どこにも遊びに行けない夏の、唯一の楽しみが映画。
先週末は、『必死剣鳥刺し』を観てきました。
藤沢作品原作。ただし山田洋次ではなく平山秀幸監督。豊川悦司主演。
最初聞いた時、映画のタイトルとしてはあまりに気恥ずかしいと思った。けれど日本映画史を塗り替えるラスト15分、とかいう評価も気になり、トヨエツも好きだしで、観ずにはいられませんでした。
【今後の時代劇映画】
ところで、これからの日本映画、時代劇が花盛りですね。
●私の大好きな漫画、よしながふみ原作の(男女逆転)
『大奥』。10月1日から。
二宮和也君主演で話題です。予告編も今回初登場。玉木宏が「大奥究極の美男」松島役で登場。彼の異様なエロティシズム(本人キャラとは全然違う)を堪能させていただきたい。
佐々木蔵之介が「大奥最大の権力者」も似合う。阿部サダヲもなにげにわかる。中村蒼、大倉忠義あたりの若手も多く登場するけれど、女(男)としてトウの立ち始めたあたりがもちろん一番の注目。
大奥という「女(として生きる男の)の牢獄」で妍を競う彼らが実写で見られるとなると興奮モノです。
●一番楽しみなのは
『十三人の刺客』。三池監督が『クローズZERO』と『スキヤキウエスタンジャンゴ』の世界観、フィジカルエンターティメントを正統時代劇で実現させる。十三人の顔ぶれ発表段階から興奮してました。
役所広司、山田孝之、伊勢谷友介、沢村一樹、古田新太、六角精児、石垣佑磨、高岡蒼甫、波岡一喜、近藤公園、窪田正孝、伊原剛志、松方弘樹が「十三人」。
史上最悪の暴虐のお殿様が、稲垣五郎。敵のリーダーが市村正親。他、松本幸四郎、内野聖陽、岸部一徳、平幹二郎。
ただでさえ三池作品に惚れぬいてますから、もうワクワクです。こちらは9月25日から。
●後はもちろん
『最後の忠臣蔵』12月から。初めて予告編を劇場で観ました。やっぱり浩市さんと役所さん中心で、耕史君は名前だけで映像がなかったのが残念。
●それからリアリズム時代劇(?)と銘打たれた
『桜田門外の変』。大沢たかお主演。
今のところは食指は動かないですが、この二本の「正統派時代劇」がどこまで客を動員できるのか。
●個人的に絶対見逃すまいと思ってるのは、シネマ歌舞伎(歌舞伎座上演は昨年冬)の
『大江戸りびんぐでっど』。宮藤官九郎脚本。中村一門揃い踏みです。10月からかな。
●劇団新感線のゲキ×シネ
『蛮幽鬼』(上演は昨年)も今秋。
正統な時代劇ファンとは絶対!言えませんが、楽しみなものにたまたま時代劇っぽいものが多い感じになってます。
まだまだたくさんありそうですが、他、何があったかなぁ・・・?
【必死剣鳥刺し】
前置きが長くなりましたが、さて今回の「正統時代劇」『必死剣鳥刺し』。
評判以上の出来じゃないかと思いました。
以下、ネタバレ配慮にて反転させながら書きます。
話題となっている「最後の15分」に関しては、(反転ん)
むしろそこだけリアリズムじゃないような感じがしました。ここで静が動へ、平常心が狂気へ、諦念が生への情熱へ、と転換する構成はみごと。前半のお別家(吉川晃司)との勝負は素晴らしかったけれど、後半不死身のゾンビのようになり、また若干嘘っぽく冗長になったのは残念。
取り囲んだ側が烏合の衆でドラマがなかったのが原因だと思う。里尾の結婚相手に選んだ青年とか、自分の叔父とか従兄弟とか、そういう仲間を討手に加えるとか、そういう討手側のリアルがあればもっと良かったのでは・・・。
しかしそれ以外の部分は、もう素晴らしかった。
説明が少なく、骨太な展開。
静謐で端整で、それでいて見るものをひきつけて話さない緊張感みなぎる話運び。
なんとなく、市川昆とか、昔の時代劇に先祖がえりしたかのような雰囲気を持ちつつ、現代に通じる細やかな心理描写が映える。説明的なものは何もないのに、感情は余すことなくひしひしと伝わってくる。
桜がハラハラと舞う冒頭の能舞台から、緊張感がみなぎっている。能の終わったあと、居並ぶ面々の拍手の「間」だけでなんとなく微妙な空気が読み取れる。本当に、
兼見(豊川悦司)の殿の愛妾(関めぐみ)刺殺もまた、無駄がなく美しく、すぐに一同に正座して「ごめんどうを、おかけ申す」と辞儀。
「なぜ殺したの?」「どういう処断が与えられる?」「この場の人間関係は?」と一気に疑問がわいて、上質のミステリといった風味まで与えられる。
この序盤だけで、もう鳥肌立ってました。
カッコいい!日本の正統時代劇の精華。なんてカッコいいんだ!!
【静かで強靭な愛】
実は、そこからクライマックスまでの三年間・・・・蟄居の一年間、そして無役の二年間・・・・・が、この映画のキモではないかと、私は思った。
当然あそこで失うはずの命が永らえられ、フッと得られた真空のような日々。
二つの惨劇にはさまれた、この「日常」における兼見の身の処し方や、四季の移ろいの美しさ、つつましやかな暮らしの描写が、なんでしょうか涙が出るほどに静かなのに感動的だったんですよ。
そこで、兼見が病気の妻を失って一人であることがわかる。また妻の姪に当たる里尾(池脇千鶴)が身の回りの世話をしている重要な役となる。里尾は嫁ぎ先を離縁されて兼見家に身を寄せているが、密かに兼見に思いを寄せている。
里尾が蟄居小屋に心を込めて運んでくる食事に、涙が出るほど感動しました。
白いご飯に豆腐の味噌汁。ほんの少量の漬物と昆布の刻み煮(かな?)。
なんでもない質素なものだけれど、この世にこれ以上のご馳走はないのではないかと思うほど美味しそう。
里尾が心を込めて作っている。出汁を何度も味見し、自ら畑を作り茄子や胡瓜を作り、亡き妻の味に近づけている。多分炊き立ての一番美味しい状態で運んでくるんでしょう。どんなご馳走よりも、私は羨ましくなりました。
余談ですが、藤沢映画につき物の理想の夫婦愛、というのが、どうも苦手なんですよ。藤沢さん自身が早くに先妻をなくした経緯などから、夫婦愛を神聖不可侵なものとしているような感じすらして。結果、夫婦愛を前面に立てた作品には窮屈な感じがする(あくまで個人的にだが)。
しかし、『隠し剣 鬼の爪』や『必死剣』のように、もともと妻ではなかったもの(他家に嫁いだもののボロボロになって帰ってきて女中をやってるような女性)との純愛ものだとグッと来るんですね。本音の愛、エロス的愛という感じがして。
里尾は、けなげに静かに働くだけではなく、その中に激しい情念や一筋の強い愛を秘めている。
蟄居が解けてから、(ネタバレ反転)
愛の成就するシーンは感動的でした。画面手前右に鏡を見て髪をとく里尾。障子を半分開けて闇を背に立つ兼見。そして、何の言葉もなく・・・。「死んでもいい」という里尾の思いが、ダイレクトに伝わりました。
【クライマックスへ向けて】
物語は後半きな臭くなり、「なぜ兼見が生かされてきたか」、重臣である岸部一徳の真意が次第に明らかになる。・・・まあ、このあたりは見えているのだけれど、過去や現在にさかのぼって、海坂藩の現状描写がなされていく。
きらびやかな殿中の、殿と愛妾を中心とした腐った内実。勘定方がゆえなく切腹を命ぜられたり、気概のあるお別家との確執。
百姓の強訴の顛末はリアルで、あの処刑やさらし首の場面は、まさに往年の時代劇映画のような趣でした。
再びお役についた兼見の辛い日常も、淡々と描写され、あとはラスト15分に焦点を当てて雪崩れ込んでいく・・・(ここまでに)。
しかし、藤沢作品において、最後のカタルシスとなる「秘剣」というのは、私には付け足しのように思えてくる。映画として必要なのはわかるけれど、描かれてきた普遍的な人間像が、そこだけ超人化してしまう感じもするし。
多くの人が心の底に秘めていて、ほとんどの人はそれをさらすことなく生を終える、そういう象徴的なものなのかな。「その剣が抜かれたときには、使い手は半ば死んでいる」じゃないけれど、「秘剣の場面になった時には、映画の勝敗は半ばついている」ような。
【トヨエツの演技(と肉体)】
トヨエツは全編決して格好つける感じではなく、常に折り目正しい控えめな所作がとにかく美しい。
こんな生真面目なトヨエツは初めてかも。抑えに抑えた演技ながら、トヨエツの演技が堪能できる。
殿中での正座の場面が非常に多いのが大変だったのでは?
派手さを抑えた、迫力のあるリアルな殺陣も良かった。
唯一、複雑な思いにさせられる点を・・・。床や柱の古び具合まで作りこまれた映像の中で、「兼見の肉体」はあれでいいのだろうか・・・?
入浴シーンを始め、結構上半身裸のシーンが多いのだが、特に一年間蟄居したあとの入浴では、もっと痩せて生白い方がリアルだろう・・・。また、『20世紀少年』のオッチョの時は十何年も海ほたる刑務所に幽閉されながら身体を鍛えぬいていたけれど、あの時と比べるとたるんでいる。いや、不自然に盛った筋肉を見せられることも多い昨今、たるんでいるのは年齢ゆえのリアリズムと思うこともできるが(腹の深い横ジワなど)、一年蟄居したあとなのに脂肪がついた感じなのはいただけない。
一番いただけないと思ったのは、里尾が流すその背中に、うっすらとランニングの跡が残っていたこと。
すみません。裸ばかり見て(汗)。
他のキャストも渋くて良かった。
岸部さんは一流の、いつもながらの感心させられる演技。この映画ではむしろ普段見ないような俳優を使って欲しかった感じがする・・・(小日向さんもだけど)。もちろん欠点ではないんですが。
剛直で柔らか味のない吉川晃司、憎まれ役の関めぐみ、対照的な亡妻戸田奈緒。他、矢島健一、大人計画の蝉之介、福田転球、高橋和也など、適役でした。
【日常風景の描写が泣けた】
この映画も、やはり藤沢作品らしく「海坂藩」が舞台。
ここ(にあたる庄内地方)は私の第四の故郷。(第一の故郷は記憶にないから第三の故郷かも・・・)。しばらく訪れていないので、鼻の奥がつんとするほど懐かしい。
鳥海山、月山のたたずまい。(『おくりびと』の光景です)
稲穂。羽黒山の山伏らも出てきましたね。
桜散る頃に始まり、夏の暑さ(庄内の夏は爽やかだがうだるような日もあり、小屋に閉じこもった兼見には辛かったろう)蝉の大きな鳴き声や濃い緑。アッという間の秋の紅葉。そして長い冬。(隙間風が吹き抜けるあの場所での一冬はどんなに寒かったことか)
親戚がみごとな魚を釣ってきてくれるシーンもありましたが、海が近く、釣りがごく普通の嗜みだった庄内藩の文化を思わされます。
特に見入ってしまったのは、兼見の家の映像。黒光りする商家やお城の建築ではなく、なんでもない、ごく普通の家。(半農半武みたいな、当時の当たり前の武士の家)。
きりりと磨き上げられているわけではなく、生活の道具(農具など)が当たり前にあり、何十年も時を経た感じがする。
黄ばんで修理を重ねた障子、年数のたった畳や襖の感じ。特に上がり口の段のこすれて磨り減った具合・・・美術さん、お見事です。感動しました。
故郷を思い出すような、故郷の美しさを誇りたいような気持ちになる。
こういう生活風景や生活文化を、記憶の底に持っている私の世代はまだいい。けれど、自分の子供たちに何も伝えていない・・・ことに気づき、なんだか申し訳なく寂しくなる。
生活技術どころか、キチンとした生活習慣すら身につけさせてないなぁ・・・(自分自身身についてないし)。
いや・・・・それはともかく!
地味に見えてもやはり素晴らしい日本映画の佳品。
見終わった後心に後を引く部分も多い。最後に救いを残してくれるのもいい。
余計なものはない。日本のためにとか、歴史を変えるとか、そんな大きなテーマもない。
しかし普遍に通じる、人間の生活や人生が描かれている。
骨太で簡素で静謐な緊張感に満ちている。
細やかな感情表現も素晴らしい。
映像の美しさもあいまって、堪能しました。
『必死剣鳥刺し』良かったですよ!
これから時代劇映画が花盛りですが、rukaさんは『最後の忠臣蔵』と『桜田門外の変』に興味があるんですね。
『トトロ』私も何度も何度も見ました。
ジブリのマイベストは、『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『となりのトトロ』です。
『ハウル』以後はあまりジンと来ないんですが、『アリエッティ』は見たいと思っています。
『必死剣』に描かれた凛とした映像、またリアルな当時の生活観やぬくもりは、ぜひかわうそさんに観て欲しいと思うようなものでした。
藤沢周平映画はなんだか多く作られすぎた感じもしますが、これが一番好きかも。(あ、でもドラマの『風の果て』はもっと好き。)
若干の疑問ポイントも含めて、またお話できたらと思います。