水飴の書体 「アートが絵本と出会うとき」図録

February 01 [Sat], 2014, 9:27
こどものころ、私の家ではよく水飴を買っていた。おやつのかわりである。たしか一斗缶に入れられていて、それを割り箸で巻き付けるようにすくいとるのである。粘り気があって、すごく甘かった。そんなことを思い出した書体がある。
 2013年11月16日から2014年1月19日まで、さいたま市のうらわ美術館で「アートが絵本と出会うとき」と題された企画展が開催された。そのフライヤーに和字書体「はやと」が使われていることを知人のツイートで知り、この企画展を観に行くことにした。



 「はやと」が使われていたのはフライヤーだけではなかった。この企画展の図録の本文が、漢字書体の近代明朝体と「はやと」との混植で組まれていたのだ。近代明朝体に合わせるために、すこしサイズを大きくしているようだが、まぎれもなく「はやと」なのである。



 こども向けの絵本ということで、水飴を思い出した。「はやと」は水飴のようだと思った。粘り気があってどろりとしている書体である。しつこいぐらいの脈絡がそう感じさせる。そうでありながら、こどもが大好きな味とまではいえないかもしれないが、文字列から甘さがほのかに漂ってくるようなのだ。
 だがしかし、水飴は甘いだけのこどものおやつだ。「はやと」は、こども用の書体ではないと思う。展示された作品から影響されただけかもしれないが、「はやと」にはなにか絵画的な美しさがあるように感じる。水飴の甘い誘惑から脱して、大人の嗜好に向かうかのように。
 展示された絵画や絵本は、多くは大正時代につくられたものだ。そこにあらわれた絵はまさしく当時の先端的な美術なのである。私が生まれる前だからリアルタイムで見たことはないが、これらの絵本をこどもの私が見るとしたら、大人の世界を垣間見るように、こっそりと隠れて見たかもしれない。
 「はやと」は、瓦礫の中から拾いだし丹念に磨き上げた書体である。原資料の複数あるキャラクターの中から、「き」や「さ」にあわせて、わりあい粘り気のあるキャラクターを選んでいったのだった。そのときには、水飴のことも、大正時代の絵本のことなど少しも考えてはいなかった。この企画展の図録から呼び起こされた、ほんわかとした印象である。
 なぜ「はやと」が選ばれたのか、本当のところはわからない。わたしの個人的な印象で、絵本とアート、水飴、そして和字書体「はやと」をめぐる連想ゲーム、妄想がわきあがってきたということだ。書体は使われる場面を得て、読者によって新しいイメージが付加されていくのなのだろう。
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