〜08.01.10一覧 

January 10 [Thu], 2008, 3:06

×ねぇ、一度だけ言わせて×(嫌いじゃなかったってことと、好きだったってこと) サフィ
×愛しさの向こう側もまた愛しさで×(たとえば君の汚く崩れた部分でさえも) 棘
×旅立ち日和に君をさらってしまおうか×(失くすものなど何もない!) 詩人と王女

夜風にまたがるニルバーナ

×旅立ち日和に君をさらってしまおうか× 

January 10 [Thu], 2008, 3:03
 煌めく星々、甘い柑橘樹の香り、風に散る花弁
 美しいものに囲まれた砂漠の王女


「いつも綺麗だわ、あなたの歌」

 砂に塗れた甘い国の王女が微笑う。
 緩やかに死に向かう都。旅をする詩人が歌う、鎮魂歌。

「ありがとうございます、王女様。まあ、これで飯食ってんですが」
「……声も顔も甘いのに、態度と言葉遣いが悪いと思うの」
「すみませんね、地なもので。お望みなら、いくらでも猫を被らせていただきますが。三匹でも五匹でも」
「いらないわ。飾り立てなくても、あなたは十分美しいもの」

 無垢な王女が微笑う。長い髪が甘く香る風に揺れた。
 竪琴を抱えた詩人が笑う。鮮やかに、艶やかに、哀れむように。布で纏めた髪がひと房、滑らかな肌に零れ落ちた。

「あなたはとても綺麗。わたしの知らない世界を聞かせてくれる」
「貴女の知る世界はとても、狭いのですよ。潮風の匂い、花の舞う草原、絢爛に飾り立てられた水の都。広い世界にはいくらでもある。砂と星しかないここは、美しいけれどとても狭い」

 詩人は囁き、弦を爪弾く。かろやかな音色に合わせて、華やかな歌声が響いた。
 王女は薄い布を重ねた衣服に指を絡め、静かに詩人が奏でる歌を聞いている。短い演奏が終わると、淡く儚い笑みを浮かべた。

「いいのよ。わたしが知る世界は、わたしにとって狭くはないの。綺麗で優しくて、愛しい国よ。あなたに聞かせてもらえるだけで、満足だわ」
「本当に、いいのですか」
「いいの」

 詩人は弦に指を当て、物悲しい響きを紡ぐ。いつか砂に埋もれゆく国に、そうして、国と運命を共にする覚悟を決めている誇り高き王女へ、敬意と哀れみを乗せて。
 甘く優しい音色が、沈みゆく国を包んでいた。

「……綺麗だわ。本当に。ねぇ、あなたはそろそろ、この国を発ったほうがいいと思うの。砂に埋もれさせるには、惜しいわ」
「そうですね」

 うっとりと目を閉じる王女に、降り積もる白い花。遠い国で見た雪のように儚い白、詩人は小さく溜息を吐いた。
 誇り高く麗しい王女。砂に埋もれるにはまだ、早い。詩人は手を伸ばし、王女の髪に触れた。

「それ以上はだめよ。わたしは王女です。男性は、夫になるかた以外わたしに触れてはいけないの」
「わかってます。わかってますよ。だから、王女様。触れては、いけませんか」
「……だめよ。あなたは、砂に埋もれてはだめ。あなたの歌はもっと綺麗に羽ばたくの」

 王女は微笑み、目を開ける。慈愛と恋情の混ざった視線。詩人を射抜き、囁く。

「わたしのことを歌ってちょうだい。砂漠に生きた王女のことを。星屑と砂を愛した王女を。わたしはあなたの歌の中で永遠に生きるわ」
「……約束しよう。砂漠の花を、永遠に枯らせることはしないと」

 低く、搾り出した詩人の声。甘い歌を聞くように微笑んだ王女は、嬉しいわ、と目を閉じた。


 星を愛し、柑橘樹の香りを纏い、花のように微笑う
 砂漠に咲いた一輪の花、永久を照らし輝く


(失くすものなど何もない!)

詩は永久に、語り継がれはなひらく

夜風にまたがるニルバーナ

×愛しさの向こう側もまた愛しさで× 

January 10 [Thu], 2008, 3:00

 見えないものに怯えるな
 聞こえないものに泣くな


「――」

 悲鳴。煩い。何をそんなに忌避するのか。罪か、罰か、犯した事実か。夜ごと魘されるほどの罪。そんなもの、どこにあると言うのか。
 がちゃがちゃと試験管を振り回しながら息を吐く。銀霞はまた、泣いているのだろうか。
 泣く子を宥めるのは面倒臭い。放っておけば、泣きついてきたりはしないだろうけど。ああ、面倒臭い。
 試験管を乱雑に纏め、酒瓶とグラスを二つ。片方に注いだ酒を呷り、部屋を出た。

「銀霞、起きているかい? 寝てるだろうけどね、起きてくれ。酒を飲もう。一人じゃつまらないんだ」
「え、あ、棘……」

 蹴り開けたドアの向こう。ベッドに身を起こしていた銀霞が振り返る。慌てて擦ったのだろう、綺麗な緑色の瞳が濡れている。目の端の赤みには、気付いているのかいないのか。差し出したグラスを受け取り、微笑む。

「……こんな時間から?」
「私はこれから寝るんだよ」

 銀霞のグラスに酒を注ぎ、もう一つのグラスを空ける。さらに酒を注いで、一口。

「駄目だよ、ちゃんと寝ないと」
「だから、寝るから。付き合って」
「少しだけだよ」

 穏やかに、柔らかく。さっきの悲鳴なんてどこ吹く風。いつもと同じように微笑んで、グラスに口をつけた。
 暗がり、涙なんて見えない。震えてもいない細い肩を抱きしめて、唇を合わせた。きつい酒を、流し込む。

「っ、棘、かはっ……痛いよ」
「美味いだろう、上物だから」

 せいぜい酔っているようなふり。零れた酒を拭って、また呷る。
 横目で覗いた銀霞の顔は、普段と変わらない笑顔だった。


 罪なんて笑い飛ばしてしまえ
 善人なんて、この世にいない


(たとえば君の汚く崩れた部分でさえも)


夜風にまたがるニルバーナ

×ねぇ、一度だけ言わせて× 

January 10 [Thu], 2008, 2:59
 すきだとか、きらいだとか、わからなかったの
 傍にいることが、当たり前だったから


 目を開ける。暗い天井。体を預けるのは柔らかなベッドではなくて、重さを分散させる作りのいい椅子。ゆっくりと息を吐けば、ベッドに沈むように、落ちていく。
 ぼんやりと、浮かぶのは黒。私とは違う、鮮やかな。闇に溶ける黒、ひらり。手をつないで歩いたのは、どれくらい前だろう。
 もう、思い出せない。

「ああ……」

 伸ばした指。捕らえてくれはしない。
 優しくはなかった。冷たくもなかった。悲しくはなかった。幸せだとは、わからなかった。
 もう、いない。半身、片割れ。手放してきたことに後悔はしないけれど、少しだけ寂しかった。

「今は、どこにいるのかしら」

 風の噂に聞いた。あの子はもう、空にはいない。神に背いて堕ちた罪子と、共に堕ちたと言う話。あの子は、そう言う道を選んだ。石を探す、それを決めて堕ちた私と同じように。
 どこかに、いることはわかる。どこにいるのかは、わからないけれど。ひとつで生まれたふたりだから。私には、わかる。

「サフィ、夕ご飯できましたよ」
「今行くわ」

 私はここよ。私はここにいるのよ。あの子はどこにいるのかしら。幸せ、なのかしら。
 幸せだったらいい。私にはよくわからないけれど。あの子の望むように、生きているならそれで。

「会えなくても、構わないわ」


 幸せになってちょうだい
 傍にいなくても、大切


(嫌いじゃなかったってことと、好きだったってこと)


夜風にまたがるニルバーナ

〜07.07.22一覧 

July 22 [Sun], 2007, 2:11

×残春、君と手を繋ぐ× 

July 22 [Sun], 2007, 2:10

 残り少ない花は絶え間無い温もりを呼ぶための供物
 薄氷の春よりも確実な日を


 花が散る。屋根に覆われて雨が当たらないからか、匂いもないのに強く咲いていた花。
 名前なんて知らない。唯、僕たちが生まれるよりも前からあったはずの、大きな木。こんな廃墟地味た場所にあるなんて珍しい。
 ひらひらと舞う花弁。罅割れたドームから差し込む光は、少しづつ強くなっている。


「は……」


 ずるずると座り込む。日蔭にいればまだまだ冷たい。目を細めて、まるで世界を区切るような明暗を見た。
 黒と白、暑さと寒さ、綺麗と汚い、そして――堕とされた聖域と外界。
 僕は外を知らない。知りたいと思ったことなんてない。けれど。最近は、そうも言っていられない、のかもしれない。
 大切だから。弱いアルビノ。庇護する力は僕にはない。だから。
 強くなってもらわなくちゃ、こまる。

「シキ、ここにいたんだ。カザミが遊びにきたよ」
「……ん」
「どしたの、寒い? 眠い?」
「どっちでもない」
 ゆっくりと、息を吐く。
 日の当たるところにいる、白に近い銀がひかる。
 柔らかくて、さらさらで、気持ちいい。
 あんなにも綺麗なのに、どうして異端の証になるのか。

「……何」
「シキー」

 ふれる、温もり。重みと、感触。確かにここに在る、証。
 抱き着いてきた体を撫でて、赤い赤い瞳を見つめた。

「あったかいだろ」
「ああ」
「もっともっとあったかくなるんだ」

 散り際の花を見る、きらきらした瞳。その向こうには、何が見えるんだろうか。
 鮮やかな日差しが白い花を透かす。

「すぐにさ、暑くなるよ」
「そうだな」


 重ねた手のひらよりも熱く
 溶け合ってしまえたらいいのに


―冷たいだけの冬を思い出させるならいらなかったはずなのに―


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×恋猫と春の空× 

July 22 [Sun], 2007, 2:08

 誰も知らない誰もいない手を伸ばしてもふれられない
 気付いてほしいと願うことすら


 花が舞っていた。
 白い白い墨染桜。
 淡い場所を染め抜くように。

「こんにちはー」

 跳ねる、笑う。
 三日月のような笑顔。軽やかに跳ねる少年。
 桜の苑に黒衣を流しぼんやりと座り込んだ青年に纏わり、揺蕩う数多の蝶を払う。

「ねえねえ、遊ぼ。待ってたって、誰も来ないよ」
「誰……」

長い黒髪。白い花弁の纏う髪を梳く。送る蝶だけが触れる細い体に擦り寄って、くちづけた。

「可愛い可愛い蝶が大好きな猫。来ないひとを待ち続ける哀れな蝶を愛してあげる良い子の猫」
「猫……」

 そう、猫。短い淡色の髪を揺らすように、答えながら笑う。小さな鈴の音を纏い、桜と藍の着物で漆黒を包み込んだ。

「蝶が待つのは蝶ばかり。此処に来るのは蝶ばかり。ねえ、猫と遊ぼうよ」
 ちりん、ちりん。
 花が舞う、鈴の音が舞う。
 はらり舞う蝶は追いやられ、空へと溶けて消えていった。

 蝶を送る不死蝶は蝶に触れることはできない。ただ、触れられるだけ。
 待ち続けても届かない、見えない、会えない。
 黒衣の青年は目を伏せ、白い花弁を舞い上げた。

「蝶を手折るのは猫だよ」

 高い声。からかうように、嘲笑うように。
 白い花が舞う苑で、黒衣の蝶は猫と共に。
 蝶を送り送り続けるだけの蝶は猫に添う。
 猫は蝶を遊ぶ。独り待ち続ける蝶の羽を。
 悪戯に、手折るのは猫の暇潰しに過ぎず。
 蝶はただ、見えない空の果てを見て舞う。

「ね、一緒に」
「ああ……私、は」
「いらないよ。だから、黙って」


 幽玄の苑に舞う蝶は夢を見る
 蝶に遊ぶ猫は千切った翅の残滓に嗤う


―はなひらく夢破れて蝶は咲く―


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×桜花の春便り× 

July 22 [Sun], 2007, 2:06
 雪解けの音が幸せを運んでくるんだ
 周りはこんなにもあったかいんだって


 暖かい、春の風。
 頭を撫でてくれるみたいに優しい風が吹く。
 桜色と甘い香りを乗せて。
 もう、桜は咲いただろうか。どこか遠くでは満開だって聞いたけど、この辺りは。

「礼緒、はしゃぎ過ぎるな」
「別に、そんなでもないよ?」

 呆れたような声と、頭に乗った手のひらの感触。緩む頬を抑えて、細い腕に纏わり付いた。
 ひらり、ひらり。
 白にちかい薄い色の花弁が舞う。辺りを見渡しても、桜の木は見当たらないのに。
 首を回して、空。青い青い空に白い雲がひとつ。

「律ー、桜ある?」
「無いな、それっぽいのは」
「でも花びら飛んでるよ」

 律の腕に抱き着いて、見上げる。綺麗な黒い髪に、一枚。ふわふわと辺りにも、一枚。どこから飛んでくるのか、わからない。
「透明人間……じゃなく透明木?」
「んなもんあるか」

 呆れたように、はたかれた。それからゆっくりと歩き出す律の横を小走りに駆ける。律の反対の手には重箱が入った風呂敷包み。
 細い、けど私から見たら十分に大きい手のひらに指を絡めて、よそ見。やっぱり、桜の木は見当たらなかった。

「手紙みたいだね。誰かからの」
「手紙な……お前、書いたことも受け取ったこともないだろ。切り離されてちゃ、誰も書けない」

 律の声が沈む。苦しそうな、痛そうな。
 私には、わからない。わからないことが、痛いんだろう。わからないけど、ただ律が苦しそうだと悲しくなるから。

「切り離されてなんかないよ。幸せ、だもん」

 律の手をぎゅっと握って、離した。見上げたりしない。隣にいればわかるから。
 はらはらと舞う桜花びら。追い掛けて、駆け出す。私を呼ぶ律の声に、くるりと振り向いて笑顔を見せた。

「早く来ないと置いてっちゃうよ。Dと待ち合わせに遅れちゃうっ」


 届かないところにある夢なんかじゃない
 ちゃんと、知ってるんだから


―華やぐ世界とつなぐものはそう意識を切り替えるだけ―


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×月灯り夜道逍遥× 

July 22 [Sun], 2007, 2:04

 温かくも冷たい夜に輝く月の意味
 知らないなんて言わないけれど必要ないの


「サフィ、そろそろ帰りましょう」
「もう、買い物は終わったの?」

 背後からかけられた声に返す。ふわり、片足を上げて縁石の上でターン。
 銀の髪と白いリボンの向こう側に見えるのは、闇に溶ける黒衣。手にしているのは似合わない紙袋だった。

「ええ、常備薬だけですから」
「そう」

 軽く頷いてからもう一度ターン。バランスを崩して上向きに倒れた。
 見えるのは、朧に霞む淡い月。まぁるい光りに、滲んだ縁が見える。
 それから、温もり。私を抱く腕。優しげな顔に、驚いたようなイロ。起き上がらない私を抱き上げて、微笑う。

「サフィ?」
「あの月の美しさは、堕ちてから知ったの」

 呟く。闇に浮かぶ月よりも美しい、黒衣に溶ける黒を私は知っているのに。
 滑稽なほどに焦がれた、石の色も知っているのに、それでも。
 浮かぶのは白、シロ、しろ。
 纏う衣よりも淡く白い清浄の色。
 わすれてもいい、その程度のモノなのに。

「月は、綺麗ですね」
「そうね」

 ゆっくりと下ろされる、黒衣の袖に触れたまま。硝子越しの漆黒を見つめた。

「でも、私たちが欲しいのはもっと綺麗なモノですよ」
「そうね」

 あやすようなキス。唇が触れた額には罪の印が浮かぶだろうか。
 そんなこと、ありはしない。
 罪の代償に失ったのは左目の光。与えられた漆黒は私ではない色。
 いつか、ほしいモノを手に入れたらきっと、そんなのどうでもよくなる。
 淡い月を横目に、子供が真似をするように、恋人みたいなキスをしてみた。


 想いも心もありはしない
 夢うつつの幻に逢わせて


―霞がかる月を見て忘れたはずの天を想う―


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×春待ち宵語り× 

July 22 [Sun], 2007, 2:02

 夢に揺蕩うまでの一瞬をフタリで
 傍にいたいと思ってる


「紫、どこ」
「ここに、いますよ」

 愛おしい声が聞こえた。返事をすれば、温もりが触れる。柔らかで、温かい。
 抱きしめられて、苦しいほど――狂おしいほどに。
 開けた単の胸に触れる柔らかい髪の感触にほんの少し腕を上げれば、そのまま手を取られて魅の頬に。滑らかな肌の感触と温もりを感じた。

「冷えてるわ」
「月が……綺麗な、気がしたので」

 答える言葉に、魅の顔は曇ってしまっただろうか。手のひらを包む両手の感触だけでは、わからない。

「朧月よ。確かに綺麗だけど、霞んでる」
「そうですか」
「ええ……ねぇ、もう入りましょう。まだ、桜も咲いていないわ。花が咲いたら、花見をしましょう。見えなくてもきっと、綺麗だもの」

 柔らかな手に引かれて、軋む引き戸を潜る。
 昔よりもずっと、小さくなった手。否――変わらない、から。
 そろそろ、伝えなければいけないと思う。変わらないではいられない、過ぎ行く季節が巡る前に。
 つないだ手を引き寄せるように、淡い月の光りを辿る。見えないけれど、見えないなりに、感じる方へと首を巡らせて見た。
 穏やかな月明かり。雪の解ける匂い。すぐに、花の香りを乗せた風が吹くだろう。

「紫」
「はい、すみません」

 魅の声に答えて家の中に入る。引き戸を閉めながら呟いた魅の声は、内容に反して酷く悲しげだった。

「もうすぐ暖かくなるわ」


 儚い声は桜吹雪に紛れてしまう
 まるでほんものの雪みたいに埋もれて


―穏やかな夜をあなたと―


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