【健康オタク、末路へ】第32回:これぞコラボな自然農法! 

2008年12月28日(日) 16時31分
俺は本質的に無責任な男なのだろうか?

 タケオは轡田にバトンを繋ぎながら頭の隅っこで自責の念に駆られていた。いっつも自分が追いつめられると、近くの他人に標的をずらさせる。そんなんでいいのか?

 そんなことを思いつつ轡田を改めてチラ見すると、その表情は「自信」に満ちているではないか!口元には余裕ともとれる笑みまで浮かべている。

 佃さんも、質問の返事は轡田が応えるモノと感じたようだ。タケオは自分が(佃さんの)視界から外れたことを感じて、安堵した。

 轡田は開口一番「全然問題ないですよ!」キッパリと言い切った。

 轡田が発する二言目までは時間を要した。30秒ぐらいだったかもしれないが、タケオには45分くらいに感じた。

 「大丈夫ですよ。だってあの”フサエ”さん達は田んぼにいる期間以外は、さっきの柵の中にいるんですよね?彼女らを畑に来させない様にすれば、ミミズが食べられちゃう心配は少ないと思いますけどね。それに、水中で呼吸出来ないミミズは、わざわざ自分から田んぼの周辺には移動したりしませんよ。ねっ、そうですよね?」

 同調を促された佃さんは「そ、そりゃぁそうだな・・・」と納得した。あまりにも自信たっぷりに説明する轡田を見て、タケオは「また適当に話をまとめようとしてんなコイツ」と却って訝しげに感じるのだった。

 そうはいっても「そうゆう事ですよ。佃さんの無肥料栽培に合鴨農法とスーパーミミズをコラボさせれば、もう完璧な自然農法が完成しますよ!どの程度(ミミズを)放つか、時期はいつ頃からか、はひとまず置いといて、このアイデアを我々は東京から持ってきたんです」タケオは一気にしゃべった。我ながらアドリブも上手になってきたな、と自身に感心していた。

 轡田の視線を感じた。睨んでいる。会議の席でプレゼンを横取りされた気分なのだろうか?

 そんな2人の駆け引きを佃さんは知るよしもなく「へええ、アンタは只もんじゃないとは思ってはいたが、すんごい考えを暖めてここまで来たのか・・・」

 「そうです。僕らは真剣です!」轡田が割り込んだ。こいつラリッてるのか?

 そうこういってる内に、秋空を敷き詰めていた黒い雲が動き出し、大粒の雨がボトボトと落ちてきた。3人はあわてて家の中に戻るのだった。

                       *

 「ばあぁさん、酒酒酒!あっつくしろよ〜」佃さんはご機嫌だった。今回の同行は大酒飲みの森さんじゃないので、ここは轡田につき合ってもらうしかない。

 「いやいやいやいや、遠いいとこからワザワザ来てくれて・・・あっいいよいいよ、気イ遣わんで」そう言いながら、とっくりを傾けたタケオにお猪口を差し出す佃さんだった。

 轡田は横で固まっている。どうした、オマエがつき合わないと佃さんの一人酒になってしまうじゃんか・・・。

 「あのぅ・・」轡田が口を開いた

 「スイマセン。僕、体質的に酒、ダメなんですよ」

 場が凍ってしまった。佃さんの表情が険しくなってゆく。

 これはヤバイ。2人ともシラフなんて、佃さんが可愛そうすぎる。

 10秒考えて、タケオは決心した<よし、あきらめて今日は泊めさせてもらおう>

 「佃さん、今日は僕が飲みに来ました!」ナゼか手を上げながらタケオが叫んだ。

 「アレルギー治ったんですよ。だから今日は解禁日ってことでつき合わせて下さい!」

 前回「酒アレルギー」とゆうウソをついた事を先方は憶えちゃあいないと思ったが、タケオは好きでもない熱燗を頂く決心をした。

 「そうかそうか!じゃあアンタら今日は泊まってゆけや。ばぁさん、もう1本!」佃さんの機嫌が戻って来た。ハ〜良かった。

 横で轡田が小声で話しかける「タケオさん、酒アレルギーだったんですか?」

 瞬間的にムカついたタケオは「ウルセエよ・・・」

 轡田の表情がゆがんだ。ちゃぶ台の下で、中指の関節をとがらせて轡田の膝の横側(急所)にパンチいれたからだ。

 この役たたずめ・・・(つづく)

 

 

【健康オタク、末路へ】第31回:勝利感から一転、アドリブの限界 

2008年12月20日(土) 23時35分
佃さんの両目は、開ききって三白眼の様だった。よっぽどビックリしたのだろう。「こ、これが”助っ人”なのか・・・?」

 「そうです」タケオは右肩に重みを感じた。隣で立っていた轡田が寄りかかってきたらしい。「なんだウゼエな・・・」はねのけようとしたが、轡田の表情を見てタケオは驚いた。

 顔面は蒼白で、白目をむいている。コイツ失神してやがる!

 タケオは轡田の両肩を揺さぶり、3回ほど横っ面を思いっきり叩いた。佃さんの奥さんも心配そうに駆け寄ってきた。

 轡田は意識を取り戻した。「どうしたんだ?」タケオが尋問する。

 「あぁ、スイマセン。元々苦手だったのですが、あんな大きいのは初めてなんでつい・・・」

 「初めてって、これのことケ?」佃さんは地面から「助っ人」をつまみ上げて、轡田の顔面に近づけようとした。

 突拍子もない佃さんの行動に、轡田はギャァッ!と大声を上げて佃さん宅へ逃げ込んでしまった。タケオは感心した。この爺さん、なかなか面白いな。

 タケオに振り向きざま、佃さんは口を開いた。「この、毎日オレがみてるコイツが何で助っ人になるんだ?」

 人差し指と親指でつまんでいるソイツを、タケオに近づけながら問いただしてくる。オレもあまり得意ではないのだが・・・。

 「そうです。ちゃんと名前だってあるんですよ。『スーパーミミズ』ってゆう」

 「スーパーミミズ!?この化け物みたいなのが、スーパーって訳か?」

 「まあ、誰がスーパーって名付けたかは知りませんが、コイツを畑に放つだけで、葉っぱを食べまくる害虫を駆除してくれるんですよ」

 「本当か!?」佃さんがにじり寄り、顔が30cmくらいまで近づいてきた、恐い。

 つまんでいた巨大ミミズを振り回しながら、佃さんが畑に放り投げる様を見たのか「本当ですよ」と言いながら轡田が玄関より出てきた。

 「ボクもニュースで見ました。農薬をまくよりもずっと駆除効果があって、当たり前ですが野菜にも被害が出ないって・・・」

 轡田の意見は佃さんには響くらしく「フ〜ン、そうなのかあ・・」と納得している様子。

 タケオは自分がいまだに信用を得てないのが悔しかったが、そんなの気にもならないほどの「勝利感」に浸っていた。

 どうだ、この野郎!完璧じゃネエか。

 しかし、佃さんの次の質問にタケオはうち砕かれてしまった。「でも、よぉ・・・」

 「ハイ?何すか」「そのミミズがスゲエのは判った。しかし、ウチの合鴨達が」

 「と、ゆうと?」「食べちゃうんじゃねえか?」

 あ〜あ〜あ〜!!そうなの?

 タケオは救いを求めるように轡田へ振り向いた。轡田は・・・。
 (つづく)

【健康オタク、末路へ】第30回:土の中から救世主? 

2008年12月14日(日) 7時25分
「ほれっフサエ、お客さんだぞ!挨拶くらいせえよ!」

 「グゥ、グゥゥァア〜!!」頭を叩かれた「フサエ」は噛みつかんばかりに(歯はないけど)佃さんに向かっていった。

 「い、いえ、おかまいしないでいいスから・・・」轡田は、未だ「従業員」の合鴨にへりくだっていた。何だオマエ。

 「紹介するよ。今俺がぶっ叩いたのがフサエ、右端でしゃがんでいるのがキヌヨ、手前のめんこいのがジュン、奥のひと回りデカイのが働き者のテレサ・・・」何で最後だけガイジン?

 「あのぅ、皆さん女性なのは、何か理由が?」轡田は、的確だがトンチンカンな質問を佃さんに投げかけた。

 「あぁ?4匹ともメスなのは、たまたまだよぉ」屈託のない佃さんの解答。

見事なまでに期待を外した解答の為、タケオは脱力した全身を支えるのに、轡田の肩をつかまなければならなかった。目眩が・・・。

 「まぁ、あんたらも腹が減っただろう?さっき収穫したさつまいもでも食べるべさっ」何で北海道弁なの?佃さん。

 その時だった。タケオの足元で何かを気配を察した。雨が上がったばかりの、若干ぬかるんだ地面を見下ろした。そこには・・・。

 「タケオさ〜ん、行きますよ〜」轡田の声で我にかえり、佃さんの自宅に戻って行きながら考えた。今、見たのは確か?                      

                       *

 奥さんが蒸し鍋でふかしてくれた「巨大」なさつまいもは、予想を遙かに超えた甘みがあった。

「いやあ、見た目の大ざっぱさとは裏腹に、甘くて美味しいですねえ」隣に座った轡田は、タケオが思っていた事をそのまま口にした。ヒヤヒヤしたが、佃さんは以外にもほめ言葉と受け止めたらしく

 「だろう?よく言われるんだよ!ウチの(野菜は)他よりもデカイらしく、その為味は期待しないで食べるんだな。そんでみいんなビックリするんだよ、野菜の味がするって。でもそんなの、俺に言わせれば当たり前。味のしない野菜なんて、作ってて意味あんのかってゆうんだ・・・」

 確かに、そうだ。自己主張のない野菜を食べてもカラダには意味が無いし、だいいち美味しくない。

 今どきの子供が野菜嫌いなのは、この辺に原因があるのかもしんない・・・。

 そんなことを考えながら、タケオと轡田はさつまいもをほおばりつつ、佃さんの「ある質問」を恐れていた。

 ふとした瞬間に、おそれが現実となった。佃さんが2人に話しかけた。

 「で、さっきの月のリズムってやつだけどなぁ・・・。」ギクッ!

 「はぁ、はい・・・」返事が震えてしまった。次の言葉も予想通りだったのだ。

 「それが、麗奈から聞いていた新しい無肥料栽培のことか?」

 あちゃぁ〜、忘れてなかったんだ。どうしよう、轡田がテキト〜にでっち上げた「月のリズム」を信用していやがる。

 ウ〜ン・・・。ここは、開き直るしかない!

 「そうです!さすが佃さんは勘が鋭い!まさに、月のリズムに従って苗付け、収穫をしてゆけば、間違いなくベストな状態の野菜やお米が出来上がるはずです!」

 とにかく、勢いにまかせてタケオは一気にまくしたてた。轡田は横でタケオを不安そうに見上げていた。

 「その、月のリズムに加え、更にあるモノをプラスするんですよ、佃さん」

 「ほぉ?そうか」佃さんは身を乗り出してきた。「何かを足すワケだ。そしたら、害虫にも天候の変化にもひるまない作業が出来るって事か?」

 「その通りです」タケオの中で、何かがブレイクしかけていた。「しかも、一切の手間やお金はかかりませんし」

 「ってことは、身近にあるモノか?プラスするって・・・」「その通りです」

轡田が心配そうに見つめている。タケオは佃さんに気付かれないよう、素早くウィンクでかえした。

 「そ、それはすぐ手に入るモノけ?」変なナマリだったが、佃さんは急くようにタケオに促した。

 「手に入るどころか、身近にいますよ。さっき確認しました」

 「確認!?」轡田の方が先に驚いた。続いて佃さんが「どうゆう事だ、ウチにあるものを利用すんのか?」

 「まぁ、とにかく確認しましょう。”助っ人”は玄関先にいるはずなんで・・・」

 タケオはスタスタと玄関に向かい、靴を履き格子戸を開けた。佃さんと轡田はあわててついていくのだった。

 タケオは足元を見た。まだいるかな?・・・いた!

 佃さんが草履を履き、外に出た。「どこにいるんだ?」

 タケオはぬかるんだ足元を指さし「コイツです!佃さんにとって無肥料栽培のたのもしい”助っ人”は!」

 その「コイツ」はタケオにとって、助っ人以上に「救世主」となる(筈なのだが・・・)
 
 つづく

【健康オタク、末路へ】第29回:初めまして、従業員さん 

2008年08月13日(水) 23時25分
10月とはいえ、やはり閉め切った車の中は暑い。

 2人は、見合わせたようにエスティマのドアを開けて、外へ出た。

 轡田は溜息をつき「仕方ない・・」とつぶやき、顔をあげてタケオを見据えた。

 「じゃあ、それでいきましょう。『月のリズム』と『合鴨農法』で」

 「仕方ない、か」残念がるタケオを察したらしく、轡田は言葉を継いだ。

 「大丈夫ですよ。佃さんって、恐らく何十年も鴨川を出てないでしょう?『合鴨農法』なんて知ってる訳ないスよ」

 「そうかな・・」「そうですYO!」なんで、語尾が跳ね上がるんだ?まぁいいか。

  タケオが及び腰になっている。轡田は焦れたらしく「もう『月』と『合鴨』のセットで提案しましょ!ナンとかなりますよ。責任はとれないですが」

 2人は車から離れて、佃さん宅へ歩いていった。

 腕時計を見る。まだ10時30分・・・。ある考えが浮かんだ。「なあ、轡田・・・さん」「ナンですか?」

 「作業中の佃さんを訪ねてみようか」

                  *

 100ヘクタール以上はある農地には、様々な野菜が栽培されていたが、そのどれもが規格外の大きさだった。

 「話には聴いてましたが、大根・人参・キャベツ・白菜・・・本当に何もかもデカイ、ですね」

 「だろぅ?でも、食べてみると大味じゃなくて、むしろ野菜本来の味がするんだよ」

 「頂いたんですか?ひと通り」「2ヶ月前に、カブの浅漬けだけね・・・」

 「・・・・」無言のまま、2人は佃さんが収穫しているらしい甘藷(さつまいも)の畑へと歩いていった。

 佃さんの姿を見かけたので、タケオは声を掛けた。

 振り向いた佃さんは、汗まみれではあったが機嫌が良さそうだった。「オォ、来たのか。家でゆっくりしてればイイのにい」

 「なんか手伝いましょうか?」「気ィ遣わんでいいよ。もう、これ以上カゴに入らないから、今日は終わりだし」

 背負うためのたすきがついている丸カゴには、大根を思わせる大きさの甘藷が山盛りに入っていた。

 タケオは「じゃあ、これ運びますよ。オイショッ・・・・」両肩にたすきを通した。しかし・・・

 全く動かない。「無理せんでいいよ、分けて運ぼうや。そこの『月の先生』も手伝ってくれっかな?」

 「あ、はい」轡田は丸カゴから何本か甘藷を取り出し、佃さんにも何本か抱えて貰ったので、タケオは少し軽くなった丸カゴを背負って立ち上がった。情けない・・・。

 こんな(多分)百キロ近い野菜を毎日運んでんのか、この爺さんは・・。

                  *  
 
 3人は畑の測道を歩きながら、互いの身の上話を交換しあった。

 「へええ、12年も勤めた会社を辞めてまで・・・ワシも責任の重みを感じるなあ」

 「イエイエ、辞めたのはボクの勝手ですし、自分自身も変わりたかったので」

 自身の発言に驚いた。俺って、変わりたかったのか?そうだったのか・・。

 轡田は「でも、佃さんも大変ですねえ。誰か、手伝ってくれる人はこれまでいなかったのですか?」

 失礼な聞き方をする奴だ。しかし、佃さんは気にも止めずに返事をした。

 「手伝い?いるよ、4人も。もっとも『季節労働者』みたいなモノだけどな」

 「季節労働者?」タケオも疑問に思った。この農場に、佃さん夫婦以外に人がいるのか?

 「丁度イイ、紹介するよ。今は昼寝中かな?」タケオと轡田は自宅の裏へ案内された。

 「従業員、てゆうか友達でもあるしな」なんか、動物臭い・・・。

 「従業員」は柵の中にいた。佃さんに気付いて、鳴き出した。

 「グワァッグワァッグワァッ〜!」

 数えると、4人・・・いや、4羽いた。合鴨だった・・・。

 「こいつら働き者でなあ。春の2ヶ月間だけなんだが『穀象虫(コクゾウムシ』をしっかり食べてくれるから、助かってるんだ。ええと、隅にいるのがヤス子、手前で水を飲んでるのがサナエ、真ん中のが・・・」

 タケオの耳にはその先は入って来なかった。めまいがしてきた。やってんじゃん「合鴨農法」。

 轡田も無表情になり、固まってしまった。やがて、従業員に小声で挨拶を始めた。

 「初めまして、東京から来た轡田と申します。この度は・・・」
 (つづく)

 

【健康オタク、末路へ】第27回:なんで、何もかも知ってるんだ? 

2008年08月06日(水) 22時52分
「あの、車に忘れ物があったのを思い出しまして・・・」

 佃さんの奥さんにそう断って、タケオは轡田の腕を引っ張り、そそくさと表へ出た。

 「痛いなぁ、もう離して下さいよ!」エスティマの前まで来て、轡田がもがいた。

 「あ、悪い悪い。チョット力み過ぎた」タケオはパッと手を離し、溜息をついた。

 「しかし・・・スゴイねえアンタ。よく思いつきであんな適当な事言えるねえ、感心したよ。俺も途中から完全に信じちゃったよ『月のリズム』ってヤツを」

 「本当にヒドイ!タケオさんはヒド過ぎる!初対面の人相手に喋らせるなんて・・・」轡田は眼をひんむいて、タケオに喰ってかかった。

 「悪かったよぉ・・・本当に助かったよ。アンタを連れて正解だった。でも、さ」タケオは轡田の目を覗き込んだ。

 轡田はどぎまぎしながら「ナン、ですか?」

 「あの話、あながちデタラメじゃないんでしょ?月の満ち欠けとか、生命の誕生とか・・・」

 「も、もちろん、デタラメなんかじゃ無いすよ!その、農作物に当てはまるかは判りませんが、月のリズムをなめちゃあいけません」

 「いやいや、ナメテなんかなくて、それ実際使えそうじゃない?」2人は車に入り、佃さんを納得させる為の会議を始めた。

タケオの企みは決まっていた。

 会社も辞めたし、佃さんの実践する「無肥料栽培」を引き継ぐ覚悟はできていた。しかし、折角だから言いなりにはなりたくない。何か自分の「オリジナル」を示して佃さんを納得させたい。てゆうか、余りこき使われたくないのだ。

                       *

 「でも、それだけじゃあ弱いでしょう『月のリズム』だけじゃあ」助手席に座った轡田から切り出した。

 「確かに。何かあいまいだし、パンチが弱いなあ。『何か』と組み合わせる事が出来れば、最強なのになぁ・・・」

 タケオは頭を抱えた。考えろ、何か思いつけ・・。

 「ええと、例えば『木酢液(もくさくえき)』+『月のリズム』ってのは?」

 「ダメですよ。だって『無肥料』の権化みたいな人でしょ?そうゆう人にとっては(木酢液は)農薬みたいに解釈するでしょ?怒ってしまいますよ」

 ゲッ!何でコイツ木酢液を知ってるんだ?「天文オタク」のくせに・・・。

 「じゃ、じゃあ竹酢液(ちくさくえき)は?」「・・・同じじゃないスか」

どうやら、俺はこの男に「底」を見られている、とタケオは感じた。マズい。

 「そっかぁ、肥料を使わない、もちろん農薬も使わないとなると・・・・!」

 タケオの反応に轡田も気付いたらしく「何か、ナニか閃きましたか!?」にじり寄ってきた。

 「あ・・あのさ」タケオはためらっていた。「なんですか?」

 「佃さんが一番困っているのが、害虫の駆除だろ?それをやって貰う・・・」

 「やって貰う?ダレにですか」

 「だから、それを得意とする連中だよ」

 「得意?そんな人いるんですか」「人とは限らないだろ?君、アタマを柔らかく使いなさい」

 轡田はさすがにムッとしたが、しばらく考えて、観念したようだ。「判らないです。教えて下さい!」

 タケオに自信が戻って来た。「しょうがないなぁ。例えば、米に張り付く穀象虫(コクゾウムシ)だけど、それを食べてくれる連中を田んぼに離してやったら?」

 「はあ・・・」「お米には害虫が寄りつかなくなる。佃さんも楽になる。イイだろ?」

 「そうですね」「で、その穀象虫を大好物とする生き物が、実は・・・」

 間髪入れずに、轡田が話をさえぎった。

 「ひょっとして・・・『合鴨(あいがも)』ですか?」

 「えっ・・・」タケオは固まった。

 続いて、轡田が喋り続けた。「あのぅそれって『合鴨農法』のことですか?」

 ますます固まってしまった。自信が、音を立てて崩れてゆく・・・。

 「タケオさん、パクリはいけませんよ。せっかく期待したのに・・・」

 完全に立場が逆転した。こいつ、なんで何もかも知ってるんだ?
 (つづく)

【健康オタク、末路へ】第25回:いや、俺はスゴクないし・・・ 

2008年07月28日(月) 12時26分
轡田(くつわだ)の足元を見る。心なしか膝が震えているようだ。

 表情を見る。明らかに強ばっていて、涙ぐんでいる。ムリヤリ矛先を振った俺ってヒドイ奴かなぁ?

 身をを乗り出した佃さんは、轡田を睨みつけている。1分経過・・・。

 この場から離れたいナァ、トイレ借りようかな・・・。

 沈黙を破ったのは、何と轡田だった。

 「その、お話する前に、質問があります。よろしいでしょうか?」

 佃さんは一瞬うろたえた。「質問?・・・まぁ、答えられる範囲だろうな?」

 「ハイ、もちろんです」 

 タケオは眼を見張った。コイツ、何を言い出すんだ?

 「ええと、例えば佃さんは農作物の種まきや、苗を植えたりする日程は、選んだりしてますか?暦とか、周期とかで・・・」

 「暦?周期?そんなものにイチイチこだわってられるか」

 「そうでしょうね。では質問を変えますが、今までで何か、例年と農作物の生育状況が違う、もしくは枯れてしまった、さかのぼると苗付けの日も違和感を感じた、そんな経験はありませんでしたか?」

 佃さんは黙り込んでしまった。考え込む佃さんの姿は、妙に新鮮だ。

 呟くように「正直、あるな。1度じゃない、何回もある」佃さんが認めた。

 「そうですか。その日の夜はどうでしたか?例えば、月の輝きとか・・」

 「月!」でかい一重をかっと見開き、佃さんは「月・・・月は、確か凄く大きく、丸かった」

 「満月だったとゆうことですね?」「・・・ああ」何?なに?ナニソレ?

 「と、ゆうことは日ごとに下弦、つまり左側から欠けていった訳ですね」タケオは、いつのまにか身を乗り出して聴き入っていた。

 「確かにそうだが、それが種付けや田植えとどう関係があるんだ?」タケオもそう思った。

 「実は、あるんです。信じる信じないは自由ですが、満月から新月への14日間は『実り・収穫』の時期に当たるので、新生つまり新しい生命、新芽や稲穂は『月のリズム』に逆行してしまいます。従って、生育が上手くいかなかったり、枯れてしまったりしたのは、自然の理に叶っている証明とも言えます」

 轡田の発した「月のリズム」と「自然の理」。2つの言葉に佃さんはヤラレた様だ。

「フンフン、月の満ち欠けかあ」椅子を廻し、轡田をじっと見据え「つまり、種まき・苗付けの時点から、その『月のリズム』に沿ってやればいいし、虫取り、収穫のタイミングもそれに合わせれば・・・」

 「そうです!判って頂けましたか。因みに、月のリズムの中にも12の星座がありまして、それらの周期は・・・」

 タケオはあわてて 轡田をさえぎり「まあ、今はさわりだけの提案なので・・・。もう、日も大分昇ってきたのでお仕事の案内をして頂きたいのですが」

 話が長引くのが、タケオには耐えきれなかった。いったん間を置いて、轡田と確認しなければ。

 佃さんは掛け時計に眼をやり「おぉそうだ。虫取りの時間だ」といって立ち上がった。「作業だが、今日はいいから、ゆっくりしててくれ」

 無表情だが、佃さんは機嫌がよさそうだ。「昼には戻る。待っててくれや。なあ、タケオさん」

 「ハイ!?」ドキッとした。さん付けで呼ばれるとは。「はあ、何でしょうか?」

 「こんな人と知り合いなんて、あんたスゴイよ」

 「はぁどうも・・」いや、俺は別にスゴクないし、多分コイツ(轡田)もスゴクないよ。

 シャンと背を伸ばしスタスタと佃さんは畑へ出ていった。完全に見えなくなるのを確認してから「なあ、ねえ・・・」

 轡田は「何ですか?」「あの話、本当なの?その『月のリズム』って・・・」

 「ああ、それですか」その後の、この男の発言はスゴかった。

 「あんなの適当ですよ、思いつきで喋りました。でも、タケオさんも助かったでしょ?」
 (つづく)

 

【健康オタク、末路へ】第26回:ミラクル(インチキ)自然農法? 

2008年07月09日(水) 16時48分
「・・・想像以上にボロいですねえ」「バカ、声がでかいよ」

 千葉、鴨川の佃農場に到着したのは朝の7時前。佃さんの自宅に初めて訪れてから2ヶ月経ったが、2回目の訪問でもこのバラック小屋は変わってなかった。変わったのはタケオの状況及び同行者だ。

 前回は、バイト先のトラックドライバー・森さんに運転してもらったのだが、今回は高速SAで知り合った「天文オタク」轡田(くつわだ)を半ばムリヤリ連れてきてしまったのだ。

 なんで、こんな変なヤツをつき合わせたんだろう?

 只、直感として「この変な男は今回、役に立つかもしれない」と思った事は事実だ。

 ノックする前に、タケオは男に振り向き「そうだ、悪いけどその大きい(変な)メガネ外せる?何しろ難しいヒトだからさ・・」「はぁ・・・」

 深呼吸して、格子戸を3回ノックする「ごめんくださ〜い」

 「ハ〜イ!タケオさんかしら?」奥さんのカン高い声。タンタンタン、廊下を駆け出す振動が伝わってくる。

 「ご無沙汰してます。先日は失礼しました」「失礼なんてそんな・・・早起きして貰って悪いわねぇ」

奥さんはタケオの脇で気おつけしている男を見て「・・・この方、どなた?」困惑している。

 ウ〜ン、やっぱ奥さんの目にも変人として映っちゃってるかぁ。

 どうしよう・・。とっさにウソが思い浮かんだ。

 「いや、紹介が遅れまして。僕が考える自然農法の師匠にあたるヒトで、轡田さんです」

 男の顔が強ばって、タケオを一瞬にらみつけた。

 「そうですか、タケオさんの先輩の方ですね。さ、中へどうぞどうぞ」

                 *

 居間に通されたが、佃さんは随分待たすなあ。早く来た意味ないじゃん。

 奥さんに聴いてみる「今日は、作業はお休みなんですか?」

 「ウチの人、タケオさんを楽しみにしてたのに、ごめんなさいね。多分メールを覗いてるんでしょうけど、お客さんを待たせて失礼ねえ」

 自分の耳を疑った。メール?ってことはパソコンがあるのか?

 「おおお〜いい!」別の部屋から佃さんの大声が聞こえた。正座していた轡田はピョコンと反応した。

 「チョット来てくれイ!悪いけど」俺らのことか?奥さんを見る。

奥さんは「スイマセン、あの人最近、メールマガジンとやらにはまってしまって。悪いけど、隣の部屋に行って貰えるかしら?」

 廊下に出た。いやあ驚く。PCどころか、電話線すらこの家に無くても不思議じゃ無いのに。

 佃さんは隣の部屋で、ぴかぴかのパソコンデスクに座っていた。

 佃さんは振り替えらずにボソッと呟いた「コレ、お前か?」

 へぇ?PC画面の事を言ってるのか。恐る恐るディスプレイを覗いた。

 「あ・・・・」タケオの時が止まった。

 佃さんが見ているメルマガ「ガテンアスリート・タケオ『マクロビアンへの道』」

 ガアァアァアァン!何で、俺が書いているメルマガが配信されてるんだ?

 「お前が書いてんだろ?」「・・・ハイ、自分です」何故か罪悪感。配信スタンド3社合計で、50人にも満たない登録者の中に佃さんが入っていたとは!

 「毎週、書いてるんだよな?」「ハイ、タマに2日位遅れますが」冷や汗が止まらない。

 「そりゃあいかんなあ」「・・スイマセン」なんで俺は謝ってるんだ。

 「で、聴きたいことがあったんだ。先月末の記事なんだが・・」「先月末、ですか?」

 脂汗も止まらなかった。いつも思いつきで書いているメルマガなので、2週間以上前の記事なんて憶えてるワケないじゃん。

 「78号だったかな?お前が提唱する『奇跡の穀物・野菜栽培法』って何なんだ?」

 「奇跡の・・・・!」思い出した。28日発行の記事だ。<奇跡の穀物・野菜栽培法を見ぃつけた!>と題した号だ。

 どうしよう困った。「詳細は次号を待て!」で文章を締めて、放っていたんだ。何も考えていないまま翌週は別の話題にずらしたんだ。

 「次の記事を楽しみにしてたんだが・・・」一気に空気が重くなった。

 なんか閃け、ひらめけ、ヒラメケ・・・。

 佃さんが回転椅子を廻して、カラダごと振り向いた。そして「ソイツ、誰だ?」

 タケオの背後にいた轡田がビクッと反応した。その時だった。

 <ビビビッ!>←表現違うけど、閃いた!コイツだ、轡田だ。

 「いやあ佃さん、そのことについて説明がしたくて、この人を連れてきたんですよ。僕の理想とする無肥料栽培をより進化させるアドバイザーとして、紹介します。轡田さんです」

 轡田は顔を引きつらせて、それからタケオを睨んだ(何をさせようとしてるんですか!?)。

 タケオは轡田の視線をワザと無視して「轡田さんは専門は天文学ですが、真の自然農法の研究に努めています。凄いアイデアをこれから話して貰いますので、聴いて頂けますか?」

 佃さんは身を乗り出した。完全に食いついた様だ。

 一方の轡田は・・・涙目になっている。俺って残酷だろうか。

 頼む轡田、何かアイデアを出してくれ。インチキでもいいから「ミラクル」なプランを・・・。
 (つづく)


 

【健康オタク、末路へ】第25回:さながらロードームービーの様な? 

2008年06月24日(火) 8時10分
口角泡を飛ばす、とはこのことか。

 実際、タケオが喋りまくっている男の顔面には、ツバが泡状になって何滴かひっついていた。

 あの婦人の言った通りだ。自分が好きな、得意なことを語っている瞬間って、楽しい。

 喋りながら相手の男をチラ見した。さぞかしつまんなそうに聞いている(聞くフリしてる)かと思いきや・・・。

 瞳が輝いている!耳をそばだてている!タケオの一言一句にうなずいて(わざとらしくない)るそのサマは、明らかに感動している様子だ。

 15分喋って疲れた。一息つくと「いやあ、スゴイですねえ。マクロビオティックは一つの小宇宙を僕にイメージさせますよ」

 へ?小宇宙?またコイツ、自分の得意分野に戻そうとしてんのか?

 でも、そういえばマクロビの文献でも「宇宙」って言葉は出てくるなぁ。

 ココは大人になろう。「うん・・。小宇宙、そうだね。君は理解力があるよ」変なほめ方をしてしまった。相手はまともに喜んでいる。

 「もっと聞きたいです。そうだ、スイマセン自己紹介もなく。僕、轡田(くつわだ)って言います。日暮里からきました」左手をニュッと出した。

 「はぁ、俺・・私は下の名前でタケオって呼ばれています。よろしく」

 毛玉だらけのスタジャン、ジーンズはストーンウォッシュ!コンバースのローカット(赤)、マッシュルームヘアでニキビ面のその男が握手を求めている。

 タケオは全身を舐め回す様に見て<こんな格好、いつの時代も流行ってないぞ>ココロでつぶやいた。

 握手をしながら、タケオは「ストーンウォッシュはとっとと捨てよう」と小さく誓った。  

 男の脂ぎった手をスッと離して「それで、轡田さんは何でここに?まさか、あの『カノープス』を見るだけの為に・・・」

 「その、まさかですよ。僕は免許を持ってないので、高速バスは重宝してます。登りに乗れるのは昼過ぎですが」

 モノ好きな奴だ・・・。でも「オタク」の気持ちは少し理解できる。

 「じゃあ、タケオさんは何故こんな時間にココにいて、どこに向かってるんですかぁ?」

 タケオはザッと話した。鴨川へ向かっていること。タケオが勤める早朝バイト先の運送会社と「佃ファーム」との業務提携について、タケオが農場で働く事を条件として、契約が結べそうになっていること。タケオは結局引き受けて、日中の勤め先に辞表を提出した翌日に、車を借りて佃ファームを目指し高速に乗った事。農場主が作業を始める6時前に到着するために、暗い内から車を飛ばしてSAに立ち寄った事・・・。

 男は驚いていた。感動しているようだ。「スゴイ!全てを投げ出して新天地へ向かってるワケですね、カッコイイ!その勇気と決断力に圧倒されてます」

 こっちが驚いた。勇気?決断力?考えたことも無かった。

 フ〜ン・・・自分自身に感心していると、その男が質問してきた。

 「で、そのアイデアは出たんですか?孫娘さんとの電話で約束したとゆう」

 「実は・・・何も浮かばないんだ」案もないまま引き受けた自分の軽率さに、今度はウンザリした。

 ある考えがひらめいた。「ねえ君、轡田さん」

 「・・・はい?」「君、ヒマ?もう帰るだけ、でしょ?」

 男はさすがにムッとしたが「・・ええ。正直、なにも予定はないです」

 「じゃあ、決まり。一緒に行きましょ!これは運命でしょ?」

 男の黙秘は「あきらめの承諾」とタケオは解釈して「あのエスティマ、見える?コーヒー買ってくるから、助手席に乗っててよ」

 車のキーを握らせて、タケオは自販機へ走った。面白くなってきた。

 さながら「ロードムービー」の様だ。

 でも、あと5km位で高速下りるんだよなあ・・・。
 (つづく)
 

【健康オタク、末路へ】第24回:○○オタクVS健康オタク 

2008年06月16日(月) 12時32分
急にその男はうなだれて、黙ってしまった。こっちも困ってしまった。

 その男の第一声は「そうですね、知る筈もないですね。失礼しました」

 本当に失礼だ。大声出したり、辞めろと言われたり、落ち込まれたり。

 でも、少し同情心も沸いてきたので、タケオからは声をかけた。

 「いやぁ、星に詳しくないんで、てっきり金星だと思ってましたよ。違うってことですよね・・」

 気を遣っている。初対面の変な男に、俺は何をやってるんだ。

 男は顔を上げて「いやあゴメンナサイ。いきなり話しかけて、大声出したりして。そうですよね、あの星を知ってる人はそういる筈もないし、金星って言われても大抵の人は信用してしまいますよね」

 変な言い方だ。まぁ、落ち着こう。「ってことは、珍しい星なんですよね?あの、地平線ギリギリに輝き放っているのは」

 「そうです。『カノープス』といいます」「カノープス、ですか」

 「カノープス、別名『長寿星』ともいわれます。りゅうこつ座の尻尾に位置してますが、地平線ギリギリなんでなかなか見ることが出来ない。一生に一回も見ない人もいるくらいですから。でも、あの星を見た人は皆、長生きする、といわれています。」

 「はぁ、そうなんですか」まあまあどうでもイイ話だ。

 タケオの素っ気ない返事と態度に、その男は逆に反応してしまった。

 「そうですよね?不思議ですよね?何故、真夏じゃなくこんな晩秋にカノープスが見られるなんて」

 知らねえよぉ。その男は満面の笑みを浮かべている。嫌な予感がした。

「カノープス・・りゅうこつ座の尻尾にあたる準1等星。おおいぬ座シリウスに全天体中で光度ナンバー1の座を奪われても、腐ることなく地平線上でりんとして輝くカノープス」

 薄目を開いている、危ない。

 急にこっちを振り向き「カノープスを知っているって事は、天文にはかなり詳しいと・・・?」

 「へ?いやあ、小学生の部活で『天文気象部』に所属してただけですが」余計な事を言ってしまった。あまりにもつまんないので1ヶ月で退部したんだ。

 「天文気象部!スゴイ、専門家じゃないすかぁ!」満面の笑みを浮かべて、その男はせきをきったように語りはじめた。

 アルゴ船(何?)の骨格を示すカノープスの神秘性・秋の星座・なんとか座流星群飛来情報・超新星(ビッグバン)仮説のギモン等々・・。

 聞く気がないので、辛かった。最悪の「天文オタク」につかまってしまった。

 聞いてるフリをしながら、タケオは3日前に公営温水プールで知り合った大富豪の婦人との会話を思い出していた。

                      *

 「好きなことを語っている人って、とても魅力的だわ。アナタの好きな、得意なことは?」

 「そうですね・・・。得意とゆうか、健康に関するネタなら、誰よりも詳しく深く掘り下げていますが」

 「それそれ!その話題を誰かに語ってみることよ。そこから何かが展開するかもしれないし」

 「そんなモンすかねぇ・・・」確かこんな会話だったっけ?

 改めて男の顔を見る。マッシュルームヘアのにきび面は、嬉しそうに天体について語っている。確かに、この男は自分の得意技を最大限に発揮している・・・。

 男はひと息ついた。しゃべり疲れたのか、深呼吸して背中のリュックサックからアルミ缶を取り出し、キャップをひねった。

 ラベルが眼に止まった。「ウコンの魂」・・何で?

 「あのう・・。すいません話し中、肝臓でも悪いんですかぁ?」

 男は、全身ビクッとけいれんしたように驚き、顔を向けた。

 「い、いやぁ、昨夜興奮してねむれなかったもんで、ビールを飲み過ぎて残っちゃいまして・・・」

 「二日酔い、ですか?」「なんか効くかな、と思ってコンビニで買ったんです。変ですか?」

 「変ですよ!」はっきり言ってしまった。ルックスと人格も変だ、と言いたかったが抑えた。

 呆気にとられている男に構わず、タケオは話し始めた。

 「肝臓でアセルトアルデヒドに分解してから、ウコンを入れたって何の意味も無いすよぅ。しかもそれ、秋ウコンでしょう?クルクミン含有量が豊富なのに、全て胃酸で分解されちゃってるじゃないすかぁ、もったいない・・・」

 「はぁ・・・」

 「それに、秋ウコンは日本酒・焼酎類にこそ効くモノですよう、知らなかったの?」

 「はぁ・・」知るわけないよなぁ。

 「ビール等で陰性化されたカラダには、やっぱり梅醤番茶、葛湯とかで中庸にもってかないとダメですよ」

 「ウメショウ?クズユ?ですか・・・」困った顔している、楽しい。

 「だからねえ、中庸ってのは・・・」

 立場が逆転した。今度は、こっちがしゃべり倒す番だ!
 (つづく)  

【健康オタク、末路へ】第23回:金星じゃあなかったのう? 

2008年06月03日(火) 21時17分
インターチェンジ迄残り10kmを示す看板の下から覗く、ヤケに目立ちたがっている天体。

 位置的に見て、多分「金星」。今の時間帯だと、アケの明星になるのか?

 ひときわデカい星だ。見つめすぎてハンドルを取られないように、しっかりと意識を散らす。

 鴨川の「佃ファーム」へ向かっている。タケオの早朝バイト先である運送会社との業務提携が決定したのだ。

 しかし条件付き。元気だが高齢の農場主が「跡継ぎ」をタケオが引き受けてくれたら、と打診してきて、悩んだあげくタケオは了承してしまった。

 おととい、本業である管理会社に辞表を提出した。

 勤続11年。社長は意外にもすんなりと辞表を受け取りやがった!

 「そうか。オマエは一度決めたら曲げないからなあ。まぁ、ガンバッテこいや・・・」社長の励ましは、逆に少し寂しく感じた。

 意味のない11年間だったのか?早朝にハンドルを握りながらタケオは自身に問いただしていた。

 考え込んでも何も解決しない。昨日は「交感神経」が優位だった為、一睡もしていない。俺ってナポレオン?

 でもやっぱり眠い。無理をしないで休憩をとろう。そぞろそぞろと左車線に移り、サービスエリアに吸い込まれる様に、森さんから借りたエスティマを駐車場へ向かわせた。

 SA休憩所入口に設置してあるストレッチ用の鉄棒の前に車を止めた。2ヶ月前、ココで柳先生の娘さんと対面したんだっけ。柳先生とも5年ぶりの再会だった。

 なあんか怒られたっけ?

 柳先生には、タケオが柔道整復の修行をしていた時分には、毎日叱られていた。今回5年ぶりに再会して、確かに軽く説教を受けた記憶がある。

 思い出した。俺の返事が「スイマセン」だったので「なんで謝るんだ。誰に迷惑かけたんだ」と、とがめられたんだ、それだ。

 返答に困ったら「スイマセン」最悪の口癖だ。何の進歩もしていない・・・。

 今日の鴨川に行く決心をしたのも「勢い任せ」で、佃さんへの具体的な提案、段取りは何もしていないし、覚悟も中途半端なままカラダだけ現地へ近づいている。

 ココロは、魂はどこを漂ってるのか?何を考えてるんだ俺は。

 ネガティブな気分にストップをかけるべく、自販機で「眠れない珈琲」を買う。いいネーミングだ。一気に飲み干す。

 再び視線に入ったのは、運転中に見た「金星」。それにしてもでっかいなあ・・・。

 その時、左からカン高い男の声。

 「ラッキーですね」ドキッ!

 明らかに、俺に向かって発せられた言葉だ。恐る恐る首だけ左に向ける。

 「本当に、ラッキーですね。僕たち」「・・・?はぁ」

 「あなたは何回目ですか?僕は何をかくそう、見るのは初めてです」とその男は言い、正面の輝く天体を見つめていた。

 改めて横顔を見る。その昔のアイドルグループ「フィンガーファイブ」のアキラがかけていたような大きな眼鏡。度がキツそうだ。

 変なマッシュルーム風カットと、クレーターの様なニキビ顔に見とれていると、急にその男は振り向いた。

 「余り驚かれないんですね」「あの、金星が、ですか?」

 「きいぃんせいぃ!?」急に大声。ビックリした。

 「金星!?あれが?あの星が金星?やめて下さいよぉ」「イヤ、やめろと言われても・・」

 「アナタ、知らないんだぁ」「何がですか?アレは金星じゃあないんですか?」

 張りつめた空気、息苦しい沈黙。男はつぶやく。

 「そっか、知らないんだぁ・・・」「いや、あの・・・???」
 (つづく)
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