八神、ハッピーバースディ!!!!!!!!(鴻上会長の口調で
まぁ遅れましたがそれはいつものことなので。ちゃんと一話完結したの書いただけ今年のわたしはえらい。ということにしてくださいすいませんごめんなさい
なんかもー八神がただのおっさんですが、うちの八神はこんなんです。仕様です
朝からオーズもスイプリも夫婦過ぎて目が当てられませんでした。なにあれ。わたしをころしにかかってきているのか
そういえば諸事情によりしばらくアルコール禁を食らってしまいまして、煙草は吸わなくても何とも思わないんですが、酒は飲めないとなるとすごいストレスですね。ぐぎぎ!
■ ハンプティ・ダンプティ
「おめでとうございます」
また一つ、その言葉を投げかけられてはやては微笑んだ。
「ありがとぉ」
「おいくつになるんでしたっけ?」
「24や、って。君、乙女に歳訊いたらあかんって」
「ぷ、誰が乙女ですか」
「あー。君それはめっちゃ失礼や。もうええ、君、減給」
「うわー、職権乱用ですよぅ」
笑いながら、その部下はおざなりな敬礼をかわして廊下を行き過ぎていく。はよ去れー、とこっちもひらひら手を振ると、はははは、とまた高い声が上がる。
彼女は資料科の子で、他部署なのだけれども何度か仕事の上でやりとりするうちに意気投合し、いっしょに飲みに行ったこともある。ずいぶん仰々しいはやての経歴にも気後れすることなく、気軽に接してくれるので、はやても話していて楽だった。
ああいう子は、得がたいものやな。
自分の職場に戻りながら、なんとなく思う。別に気詰まりというわけではないのだけれど。でも部下の面々を思うに、はやてを信仰に近い崇拝をしている者がいるのも事実で、そういう部下の上気した顔を見ると、このごろはいささか疲れを覚えるのもたしかだった。
「うーん……」
リィンはいない。ヴィータといっしょに、古代ベルカに関する資料が必要だとかで他局へ出向中だ。
脇に抱えているのは、ものの数分あれば目を通せるくらいの書類。今日の仕事は、もうそれで終わりだった。いつもなら日付を越えるのもザラなのだけれど、今日は特別だった。というか、その例の部下たちがいつのまにか根回しして、はやての仕事を先んじて減らしてくれていた。
「だって今日、お誕生日でしょう」
よく知っているなぁ、と感心した。はやては情が薄いわけではないのだけれど、でも友人の誕生日だって結構忘れがちなのだ。それであとになって恨みがましく責められたりもするのだけれど、覚えられんものはしゃあないやん、と思う。それともやはり、自分は情が薄いのかもしれない、とも思う。
こんな部下の気遣いを素直によろこべないのは、人間味が足りないのかもしれない。
そりゃ気持ちはうれしい。けど、仕事は。はやての誕生日だからって待ってはくれないし、犯罪の類は減ることもない。
こんな日くらい、と彼らは云うけれど、こんな日だからこそはやてはうつつを抜かしていられないのだと思う。
だって今日は、自分がこんな世界に片足を突っこむことになった、その日だ。
午後の陽が差し込む中空をぼんやりとながめるはやての目には、実際にはないけれど、黒い一冊の本が見える。闇の書。よく書評なんかでわたしの人生を変えた一冊とかいう見出しがあるけれど、この本はまぎれもなくはやての人生を変えた。ただし、物理的に、だけど。
「ううむ」
もう一度うなって、はやては足を止めた。日射しがちかちかする。昨日も夜更けまで起きていたから、目があまり強い光に耐え難い。目蓋を指で揉むとぐぐっと鈍い痛みがあった。
ただでさえこのところ、遠くのものが見づらい気がしている。もともと猫背気味で目に悪い悪いと云われていたのに、連日のデスクワークはさらに追い打ちをかけているようだ。
「あかん、眼鏡でもかけないかんかな」
「はやてちゃん似合わないんじゃない?」
気が抜けた独り言にまさか返事があると思わず、はやては飛び上がって驚いた。
「え、だ、な、なのはちゃん!?」
「驚き過ぎだよ、はやてちゃん」
はやての背後に立っていたなのはが、情けなさそうに呆れている。白い教導隊の制服が、日射しよりなおあかるくて目に痛い。
「や、せやかて……」
おどろくよぉ。うめくように云って、壁にもたれかかる。人の気配には聡い方だと思っていたのだけれど、よほど疲れていたのだろうか。それともなのはの気配の消し方が尋常でないのだろうか。
後者やろな、と半ば思考放棄なレベルで可及的速やかに結論づけてなのはの方を見れば、気味悪そうに顔をしかめている。
「なぁに、にやにやして」
「え、にやけとる?」
「すっごく」
「なのはちゃんハンパねぇー、って思っとったからかな」
「どうせ良い意味じゃないよね」
「うん」
「サイアク」
こつんと小突かれて、なはなはと笑う。楽しい、と思う。さっき。の、胸にまとわりかけた靄が、すっとどこかへ行ってしまう。消えたわけではない、けれど、とりあえず目に付かないところへ行ってくれたならそれでいい。どのみちあれははやてが一生胸のなかに飼いつづけなければならないものだから。
「それよりどないしたん。こっち来るの、めずらしない?」
「そりゃ八神さんにご用事があったからね」
「ほほー」
こんな日にわざわざなのはが来るのだから、実は最初から目的はわかっている。なのはと来たら普段は億劫がって滅多に電話も通信も入れてこないくせに、人の誕生日だの何だのは、びっくりするくらい覚えているのだ。
「だってさびしいでしょ」
そんなことを云うけど、ほんとは自分がさびしいからだって、はやては知っている。自分のことも、忘れてほしくないのだと。なのはにはそういうところがある。それがわかるのは、あまり認めたくはないけれど、はやてにも似た部分があるからに他ならないのだけれど。
「でもなんかあげたくなくなってきた」
なのはは一度は差し出したプレゼントを、ふたたびひょいと自分の頭上に上げてしまう。
「え、それはないよぉ」
ちょうだいちょうだい、と手を伸ばすが、悔しいことに届かない。もしかして、また背が伸びたんじゃないだろうか。フェイトは、いまだにそんなことを時々云うものだから。
「だってはやてちゃん、またいやらしい顔してたし」
「ひどいわ、これわたしの地顔やねん」
「じゃあ素でいやらしいんだ」
「そうそう、……って何云わせるの!」
びしー、とツッコミを入れると、冗談冗談、となのはは笑って包みをはやての胸元に押し付けた。わりに、重い。
「え、何これ。土偶とか入ってるの?」
「土偶って何。ほしいの?」
「ううん、全然。いらん」
「じゃあたぶんよろこんでくれると思うよ」
「へー、ありがとぉ。開けていい?」
「どうぞ。わたしもう帰るし」
「え。何で? お茶くらいしばこうや、おねーちゃん」
わざと柄悪く云って身をすり寄せて甘えて見せたのだが、なのはは怖い気持ち悪いあっち行ってとあっさりその身を引きはがしてぽいっとはやてを放った。
「うわー、ひどぉい」
「はは、ごめんね。時間ないのは本当なの。今日は顔見れただけで満足だし。また今度ゆっくり遊ぼ」
「うん」
じゃあ、とあらわれたときと同じように、気配うすくなのはは帰っていった。すぐそこの階段を曲がっていったせいで、ものの数秒もしないうちに姿は見えなくなる。カツカツと、なのはらしい快活な足音。じきにその足音すら聞こえなくなって、はやては床に目を落とした。
「なんか、夢みたいやったな」
管理局に身を置くようになって、年々顔を合わせる頻度は減る一方だ。そのせいだろうか、こんなふうにちょっとの間だけ会うと、それが全部夢みたいに思えてしまう。頬をつねって、夢じゃないと思う。病気みたい、とちょっとだけ思う。腕のなかにはなのはのくれたプレゼントがあって、それだけが夢でないことを示している。
軽く振ってみる。相変わらず中身はわからないけれど、はやては口元がむずむずしてきた。いつもそうだ。子どもみたいに、うれしくなってしまう。はやて自身は、今でも自分の生まれたこの日を、心から祝うことはできない。けど、代わりにみんなが祝ってくれる。心が、ちょっとだけ軽くなる。
おめでとう。
その言葉を、歪めることなく胸に受けいれることが、できる。
こんなふうに思えるようになったのも、二十を過ぎてからようやくのことだけど。
「土偶じゃないなら、何やろう。土器? 石器?」
土器やったらドキドキものやなー、なんて恥ずかしげもなく口ずさみながら、はやてはプレゼントを大事に抱えて、歩きだす。
梅雨前の晴れた空がきらきらして、相変わらず目に鈍い痛みはあったけど、今はそれも心地よく、思えた。