土曜日に『飛龍伝2010 ラストプリンセス』観てきました。
一昨年の夏、『幕末純情伝』で、往年と変わらぬパワフルな揺さぶりをかける舞台を堪能させてくれたつかこうへい。
今回は、、つか劇の中でも『熱海殺人事件』と並んで古典と言える『飛龍伝』。
時代時代に合わせて大きく変えてきているでしょうけれど、どうしてもまた観たかった舞台です。
20代の頃、『初級革命講座 飛龍伝』(平田満・長谷川康夫・石丸謙二郎・井上加奈子)で膝を抱えて初観劇し、圧倒されました。
(これまで平田満と風間杜夫で観た、と思い込んでいたのですが、今回調べたら誤解だったとわかりました)
当時は他に『蒲田行進曲』(加藤健一・柄本明)『いつも心に太陽を』(風間杜夫・平田満)も観ました。
その後は一昨年までずっと観ていませんでしたが、20年前風間杜夫が出る頃には、今のつか劇の目玉でもある派手なカーテンコール、タキシードでのダンス・パフォーマンスが始まってました。
しかし今回は、先月25日に自らの肺がんを発表し、最後まで舞台を作り上げることの出来なかったつかこうへい。
さぞかし無念だったろうと思います。
【徳重無残】
期待と不安に胸を轟かせて開演時間を迎えました。
四半世紀前に観たキャスト四人の小劇場版とはすっかり違う大きな舞台とたくさんの人数、激しい演出に目を見張りましたが・・・・。
ゴメン、やっぱりこれはつか劇として未完成すぎる。
特に・・・・ああ、悪いけどもう言っちゃうね。
ストーリーの中心となる、神林美智子と悲しい同棲生活をすることになる機動隊長山崎役の徳重聡、ひどすぎた。
滑舌の悪さも相当ひどいが、やたらとでかいのに身体のキレもなく、魅力と言われた目すらなんとなくオドオドして見える感じなのが一番悲しい。
特に一幕目の長台詞(自分の無学な生い立ちや美智子に出会った時のことなどを語るシーン)が、もたない。
平田満なら、ここでたっぷり引き込んで、どんなに笑わせ、泣かせてもらったかと、今もありありと思い出すような長台詞です。
ところが覚えたセリフを早口で言うのが精一杯という感じ。機関銃のような早口はつか劇の特徴だが、滑舌の悪い早口は聞き取れないし、ズルズル流れているだけ。耕史君のよく言うところの「演技の引き出し」が乏しすぎる。
あまりのひどさ(脳内に平田満があるから余計に感じるのだが)に、一幕目が終わったときには青ざめてしまいました。
二幕目は、神林美智子(黒木メイサ)との掛け合いが中心だからますます心配したのですが、メイサの演技が素晴らしかったので、二人のシーンは何とか原作の持つ感動を伝えることが出来、一幕目よりは見られた。
とはいえ、私は脳内で英語を日本語に変換するように、徳重の棒台詞を平田満の口調にストリーミング変換再生しながら観劇する、という荒業をこなしていたのでした。目の前のデクノボーでは、とても耐えられない。
徳重の唯一受けたギャグ、「舘さんと渡さんを呼んでくるぞ」は、あまりに痛々しくて笑えなかったでございます。
「十億円」も出るかと思った。十億円はまだ使い切っていないだろうから、なくなる前に引退してそれを元手に別な人生を見つけて欲しいけれど、総理の息子まで追い落として「21世紀の石原裕次郎」として得た賞金だから、そうもいかないのだろうか。
それでも、あのコンテストの時は、群を抜いた背の高さ(ひょろひょろではない)、往年の大俳優のような風貌、大きな黒い瞳には憂いを帯び、「これは!」と思わせるものがあったんですよ。
しかし、あまりパッとしなかったのはこういうわけか、と舞台を見て思った。
むごい。
本当は今回が、徳重一発逆転の最大のチャンスだった。
つかこうへいの演出はよく知られていることだが、役者を徹底的に追い詰め、役者としての自我を破壊した上で再生させる。
日本映像界の唯一無二の存在である阿部寛だって、つか劇で鍛えられるまではウドの大木だったんですよ。
草g君が演技開眼したのも、つか劇。
「石原さとみを女にする」と宣言し、女にしたのもつか。
つか劇にミスキャストはない。
アイドル女優とか、舞台経験ゼロのアイドル女優でも、人気の盛りを過ぎて行き場を失った感じの俳優でも、何かを見出したなら大抜擢。
今回など、山崎が香川照之、桂木が堤真一、ならすぐピッタリとイメージできるが、そういうコースをつかは取らない。
特に、徳重君のような「惜しい」タイプは、もっともつかの改造意欲をそそるタイプかもしれない。
今後の彼と・・・いや、それ以上に今後のつか劇のことを思うと、暗澹とした気分になる。
つかこうへいは脚本家、小説家でもあるけれど、一番の才能は演出家としてではないか。(これは本人もどこかで以前語っていた)
出来上がった脚本を渡すのではなく、「口立て」によって俳優に伝えていき、稽古を通じて変幻自在に変わっていく芝居。
不世出の演出家、病気の克服と復活を祈ります。
【天才?黒木メイサ】
さて、柱となるはずの山崎が無残な出来であり、他のキャストもいっぱいいっぱいという感じな中、一人輝きを放っていたのが黒木メイサ。
「ラストプリンセス」である主演、神林美智子役です。
「つかこうへいの秘蔵っ子」とも言われ、最近の「ちょっと休憩しませんか?」の対談も記憶に新しい。
耕史君がそのとき感心していたように、デビューが『熱海殺人事件・平壌から来た女刑事(2004年)』の主演だという。
これ、過去の事実として聞いても信じられないんですよ。毎回役柄を変えてくるとはいえ、あのサディスティックな愛と美意識で世界に相手に戦う木村伝兵衛部長刑事が源流にある役でしょう?
15歳の女の子にやらせるって、冒険にしてもどういうコト?
観た方がいらっしゃったら是非、感想や評判を教えてください。
今回、心からびっくりしました。
精神的支柱であるつかこうへいを欠いた舞台で、彼女一人が「つか劇」を成立させていたかのようにすら思えた。
他のキャストが滑舌も悪く、必死の早口で喚くというか叫ぶというか、大変な状況の中、一人確実に美しくヒロインを演じきっていた。
31歳の徳重、40歳の東を盛り立て、沈みかけた舞台を必死で支えるジャンヌ・ダルク。一人で走らず舞台全体を救おうとする母性まで感じた。
ほとんど衣装は黒のジャージ上下のみ。一度上半身の肌を出すような黒のタンクトップがあっただけで、ラストのタキシード・ダンス(おなじみ)までほとんど衣装は変わらない。(カーテンコールでの赤いミニドレスが可愛かったです)
神林美智子、たくさんのオトコどもを従えて何度も踊るんですよ。
自分がただのジャージ、オトコどもが銀塗りでもタキシードでも、鳥肌が立つほどカッコいい。
毅然と凛々しい姿でありながら、また巧みな腰のひねりの色っぽいこと。
悲しい山崎との同棲生活でも、あの徳重の演技にイラつく風でもなく、山崎への愛と革命への理想に揺れ動く女性の心情を熱演。
いえ、熱演と言っても叫ぶでも喚くでもない、落ち着いて切々としたセリフ回し。
琉球王朝の血を引く者(今回の設定)として、誇らしげに頭を上げる姿もまた凛々しい。
メイサも沖縄出身、歌もダンスも堪能。演技は情熱を秘めつつも、ちょこまかせず堂々としたヒロインぶり。まさに大型若手女優の風格だがまだ21歳。
彼女は、TVドラマでも『風のガーデン』『任侠ヘルパー』なんかでおなじみですが、個性的過ぎる顔立ちが必ずしも得しているとは思えなかった。
けれど、「ドラマ<映画<舞台」と良くなる女優ですね。
私の愛する映画『クローズZERO』シリーズでも、あのケンカだけが人生みたいな野郎どものなか、ほとんど紅一点の存在を好演。
舞台で観るのは初めてだけれど『女信長』『あずみ』でも主演。
押しも押されもせぬわけだ。
一昨年の『幕末純情伝』の石原さとみもなかなか良かったですが、メイサの方がずっといいなあ。
天才かもしれないなぁ・・・・。
【東幹彦と、その他】
●トライアングルの一点、全共闘の桂木役が東幹彦。(最近はみっきー)。
彼は頑張ってました。
・・・それなりに。
しかしいかんせん、役者としてのオーラが足りない。
桂木はかつての飛龍伝(だいぶストーリーや役柄が違う)なら長谷川康夫、『蒲田行進曲』で言えば銀ちゃんの役ですから、一番華があってしかるべき役。
挫折しても逃げてもずるくても保身のために自分の女を売っても、演じようによっては一番カッコいい役のはずなんですよ。特に今回のように対立する山崎が弱ければ、実質的主役になったっていい。
しかし、そこまでは行かなかったです。むしろ調和的な性格が、舞台をまとめるのに役立ってはいたし、東さんが舞台の柱となっていた感もあるけれど、彼が支柱とはなんとなく寂しい陣容。
一番笑いは取ってました。「アデランスはわからない」のCM(新庄剛志とグッさんとトリオで登場するアレです)のネタで踊り、クールな黒木メイサが演技でなく笑いが止まらず困ってるのでは?・・・と思う場面もあり。
●話題の演歌歌手(若くて姿勢が低いので話題)大江裕さんの登場する回ではなかったんですが、つかなしでの大江さん、ちゃんとやれてたのかなぁ・・・。
●ひとこと誉めねばと思うのは、カラテカの矢部太郎。
昨年なんとノータリン土方を好演し、大いに笑わせ泣かせてくれました。
身体は貧弱、滑舌も昨年以上に悪く、演技の幅もない。
けれど、彼はつか劇のエッセンスを身につけてるんですよね。
曰く、どSでどM。
「ひょっとこ」というアホチビ闘士ですが、黒木メイサと同棲し処女を奪うという点で山崎の特性を分け持ったような役が作られてました。
このままか、整形して徳重と入れ替わって機動隊山崎役になるんじゃないかとマジ思いましたもん。
沖縄ブス大のメガネブスだと思っていた美智子が、沖縄の富豪の娘で東大物理学の天才でおまけに超美人だとわかったとき、ひょっとこが嘆きます。
「こんなバカだまして楽しかった?キミ、汚くない?汚くない??」
桂木に蹴られ続けながら神林に詰め寄るシーンは、まさにつか劇でした。
●あとは、昨年も登場の舘形比呂一(横浜国大闘士)、馬場徹(日大)もう一人の女闘士でダンスの素晴らしい渋谷亜希(東海村女子大)、赤塚篤紀(早稲田大)、舘形と愛を交わす木村和夫アダモ(長崎オカマ大)、など、各大学の闘士がにぎやかに盛り立ててくれました。
◆◆◆
最後のほうは、脚本の良さと全共闘も機動隊も次々に死んでいく華々しい悲劇に、やはりちょっと気持ちが高まりました。
40万全共闘を束ねる、神林の采配も凛々しかった。
後日談的な部分には、新版『飛龍伝』はこんなふうに終わるのだなぁ・・・という感慨もあり。桂木と山崎のラストシーンは、本当は萌え泣きもできるところなんだろうけどなぁ・・・。
3回の派手なカーテンコールは決まってたけれど、「ここだけは決めてやるぞ!」みたいな本末転倒の痛々しい情熱を感じたのは、私の底意地の悪さ?
そのうち、つか劇についてじっくり語りたいと思ってはいますが、内容・テーマに関しては、今回はやめておきます。つか劇として未完成過ぎるので・・・。
>黒木メイサについては数年前の彼女の熱海殺人事件の稽古場公演を拝見していますが、16歳の若さという事もあってか中身の全くない、台詞をただ一生懸命しゃべっているインド人のような女の子、という印象しか残っていません。
>長年のつかこうへいファンとしては、かなり残念なお芝居です。
そうですか・・・。私は学生時代に風間杜夫や平田満が出ていたころのつか劇を観て感動し、その後結婚や子育てで舞台とは離れ、ここ一年で二本見た、と言う感じで、ろくにものを知らないまま書いた感じですみませんでした。
でも、あの舞台の上では、私にはどう見ても黒木メイサが要に見えました。彼女がいなければもうつか劇として成立しない状態だと思いました。上手かどうかはわからないんですが、つかさんがメイサを気に入った理由はわかるような気がします。
>近年の飛龍に関して言えば、内田有紀さんがつかこうへいさんの意思を体現していると思います。
見てみたかったです。
>仰せの通り、桂木と山崎のラストシーンは、本当に萌え泣きできなければおかしいはずなんです。
ですよね!あの桂木と山崎は悲しすぎました。
つかさんの作った劇の脚本は残りますが、あの演出、スピリットを誰がどう継いでいくのか、わかりません。
つか劇は、もっと語られるべきことや、語られないままになっていることが多すぎるように思います。