うら遙(遙か×薄桜鬼)
May 27 [Sun], 2012, 23:13
『遙かなる薄桜の中で』 九十七章
藤姫の無事を確信させて完全な事後承諾を得る為には藤姫を部屋に連れ帰ることが最低限の条件となる。
あかね達と顔を合わせることなくすれ違った永倉は詩紋の案内のもと、人通りの少ない道を選んで屋敷へ帰る。
永倉「よし。もうすぐ屋敷だ」
(途中で顔見知りに出会うことなくここまでやって来れたことに永倉は安心する)
詩紋「人の出入りもそんなに多くない……ということは、屋敷の人達はまだ何も知らないのかな?でも頼久さんが何も報告しないなんてちょっとおかしいかも」
永倉「揉め事を広げることなく内々に片付けるってことはよくある話だ。今のうちに行くぞ」
詩紋「だ、大丈夫ですか?門番の人は居ますけど」
永倉「そうやって怯えて挙動不審で居る方が怪しまれる。いつも通りでいいんだ」
詩紋「はあ」
(永倉は背筋を伸ばして胸を張り、さして急ぐこともなく屋敷の門へと向かって行く)
永倉「よう。ご苦労さん」
詩紋「お疲れ様です」
(二人は平静を装って門番に挨拶をする)
門番「ああ、どうも」
(詩紋を見知っている門番は疑うことなく挨拶を返し二人を止めることをせずにまた前を向く)
永倉「………………」
(永倉は振り返り、門番がこちらを気にしていないことを確認する。門番はまっすぐ前を向いているのでこちらが様子をうかがっていることなど知る由も無い)
永倉「ふー。どうやら怪しまれなかったようだな」
斎藤「新八、流山」
(ホッとして前を向くと斎藤が二人の前に立ちはだかっていた)
永倉「よ、よう斎藤。どうした?こんな所で。確か何かの野菜を取りに行ったんじゃなかったか?」
(屋敷の門番以上に油断のならない相手。永倉はビックリしながらもすぐに気持ちを落ち着けていつものような態度を取る)
斎藤「その用件なら既に済んだ。幸いに安倍殿の邸宅の敷地内に自生していたので分けてもらうことができた)
詩紋「良かったですね。何かお手伝いできることがあったら言ってください」
斎藤「ああ」
永倉「それじゃあ俺らはこれで」
(永倉は片手を上げて去る為の挨拶をし、その場から立ち去ろうとした。斎藤が一人でここに居るということは藤姫の件に関してまだ何も知らないと見越してのことだ)
斎藤「待て、新八。その布の中身は何だ」
(斎藤は鋭い眼光で永倉を見据えたまま尋ねた)
永倉「何って……アレだよ、ほら。アレ」
斎藤「そんな代名詞でわかると思っているのか」
永倉「だからほら……これくらいの大きさの……仏像!そう。仏像だって」
斎藤「ほう?この京都には長い髪の仏像も存在するというのか」
永倉「やべっ」
(『長い髪』と言われ、永倉は布から藤姫の髪がはみ出して垂れているのかと思い慌てて腕の中に抱え込んで隠そうとした。しかし布の外から髪を見ることはできず、皆の目に映ったのはいきなり動いた『布の中身』だ。おそらく布の中の藤姫はいきなり抱え込まれてビックリしたのだろう)
斎藤「やはりな。その中に居るのは藤姫様か」
(永倉の単純さを突いた策でまんまとハメた斎藤は溜息をついた)
永倉「何で野菜取りに行ったお前がそのこと知ってんだよ」
斎藤「安倍殿の屋敷を出て帰ろうとした時に副長や元宮らと会って話を聞いたのだ」
永倉「いや、これにはいろいろと事情があって……決して姫様を誘拐しようとしたわけじゃないんだ。な?詩紋」
詩紋「はい。それは僕も証明します」
斎藤「流山や姫様から言い出したことではないだろう。お前と言う奴はここでどれだけ世話になっているのかわかっているのか。万が一でも何かあれば源殿を始めとした屋敷の者の責任は計り知れない。おまけにお前が姫様を拐かしたという状況が揃っていながらもお前の潔白を信じた副長や元宮にも迷惑をかけているのだぞ」
詩紋「あ、あの、斎藤さん。こんな所でそんな話をしなくても……」
(詩紋は周りを見回しながら斎藤を宥める。『藤姫をさらった』などという言葉を屋敷の者に聞かれては騒ぎが大きくなってあらぬ罪まで永倉に着せられかねない。それは内々に事を済ませようとしていたあかねの気持ちも無駄になってしまうということだ)
斎藤「………………」
(詩紋の言葉からそれを察した斎藤は押し黙った)
永倉「ま、まあとにかく他の奴らに気づかれないうちに姫様を部屋まで送り届けねえと『無事』ってことにはならないだろ。説教はまた後で聞くから」
斎藤「……わかった。早く行くぞ」
永倉「おう」
(詩紋の存在により、屋敷の武士や女房らに異変を悟られることなく皆は無事に藤姫の部屋へと辿り着いた)
永倉「よし、もういいぜ」
(部屋に入り障子や几帳でできるだけ部屋の中を隠し、誰にも見られていないことを確認してから永倉は布を広げた)
藤姫「ふぅ。ありがとうございました、永倉殿」
(布越しでない新鮮な空気を吸って一息ついた後、藤姫は永倉に礼を言う)
斎藤「すまなかった、姫様。新八がとんでもないことをしたようだ」
(斎藤は星座をして畳に両手を突き、藤姫に頭を下げた)
藤姫「まあ、斎藤殿。頭をお上げくださいませ。永倉殿は私の為を思って…そして神子様と同じ景色を見たいという私の願いを叶える為に外へ連れて行ってくださったのです」
斎藤「いや。如何なる願いがあろうともあんたはこの京都で大事な立場の姫様だ。その立場がある以上、この屋敷の中で守り通すのが本来の武士としての役目。それを破った新八をかばう必要はありません」
(藤姫に言われても斎藤は頭を上げ得ることなく己の意志を告げた。相手が十歳の子供であろうとも優先させるべきはその立場ということがわかっている斎藤は姿勢を崩すことはしない)
藤姫「本当に構いませんから。そこまで畏まられてしまうとかえって恐縮ですわ」
斎藤「そうか……?」
(藤姫の困った声を聞き、斉藤はようやく頭を上げた)
永倉「ったく。真面目過ぎるんだよお前は。怨霊が出た時のことも考えてちゃんと詩紋も連れて行ったってのに」
詩紋「結局怨霊は出なかったので何もできませんでしたけど」
永倉「その場に居るだけでの安心感ってのもあるんだよ。それに悪いことが起きなかったんだからそれに越したことは無い」
斎藤「結果論ばかり言っても仕方がない。とにかく副長と元宮が帰って来たらお前もきちんと謝るのだぞ」
永倉「土方さんか……こっちに来てから怒られてばっかりだってのに……」
斎藤「返事は」
永倉「はい!」
再来週につづく。
(※6/3掲載分は番外編になります)
藤姫の無事を確信させて完全な事後承諾を得る為には藤姫を部屋に連れ帰ることが最低限の条件となる。
あかね達と顔を合わせることなくすれ違った永倉は詩紋の案内のもと、人通りの少ない道を選んで屋敷へ帰る。
永倉「よし。もうすぐ屋敷だ」
(途中で顔見知りに出会うことなくここまでやって来れたことに永倉は安心する)
詩紋「人の出入りもそんなに多くない……ということは、屋敷の人達はまだ何も知らないのかな?でも頼久さんが何も報告しないなんてちょっとおかしいかも」
永倉「揉め事を広げることなく内々に片付けるってことはよくある話だ。今のうちに行くぞ」
詩紋「だ、大丈夫ですか?門番の人は居ますけど」
永倉「そうやって怯えて挙動不審で居る方が怪しまれる。いつも通りでいいんだ」
詩紋「はあ」
(永倉は背筋を伸ばして胸を張り、さして急ぐこともなく屋敷の門へと向かって行く)
永倉「よう。ご苦労さん」
詩紋「お疲れ様です」
(二人は平静を装って門番に挨拶をする)
門番「ああ、どうも」
(詩紋を見知っている門番は疑うことなく挨拶を返し二人を止めることをせずにまた前を向く)
永倉「………………」
(永倉は振り返り、門番がこちらを気にしていないことを確認する。門番はまっすぐ前を向いているのでこちらが様子をうかがっていることなど知る由も無い)
永倉「ふー。どうやら怪しまれなかったようだな」
斎藤「新八、流山」
(ホッとして前を向くと斎藤が二人の前に立ちはだかっていた)
永倉「よ、よう斎藤。どうした?こんな所で。確か何かの野菜を取りに行ったんじゃなかったか?」
(屋敷の門番以上に油断のならない相手。永倉はビックリしながらもすぐに気持ちを落ち着けていつものような態度を取る)
斎藤「その用件なら既に済んだ。幸いに安倍殿の邸宅の敷地内に自生していたので分けてもらうことができた)
詩紋「良かったですね。何かお手伝いできることがあったら言ってください」
斎藤「ああ」
永倉「それじゃあ俺らはこれで」
(永倉は片手を上げて去る為の挨拶をし、その場から立ち去ろうとした。斎藤が一人でここに居るということは藤姫の件に関してまだ何も知らないと見越してのことだ)
斎藤「待て、新八。その布の中身は何だ」
(斎藤は鋭い眼光で永倉を見据えたまま尋ねた)
永倉「何って……アレだよ、ほら。アレ」
斎藤「そんな代名詞でわかると思っているのか」
永倉「だからほら……これくらいの大きさの……仏像!そう。仏像だって」
斎藤「ほう?この京都には長い髪の仏像も存在するというのか」
永倉「やべっ」
(『長い髪』と言われ、永倉は布から藤姫の髪がはみ出して垂れているのかと思い慌てて腕の中に抱え込んで隠そうとした。しかし布の外から髪を見ることはできず、皆の目に映ったのはいきなり動いた『布の中身』だ。おそらく布の中の藤姫はいきなり抱え込まれてビックリしたのだろう)
斎藤「やはりな。その中に居るのは藤姫様か」
(永倉の単純さを突いた策でまんまとハメた斎藤は溜息をついた)
永倉「何で野菜取りに行ったお前がそのこと知ってんだよ」
斎藤「安倍殿の屋敷を出て帰ろうとした時に副長や元宮らと会って話を聞いたのだ」
永倉「いや、これにはいろいろと事情があって……決して姫様を誘拐しようとしたわけじゃないんだ。な?詩紋」
詩紋「はい。それは僕も証明します」
斎藤「流山や姫様から言い出したことではないだろう。お前と言う奴はここでどれだけ世話になっているのかわかっているのか。万が一でも何かあれば源殿を始めとした屋敷の者の責任は計り知れない。おまけにお前が姫様を拐かしたという状況が揃っていながらもお前の潔白を信じた副長や元宮にも迷惑をかけているのだぞ」
詩紋「あ、あの、斎藤さん。こんな所でそんな話をしなくても……」
(詩紋は周りを見回しながら斎藤を宥める。『藤姫をさらった』などという言葉を屋敷の者に聞かれては騒ぎが大きくなってあらぬ罪まで永倉に着せられかねない。それは内々に事を済ませようとしていたあかねの気持ちも無駄になってしまうということだ)
斎藤「………………」
(詩紋の言葉からそれを察した斎藤は押し黙った)
永倉「ま、まあとにかく他の奴らに気づかれないうちに姫様を部屋まで送り届けねえと『無事』ってことにはならないだろ。説教はまた後で聞くから」
斎藤「……わかった。早く行くぞ」
永倉「おう」
(詩紋の存在により、屋敷の武士や女房らに異変を悟られることなく皆は無事に藤姫の部屋へと辿り着いた)
永倉「よし、もういいぜ」
(部屋に入り障子や几帳でできるだけ部屋の中を隠し、誰にも見られていないことを確認してから永倉は布を広げた)
藤姫「ふぅ。ありがとうございました、永倉殿」
(布越しでない新鮮な空気を吸って一息ついた後、藤姫は永倉に礼を言う)
斎藤「すまなかった、姫様。新八がとんでもないことをしたようだ」
(斎藤は星座をして畳に両手を突き、藤姫に頭を下げた)
藤姫「まあ、斎藤殿。頭をお上げくださいませ。永倉殿は私の為を思って…そして神子様と同じ景色を見たいという私の願いを叶える為に外へ連れて行ってくださったのです」
斎藤「いや。如何なる願いがあろうともあんたはこの京都で大事な立場の姫様だ。その立場がある以上、この屋敷の中で守り通すのが本来の武士としての役目。それを破った新八をかばう必要はありません」
(藤姫に言われても斎藤は頭を上げ得ることなく己の意志を告げた。相手が十歳の子供であろうとも優先させるべきはその立場ということがわかっている斎藤は姿勢を崩すことはしない)
藤姫「本当に構いませんから。そこまで畏まられてしまうとかえって恐縮ですわ」
斎藤「そうか……?」
(藤姫の困った声を聞き、斉藤はようやく頭を上げた)
永倉「ったく。真面目過ぎるんだよお前は。怨霊が出た時のことも考えてちゃんと詩紋も連れて行ったってのに」
詩紋「結局怨霊は出なかったので何もできませんでしたけど」
永倉「その場に居るだけでの安心感ってのもあるんだよ。それに悪いことが起きなかったんだからそれに越したことは無い」
斎藤「結果論ばかり言っても仕方がない。とにかく副長と元宮が帰って来たらお前もきちんと謝るのだぞ」
永倉「土方さんか……こっちに来てから怒られてばっかりだってのに……」
斎藤「返事は」
永倉「はい!」
再来週につづく。
(※6/3掲載分は番外編になります)
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