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「元素図鑑」はハリー・ポッターの世界を目指してつくられた / 2010年07月25日(日)
 iPadは、スマートフォンでもなければ、Netbookでも、電子書籍端末でもない。これまでになかった、まったく新しいカテゴリーのデバイスだ。

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 そのまったく新しいカテゴリのデバイス上で、これまでになかった新しいメディアがいくつも誕生し始めている。その中でも、大きな可能性を感じさせてくれるのがエレメンツ・コレクション社の「元素図鑑」だ。化学の周期表という、多くの人にとっては退屈なものを、紙の本では表現できないインタラクティブな写真やおもしろいストーリーで、とても魅力的な世界に変えてしまった。そのユニークな元素図鑑がどのように誕生したのか。作者のセオドア・グレイ氏(THEODORE GRAY)に話を聞いた(聞き手:林信行)

●目標はハリー・ポッターの世界

――日本でも大人気のiPadアプリケーション「元素図鑑」ですが、人気の秘密は何でしょう。

グレイ 我々がこの本を作るときに目標にしたのはハリー・ポッターです。もし、ハリー・ポッターが通う魔法の学校「ホグワーツ」の図書館に「元素図鑑」があったら、どんな本でしょうか。

 おそらくどのページをめくっても文字と写真だけの退屈な本にはならないはずです。例えば水素の説明では、本の上に小さな太陽の立体映像が浮かび上がって、小さな爆発をつづけている様子が確認できたり、本の上の泡が浮かび上がってははじけていく――おそらくそんなイメージではないでしょうか。そこで我々は、いまできる範囲で、そのイメージに最も近い本を作ることを目指しました。

 我々の元素図鑑では、例えば水素が爆発する様子も、画面を指でなぞるだけで自由に時間を進めたり、巻き戻すことができ、お気に入りの瞬間で止めることも自在です。3Dメガネをかけることで、オブジェクトを本から浮かび上がらせ、その上で自由に回転させることもできます。

――そういえば、iPad版に続いてiPhone版も出ましたね。これはどこか違う部分があるのでしょうか?

グレイ まず1つはレイアウトですね。新しいiPhone 4は画面解像度が向上し、iPad版のレイアウトに近い状態でそのまま表示させることも可能でしたが、我々はそれはせず、iPhone 4の画面サイズにあわせて1からページをレイアウトし直しました。

 それからもう1つ、おもしろい仕掛けもあります。こちらのiPhone 4で元素図鑑のオブジェクトを表示させたので、これを手に持ったまま、椅子をクルっと回転させてみてください。

――これは凄いですね! 椅子の回転にあわせてオブジェクトが回転しました。

グレイ そうです。iPhone 4から新たにジャイロスコープ機能が搭載されました。我々は、なんとかこれを使う方法がないかと考えていました。「ジャイロスコープを使えばiPhone 4本体の回転が検出できる」「我々の図鑑のオブジェクトは回る」ということで、この2つを結びつけることにしました。1時間ほどのプログラミングで実装できました。このアプリケーションを入れたiPhone 4を子どもに渡しておくと、決まって30秒もしないうちに目を回し始めますね。アップルの取締役たちもそうでした(笑)。

●子どものころに欲しかった!

――本当に見ていて楽しい本ですが、評判はどのような感じでしょう。

グレイ 読者の感想はおおむね好評です。最初のころはメモリが足りずにiPadの再起動が必要になるという不具合もありましたが、今ではそれもアップデートで直り、いいコメントをたくさんもらっています。

 最も多くもらうコメントは2種類あります。1つは「自分が高校生のときに、こんな本があれば!」というもの、もう1つは「我が家の15歳の娘は化学が嫌いだったけれど、今ではこのアプリケーションのおかげで化学に興味を持つようになった」というものです。

――実際にこの本を教科に取り入れるような学校もあるのでしょうか。

グレイ この本は教科書になることを目指したのではありません。むしろ、子どもたちを豊かにする本として学校の図書館に置いてもらってに自発的に読んでもらったり、両親から買い与えてもらう本、というポジションを狙っています。

 そうやって人々に読んでもらうことで、それまで退屈だと思っていた化学の世界が、本当は奥が深く楽しいモノだと発見してもらったり、人々に何か新しいインスピレーションを与えられればと考えています。

 もしこれが教科書に選ばれたり、政府公認のカリキュラムに組み込まれたら、急に退屈になって誰も読まなくなってしまうでしょう。

 私は以前、オライリー社から「Mad Science」という本を出しました(日本語版「マッドサイエンス 炎と煙と轟音の科学実験」)。こちらも炎や爆発など、危険な実験ばかりで、およそ子どもたちの教科書としては勧められないモノですが、それでいて化学について関心を持ってもらうのには役立てたのかなと思っています。

●ジョブズとは22年来のつきあい

――グレイさんの、そもそも「元素図鑑」の開発に至るまでのバックグラウンドについてお聞かせもらえますか。

グレイ 私はそもそもソフトウェア畑の人間です。1988年、スティーブン・ウルフラムという友人と一緒にMathematicaという会社を設立し、数式処理系のアプリケーションを開発したのが出発点です。Mathematicaは、スティーブ・ジョブズがつくったコンピューター会社、NeXTのコンピューターに標準添付されており、NeXT版の開発は私がほぼひとりで行いました。

 スティーブ・ジョブズは、今でも秘密主義ですが、当時も極度の秘密主義でした。NeXT版Mathematicaの開発にあたり、NeXTは私に部屋を用意してくれましたが、一方で私を監視する専任のセキュリティガードも雇っていました。鍵のかかった部屋に、開発に必要なNeXT Computerがあるのですが、本体は隠されていて見ることができません。私は画面とキーボードだけしか見えない状態で作業をさせられていたのです。

 いずれにしても、'90年代は、このMathematicaの開発が本業でした。

――元素の仕事とはかけ離れていますね。

グレイ そうですね。「元素」関係で動き始めたのは2002年のことです。ちょっとした趣味が高じて副業で始めるのですが、やがてこれがどんどんシリアスなものになってきました。

 2003年には「ポピュラーサイエンス」という科学雑誌で連載を始めることになりました。そのころから元素関係の写真を集め始めてポスターを作っています。ポスターは日本でも発売されました。やがてわたし1人だけでは物事をまわせなくなり、こちらにいるニックを、おそらく世界でも初の元素写真専門家として雇い入れます。

 昨秋には、こちらの本も出版しました。

●紙の本から電子書籍へ

――「元素図鑑」の元になった紙の本があったんですね。

グレイ そうです。日本語版を含めた世界12カ国語版はこの9月に発売予定です。紙の本はiPad版の「元素図鑑」と非常に似た内容になっています。というのも、iPad版も紙の本も素材は同じで、自由な角度に回転できる720の写真が元になっているからです。ただし、紙の本では、写真を自由に回転させることはできないので、iPad版におけるある表示状態のスナップショットのようなもの、ととらえてもらうといいかもしれません。

――iPad版をつくったきっかけは?

グレイ 我々はずっとこの本を電子版で出したいと思っていました。でも、それに適した流通手段もなければ、適したデバイスもなかったので、紙の本を先に作りました。

 ところが2010年1月、アップルからiPadが発表されます。心の中で、思わず「ありがとう、スティーブ・ジョブズ!」と叫びましたね。iPadは、私がやろうとしていることを実現するのに、まさにピッタリのサイズと形をしていたからです。

 iPadの発表会を見終わった後、5分だけ考えて、すぐに「今こそ電子書籍を作るタイミングだ」と決断しました。そしてイギリス在住の親友でテレビプロデューサーのマックス・ウィットビーを電話で呼び出し、何人かの開発者に招集をかけました。

 集まったメンバーで1日話した結果、それまでやっていたことすべて一端、完全に止め、「元素図鑑」の開発に専念することにしました。家族にも2カ月ほど会えなくなると別れを告げました。

 我々にとって幸運だったのは、この段階ですべての素材がそろっていたことです。写真もすべてそろっていれば、文章も書き上がっていました。回転するオブジェクトの素材もありました。iPadの発売までの2カ月間にやるべきことはただ1つ。これらの素材を電子本の体裁に整えることだけです。

●出版システムはMathematica

――電子書籍の開発となると、素材がそろっていてもやはり2カ月はかかるのですか。

グレイ ええ。というのも、当時はiPad用に電子書籍を作るためのツールといったものはまったくなく、真っ白な状態から始める必要があったからです。

 2カ月間の最初の2週間ほどは、電子出版のためのシステム作りに費やしました。この出版システムというのは、私のそれまでの本業であったウルフラム・リサーチのソフト、Mathematicaで構築しています。例えば、ページのレイアウトもMathematicaで行っていますし、写真を回転させるためのスペースの確保など、ページデザインの試行錯誤もMathematicaです。

 元素図鑑アプリでは、元素の詳細ページを開く際に、ちょっとしたズーミングアニメーションが表示されます。実はこのアニメーションは、回転するオブジェクトの写真をメモリに読み込む待ち時間を、待ち時間と感じさせないようにするための工夫なのですが、このズーミングアニメーションもMathematicaで計算したものです。

――Mathematicaにそんな使い道があったとは驚きました。そこからどうやって実際のiPadアプリケーションに落とし込んでいるのでしょう。

グレイ 元素図鑑の構成要素は、美しく割り振られたページレイアウト、ページ上に配置する各種メディアのXMLリスト、そして我々がこのアプリケーションのために開発した独自メディア形式の3つによるたまものです。これらの要素をMathematicaで用意して、最終的にアプリケーションの体裁にまとめる、といった形で作られています。今ではMathematicaの画面上にボタンが用意されていて、それをひと押しするだけで、要素が自動的にまとめあげられアプリケーションになる、ほぼ全自動の出版システムに成長しました。

 元素図鑑の各国語版は、この秋、出版予定の紙の本の翻訳データを、出版社からライセンスを受けてもらっているのですが、こうした翻訳テキストのデータをデータベースに入れて、ボタンを一押しすれば、翌日にはその言語版のアプリケーションができあがっているのです。

●元素図鑑の魅力

――元素図鑑に魔法のようなクオリティを加え、おもしろくしているのは、やはりあの回転するオブジェクトのムービーだと思いますが、あちらもそうやって用意したのですね。

グレイ 元素図鑑では、オブジェクトを指でドラッグして、好きな方向に回転させられます。よく誤解されますが、これらの回転アニメーションは、実はQuickTimeのムービーではありません。ムービーにしてしまうと、1方向への回転はしやすいのですが、逆方向に再生する負荷が大きくてスムーズに動かすことができません。ましてや1ページ上で最大9個のオブジェクトを同時に動かすようなことは不可能でした。

 我々はどうやったら9個のオブジェクトをなめらかに動かせるか考え抜いたすえ、描画処理をiPadが搭載する高性能なGPUに割り振ればいいと気がつきました。OpenGLのテクスチャマッピングという機能を使えば、表示をCPUに頼らずGPUに一任して負荷を軽減させられます。

 そこでアニメーションの1つ1つのフレームをテクスチャ(gzip圧縮をかけた.pbrt形式のテクスチャ)という形に落とし込み、OpenGLという技術を通してポリゴン(立体オブジェクト)の上にマッピング(重ね合わせ表示)させています。このような方法をとると、表示をCPUに代わってパワフルなGPUが請け負ってくれるようになり、スムーズな表示ができるのです。

 これは回転だけでなく、動画の再生にも使われています。動画の再生に応用することで逆回し再生を楽しむことができます。例えば私のお気に入りの元素「水素」を見てみましょう。このように爆発するアニメーションがありますよね。元素図鑑では爆発するシーンを指でなぞって好きな瞬間まで早送り、巻き戻しして眺めることができるのです。爆発などの現象は、あまりにも早く起きてしまうので、ビデオとして再生してしまうと何が起こっているのか分かりません。しかしこのような形式に落とし込めば、じっくり観察ができるのです。

●電子出版こそが本の未来

――実際にアプリを発売してみて、成果はどうでしたか?

グレイ 紙版の元素図鑑は30ドルしますが、iPad版は13.99ドルで発売しました。多くのiPhone用アプリケーションと比べると、高価な印象がありますが、なぜかAppStoreでは、ただのプログラムよりは本のほうが高く売れるという傾向があります。多くのiPadユーザーが、本であれば、多少、多めにお金を払っても仕方がないと思ってくれているようです。

 大方の電子書籍は12.99ドルほどですが、我々は彼らよりはいい仕事をしている、という自負があったので、それより1ドルだけ高い13.99ドルで発売しました。

そして驚くように売れました。GoogleのAdSense広告で5年以上にわたって宣伝してきたPeriodictable.comの総売り上げを、iPad版の初日の売り上げが上回ってしまったのです。

 紙版の元素図鑑は、倍以上の30ドルの値段がするにもかかわらず、発売以来9万部ほど売れ、化学書としてはかなりのベストセラーです。今年の9月には日本語を含む12カ国語版が発売され、累計18万部ほど刷ることになりますが、それでも利益で比較するとiPad版が、数倍上回ることになりそうです。

 理由は簡単で、紙の本は作るのにコストがかかりすぎるからです。紙の本の値段は30ドルほどもしますが、そこから得られる印税はわずかなものです。まず印刷代がかかります。また、印刷された大量の本はまず倉庫に納められますが、売れなかった場合には、そこに大量の在庫として残るわけで、これにもコストがかかります。

 これに対してiPad版は価格が約半分の15ドルです。ここからアップル社が売り上げの30%を持って行きますが、これは本当にわずかなお金です。10ドル以上がまるまる利益として入るのです。

 紙の本の出版社のビジネスと、アプリケーション形式の本の出版社のビジネスを比べると、後者のほうがよほど魅力的に見えます。最初にかかる費用が少ない点も大きな魅力でしょう。私は電子出版こそが本の未来だと思っています。

(後編に続く)

【7月23日22時5分配信 +D PC USER
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100723-00000074-zdn_pc-sci
 
   
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