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衆道とBLのあいだ@(『染模様恩愛御書』A)
衆道とBLのあいだA(『染模様恩愛御書』B)
さびしく枯野を突っ走っている感もあるこの話題。
どのくらいの方々が読み続けてくださっているのか、何人の方が読んで一部でも共感してくださっているのか、とても心もとないのですが、どうか一人でも多くの方にお付き合い頂ければ嬉しいです。
【なぜBL歌舞伎?】
今回、BL風『染模様』妄想を膨らませたいと思っていましたが、ところで、「なぜにそんなにまでBL歌舞伎にしたがるのか??」、という疑問をもたれる方もいらっしゃることでしょう。
前回まで書いたことをザッと振り返ります。
衆道武士道仇討ち忠義譚として18世紀末に生まれた演目ではありますが、少年愛ブームによって復活したのが明治版、女性ファンによって復活したのが平成版と言えます。
BL的なもの(少女漫画、JUNEもの、やおい系同人誌、歴女ブーム)に馴染みのある女性たちが、抵抗感なくこの歌舞伎を観に来た。
時代と共にその時代の人にアピールするテーマが変化してくるのは当然のことです。公式にあるような「男同士の愛と絆と信義の物語」ではありましょうが、「仇討ちも義兄弟も忠義も衆道もごった煮」ではやや半端に思えてならない。
それゆえ愛之助さんが言ったように「歌舞伎版ボーイズラブ」として煮詰めることで半端さがなくなり現代的リアリティが通うと思ったわけです。
しかし今回、さらに思ったのですが・・・・・。
!!!なにもBL歌舞伎でとどまる必要はない!!!
【BLと愛のあいだ】
同性愛を主要なモチーフとして扱っているのは事実。
現実にこの舞台を観に来ている現代の観客の視点から見れば、義兄弟や忠愛よりも、少年愛の美学よりも、ゲイの人権や解放よりも、BLが切り口として一番親しみやすいとは思います。
しかしテーマとすべきは、観る人の心を揺さぶるのは、ジャンルや切り口(今回はBLだが)に関係なく、その奥の「愛」じゃないでしょうか。
より純粋な愛であるため、身分を越え、タブーを越え、批難をに耐え、さらに性別すら越える。
プラトニック・エロスの立場から言えば、ふすま越しのシルエット本番など、あってもなくてもよい。
つまり、BLジャンル、男色ジャンルをアウフヘーベン(止揚)させて、普遍的な「愛」のテーマに持っていく方向性を見出せないか、という試みです。
大きく出たな、と言う感じもしますが、世にある良心的なBLは、結局求めるものは純愛である、と言うことがほとんどなんですよ。(半分心ならずもホモSMばかり描いてしまう作家が多いとしても)
以下、私の解釈する主要キャラのステージですが・・・。
○大川友右衛門(市川染五郎)は「愛」のステージの人。
「純粋な恋」「無私無欲の愛」の体現者として、愛に殉じたヒーローとなります。
○印南数馬(片岡愛之助)は、衆道・男色ステージの人。清廉な少年に見えても、(意識的にせよ無意識的にせよ)魔性を秘めたジルベールです。
○そして殿・・・・細川越中守(市川門之助)はBLステージの人。
(はい、今から説明します)
【殿がキーのBLトライアングル妄想】
いかに美しくとも、染サマ愛サマのラブラブだけだとちょっと見てられない部分があるじゃないですか。男女だろうと男男だろうと女女だろうと、ハッピーな相思相愛のイチャイチャなんてドラマにはならない。
キーは「殿」!だと思いました。
友右衛門は結局、殿への忠誠のために命まで捧げることになりますが、この時、「友右衛門・数馬・細川候」という、「ゴールデントライアングル」が完成する。
「あ、できた」と思いました。
私は、PBLはカップルではなく、トライアングルが基本だと思っています。
だから、細川越中守が入ることによってグッと、いやググググッと、BL歌舞伎としての格、質が上がったのです。
以下妄想。(細かく行きます)
殿はもともと美しい小姓数馬を愛していたんですよ。
まだ散らすには惜しいと思っていたにせよ、散らすなどとは関係ない清い恋心だったとしても。
それを突然どこの誰ともわからない小者にさらわれて激怒した。
けれど話を聞けば元武士であり、由緒正しく勇猛の誉れ高い男であるらしい。
斬ってこの二人を失うよりは、自分の手元において忠誠を尽くさせたく、美しい義兄弟の大望を果たさせてやろうと思った。
そしてなぜ、殿がここまで二人を優遇するかといえば・・・・。
一つ目の説としては、嫉妬の反動。殿は数馬を愛し、友右衛門に嫉妬を感じていた(無意識下にでも)からでしょう。
誇り高い殿はそれを否認する必要があり、そのために分を超えた優遇を与えてしまったのだと思われます。(精神分析的にはそうなるでしょう)
二つ目の説としては、プラトニック・BL。
殿は友右衛門のことも気に入ってしまったと。
美しい数馬を愛している。
数馬を愛するナイスガイの友右衛門にも、男としてまばゆいものを感じる。
けれどどちらかをどちらかから奪おうなどという気持ちには絶対なれない。
このペアを、自分の膝元に所有しておきたい。
この関係性を、自分が介入することで壊したくない。
こうなると(誤解を恐れずに言いますと)、殿の立場は、腐女子の立場そのものなんですよ。自分に絶対手の届かないところにある理想のカップルを愛する、と言う点で。
大昔からあった演目とはいえ、今見るとBL歌舞伎という感じがするのには、この殿の存在が大きいと思う。
男色には直接関わっていないにもかかわらず。
いや、観念上でしか関わっていないからこそ・・・・!
殿にはまた、プラトニックな純潔志向が邪魔をして、常にずれた言動で爆笑を誘う存在であって欲しい。(友右衛門を士分に取り立てる決定をした時のように)
【閑話休題:『組!』のトライアングル】
横道ですが、この殿には、『組!』の容保公(筒井道隆)がかぶる。
山本土方と香取近藤とのゴールデントライアングルにしても、続編における山本土方、オダギリ斎藤とのトライアングルにしても。
容保公は新選組隊士のように血を流し合って(血の契りを持って)戦うことはなかった。けれど、誰よりも近藤さんを中心とする新選組隊士を愛し信じていた・・・という点で、この細川候と立場が似てくる。
また、トライアングルとしては「局長×副長×総裁」の愛之助さんを含む組み合わせも重要。榎本総裁は殿とは違いますが、はじめてステディな二人から土方さんを奪おうとしたロマンティストとして永遠に記憶されます。
(史実じゃなくて『組!』世界のことだとご理解くださいませ)
私にとって『新選組!』における山本土方の魅力は、この物語に散りばめられた多くのトライアングルほとんどすべての一頂点になっているということが大きい。
【閑話休題:念のため】
念のために言っておきますと、「男性同性愛」と「BL」は違う。
BLも広義には同性愛の物語ですが、その中で「女性向け」に特化したものです。
異性同士の恋愛を、当事者にはなり得ない女性が愛好すると言う嗜好。
(自分の中にあるこの嗜好の謎に、ずっと取り憑かれています)。
通常「腐女子」というのはざっくり言えばBLファンのことですが、腐女子的感性を持った人は実は女性に限らない。
ネットの中で「腐男子」と名乗り、女性向けのBL本を愛好している男性もいます。
ゲイ的な、あんな男と恋に落ちたい、と言う気持ちではなく、女子らと同じように、「美しい男同士の恋愛を手の届かない位置から楽しむ」、と言う感覚。
彼らはホモとは一線を画すと思う。当事者としてのゲイのラブストーリーにははまれない。
自分にはけして手の届かない男性同士の愛や絆を愛しているように思えます。
だから、殿(細川候)を、「腐女子的立場そのもの」と言ったわけです。
数馬と友右衛門は同性愛者ですが、殿はBL(義兄弟とか血の絆と言う名前の)を愛する心優しきロマンティスト、腐男子です。
この感覚は実はもっと広く、BLという分野について全く知らない男子の間にも、存在していると思います(私の推論段階ですが)。同性愛とは全然違うという点では、女性の中の宝塚歌劇嗜好と似たようなものかもしれません。
また、クリエイターの中にもそういう才能が多く散見されます。
一番優れた、濃い才能が、この話題に度々登場しているクドカン。脚本家の宮藤官九郎です。
また、『組!』によってその資質がはっきりした三谷幸喜。その他、高名な歴史小説作家にも見受けられます。司馬遼太郎、浅田次郎には、BL的感性への理解が間違いなく感じられる。(歴史小説では特に新選組を描かせるとはっきりするでしょう)
【数馬は魔性のオトコに】
本題に戻りまして、愛之助さん演じる美少年印南数馬。
やはり『真夜中』の喜多さん(中村七之助)がそうであったように、一見おとなしめだが魔性を秘めた役に発展させて欲しい。(舞台でも、一途な中にもその雰囲気はありましたね)
(以下妄想)
いくらでもディープにできる。親を斬殺した鬼畜横山に少年の頃犯され、それ以来恨みと共に男色の性癖が植え付けられてしまったとか。
友右衛門を愛しているのは本当としても、悪い性癖が出ることがある。
殿を誘惑してあわや・・・というシーンがあったり、鬼畜横山に秋波を送って騙したり、友右衛門の妹菊を毒牙にかけたり・・・(バイですね)。
竹宮恵子『風と木の詩』のジルベール・コクトーです。
不運もあるけど、数馬に原因の一端もある。
疑われるようなことをしてしまうのも、実は友右衛門を愛していながら不安でたまらず、友右衛門の愛を絶えず試さずにはいられないから・・・・。
腰元あざみを誘惑して火付けをそそのかすのも、実は数馬であったという展開にしてもいいかも。
毒や罪のある凄絶な美しき魔性の数馬、愛之助さんで見たい!
【友右衛門は長瀬弥次さん風に】
最後に友右衛門。
数馬を一途に愛する天下のバカポジ男。徹底的にバカを貫いて欲しい。『真夜中の弥次さん喜多さん』の、長瀬智也演じる弥次さんと初めからどうしてもダブります。
細川越中守は数馬と自分を許し、居場所を与えてくれた。
この殿の恩に報いるには、死をもっても足りない。そう思ったことでしょう。
数馬と自分の間に、殿という存在を意識するようになった。
友右衛門は、あっぱれ武士の誉れ、忠義の鑑と讃えられているけれど、それに居心地の悪いものも感じているんじゃないか。
「実はオイラは、そんなものじゃない。浅草寺で数馬を見かけたあの時から、ただ数馬のそばに居たかっただけ。仇討ちが望みなら喜んで手伝ってやるけれど、武士道だとか忠義だとかあんまりどうでもイイのさ」
「なんでこんなにオイラはオマエが好きで好きでたまらないんだろう?(男同士なのに)」
「オイラに抱かれてオメェが気持ち良さそうにしているのが、オイラも一番シアワセな気分なのさ」
「オイラとオメェがあそこで死なずに一緒に楽しく暮らせたのも、仇討ちができたのも、みんな殿のおかげなんだ。オイラはひとっつも後悔してネェぜ!」
ついつい弥次さん風の町人言葉になってしまうのが不適切なんですが・・・お許しを。
あの明るいコミカルな染五郎さんに、そういうニュアンスのセリフを言って欲しいなぁ・・・。
そして明るく、堂々腹かっさばき、大切な書を守り、火達磨になってみごとに階段落ち。
この時、バカは殉教者としての聖性を帯び、殿の内面におけるBL的葛藤、数馬の罪のあるエロス愛が、浄化される・・・と。
衆道愛も義兄弟の義理も命を捨てた忠義もいろいろ併せ持ったヒーローより、バカみたいに単純明快、「オイラはオメェが好きなだけ」のヒーローの方が、胸を打つ。
《参考》ヘドウィグはただ、トミーが好きなだけだったんですよ(by耕史)
染五郎さん、友右衛門の「バカ」を気持ちよくつかんで演じてくれました。
愛之助さん(総裁)目当てに出かけたようなものですが、染五郎さんの演技にとても惹き込まれました。歌舞伎の基本をしっかり身につけていながらそれにとらわれず、現代舞台と一線を設けない自由な表現を活用しているように思えて。
【宮藤官九郎脚本での舞台化、映画化を望む】
う〜ん、しつこいですが、こういうディープな喜劇を書かせたら、当代宮藤官九郎に及ぶものはないでしょう・・・・。
『ピンポン』『池袋ウェストゲートパーク』『タイガー&ドラゴン』『真夜中の弥次さん喜多さん』など、すべてPBLの香気漂う名作です。原作つきが多くても、見事すべて彼のオリジナルな作品にしてくれる。
明確に男同士の肉体関係を伴う『弥次喜多』にしても、もっとも一途なプラトニックBLをテーマにしている「愛の物語」。
出世作の『ピンポン』のペコとスマイル(窪塚洋介とARATA)の物語は、永遠に心ときめかせてくれます。松本大洋の原作もいいけど、原作とは明らかにテーマの置き所が違う。
また中村獅童が一般に知られるようになった映画でもある。
『弥次喜多』の七之助さん、勘三郎さんも出ているように、昔から歌舞伎方面には親和性がある。
(こういうところは三谷さんと似ていますが)
本格歌舞伎とは違いますが、宮藤官九郎の脚本による劇団新感線の「いのうえ歌舞伎」、『蜉蝣峠』を先月「ゲキ×シネ」で見ました。ビンビンに良かった。
この路線で、『染模様』が上演されたら、さらにこの古典に別な血が通いそうな感じがします。
さらに、染五郎さんは劇団新感線にも何度もゲスト主演してます。『髑髏城の七人(アオドクロの方)』、『朧の森に棲む鬼』。
歌舞伎『染模様』を本格的に現代に甦らせるためには、どうしてもクドカンに脚本を手掛けてもらいたいなぁ。または劇団新感線「いのうえ歌舞伎」にて。(染五郎さんで)。
またはこの歌舞伎を下敷きにして、『弥次喜多』路線の映画にしてくれたらもっと多くの人にアピールできるかも。
【テーマは「愛」】
そして、忠義譚や仇討ち譚の体裁をとりつつ、男色衆道のカテゴリをも越えた、「究極の愛の物語」にして欲しい。
もともと『蔦模様』にあった、義兄弟、血の契り、絆、忠愛、衆道。
現代になって付け加えられるゲイ、少年愛、BL的な要素。
名前は何でもいいけれど、「いろいろな愛が描かれています」(インタビュー)より、「結局愛だけさ」の方がアピールできる。
ひたすら相手を愛しく思い、相手の心を欲し、相手のためには命も簡単に投げ出してしまうような、打算も損得もなく、男女関係なしの純粋な愛。
切り口をBLにするにせよ、この作品がテーマとして煮詰めるべきはそれだと思うんですが、どうでしょうか。
四回にわたって書き継いできましたが、ようやく一応の着地点を見出しました。
最後まで読んでくださった方には、心から感謝いたします。
読んでいただいてとっても嬉しいです。
そちらのブログも早速訪問させていただきました。まだ松竹座の時の部分は呼んでいないのですが、そのうちコメント書きますね。
「腐女子でオタクな染五郎ファン」が読んで下さったらなぁ・・・と思っていたのでどストライクです。
歌舞伎にも詳しくていらっしゃるようなので、ド初心者の私としてはドキドキしちゃいましたが、広い心で受け止めていただいてありがとうございます。
>もともと、今回の舞台は歌舞伎初心者さんの感想がとても新鮮で、
ホッとします〜〜。まさにBL的関心が染模様を観に行く動機だったんですが、染サマの演技にはほとほと感服しました。
そちらに書いてあった、「女方やってる時に思わず惚れてしまいそうな人は?」という話が面白かったです。また染サマがBL発言をするたびにヒヤヒヤするというのも同感です。
でも、歌舞伎って本当に、幅が広いですよね。とくに染サマの演技は・・。
>もう本当に、ひとつひとつに語りたいことばかりで(同意とツッコミと質問と)、
どうぞ、いつでもいいのでよろしくお願いします。反対や疑問の意見も、こっちのインスピレーションが広がるので大歓迎です。
>歌舞伎には、直接ではないにせよ、男×男を思わせるものはけっこうある(今歌舞伎座で上演中の、白波五人男の弁天小僧とか)
歌舞伎座が終わっちゃう前に観に行きたいです。ただ土日は高い席以外はいっぱいなので、有休とって行かないと・・・。
本当に初心者なのですが、今後ともよろしくお付き合いのほどをよろしくお願いします。