セシウム−137
読み方:せしうむ137
英語表記:caesium-137
人工放射性核種のセシウム−137はウランの核分裂によって生成され、半減期は、30.2年、β崩壊してバリウム−137mとなり、γ線(0.662MeV)を放出する。
この放射性核種は、過去の核実験によりフォールアウトとして現在でも環境中に存在しカリウムと同じアルカリ金属元素であるため植物などに取り込まれるので、これらの飲食物による被曝評価対象核種として重要な人工放射性核種である。
2.セシウム-137(137Cs)
半減期 30.1年
崩壊方式
ベータ線を放出してバリウム-137(137Ba)となるが、94.4%はバリウム-137m(137mBa、2.6分)を経由する。バリウム-137mからガンマ線が放出される。
生成と存在
セシウムの代表的な放射性同位体。天然では、ウラン鉱などの中のウラン238(238U)の自発核分裂によって生じるが、生成量は少ない。
人工的には、核分裂による生成が重要である。1メガトン(TNT換算)の核兵器の爆発で6,300兆ベクレル(6.3×1015Bq)が生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、14京ベクレル(1.4×1017Bq)が生じる。
図2に、スウェーデンのストックホルムにおける大気中濃度の時間変化を示す。
生体に対する影響
10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.13ミリシーベルトになる。また、1mの距離に100万ベクレルの小線源があると、ガンマ線によって1日に0.0019ミリシ−ベルトの外部被曝を受ける。
旧ソ連原発事故では、広い地域が1m2あたり50万ベクレル(5.0×105Bq)以上のセシウム-137 で汚染された。そのような場所では、セシウム-137のみから1年間に1ミリシーベルト以上の外部被曝を受ける。事故直後は、短寿命放射能の存在と内部被曝の寄与で年間10ミリシーベルトをはるかに超える被曝を受けていた。ふつうの人は、そこに住むことはできない。
11.セシウム-134(134Cs)
半減期 2.06年
崩壊方式
ベータ線を放出してバリウム-134(134Ba)となり(99.9997%)、軌道電子を捕獲してキセノン-134(134xe)にもなる(0.0003%)。多くのガンマ線が放出される。
生成と存在
人工的につくられる放射能。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応で生成するが、生成量はきわめて少ない。
人工的には、セシウム-133(133Cs、同位体存在比100%)が中性子を捕獲すると生成する。核分裂では生成せず、核兵器の爆発によっては生じないと考えてよい。原子炉の運転では、核分裂生成物であるキセノン-133(133xe、5.3日)のベータ崩壊で生じるセシウム-133が中性子を捕獲して生成する。セシウム-134が環境中に存在すれば、原子炉から放出されたか使用済み核燃料から出てきたものである。
電気出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉の種類と運転状況で変るが、5〜20京ベクレル((5〜20)×1016Bq)が蓄積する。この時に核分裂で生じるセシウム-137(137Cs、30.1年)との放射能強度比(134Cs /137Cs比)は0.4〜1.5の範囲に入る。
1986年4月26日に起こった旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、4京ベクレル(4.0×1016Bq)が放出された。名古屋で採取した大気試料では、134Cs /137Cs比は0.55であった。この比の値は核燃料が1年以上炉内に入っていたとする推定とは矛盾していない。
化学的、生物学的性質
セシウムの化学的性質と体内摂取後の挙動は、生物にとって重要な元素であるカリウムと似ている。体内に入ると全身に分布し、約10%はすみやかに排泄され、残りは100日以上滞留する。成人の体内にあるセシウムの量は1.5rで、カリウムの140gの約10万分の1である。
生体に対する影響
体内に摂取した時のベータ線による内部被曝が問題になり、10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.19ミリシーベルトになる。また、1mの距離に100万ベクレルの小さな線源があると、ガンマ線によって1日に0.0055ミリシーベルトの外部被曝を受ける。
10.ヨウ素-131(131I)
半減期 8.04日
崩壊方式
ベータ線を放出して、キセノン-131(131Xe)となる。ガンマ線が放出される。
生成と存在
ヨウ素のもっともよく知られている放射性同位体。天然では、大気中で宇宙線とキセノンの反応によって生成し、地上でウラン‐238(238U)の自発核分裂によって生じる。いずれにしてもその量は小さい。
人工的には、核分裂で大量に生成する。1メガトン(TNT換算)の核兵器が爆発すると、460京ベクレル(4.6×1018Bq)が生じる。電気出力100万kWの軽水炉を1ヶ月以上運転すると、310京ベクレル(3.1×1018Bq)が蓄積して、その後は同じ量が存在し続ける。
生体に対する影響
ガンマ線は放出されるが、ベータ線による甲状腺被曝が大きな問題となる。10,000ベクレルを経口摂取した時の実効線量は0.22ミリシーベルトになる。ガンマ線による被曝は甲状腺以外におよぶが、その線量は小さい。
外部被曝も考えておきたい。1mの距離に100万ベクレルの小さな線源があると、ガンマ線によって1日に0.0014ミリシーベルトの被曝を受ける。
子炉事故の際の放出
原子炉事故が起これば、大量の放射性ヨウ素が放出されると予想されていた。
代表的な事故の一つが、1957年10月にイギリスのウインズケール(現、セラフィールド)のプルトニウム生産炉で起こった事故である。700兆ベクレル(7.0×1014Bq)のヨウ素-131などが施設外に放出され、周辺地域で生産された大量の牛乳が廃棄された。
この事故をはるかに上回るのが、1986年4月26日に起こった旧ソ連(現、ウクライナ)のチェルノブイリ原発の暴走事故である。この事故では、30京ベクレル(3.0×1017Bq)が放出された。その影響は大きかったが、顕著なものとして甲状腺がんの多発がある。事故の影響を小さくみようとする専門家も居たが、そのような人たちもこの事実は認めざるを得なかった。
体内被曝までの経過
人がヨウ素を吸収する主な経路は、牧草→牛→牛乳→人の食物連鎖である。この移行はすみやかに進み、牛乳中の放射性ヨウ素濃度は牧草上に沈積した3日後にピークに達する。牧草から除去される有効半減期は約5日である。牧草地1m2にヨウ素-131が1,000ベクレル沈積すれば、牛乳1リットルに900ベクレルが含まれると推定されている。
チェルノブイリ事故では、放出量が大きかったために、飲料水、空気などを通る経路も考える必要があった。
ヨウ素-131
ヨウ素(元素記号I、原子番号53)の放射性同位体であり、原子炉のウラン-235の核分裂により生成され、半減期約8日で壊変する。甲状腺に集まりやすいというヨウ素の性質を利用し、ヨウ素-131を経口投与して甲状腺亢進症や甲状腺がんを治療するアイソトープ治療に用いられる。
放射性ヨウ素
読み方:ほうしゃせいようそ
放射能をもつヨウ素で、数種類のものがある。特にヨウ素−131(半減期8.06日)、ヨウ素−133(半減期20.8時間)は、ウランの核分裂によって生成される。従って、原子力発電所の事故では、最も注目される放射性核種である。
チェルノブイル原子力発電所の事故では大気中に大量に放出され、幼児に大きな放射線障害(ヨウ素は、甲状腺に集まる特徴があるために、甲状腺被ばくによる甲状腺機能障害が発生)を引き起こした。
またこれとは反対に、ヨウ素−131は、医療用としても用いられ甲状腺機能検査、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう;hyperthyroidism)や或る種の甲状腺ガンの治療に用いられる。