくれてるみたい。
でも、これ、本当にいいの?
だって、今から2人で飲むって・・・・もしかして、私、彼の家にお呼ばれされちゃう・・・・?

彼にこれから会うという嬉しさと、緊張と、少しの不安・・・・・。
そんな気持ちを抱えて、車を走らせた。

この時から、私は・・・・・・何となく感じていた。
同じ部屋で、2人きりでお酒を飲むなんて・・・・・・・・何も起こらないはずがないって・・・・・心のどこかでは、分かっていたはずなのに・・・・・それを、止められなかった。

同じ月を、見てる。

September 26 [Thu], 2013, 21:56
あれから、彼には相変わらずまた会えない日が続いた。
あの日、一緒に飲もうとメールを送ってきたのは彼の方なのに・・・・・一向に誘いがないことに、疑問と寂しさもあり。

けど、仕事を口実に内線をかける機会があった。
本当はメールでもよかったんだけどね。できれば声が聴きたくて、仕事のことでも会話がしたくて内線を掛けた。

久々に聞く、その声に安心する。
彼の声は、低くてぼそぼそしていて、真面目に仕事の話をしてるときはぶっきらぼうに聞こえる。
だけど、囁くようにも聞こえてどこか色気があって、何より彼の少しおどけたような、ふにゃっとし調子の普段のしゃべり方が声の感じを柔らかくしているから癒される。

その日の彼は忙しかったみたいで、要件には入らないまま、掛け直すと言って切ってしまった。

でも、声が聴けたからよかった。
たぶんあの様子だと内線は来ないと何となくわかった。ま、明日また掛ける口実になっていいか。

家に帰ってお風呂に入ってみてみると・・・・・・なんと彼からのメール。
そこには、今日はやっぱり仕事が立て込んでいたこと、かけるはずだった内線ができなかったことを謝るような内容が綴られていた。

律儀な人・・・・・・。そんなこと、別にいいのに。
何かおかしくなって、今家に着いたとメールをくれた彼に、「おかえりなさい」と冗談交じりに返信した。


次の日、ようやく彼に仕事の内容の内線が掛けられて、とりあえずほっとする。

だけど、その日も顔を見ることはなく・・・・・・
何か無性に疲れて、家に帰ると転寝してしまった。

今日は、セツナとスカイプする予定、だし、少しだけ・・・・・・・・・・・・

セツナから着信があったとき、はっとして起きて、何気なしに携帯を見ると・・・・・・
彼からメールが入っていた。

「外を見て。今日は月が綺麗だよ。中秋の名月だからね。」

へ・・・・・・・?

今日の月が綺麗って私もそう思った。
だって、買い物に行くときに見た月はいつもより大きくて、近づいて見えたから。

前に、月の光を浴びると魅力が高まるって聞いたことがあった。こんな月なら、もしかして恋の願いが叶うかも・・・・・。
「彼と両想いになれますように。」・・・・・思わずベランダに出て、そう願っていたから。

月が綺麗って彼と同じことを考えてたことが嬉しかった。
彼が珍しく2日連続でメールをしてくることも嬉しかった。

だから、素直に思ったこと、願ったことをメールに記した。

やっぱり彼は・・・・・・・私がした願い事が、何なのかは気づかなかったけど。
もうっ・・・・・この状況なら、あなたのことだって、察してほしかったな・・・・・。
でもきっと、彼は鈍感な人。そんなあなたが、可愛い。

それと同時に、なんだかロマンチックなメールをもらっちゃって・・・・・またドキドキする。

だって、男の人にそんな、「月が綺麗だね」なんてメールもらったの、初めて・・・・・・・。

「意外とロマンチックなんですね(笑)」そう送ると、「そう?ただ星が好きなだけだよ。」って返ってきたけど・・・・
その受け流しが、また素敵だった。
いいな。いつか、あなたの隣で星を見たいな。流星群とか、いいよね。
そしたら、いっぱいいっぱい願い事するの。あなたとのこと・・・・・・・・。

「ねぇ、そのメール、何か意味深じゃない?」
うきうきしてセツナに彼とのメールの内容を話した時に言われたこと。
「そうかな・・・・・・?」
「だって、何も思ってないただの会社の女の子にだったらそんなメール送らないじゃん。」

そ、そうか・・・・・・。普通、そんなメール、しないよね・・・・・・?

そう言われて・・・・・・・「月が綺麗ですね。」っていう夏目漱石の翻訳を思い出した。
英訳すると―――――"I love you."

え・・・・・これ、まさか、遠まわしに口説かれてる!?

ま、まさかそんな・・・・ね。

彼は本が好きみたいだし、メールの文面はいつもきちんとしていて、ちょっと知的な感じがする。
だから、漱石の訳を知ってる可能性はあるけど・・・・・・。

そこまで深読みするのは、ちょっといきすぎ・・・・だよね?

頭では否定しながらも、「もしかして・・・・」という妄想も膨らむ。

こんなの私の勘違い・・・・とは思うけど。

本当に、そうだったらいいのにな。
照れ屋さんな彼の、遠まわしなアプローチ・・・・だったらいいのにな。

そしたら、彼の「月が綺麗ですね。」という言葉に、
きっと私は、「私死んでもいいわ。」と答えよう。

(「月が綺麗ですね」が「君を愛してる」という意味ならば、「私、死んでもいいわ」は、「私も愛してる」っていうことなんだって。)

彼の隣に並んで、同じ月を見て、月の光の下でそんな文学的な愛の言葉を交わせたら素敵だと・・・・・・少し恥ずかしくなりながら思った。

中秋の名月の晩だもの。
私もちょっと詩的でロマンチックな雰囲気に浸っても、いいよね。


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