異世界へ 雑誌『クウネル』より

January 27 [Mon], 2014, 9:19
正木香子著『本を読む人のための書体入門』(星海社新書、2013年12月25日)で、和字書体「たおやめ」がとりあげられ、つぎのように書かれている。

 中でも印象的だったのは雑誌「クウネル」(マガジンハウス)で川上弘美が連載していた短編小説です。川上弘美さんと「クウネル」という組み合わせは、ちょっとはまりすぎというか、なんだかいかにもという感じがして、最初はちょっと身構えたのですが、本文書体にこの「たおやめ」がつかわれていることで、そのページだけふしぎな異世界が生まれていました。見覚えのあるいつもの世界が、屈折率のちがう別のものに見えるような……。

雑誌『クウネル』で、川上弘美の短編小説が「たおやめM」で組まれていることも、欣喜堂書体がいくつか使われていることも聞いてはいたけれど、実際に読んでみたことはなかった。このように書いてもらったので、それじゃあ確かめてみようということにした。



 いま店頭に並んでいる『クウネル』(2014年3月号)をさっそく購入し、ページをめくり始めた。この雑誌は、記事ごとに使用している書体を変えているようだ。その記事に合わせて、書体を選択しているのだろうか。そんなことを思いながらページをめくっていくと、川上弘美の短編小説「ふたりでお茶を」に出会った。なるほど、確かに「異世界を感じる……」なのだ。
 女性向けの小説のためだけに「たおやめ」が設計されたのではない。けれど、しなやかで優美な女性を連想して、この書体を「たおやめ」と名付けたということを思えば、このような小説にはうってつけなのだろう。「たおやめ」という書体の魅力は、こどもにはわからないかもしれない。
 川上弘美は、『蛇を踏む』で第115回芥川賞(1996年)を受賞している。『クウネル』では、第1号(2002年4月1日)から12年間、ずっと短編小説を連載しているそうだ。すでに3冊が書籍化されているが、残念ながら本文書体に「たおやめ」は使われていない。

 もうひとつ気になるページがあった。最終ページの吉田篤弘のエッセイ「古色蒼然」が、和字書体「ますらおM」で組まれていることだ。この最終ページのエッセイ、執筆者は毎号変わっているが、ずっと「ますらおM」が使われ続けているようだ。
「ますらお」は、「たおやめ」と対になるようにと考えて名付けた。おおらかで勇猛な男性を意味することばだが、どちらかというと好々爺のようなほんわかとしたイメージが感じられる。少なくともこの「古色蒼然」というエッセイにはぴったりなのかもしれない。
 雑誌ではゴシック体で本文が組まれることは少なくない。「ますらお」がほかのゴシック体にくらべて圧倒的な存在感をもっているということはないだろう。それでも、このエッセイでこの雑誌を締めていて、それが「ますらお」で組まれていることで、しずかな異世界があるように感じた。
 吉田篤弘は、小説を執筆するかたわら、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作とデザインの活動を行っている。ちょうど今、世田谷文学館において「星を賣る店 クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会」が開催されている(3月30日まで)。
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